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第2章 太古の匂いが今も残る島 (9)



水薙鳥の翔ぶ碧い海へ


長く滞在するといろいろなことがある。父島に手作りパン屋さんがある。このパン屋さんがまた面白い。小笠原丸が停泊している間は一切パンを製造しない、小笠原丸が出航したら作り始めるといったスタンスで商売している。ご夫婦で店を切り盛りしているようで、店はこざっぱりとしており、感じのよい店である。





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パンはなかなか美味しい。作ればすぐに売切れてしまうようなパン屋さんで、店はいつもにぎわっている、観光客を相手に商売をしていないというのも面白い。我々の朝食にも何回かこのパンが登場した。パンを大胆にちぎりジャムをたっぷり塗り、カフェオレを飲みながら朝のひと時を過ごす、これが毎日の日課となった。






私が島を離れる少し前に、信ちゃんに「ロールケーキが食べたい」と冗談に言ったら、そのパン屋さんに特別に注文して作ってもらったのであろう、なんとそのロールケーキを持ってきてくれた。甘いものが不足がちの我々にとって大変貴重なものであるとともに信ちゃんの気使いに感激した。




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黒いバナナ事件というのがある。島の北東部に民宿と果樹園を経営している人がおり、その方は時々私たちの船を見に来ていた。ある日その果樹園を見に来ないかということになり、彼のところにお伺いすることになり、車に乗り、彼の果樹園に向かった。





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曲がりくねった道をどんどん進むと舗装路が切れ、細い砂利の山道、それもかなり荒れた砂利道をしばらく進むと、人家が何軒か現れた。彼の説明によると、このエリヤは芸術家が比較的多く集まっているエリヤだそうである、芸術家といえば、すぐ出てくるのが陶芸家であるが、ここではちょっと違う。





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見ると看板を堂々とかかげた手作りの豆腐屋がある。何でこんなところに豆腐屋が、と思うようなところにぽつんとある。周りはうっそうと熱帯植物が茂っており、ともかく場違いな感じがする。彼にそれを聞くと、この場所は水がよく、それにこだわっている、出来た商品は街にもって行って販売しているとのこと、確かにその意味では芸術家である。





そうこうしているうちに彼の民宿に着いた。海から数キロは離れており、果たしてこんなところで民宿がなりたつのか、人事ながら心配になるようなところである。早速果樹園を見せてもらうことにした。いろいろ説明してくれたが難しくて覚えることが出来ない。ただあまり手入れが行き届いていないように見受けられた。そうそう、外来種のグリーンアノールはこの果樹園で撮影したもので、グリーンアノールが果樹の受粉を助ける昆虫を食べてしまい、困っているという話を聞いた。



帰りにお土産としてバナナをもらえることになった。持ってきたバナナが真っ黒で腐っているようなバナナであった。彼が言うにはこれは島バナナといい、このくらい皮が黒くなったのが美味いとのこと、彼はこの黒さを「熟した」と表現していた。騙されてもともと思い食べてみると甘さがありとても美味しい。東京のバナナはこのくらい皮の部分が黒くなると中身まで黒くなり食べられる状態ではないのに、この島バナナは皮をむくと中身がまだ白く、何の抵抗もなく食べられる。実はこのバナナを我々はお土産に買って下田に帰ってきた。食べごろは皮が黒く変色したときであることをつげ、後日その感想を聞いたところ、「こんな美味いバナナを食べたのは初めてである」いう返事が返ってきた。確かに見てくれは悪いが一度食べてみることをお勧めする。