涙のバースデー
ほぼ年中無休の、我らが西浦野球部も流石に年末年始はお休みに入る。
年末は12/31から、年始は1/3まで⋯⋯の予定だったんだけれども、今年はそのお休みの間に学校の水道管がトラブっただかなんだかで、やっぱり3日まで休みだった業者が入るのが4日からしかないので急きょ全部活1/4まで校内立ち入り禁止を言い渡されてしまった。
1 / 4 に 立 ち 入 り 禁 止 ⋯ !
その知らせに俺は白目を剥いた。
普段ならちょっと不謹慎だけど、「一日お休み伸びたー!ラッキ!」なんてのもアリかもしれない。
でも⋯!でも1/4⋯⋯!!
⋯⋯正直、俺だってちょっと⋯まだちょっと期待してたんだ⋯⋯
先月のあの阿部の誕生日⋯⋯皆でサプライズで準備して(俺だけはポロっと阿部に喋りそうという理由で伏せられてたから、俺にとっても無駄にサプライズな出来事だったんだけど⋯)お祝いしてたよね⋯。
あれを⋯もしかしたら今回も⋯?なんて結構ドキドキして、さ⋯⋯
「部室のドアを開けたらいきなり」編
「部活終了かけ声後にワっと取り囲まれ」編
「部活後にマック行こうぜーから始まる」編
と3つのパターンでのサプライズの場合のお礼の言い方シミュレートをしたりもしてたのに、さ⋯⋯!
⋯⋯⋯仕方ないから、「まだ寝巻き姿のオレの家に皆がワっとやってきた」編(寝巻きだけど髪とかはそこそこ整ってるのが大事!)と、「やけにシリアスな雰囲気の栄口に呼び出されて行ってみたらクラッカーがパパンと鳴ってみんなが一斉に登場」編と、恐ろしいけど「阿部に引きずられて行った三橋家がパーティ会場だった」編の3つにシミュレートを変更したんだよね。
や、やっぱなんでも準備がね⋯!
そりゃ少なくとも2パターン分は無駄になっちゃうんだけどね。備えるって大事じゃん!
なんかシガポもそんな感じの事を言うじゃん!
だから正直言うとこっそりもう1パターン、
「思いつめた表情の栄口が俺の家にやってきて、部屋に上げたけどなんだかずっと黙り込んだままでいて、『えっと、なんか今日元気ないね?』『!⋯⋯そんなこと⋯だって今日は⋯俺の1年で一番大事な日なのに⋯』『えっ⋯でも、栄口の誕生日は6月⋯だよね?』『⋯⋯じ、自分より、大切って⋯⋯思ったらダメ、かな⋯?』え、栄口それって、それって⋯!以下略」編
なんてのもやたら綿密にシミュレートしてたのにさぁ⋯!
現在⋯⋯1/4もそろそろ午後3時⋯⋯
今だにオレの携帯はピクリとも反応しない⋯
親も姉ちゃんも出掛けた家の中はシーンとしていて、集金の一つもきやしない⋯⋯
え⋯⋯晩飯合わせのサプライズ?それならそれで母さんには連絡しておいて貰わないと夕食無駄になっちゃうんだけど⋯その辺はまぁ花井がうまくやってくれそうかなとも思うけどさ。
無駄にマダムキラー疑惑のアイツがいるからさ。
⋯なんて考えてるうちにもう4時じゃん!
こ、これはもしかして⋯⋯
恐れていた通りの展開⋯?
オレが⋯⋯シミュレートはしたくないけど頭の片隅で考えずにいられなかった⋯⋯
誕生日、忘れられてる(覚えられて無い)編⋯?(泣)
でもこれで諦めるなんてできっこない⋯!
たとえ⋯たとえ誕生日を祝って貰えないとしても、この日に会いたい相手はやっぱいるんだし⋯!
ちょっとムナシーけど自分から会いに行ってでも⋯!
そう思ってオレは、大急ぎで家を飛び出した。
とは言えオレの家から栄口の家までは物凄く遠い。
オレん家から学校までの距離の更に倍くらいある。
それでも張り切ってしまったので毎朝の爆走時間の記録を更に縮めちゃったりもしたんだけど⋯⋯栄口の家のすぐ傍まで来てしまってから、オレはにわかに動揺し始めた。
き、来たはいいけどどうしたらいいのかな⋯?
やっぱ流石にオレの方から「祝って!」なんて言⋯えない事もないけどちょっと恥ずかしいし。
時間も遅くなっちゃったから(もう6時近い)移動するのも栄口の家にあがるのもなんか申し訳ないし⋯。
⋯⋯こそっと栄口の家の外から窓眺めて帰ろうかな⋯
え⋯なんかそれってちょっとストー⋯(以下略)
いやいやいや⋯!
違う違う!そんな変態さんみたいなことでなくて!
オレのはなんていうかもっとやるせない、甘酸っぱい感じ?
会いたいけど、でもでも⋯!みたいなもどかしさが成せる技でさ⋯!
決してそんな電気ついたら窓の向こうに姿が透けないかなとか、郵便受け覗いちゃおうかなとかそんな事は思ってないし!
あ~⋯でも会えないんじゃ結局独りよがりだよね⋯
さよならオレの16歳のバースデー⋯
と、くるっと帰る方向へ向き直ったところで、少し前方から待ちわびた声が聞こえてきた。
栄口「あれ?水谷じゃない?」
ささささ栄口ィィィィ!!!!(感涙)
あ、諦めなくてよかった⋯!
来ちゃってよかったぁぁぁ⋯!
神様ありがとう!
誕生日にオレの天使をありがとう!
栄口「こんな時間にどうしたの?⋯あ、どっかの帰り?」
オレ「う、ううん⋯!あのね、オレね⋯」
栄口「あ、わかった。阿部に会いに来た?」
オレ「ちっ、違うよおおおお!(泣)」
栄口「アハハ、リアクション激しいなぁ」
オレ「だってだって⋯そんな休日に阿部に会うなんて⋯そんな恐ろしくて禍々しい事を⋯!」
栄口「水谷ってホント、阿部の事恐れてるねぇ」
オレ「だって恐く無い!?あの横暴さとか、み、三橋へのその⋯色々とか⋯」
ここまではあまり理想的でないなりにそこそこポンポンと言葉が出てきていたんだけど、オレのこの台詞を聞くなり、何故か栄口はフっとサミシそうな表情になってしまった。
え⋯⋯栄口もまさか密かに阿部から横暴な事をされて⋯?
だとしたら許せない⋯!死ぬ気で阿部を倒ぉぉす!(リボーン助けて!死ぬ気弾撃ってェ!)
栄口「阿部と三橋、か⋯⋯」
ええっ、その台詞⋯!?
⋯⋯⋯もしかしてさっきの台詞の後半部分が効いた⋯?
ていうかキちゃった⋯⋯?
も、もしかして⋯⋯阿部が三橋を構うみたいに⋯とか⋯?
オレ、今までちょっと遠慮気味に来てたけど、もっとアクセル踏んでよかった感じ⋯?
