某企業に、派遣社員の女性がいた。その企業は、テレフォンセンターという名の、苦情受付・処理をする、コールセンターだった。女性は、毎日寄せられる苦情を、ひとつひとつ処理していった。しかし、運命の女神は、最後まで彼女の味方をしてくれなかったのである。
ある日のこと―――
<賞味期限を過ぎたジュースを飲んだら、下痢をしちゃったんだけど、どう責任を取ってくれるの?>
「スミマセン。こちらでも、対策を講じますので―――」
<対策を講じるとか講じないとかの話じゃないわよ。人1人が、下痢してるのよ?何か、謝罪の言葉は無いの?>
「お言葉ですが、お客様―――」
「安い給料だから、ろくな研修も受けていない。だから、謝罪の言葉を知らない―――この人は、そうなんですよ」
横から、正社員の男性が、口を挟む。
<あら、そうだったの。じゃあ、無知な人なのね。で、なんで、給料が安いの?>
「・・・・・」
「派遣だからです」
また、正社員の男性が、口を挟む。
<あら、カワイそう。派遣だから、研修を受けさせても、すぐ辞めちゃうんじゃないかと思われてるのね。あらら、ゴメンなさい>
そこで、電話は切れた。女性は、いつの間にか、涙が出ていた。
「電話中は、静かにしてよ」
そう言うのが、精一杯だった。すると正社員の男性は、
「そもそも、派遣に、仕事をさせるのが間違ってる」と、突っ返した。
「派遣は、世の中のゴミだ。ゴミは、捨てればゴミだけど、再利用すれば資源になる。だから、給料が安いんだよ」
「それ、どういう意味?」
「つまり、再利用できるゴミが、派遣というわけさ」
「ひどい例えね」
「事実じゃないか」
「事実でも、言っていいことと、悪いことがあるわ」
「なんだよ、ゴミ」
「ゴミじゃない!」
「じゃ、資源か?資源は、捨てればゴミなんだけどな」
「私は、資源でもゴミでもないわ!たった1人の人間よ!」
「たったひとつのゴミね」
「・・・・・!」
「捨てればゴミ、再利用すれば資源」
「~~~~~!」
その時だった。
「達者出して」
「?」
なんと、机の下の埃が、喋っている。
「わいは、見ての通り、ゴミや。やけど、あんたは人間がな。自信持って、差別に立ち向かいなよ」
「・・・・・」
「わいは、逆立ちしても、ゴミのまんまどないや。どなたはんがなんって言あうって、ゴミは、ゴミどないや。おーかた、社会のゴミでもあるんやろな。でもあんたは、人間や。ゴミでも、資源でもないちうわけや。たや1人の人間どないや」
「・・・・・」
「派遣ってか、正社員なんて、人間の都合で決めたもんや。雇用者にってって、都合のええように、名称があるちうわけや。でも、ホンマは、同じ人間どないや。同じ待遇やなきゃ、あかんんや。でも、あんたは、低く扱われとる。わいって同じやね。わいも、社会のゴミどないや。どないでもええ存在どないや。でもな、あんたは、立派な頭があるがな。立派な口があるがな。頭って言葉で、この現実って闘おんや。今よってにでも遅くない、やってみなよ」
「あの・・・お名前は・・・?」
「名乗るほどのもんとちゃうよ。そやかて、この世のゴミやもん」
「・・・・・」
そこで、声が途切れた。
今日は、ええこってしたな
その夜、机の下から一塊の埃がひとりでに転がっていったことに、誰も気づかなかった。
ある日のこと―――
<賞味期限を過ぎたジュースを飲んだら、下痢をしちゃったんだけど、どう責任を取ってくれるの?>
「スミマセン。こちらでも、対策を講じますので―――」
<対策を講じるとか講じないとかの話じゃないわよ。人1人が、下痢してるのよ?何か、謝罪の言葉は無いの?>
「お言葉ですが、お客様―――」
「安い給料だから、ろくな研修も受けていない。だから、謝罪の言葉を知らない―――この人は、そうなんですよ」
横から、正社員の男性が、口を挟む。
<あら、そうだったの。じゃあ、無知な人なのね。で、なんで、給料が安いの?>
「・・・・・」
「派遣だからです」
また、正社員の男性が、口を挟む。
<あら、カワイそう。派遣だから、研修を受けさせても、すぐ辞めちゃうんじゃないかと思われてるのね。あらら、ゴメンなさい>
そこで、電話は切れた。女性は、いつの間にか、涙が出ていた。
「電話中は、静かにしてよ」
そう言うのが、精一杯だった。すると正社員の男性は、
「そもそも、派遣に、仕事をさせるのが間違ってる」と、突っ返した。
「派遣は、世の中のゴミだ。ゴミは、捨てればゴミだけど、再利用すれば資源になる。だから、給料が安いんだよ」
「それ、どういう意味?」
「つまり、再利用できるゴミが、派遣というわけさ」
「ひどい例えね」
「事実じゃないか」
「事実でも、言っていいことと、悪いことがあるわ」
「なんだよ、ゴミ」
「ゴミじゃない!」
「じゃ、資源か?資源は、捨てればゴミなんだけどな」
「私は、資源でもゴミでもないわ!たった1人の人間よ!」
「たったひとつのゴミね」
「・・・・・!」
「捨てればゴミ、再利用すれば資源」
「~~~~~!」
その時だった。
「達者出して」
「?」
なんと、机の下の埃が、喋っている。
「わいは、見ての通り、ゴミや。やけど、あんたは人間がな。自信持って、差別に立ち向かいなよ」
「・・・・・」
「わいは、逆立ちしても、ゴミのまんまどないや。どなたはんがなんって言あうって、ゴミは、ゴミどないや。おーかた、社会のゴミでもあるんやろな。でもあんたは、人間や。ゴミでも、資源でもないちうわけや。たや1人の人間どないや」
「・・・・・」
「派遣ってか、正社員なんて、人間の都合で決めたもんや。雇用者にってって、都合のええように、名称があるちうわけや。でも、ホンマは、同じ人間どないや。同じ待遇やなきゃ、あかんんや。でも、あんたは、低く扱われとる。わいって同じやね。わいも、社会のゴミどないや。どないでもええ存在どないや。でもな、あんたは、立派な頭があるがな。立派な口があるがな。頭って言葉で、この現実って闘おんや。今よってにでも遅くない、やってみなよ」
「あの・・・お名前は・・・?」
「名乗るほどのもんとちゃうよ。そやかて、この世のゴミやもん」
「・・・・・」
そこで、声が途切れた。
今日は、ええこってしたな
その夜、机の下から一塊の埃がひとりでに転がっていったことに、誰も気づかなかった。