「みんな集まったようだな」
私は、目の前にいる、見るからに幸薄そうな痩身な体躯の女性と、近所に住むオフィシャルでスタンダードな大学生と、そこそこの地位に君臨してそうな会社員風の男に向かって、言った。
「君い、こんな時間に皆さんを集めて、一体どうしたというのかね?」
会社員風の男――――辻村が、皆が集まるなり早速私に向かって苦言を吐いた。
「……………」
一方の女性――――大田は、特に何を喋る訳でもなく、ただ押し黙っている。
「あの………また、事件でもあったんスか?」
男子学生――――松原が私に質問する。
事件―――そう、それは昨夜のことだ。この地区のアパートに住む、新谷 幸助(22)が、近くの路上で遺体となって発見された。
男性は、上半身と下半身が切り離されているという、奇妙な状態で発見された。
検死によると、刃物のようなもので切断されたという。
「いや、幸い事件は起きていない。というより、もうこんなおぞましい事件は起こらないよ」
「どういうことだ?森君」
この事件を担当している刑事―――辻屋さんが、私に聞いてきた。
やれやれ…………さっきから質問攻めだなあ。人気者はつらいぜ。
あ、ちなみに森君ってのは私のコトね。ちなみにペンキ屋社長。
「いやあ、ね。わかったんですよ。この事件の犯人が」
ふっふっふ。と、私は不敵に笑った。
そして、自信満々に、声高らかに、宣言した。
「そう、犯人は…………………辻村さん、あんただ」
「んなっ!?」
名指しされた辻村は、驚きの余り、立ち上がり、眼を白黒させている。
もちろん、このまま犯人扱いされてホイホイと供述しだす男ではないだろう。
「何を言っているんだ君は!出鱈目だ!」
おー、怖い怖い。
予想していたより凄い迫力だったから、ちょっとチビっちゃった。
ひとまず、怒り心頭の辻村さんをなだめるために、私は発言した。
「出鱈目ではありませんよ、辻村さん。」
私はそう言って、ひと泊おいて、続ける。
そして、これから私の推理ショーが始まろうとしていた、その刹那、
「あのぉ………………」
唐突に、大田がおそるおそると、挙手した。
「む、何ですか?大田さん」
その行為にいち早く気づいた私は、大田さんの方に向きやる。すると、




「私が犯人なんですけど………」


「!?!?!?」
その言葉に、全員が驚がくした。
というか、困惑に近いか?まあ、今はそんなことどうでもいい。
「太田さん、いきなり何を言い出すんだ?」
私は、俯いている太田につめより、更に続ける。
「今、犯人が分かったばかりじゃないか。それを急に―――」
「でも、本当なんです!」
太田は私の発言を遮るように言った。
太田は続ける。
「それに…………文字数的にそろそろ事件解決しなくちゃだめだろうな………と思いまして」
「いや、こんなところで裏事情だすなよ!やりづらいだろうが!」
私がアブないツッコミを大田にいれていると、私と太田の間に、刑事さんが割って入ってきた。
「太田さん、それはどういうことですか?」
刑事さんが大田に尋ねると、太田は、ぼそぼそと、真相を語り出した。
「はい…………あの……こんなこと言っても、信じてもらえないかも知れませんが……………実は私………………」
そこまで逝って、太田は口を噤む。
しばしの沈黙。
「私、黒魔術が使えるんですっ!」
「…………っ!?」
再び静まり返る一同。
その後、先ほどより少し長い沈黙の後、私は太田に言う。
「おいおい…………こんな時に冗談はよさないか」
「冗談じゃないです!」
私の質問に間髪入れずにレスポンスした太田に、ちょっとたじろぐ私。
太田の供述はまだ続く。
「実は昨日、仕事帰りに新谷さんと会ったんです。でも私は新谷さんとは初対面だったんで、何とかにげようとしたんですけど…………」
そこまで言って、刑事さんが付け加える。
「そういえば、新谷は事件当時、アルコールを摂取していたというが………」
「はい………新谷さんは酒に酔っていたみたいで…………あんまりしつこく付きまとってくるので、今朝覚えたばかりの召喚魔法でサイクロプスを呼び出して追っ払おうとしたんですが、間違ってデーモン族を呼び出してしまって……………」
何だこの娘は?
これはあれか?最近よく聞く痛い子なのか?
次々に太田の口から飛び出す聞いたことのない言葉に私たちは困惑するしかなかった。
んが、刑事さんだけは
「うむ…………わかった。いろいろと話すことあるだろうが、後は署で聞こう」
「ちょ……刑事さん!」
そんな無茶苦茶な。
というか、なんでそんなおかしな内容が通るんだよ!
刑事さんも痛いのか!こら!
そうこうしているうちに、刑事さんと太田は、そそくさとパトカーに乗り、どこかへと走り去ってしまった。




「………………」
再び現場に訪れる沈黙。
それも今度はちょっとばっかり私には居心地の悪い感じがする。
もうなんか辻村さんは、殺意すら籠もった目で、私を見ているし。
「むむむ…………」
いかんな、居心地悪い。
ひとまず、私は皆と目を合わせないように、くるっと反回転して、手を後ろに組んで、眼を閉じた。
そして、一言。
「事件解決………っと」
周囲の注視を一斉に浴びながら、私は独り、天を仰いだ。








                                                         (完)