栄口もオレの膝にのっかったり皆の前で「文貴v」って呼んでみたりそんなときめきハイスクールライフ求めてた⋯!?
だ、だったらオレ、その夢⋯⋯!!
栄口「ホント、阿部って変わったよなぁ⋯」
⋯⋯⋯ん?
阿部は確かに変わった奴だよ。
変わった⋯っていうかオカシ(略)
あれ、でもちょっと違うね?
「変わってる」じゃなく「変わった」って言ったよね。
栄口「中学の時はさ、しっかりしててもあんな面倒見いいっていうか⋯他人に構うタイプだとは思わなかったんだよね」
オレ「へ、へえ~⋯」
そういえば栄口と阿部って同中だっけ。うへえ長い付き合いになっちゃって可哀相⋯!
栄口みたいないい子があの鬼と⋯そりゃお腹も壊すよ。
栄口「だからさ、意外だったっていうか⋯見直したっていうか⋯ちょっと三橋の事、羨ましくもあるかな、なんて⋯」
⋯⋯んん?
三橋を羨ましいっていうのはオレの予想通りなんだけ、ど⋯
⋯⋯なんか決定的なとこがちがくない!?
栄口「水谷にだけ言っちゃおうかな⋯」
う、なにその魅惑的な言葉!
なのに⋯この嫌な予感はなに!?!?
栄口「オレ⋯中学の時から、ちょっとだけ阿部に憧れてるんだよね。⋯⋯あ、もちろんヘンな意味でじゃないよ!?」
⋯⋯真っ赤になって顔の前でパタパタ手を振る栄口は凄く可愛い⋯
でも可愛いものを見てこんなに傷付く事があるなんて⋯
オレはびっくりしちゃったよ⋯⋯(放心)
栄口「ほ、ほら、オレと阿部は同じ中学でも部に入って無いからチームメイトではなかったし、アイツはシニアでも榛名さんと組んで活躍してたし⋯そういう身近だけど凄い奴って言う感じがね⋯チームメイトになった今でもちょっとね⋯」
⋯⋯その後も栄口は照れながらも15分くらいあれこれ喋ってたけど⋯⋯オレはもうそれらの言葉を記憶に留める事が出来なかった⋯⋯⋯
既にとっぷり暗くなった道を独りトボトボ歩いていると⋯不意に足元に衝撃が走った。
オレ「イテッ!」
何かにぶつかって転んでしまったオレが振り向くと、小学校高学年か中一くらいのガキが突っ立ってる。
オレ「こら!何こんなとこに突っ立ってんの!てゆかもう真っ暗でしょー?子供はお家にお帰んなさーい!」
さっきからの悲しいのと痛いのがミックスで、ちょっとヒステリー気味に喚いてしまってから、子供相手にちょっとやばかったかな⋯?と思った時、そのガキはなんと⋯
ガキ「⋯⋯チッ、⋯⋯キャンキャンうるせェな⋯」
オレ「なっ⋯!お、お前な⋯!」
??「おい、どうしたんだ?」
オレ「!!」
ヒィ⋯!その声は⋯!
阿部「⋯なんだ、水谷か?何してんだお前、こんな時間に。ていうかオレの弟に何かしたか?」
ヒィ!やっぱり阿部!しかもこのガキ、阿部Jr!(誤)
オレ「してない!なんもしてない!ぶつかって転んだだけ!」
阿部+阿部Jr.「「フン⋯鈍くせェな⋯(ニィッ)」」
キャー!キモ恐いユニゾン!勘弁してェ!!
オレ「オ、オレ遅いし急いで帰らないと⋯!」
慌ててオレが走り去ろうとすると、阿部の声が追ってきた。
阿部「あ、おい。水谷」
オレ「な、なんですかぁ~?(ビクビク)」
阿部「誕生日、おめでとう(サムズアップ)」
オレ「!!!!!!!!!!!」
そ、そういえばオレ今日⋯!
ていうか栄口は結局覚えてくれてなかったのに何でABEー!?
オレ「な、なんで⋯オレの誕生日なんて知ってんの⋯?」
阿部「⋯⋯趣味、かな⋯?(ニィッ)」
それって人の誕生日覚えるのが趣味なのか⋯それともオレが趣味なのか⋯⋯
⋯⋯⋯⋯恐くてとても聞けなかった⋯
年末は12/31から、年始は1/3まで⋯⋯の予定だったんだけれども、今年はそのお休みの間に学校の水道管がトラブっただかなんだかで、やっぱり3日まで休みだった業者が入るのが4日からしかないので急きょ全部活1/4まで校内立ち入り禁止を言い渡されてしまった。
1 / 4 に 立 ち 入 り 禁 止 ⋯ !
その知らせに俺は白目を剥いた。
普段ならちょっと不謹慎だけど、「一日お休み伸びたー!ラッキ!」なんてのもアリかもしれない。
でも⋯!でも1/4⋯⋯!!
⋯⋯正直、俺だってちょっと⋯まだちょっと期待してたんだ⋯⋯
先月のあの阿部の誕生日⋯⋯皆でサプライズで準備して(俺だけはポロっと阿部に喋りそうという理由で伏せられてたから、俺にとっても無駄にサプライズな出来事だったんだけど⋯)お祝いしてたよね⋯。
あれを⋯もしかしたら今回も⋯?なんて結構ドキドキして、さ⋯⋯
「部室のドアを開けたらいきなり」編
「部活終了かけ声後にワっと取り囲まれ」編
「部活後にマック行こうぜーから始まる」編
と3つのパターンでのサプライズの場合のお礼の言い方シミュレートをしたりもしてたのに、さ⋯⋯!
⋯⋯⋯仕方ないから、「まだ寝巻き姿のオレの家に皆がワっとやってきた」編(寝巻きだけど髪とかはそこそこ整ってるのが大事!)と、「やけにシリアスな雰囲気の栄口に呼び出されて行ってみたらクラッカーがパパンと鳴ってみんなが一斉に登場」編と、恐ろしいけど「阿部に引きずられて行った三橋家がパーティ会場だった」編の3つにシミュレートを変更したんだよね。
や、やっぱなんでも準備がね⋯!
そりゃ少なくとも2パターン分は無駄になっちゃうんだけどね。備えるって大事じゃん!
なんかシガポもそんな感じの事を言うじゃん!
だから正直言うとこっそりもう1パターン、
「思いつめた表情の栄口が俺の家にやってきて、部屋に上げたけどなんだかずっと黙り込んだままでいて、『えっと、なんか今日元気ないね?』『!⋯⋯そんなこと⋯だって今日は⋯俺の1年で一番大事な日なのに⋯』『えっ⋯でも、栄口の誕生日は6月⋯だよね?』『⋯⋯じ、自分より、大切って⋯⋯思ったらダメ、かな⋯?』え、栄口それって、それって⋯!以下略」編
なんてのもやたら綿密にシミュレートしてたのにさぁ⋯!
現在⋯⋯1/4もそろそろ午後3時⋯⋯
今だにオレの携帯はピクリとも反応しない⋯
親も姉ちゃんも出掛けた家の中はシーンとしていて、集金の一つもきやしない⋯⋯
え⋯⋯晩飯合わせのサプライズ?それならそれで母さんには連絡しておいて貰わないと夕食無駄になっちゃうんだけど⋯その辺はまぁ花井がうまくやってくれそうかなとも思うけどさ。
無駄にマダムキラー疑惑のアイツがいるからさ。
⋯なんて考えてるうちにもう4時じゃん!
こ、これはもしかして⋯⋯
恐れていた通りの展開⋯?
オレが⋯⋯シミュレートはしたくないけど頭の片隅で考えずにいられなかった⋯⋯
誕生日、忘れられてる(覚えられて無い)編⋯?(泣)
でもこれで諦めるなんてできっこない⋯!
たとえ⋯たとえ誕生日を祝って貰えないとしても、この日に会いたい相手はやっぱいるんだし⋯!
ちょっとムナシーけど自分から会いに行ってでも⋯!
そう思ってオレは、大急ぎで家を飛び出した。
とは言えオレの家から栄口の家までは物凄く遠い。
オレん家から学校までの距離の更に倍くらいある。
それでも張り切ってしまったので毎朝の爆走時間の記録を更に縮めちゃったりもしたんだけど⋯⋯栄口の家のすぐ傍まで来てしまってから、オレはにわかに動揺し始めた。
き、来たはいいけどどうしたらいいのかな⋯?
やっぱ流石にオレの方から「祝って!」なんて言⋯えない事もないけどちょっと恥ずかしいし。
時間も遅くなっちゃったから(もう6時近い)移動するのも栄口の家にあがるのもなんか申し訳ないし⋯。
⋯⋯こそっと栄口の家の外から窓眺めて帰ろうかな⋯
え⋯なんかそれってちょっとストー⋯(以下略)
いやいやいや⋯!
違う違う!そんな変態さんみたいなことでなくて!
オレのはなんていうかもっとやるせない、甘酸っぱい感じ?
会いたいけど、でもでも⋯!みたいなもどかしさが成せる技でさ⋯!
決してそんな電気ついたら窓の向こうに姿が透けないかなとか、郵便受け覗いちゃおうかなとかそんな事は思ってないし!
あ~⋯でも会えないんじゃ結局独りよがりだよね⋯
さよならオレの16歳のバースデー⋯
と、くるっと帰る方向へ向き直ったところで、少し前方から待ちわびた声が聞こえてきた。
栄口「あれ?水谷じゃない?」
ささささ栄口ィィィィ!!!!(感涙)
あ、諦めなくてよかった⋯!
来ちゃってよかったぁぁぁ⋯!
神様ありがとう!
誕生日にオレの天使をありがとう!
栄口「こんな時間にどうしたの?⋯あ、どっかの帰り?」
オレ「う、ううん⋯!あのね、オレね⋯」
栄口「あ、わかった。阿部に会いに来た?」
オレ「ちっ、違うよおおおお!(泣)」
栄口「アハハ、リアクション激しいなぁ」
オレ「だってだって⋯そんな休日に阿部に会うなんて⋯そんな恐ろしくて禍々しい事を⋯!」
栄口「水谷ってホント、阿部の事恐れてるねぇ」
オレ「だって恐く無い!?あの横暴さとか、み、三橋へのその⋯色々とか⋯」
ここまではあまり理想的でないなりにそこそこポンポンと言葉が出てきていたんだけど、オレのこの台詞を聞くなり、何故か栄口はフっとサミシそうな表情になってしまった。
え⋯⋯栄口もまさか密かに阿部から横暴な事をされて⋯?
だとしたら許せない⋯!死ぬ気で阿部を倒ぉぉす!(リボーン助けて!死ぬ気弾撃ってェ!)
栄口「阿部と三橋、か⋯⋯」
ええっ、その台詞⋯!?
⋯⋯⋯もしかしてさっきの台詞の後半部分が効いた⋯?
ていうかキちゃった⋯⋯?
も、もしかして⋯⋯阿部が三橋を構うみたいに⋯とか⋯?
オレ、今までちょっと遠慮気味に来てたけど、もっとアクセル踏んでよかった感じ⋯?
栄口もオレの膝にのっかったり皆の前で「文貴v」って呼んでみたりそんなときめきハイスクールライフ求めてた⋯!?
だ、だったらオレ、その夢⋯⋯!!
栄口「ホント、阿部って変わったよなぁ⋯」
⋯⋯⋯ん?
阿部は確かに変わった奴だよ。
変わった⋯っていうかオカシ(略)
あれ、でもちょっと違うね?
「変わってる」じゃなく「変わった」って言ったよね。
栄口「中学の時はさ、しっかりしててもあんな面倒見いいっていうか⋯他人に構うタイプだとは思わなかったんだよね」
オレ「へ、へえ~⋯」
そういえば栄口と阿部って同中だっけ。うへえ長い付き合いになっちゃって可哀相⋯!
栄口みたいないい子があの鬼と⋯そりゃお腹も壊すよ。
栄口「だからさ、意外だったっていうか⋯見直したっていうか⋯ちょっと三橋の事、羨ましくもあるかな、なんて⋯」
⋯⋯んん?
三橋を羨ましいっていうのはオレの予想通りなんだけ、ど⋯
⋯⋯なんか決定的なとこがちがくない!?
栄口「水谷にだけ言っちゃおうかな⋯」
う、なにその魅惑的な言葉!
なのに⋯この嫌な予感はなに!?!?
栄口「オレ⋯中学の時から、ちょっとだけ阿部に憧れてるんだよね。⋯⋯あ、もちろんヘンな意味でじゃないよ!?」
⋯⋯真っ赤になって顔の前でパタパタ手を振る栄口は凄く可愛い⋯
でも可愛いものを見てこんなに傷付く事があるなんて⋯
オレはびっくりしちゃったよ⋯⋯(放心)
栄口「ほ、ほら、オレと阿部は同じ中学でも部に入って無いからチームメイトではなかったし、アイツはシニアでも榛名さんと組んで活躍してたし⋯そういう身近だけど凄い奴って言う感じがね⋯チームメイトになった今でもちょっとね⋯」
⋯⋯その後も栄口は照れながらも15分くらいあれこれ喋ってたけど⋯⋯オレはもうそれらの言葉を記憶に留める事が出来なかった⋯⋯⋯
既にとっぷり暗くなった道を独りトボトボ歩いていると⋯不意に足元に衝撃が走った。
オレ「イテッ!」
何かにぶつかって転んでしまったオレが振り向くと、小学校高学年か中一くらいのガキが突っ立ってる。
オレ「こら!何こんなとこに突っ立ってんの!てゆかもう真っ暗でしょー?子供はお家にお帰んなさーい!」
さっきからの悲しいのと痛いのがミックスで、ちょっとヒステリー気味に喚いてしまってから、子供相手にちょっとやばかったかな⋯?と思った時、そのガキはなんと⋯
ガキ「⋯⋯チッ、⋯⋯キャンキャンうるせェな⋯」
オレ「なっ⋯!お、お前な⋯!」
??「おい、どうしたんだ?」
オレ「!!」
ヒィ⋯!その声は⋯!
阿部「⋯なんだ、水谷か?何してんだお前、こんな時間に。ていうかオレの弟に何かしたか?」
ヒィ!やっぱり阿部!しかもこのガキ、阿部Jr!(誤)
オレ「してない!なんもしてない!ぶつかって転んだだけ!」
阿部+阿部Jr.「「フン⋯鈍くせェな⋯(ニィッ)」」
キャー!キモ恐いユニゾン!勘弁してェ!!
オレ「オ、オレ遅いし急いで帰らないと⋯!」
慌ててオレが走り去ろうとすると、阿部の声が追ってきた。
阿部「あ、おい。水谷」
オレ「な、なんですかぁ~?(ビクビク)」
阿部「誕生日、おめでとう(サムズアップ)」
オレ「!!!!!!!!!!!」
そ、そういえばオレ今日⋯!
ていうか栄口は結局覚えてくれてなかったのに何でABEー!?
オレ「な、なんで⋯オレの誕生日なんて知ってんの⋯?」
阿部「⋯⋯趣味、かな⋯?(ニィッ)」
それって人の誕生日覚えるのが趣味なのか⋯それともオレが趣味なのか⋯⋯
⋯⋯⋯⋯恐くてとても聞けなかった⋯
1阿部2阿部3花井
それは途中までは非常によくある昼休みの出来事だった。
オレは⋯席替えでせっかく遠く離れた席になったのに、なんとなーくつい阿部と花井の傍に寄ってってご飯を食べちゃってたんだ(や、だって後でさか⋯他のクラスの野球部の奴が来たりしたら一緒したいじゃん?)。
その日のオレのオカズのメインはエビフライだった。
エビフライ⋯あのさくさくでほくほくで美味しい食べ物エビフライ⋯(愛)
B型なのに珍しいねーって言われるけど(てゆか血液型でそんな決まってるもん?良く知らないけど)、オレは好きな食べ物はあとの楽しみにとっておく方なんだよね。
なので当然この日も⋯他の煮物とか卵焼きとか(それも好きだけどエビフライ様には叶わないのだ)をじわじわ食べつつ、本日のメインイベントを楽しみにしていた⋯⋯のに⋯!
悲劇は突然に起こった⋯⋯
突然だけど⋯⋯悲しいくらい想定内(流行ってるよねーこれ)だった⋯⋯
横からサッと現れた黒い物体⋯その名も阿部の箸が⋯!
オレの⋯⋯オレのエビフライ様を拉致したんだ⋯!(泣)
しかも拉致するなり奴はエビフライ様を恐怖のブラックホール⋯その名も阿部の口へとポイっと⋯!!
オレ「あ、あべー!?なにしちゃってんのー!」
阿部「は?持て余してんじゃねえのか?」
オレ「なんで!?違うよ!食べるよ!だいすきだもん!」
阿部「⋯⋯ならなんでわざわざ弁当箱からコレだけ蓋の方に避けたりしてんだよ」
オレ「だ、だって絶対最後に食べるから⋯!愉しみにとっておいたんだよ~!」
阿部「チッ⋯⋯紛らわしいんだよ」
オレ「ひどいー!阿部ひどいー!返してよオレのエビフライー!!」
阿部「食っちまったモンは仕方ないだろ、⋯ほら、代りにこれやるよ」
そう言って阿部がオレの弁当箱の蓋にポンと載せたのはそら豆だった。
そ ら 豆 ⋯ !
なにこれ⋯
何をどうしたらコレがエビフライ様の身代わりになると?
あんまりだー!!
オレ「うっ⋯⋯うう⋯っ(泣)」
花井「こら、阿部。あんまヒデーことすんなよ」
うっ⋯花井やさしい⋯さすがキャプテン⋯!
でも⋯でも優しくしてくれてもオレのエビフライはもう⋯⋯
阿部「フン、」
花井「最近のお前のソレ、目に余るぞ」
阿部「ソレってなんだよ」
花井「だから、お前ばっかり水谷を苛め過ぎだろ」
え、花井ってば⋯!
今の件だけでなく、日々の阿部の横暴に意見してくれちゃってるわけ!?
うわーすごい⋯!流石、主将様⋯!!
も、もしかしてこの抗議が通ったらオレの生活に平穏が⋯!?(ドキドキ)
しかし次の瞬間、恐怖の魔王はとんでもない事を口走った。
阿部「フン、⋯⋯⋯嫉妬かよ?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は⋯⋯?
あ、あべくん⋯⋯?ワンモアプリーズ?いやいややっぱいいや!
え⋯ていうか何?何を言い出しちゃったワケ?阿部は⋯
花井「⋯⋯チッ⋯⋯うるせーんだよ⋯」
ええっ、ていうか花井ーーーー!!??
お前はなんで顔を赤らめてんの!?
そりゃ普段から赤面がちな坊主だとは思ってたけど⋯
なに?この場面で赤面って何?まさか阿部の謎発言が当たってるの?
嫉妬って⋯⋯嫉妬って⋯⋯⋯⋯誰に?なんの嫉妬!?!?
阿部「悔しかったらお前もやりゃいいだろ」
!?!?!⋯⋯や、やるって⋯なにをなさるんですかァーー!!!(白目)
え、この話の流れ⋯⋯
まさか⋯まさか花井は阿部の横暴を止めたワケじゃ無いってこと?
は、花井もほんとはオレを虐めたいとか思ってるって事ォ!?!?(震)
花井「チッ⋯⋯そんなんじゃねえよ」
あ、違うんだ⋯ヨカッタ⋯!
そりゃそうだよね~
花井「オレは⋯お前みたいに歪んだコトする気ねえからな!」
そうそう、いじめなんてほんとにさ⋯!
花井「でもお前が水谷を独占すんのは我慢なんねーんだよ、いい加減!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯へ⋯⋯⋯⋯⋯⋯?
あ、の⋯⋯はないくん?キャプテン?
アナタ今、一体なにを⋯?
阿部「だから悔しけりゃお前もやってみりゃいいだろ?」
花井「だから、オレはそういう形で発散する気ねぇっつってんだよ!」
え、あれ⋯二人の言ってる事がさっぱり理解できないんだけど⋯
ソレ、ナニゴデスカー?(逃避)
阿部「なら今まで通り頭ン中だけでモンモンとしてりゃいいだろ?いい子のキャプテンはよ」
花井「うるせーな、好きなやつ虐めるなんて小学生以下の奴に言われたくねーんだよ!」
ちょちょちょちょっと待ってーー!
どさくさで恐いの聞こえた!へんなの聞こえちゃった!!
阿部「花井、お前は一つ間違ってる」
⋯⋯まさか阿部に救われる日が来ようとは⋯
そ、そうだよね⋯花井は何か衝撃的な勘違いをしてるよね⋯?
阿部「オレが水谷を好きだから虐めてんじゃねえ、水谷が虐められるのが好きな奴だからオレは虐めてやってるんだ」
なに言っちゃってんスか阿部くーーーん!!(白目)
花井「そんなワケねえだろ、勝手な事言うな、阿部」
そうだよそうだよ⋯!
やっぱり花井の方が断然常識人だったよ、ごめん花井、疑ったりして⋯!
花井「お前の愛情はトンガリ過ぎてんだよ!もっと水谷を包んでやろうって気にはなんねえのか?やっぱそんな奴には水谷は任せらんねえな」
あ、あの⋯⋯はない⋯⋯?
今のなに⋯⋯?
や、トンガリ発言とかふつうなら笑うとこなんだけど⋯一瞬突っ込もうかなーと思ったんだけど⋯⋯
な、なんだろう⋯オレは一言も喋って無いのに今にもつっこまれそうなこの気持ちはなんだろう⋯突っ込み違いってやつ?アハハ(壊)
⋯い、今すぐ椅子ごと逃げたいけど恐くて立てない⋯!
阿部「なにが包む愛だ、それでお前に何ができるってんだ?聞かせてみろよ」
いや出来たら聞かせないでくれないかな⋯!
花井「⋯⋯⋯オレはな、決めてるんだ⋯」
阿部「なにをだよ?」
花井「今度からレフトに飛んだフライも全部オレが取ってやる、ってな。水谷のエラーはオレが守ってみせる⋯!」
え、あれ⋯なに⋯ここまさかオレ、キュンってすべきとこ⋯?
残念ながらムカっとションボリと、あとゾワゾワ~っていうのが大部分なんだけど⋯!
ちょ、ちょっとさ⋯この会話いい加減さ⋯悪い冗談はさ⋯⋯
阿部「⋯⋯クッ⋯⋯⋯そう来たかよ⋯!」
えーーー!なにそこで勝手にダメージ食らってんのー??
もうお前らの会話の基準がわかんねーよ!
花井「フン、キャッチャーにはひっくり返っても出来ねえ事だな。それで腹いせに虐めてんのか?」
阿部「そんなんじゃねぇよ、大体お前、後から割り込もうって魂胆が汚ぇんだよ」
花井「割り込むも何も、水谷はお前のモンじゃねえだろ?」
当たり前だよ⋯!!!(震)
そう、そういう当たり前の事忘れないでー!
お前らの会話おかしいことになってるから!
阿部「いや、暫定オレのモンみたいなもんだな」
あ、あべー!?
⋯って突っ込みたいんだけど⋯⋯⋯ザンテイってなんだ⋯⋯?
花井「だから勝手言うなっつてんだ!まだ勝負はついてねえ、水谷は渡さねえからな!」
阿部「オレだって手放す気はねえよ!」
オレ「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
こ、ここまで⋯⋯色々逃避しながら聞いてたけど⋯⋯
黙って聞いてたけど⋯⋯⋯
え⋯⋯なにこれ⋯⋯まさかなの?そうなの??
コイツらオレを奪い合ってるの⋯⋯!?!?
一体何故そんな恐ろしい展開に⋯!?
マジで恐い⋯!特に花井!!(だってオレにとって昨日まで花井は常識人で⋯!阿部はある意味今更だけど⋯いやでも阿部も普段の200倍恐い⋯!)
ほんとになんでこんな事に⋯!?
花井「来い、水谷!お前阿部といたらボロボロにされちまうぞ!(右腕グイッ)」
阿部「バカ、ここにいろ水谷!お前は既にオレ無しじゃいられない筈だぜ?(サムズアップ)(そして左手グイッ)」
オレ「ちょ⋯っ!痛い痛い痛い~~!離してよー!」
阿部「そんな事言って痛いのが好きなクセによ。⋯⋯ほら、見てみろよ花井、イイ顔してやがるだろコイツ」
花井「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
だからなんでそこで赤面すんのー-ー-!?(白目)
も、もう花井も信用ならない⋯!(いや今日のここまでで既にそうだけど)
神様⋯!オレが一体何をしたっていうのー?
もうこんなキモいのやだよー!
これならただいじめられてる方がマシだよー!
オレ「⋯⋯はうあ!!!(ガバァッ)」
だらっだらの汗をかきながら、気付いたらオレは自分の部屋のベッドの上に起き上がっていた。
ゆ⋯⋯⋯夢⋯⋯⋯!!!!
そ、そうだよね⋯あり得ない⋯!!
うわ~~よかった~!夢だった⋯!
ビクトリー!勝訴!おせきはーん!!
オレ「は~~~~もう焦ったよ~⋯んもー新年そうそ⋯」
そこでオレはハッと気付いた⋯⋯
お休みなのでアラームは止めたけど枕元においてある携帯をカパっと開くとそこには⋯⋯
「1/2 ○:○○」
今 の が オ レ の 初 夢 ! !
不 吉 す ぎ る ⋯ !
ああ⋯今年も⋯⋯今年もオレは酷い目に合い続けるんだろうか⋯
神様どうかお手柔らかに⋯!
オレは⋯席替えでせっかく遠く離れた席になったのに、なんとなーくつい阿部と花井の傍に寄ってってご飯を食べちゃってたんだ(や、だって後でさか⋯他のクラスの野球部の奴が来たりしたら一緒したいじゃん?)。
その日のオレのオカズのメインはエビフライだった。
エビフライ⋯あのさくさくでほくほくで美味しい食べ物エビフライ⋯(愛)
B型なのに珍しいねーって言われるけど(てゆか血液型でそんな決まってるもん?良く知らないけど)、オレは好きな食べ物はあとの楽しみにとっておく方なんだよね。
なので当然この日も⋯他の煮物とか卵焼きとか(それも好きだけどエビフライ様には叶わないのだ)をじわじわ食べつつ、本日のメインイベントを楽しみにしていた⋯⋯のに⋯!
悲劇は突然に起こった⋯⋯
突然だけど⋯⋯悲しいくらい想定内(流行ってるよねーこれ)だった⋯⋯
横からサッと現れた黒い物体⋯その名も阿部の箸が⋯!
オレの⋯⋯オレのエビフライ様を拉致したんだ⋯!(泣)
しかも拉致するなり奴はエビフライ様を恐怖のブラックホール⋯その名も阿部の口へとポイっと⋯!!
オレ「あ、あべー!?なにしちゃってんのー!」
阿部「は?持て余してんじゃねえのか?」
オレ「なんで!?違うよ!食べるよ!だいすきだもん!」
阿部「⋯⋯ならなんでわざわざ弁当箱からコレだけ蓋の方に避けたりしてんだよ」
オレ「だ、だって絶対最後に食べるから⋯!愉しみにとっておいたんだよ~!」
阿部「チッ⋯⋯紛らわしいんだよ」
オレ「ひどいー!阿部ひどいー!返してよオレのエビフライー!!」
阿部「食っちまったモンは仕方ないだろ、⋯ほら、代りにこれやるよ」
そう言って阿部がオレの弁当箱の蓋にポンと載せたのはそら豆だった。
そ ら 豆 ⋯ !
なにこれ⋯
何をどうしたらコレがエビフライ様の身代わりになると?
あんまりだー!!
オレ「うっ⋯⋯うう⋯っ(泣)」
花井「こら、阿部。あんまヒデーことすんなよ」
うっ⋯花井やさしい⋯さすがキャプテン⋯!
でも⋯でも優しくしてくれてもオレのエビフライはもう⋯⋯
阿部「フン、」
花井「最近のお前のソレ、目に余るぞ」
阿部「ソレってなんだよ」
花井「だから、お前ばっかり水谷を苛め過ぎだろ」
え、花井ってば⋯!
今の件だけでなく、日々の阿部の横暴に意見してくれちゃってるわけ!?
うわーすごい⋯!流石、主将様⋯!!
も、もしかしてこの抗議が通ったらオレの生活に平穏が⋯!?(ドキドキ)
しかし次の瞬間、恐怖の魔王はとんでもない事を口走った。
阿部「フン、⋯⋯⋯嫉妬かよ?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は⋯⋯?
あ、あべくん⋯⋯?ワンモアプリーズ?いやいややっぱいいや!
え⋯ていうか何?何を言い出しちゃったワケ?阿部は⋯
花井「⋯⋯チッ⋯⋯うるせーんだよ⋯」
ええっ、ていうか花井ーーーー!!??
お前はなんで顔を赤らめてんの!?
そりゃ普段から赤面がちな坊主だとは思ってたけど⋯
なに?この場面で赤面って何?まさか阿部の謎発言が当たってるの?
嫉妬って⋯⋯嫉妬って⋯⋯⋯⋯誰に?なんの嫉妬!?!?
阿部「悔しかったらお前もやりゃいいだろ」
!?!?!⋯⋯や、やるって⋯なにをなさるんですかァーー!!!(白目)
え、この話の流れ⋯⋯
まさか⋯まさか花井は阿部の横暴を止めたワケじゃ無いってこと?
は、花井もほんとはオレを虐めたいとか思ってるって事ォ!?!?(震)
花井「チッ⋯⋯そんなんじゃねえよ」
あ、違うんだ⋯ヨカッタ⋯!
そりゃそうだよね~
花井「オレは⋯お前みたいに歪んだコトする気ねえからな!」
そうそう、いじめなんてほんとにさ⋯!
花井「でもお前が水谷を独占すんのは我慢なんねーんだよ、いい加減!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯へ⋯⋯⋯⋯⋯⋯?
あ、の⋯⋯はないくん?キャプテン?
アナタ今、一体なにを⋯?
阿部「だから悔しけりゃお前もやってみりゃいいだろ?」
花井「だから、オレはそういう形で発散する気ねぇっつってんだよ!」
え、あれ⋯二人の言ってる事がさっぱり理解できないんだけど⋯
ソレ、ナニゴデスカー?(逃避)
阿部「なら今まで通り頭ン中だけでモンモンとしてりゃいいだろ?いい子のキャプテンはよ」
花井「うるせーな、好きなやつ虐めるなんて小学生以下の奴に言われたくねーんだよ!」
ちょちょちょちょっと待ってーー!
どさくさで恐いの聞こえた!へんなの聞こえちゃった!!
阿部「花井、お前は一つ間違ってる」
⋯⋯まさか阿部に救われる日が来ようとは⋯
そ、そうだよね⋯花井は何か衝撃的な勘違いをしてるよね⋯?
阿部「オレが水谷を好きだから虐めてんじゃねえ、水谷が虐められるのが好きな奴だからオレは虐めてやってるんだ」
なに言っちゃってんスか阿部くーーーん!!(白目)
花井「そんなワケねえだろ、勝手な事言うな、阿部」
そうだよそうだよ⋯!
やっぱり花井の方が断然常識人だったよ、ごめん花井、疑ったりして⋯!
花井「お前の愛情はトンガリ過ぎてんだよ!もっと水谷を包んでやろうって気にはなんねえのか?やっぱそんな奴には水谷は任せらんねえな」
あ、あの⋯⋯はない⋯⋯?
今のなに⋯⋯?
や、トンガリ発言とかふつうなら笑うとこなんだけど⋯一瞬突っ込もうかなーと思ったんだけど⋯⋯
な、なんだろう⋯オレは一言も喋って無いのに今にもつっこまれそうなこの気持ちはなんだろう⋯突っ込み違いってやつ?アハハ(壊)
⋯い、今すぐ椅子ごと逃げたいけど恐くて立てない⋯!
阿部「なにが包む愛だ、それでお前に何ができるってんだ?聞かせてみろよ」
いや出来たら聞かせないでくれないかな⋯!
花井「⋯⋯⋯オレはな、決めてるんだ⋯」
阿部「なにをだよ?」
花井「今度からレフトに飛んだフライも全部オレが取ってやる、ってな。水谷のエラーはオレが守ってみせる⋯!」
え、あれ⋯なに⋯ここまさかオレ、キュンってすべきとこ⋯?
残念ながらムカっとションボリと、あとゾワゾワ~っていうのが大部分なんだけど⋯!
ちょ、ちょっとさ⋯この会話いい加減さ⋯悪い冗談はさ⋯⋯
阿部「⋯⋯クッ⋯⋯⋯そう来たかよ⋯!」
えーーー!なにそこで勝手にダメージ食らってんのー??
もうお前らの会話の基準がわかんねーよ!
花井「フン、キャッチャーにはひっくり返っても出来ねえ事だな。それで腹いせに虐めてんのか?」
阿部「そんなんじゃねぇよ、大体お前、後から割り込もうって魂胆が汚ぇんだよ」
花井「割り込むも何も、水谷はお前のモンじゃねえだろ?」
当たり前だよ⋯!!!(震)
そう、そういう当たり前の事忘れないでー!
お前らの会話おかしいことになってるから!
阿部「いや、暫定オレのモンみたいなもんだな」
あ、あべー!?
⋯って突っ込みたいんだけど⋯⋯⋯ザンテイってなんだ⋯⋯?
花井「だから勝手言うなっつてんだ!まだ勝負はついてねえ、水谷は渡さねえからな!」
阿部「オレだって手放す気はねえよ!」
オレ「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
こ、ここまで⋯⋯色々逃避しながら聞いてたけど⋯⋯
黙って聞いてたけど⋯⋯⋯
え⋯⋯なにこれ⋯⋯まさかなの?そうなの??
コイツらオレを奪い合ってるの⋯⋯!?!?
一体何故そんな恐ろしい展開に⋯!?
マジで恐い⋯!特に花井!!(だってオレにとって昨日まで花井は常識人で⋯!阿部はある意味今更だけど⋯いやでも阿部も普段の200倍恐い⋯!)
ほんとになんでこんな事に⋯!?
花井「来い、水谷!お前阿部といたらボロボロにされちまうぞ!(右腕グイッ)」
阿部「バカ、ここにいろ水谷!お前は既にオレ無しじゃいられない筈だぜ?(サムズアップ)(そして左手グイッ)」
オレ「ちょ⋯っ!痛い痛い痛い~~!離してよー!」
阿部「そんな事言って痛いのが好きなクセによ。⋯⋯ほら、見てみろよ花井、イイ顔してやがるだろコイツ」
花井「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
だからなんでそこで赤面すんのー-ー-!?(白目)
も、もう花井も信用ならない⋯!(いや今日のここまでで既にそうだけど)
神様⋯!オレが一体何をしたっていうのー?
もうこんなキモいのやだよー!
これならただいじめられてる方がマシだよー!
オレ「⋯⋯はうあ!!!(ガバァッ)」
だらっだらの汗をかきながら、気付いたらオレは自分の部屋のベッドの上に起き上がっていた。
ゆ⋯⋯⋯夢⋯⋯⋯!!!!
そ、そうだよね⋯あり得ない⋯!!
うわ~~よかった~!夢だった⋯!
ビクトリー!勝訴!おせきはーん!!
オレ「は~~~~もう焦ったよ~⋯んもー新年そうそ⋯」
そこでオレはハッと気付いた⋯⋯
お休みなのでアラームは止めたけど枕元においてある携帯をカパっと開くとそこには⋯⋯
「1/2 ○:○○」
今 の が オ レ の 初 夢 ! !
不 吉 す ぎ る ⋯ !
ああ⋯今年も⋯⋯今年もオレは酷い目に合い続けるんだろうか⋯
神様どうかお手柔らかに⋯!
嵐のバースデー
正直、オレは今日がその日だということをずっと知らずにいた⋯
いや⋯知らなかったというか⋯⋯阿部にもそういうものがある、という事が頭から抜けていたというか⋯考えたくなかったというか⋯⋯
でも今にしたらよく考えておくべきだったんだ⋯今日と言う日が来る前に⋯
そうしたらオレは野球を諦めてでもドラ○ンガール⋯違う、ドラゴ○ボールを探す旅に出て、必死でアレを7つ集めてお願いしたのに⋯!
どうか16年前の12月11日に生まれたタレ目なのに最強に目つきの悪い赤ん坊を抹殺して下さい⋯!
それが無理なら埼玉から遥か遠い遠い土地へ移住させて下さい⋯!!
今となってはかなわぬ夢だ⋯
いや⋯もしも叶っても⋯既にオレについてしまった傷は拭えやしない⋯
今日はみんな、朝からどこかそわそわしていた。
⋯⋯とかならオレだって気付く可能性はあったのに⋯!
実際のとこ、みんなはすこぶる普通だった。いつも通りだった。
強いていえば三橋がいつも以上にキョドってた気もするけど、なにせ三橋だから違いは良く解らなかったしいつもの事だと思ってた。
けれどそうしてオレが朝練でバテバテになり、午前の授業をほとんど寝て、昼休みに阿部に弁当のチーズカレー春巻きを取られてべそかいて、六時間目の授業で居眠りして何故か栄口がソニンの衣装(カレーライスの時のアレ)を着てる夢を見てしまって最後の号令で立ち上がれなくて花井の影に隠れて誤魔化したりしてる間にも、それは着々と進んでいたんだ⋯(えっと居眠りの夢はアレ多分阿部に春巻取られた所為だと思うんだ。チーズカレー春巻!)。
いつも通りのハードな練習。
けれど今日は、いつもマネジがおにぎりを出してくれる時間のところで、いつもの光景と違うものに切り替わった。
モモカン「さ、今日は特別にここで終わり!この後は⋯⋯花井君、準備は?」
花井「OKです」
モモカン「じゃ、みんな部室の方へ移動!⋯⋯さ、阿部君、この戸を開けてみて」
阿部「ハイ(何故か興奮気味の顔。鼻息荒くてキモイなーなんてこの時は思ってたんだ⋯)」
けど鼻息が荒いのも道理。
なにせ阿部は本人なだけに最初から期待マックスだったんだから、こんな風にされればすぐピンと来たんだろう。
阿部がさっと扉を開け、部室に踏み込むなり、そのすぐ後をどどっと駈け込んだ部員一同が一斉に叫んだ。
一同(オレ除く)「阿部ー!誕生日おめでとうー!!」
オレ「!?!?!?」
阿部「⋯⋯みんな、サンキュ⋯!(ニィッ)」
踏み込んだ部室には「Happy Birthday ABE」の横断幕。
そしてうまそうなご飯やらケーキやらがどこからか運び込んだ机にたっぷり乗っていた(後で聞いたらほとんど三橋家からの差し入れだったらしい⋯)
こんな時、サプライズパーティにポカーンとするのはふつう、祝われる当人だろう。
けれど当人の阿部がすっかり当然のように馴染んでいる中、一番のサプライズに襲われてるのは何故か阿部とはてんで無関係のオレ⋯。
え、なにこれ⋯いくらオレが阿部の誕生を呪わしく思ってるからって⋯⋯
栄口「あは、驚いた?」
オレ「あ!栄口ィィ~~!ねー何これ?何コレ??」
栄口「うん、サプライズパーティにしようと思ってたからね。水谷は阿部と同じクラスだし、なんかポロっと言っちゃいそうだから、ついでに水谷にも伏せておこうってみんなで決めたんだよ」
オレ「あ、あ~~⋯そうだったんだ~」
そ、そりゃ確かに否定できないけど~⋯
巣山「でも大変だったよなぁ」
西広「そうだねぇ⋯」
泉 「阿部は割と行動パターン決まってたから楽だったんだけどさ、昼休みは部長副部長会議か、9組に三橋を捕獲に行くか7組で三橋が掛かってくるのを待ちわびてるか、のどれかだったかな」
沖 「そうそう、ところが水谷は神出鬼没っていうかさ⋯気付いたら後ろからふっとんできてくっついてたりするから⋯」
田島「だから水谷に内緒にするって事の方が難しかったよな!」
うわあなにこれ⋯
びっくりするくらい一致団結のみんなが喋ってるよ。
普段忘れがちなあの人やあの人まで⋯
今の会話に加わって無いのって、まだ両手を高々と上げて「サンッキュー!」と言い続けている阿部(あの⋯なんていったっけ?ヒゲのおっさん歌手っぽい⋯昔3人組で歌ってた⋯)と、その阿部に熱烈に拍手を送り続けている三橋だけだし。
も、もういっそ阿部と三橋の二人だけにしてあげた方がよくない?
そう思ったんだけどみんなは早速テーブルの方へ移動を開始したし、正直オレもお腹がグウグウ鳴り始めた。考えてみたらそうだよね。別に驚かされたぐらいなんて事ないよね。
だってこんなに美味しそうなものがたっぷりだし~!
しのーかのおにぎりも勿論嬉しいけどドーパミンに嘘は付けないよ。
けどまだお約束のアレをやるまではご飯は食べられないらしい。
花井「よし、じゃ⋯えーと⋯アレ歌うか!」
アレってさ⋯別に言えばいいじゃん「ハッピバースデーのうた」ってさ。
花井も三橋の家で盛大に祝われたクチだから思い出し照れしちゃってんのかな。
変なとこ照れ屋なんだよね~花井って。
それでもみんな勿論なんの事か解って、よし歌うぞーと姿勢を直したところで、すっかりスター気取りのアイツが突然意見し始めた。
阿部「待ってくれ、花井。オレに一つ提案がある」
花井「?なんだ提案って」
阿部「いや⋯⋯提案というより⋯⋯ささやかな希望⋯ってトコか」
言い直しながら、阿部はニィ⋯っと笑って人指し指で鼻の下を擦った。
今にも「てへっ★」とか言い出しそうな仕草だ⋯!
お願い!言わないで!キモ恐いから!
花井「⋯で、何なんだ?」
阿部「別に難しい事じゃ無い。その⋯⋯歌だけどな、クライマックスの部分があるだろ」
花井「⋯⋯⋯⋯クライマックス?」
田島「なにそれ?イク時ってこと?」
花井「なっ⋯!バッ⋯!!何いってんだお前!」
田島「オレは別にイッてねえって。阿部が言ってんだろ?」
花井「阿部だって別にイッてねえよ!」
栄口「ちょ、ちょっと、二人とも黙って。⋯⋯阿部、それって歌の終わり頃ってこと?」
うわびっくりした⋯!
栄口もイッちゃうとか言い出すのかと思った⋯!(ドキドキドキ)
てゆうか田島がそんな事で頭一杯なのはいいけど花井もなぁ⋯。
ま、仕方ないか。変なとこで照れ屋さんだからな。
ところで阿部は結局何を言い出したんだろ?
阿部「そうだ、『ハッピバースデ~、ディーア⋯』のとこだ」
巣山「その部分がどうしたんだ?」
阿部「その部分だけは三橋一人に歌って欲しいんだ⋯」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「⋯⋯⋯⋯⋯⋯えっ、⋯うえ⋯っ!?⋯⋯オ、オレ⋯⋯!」
阿部「ああ⋯お前だけに歌って欲しい⋯!」
⋯⋯だから⋯⋯だから言⋯おうと思ったのに⋯!
二人だけにしたらどうか、って⋯!
三橋「で、でも⋯⋯オレ⋯⋯歌、へた⋯」
阿部「構いやしないぜ。要は気持ち(ハート)だからな☆」
い、いま⋯今「気持ち」って書いて「ハート」って読んだ⋯!
いやだ!やっぱり早く帰りたい⋯!
このままじゃコイツ「本気」って書いて「マジ」って言うよ!
ああでもいくらなんでもここで1人で立ち上がる勇気は無い⋯
しかも目の前からは美味しそうな匂いが⋯⋯⋯ぐう⋯⋯
泉 「三橋1人になるのはそこの部分だけでいいんだろ?」
阿部「ああ」
田島「おし!じゃそこまでは全員で歌おうぜ!三橋、一気に歌っちまえばいいだけだからよ!」
三橋「う、⋯⋯うん⋯っ!」
なんとかクラスメートの助けで三橋も腹を括ったらしい。
ああ⋯⋯早く終わってくれ⋯⋯
一同「ハッピバースデ~トゥ~ユ~、ハッピバ~スデ~トゥ~ユ~」
三橋「⋯⋯ハ、⋯ハッピバースデー⋯ディア⋯⋯⋯⋯あべ、くん⋯!」
よし、言っ⋯
阿部「違ーーーーう!!」
三橋「!!!!!」
一同「!?」
え、なになに?アイツ今なんで叫んだの⋯?
阿部「三橋、そうじゃねえ」
三橋「う、え⋯っ⋯なん、で⋯⋯あべく⋯」
阿部「それが違うって言ってるんだ!」
三橋「⋯ひ、っ」
なんだよなんだよ~!三橋、ちょっとつっかえてはいたけど上出来に歌ってたじゃん。
何が不満なのさ阿部の鬼!
阿部「そうじゃなくて、『ハッピバ~スデ~、ディ~ア⋯タ~カヤ~⋯vv』⋯⋯こうだ!!」
ABEーーーーーーー!?
お、おま⋯⋯
いやそりゃね⋯解らないでも無いよ?
オレだってそりゃ⋯⋯好きな子にハッピバースデーの歌を歌って貰いたいなぁとか思うし⋯
そん時には『ハッピバースデー、ディ~ア、水谷-』よりもその⋯⋯文貴~の方が嬉しい、かなー?とはね⋯
でもさか⋯おっとやっぱ相手がさ、恥ずかしがり屋さん(あ、花井じゃないから)だったりすると可哀相じゃん⋯!
そこまで強要すんなよ⋯!しかもごちそう⋯じゃない、みんなの前で!
三橋「、う⋯っ⋯⋯⋯タ、⋯タ⋯⋯」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「タ⋯⋯⋯⋯、ッタ⋯⋯ッ」
栄口「えっと、⋯⋯も、もう一回最初から歌おうか?」
田島「おし!いくぜ!ハッピバースデー⋯」
そうして二度目のハッピバースデーも再びクライマックスへやってきた。
三橋「ハッピバースデー、ディ~ア⋯⋯⋯タ、っ⋯⋯⋯タ⋯⋯タ⋯⋯」
阿部「⋯⋯⋯⋯(目を瞑って腕組みで待ち構え)」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「⋯⋯⋯タ⋯⋯⋯ぅうっ⋯⋯⋯⋯タ⋯⋯⋯」
阿部「⋯⋯⋯⋯三橋⋯来い⋯!⋯」
なんかちっさい声で言ってるー!
小さいけど全員に丸聞こえ⋯!
三橋「⋯⋯⋯⋯タ、カ⋯⋯⋯⋯ャくんっ⋯⋯!」
阿部「⋯三橋!」
一同「ハッピバースデートゥ-ユー!阿部おめでとー!」
なんか明らかに「タカヤ」じゃなくて「タカ⋯モギョギョ」って感じだったけど、オレ達は慌ててラストまで歌い切った。
この時のオレ達は夏大のどの試合より全員の心が一つだったと思う⋯⋯
よかった⋯大きな試練が終わって良かった⋯!
あとはごちそうを⋯
花井「おし、じゃ全員プレゼントを先に渡しちまうか」
一同「おう!」
オレ「!?!?!?!?」
え、プレゼントって⋯⋯全員って⋯⋯⋯?
ああ、そうか、全員からって事で誰か買っておいたのかな?
でもオレはサプライズにされてたから当然買い出しなんて当たらなかったもんね。
巣山「オレはこれ、新作プロテインでなかなかお薦めだ」
阿部「サンキュ!後でオレの余ってるプロテインやるよ」
巣山「いや、気にしないでくれ。誕生日プレゼントだし」
田島「オレはエロ本な!おさがりだけど!」
花井「バカ!しまえ!」
田島「え~なんでだよ~」
阿部「田島、気持ちだけ貰っとく。オレ、妄⋯想像派だから」
田島「なんだそっか。なら仕方ないな!」
泉 「オレはタオル。ここの刺繍は浜田がしたから一応合作プレゼントね」
浜田「合作っつーかお前は家からタオル持ってきただけだろーが」
泉 「アイデア出したのはオレだからいいの」
え、待って待って待って。
なんで個々に出してんの⋯?
これって⋯⋯⋯え⋯⋯⋯あれ⋯⋯⋯
栄口「⋯⋯⋯これで、あとは水谷かな?」
オレ「!!⋯⋯や、えっと⋯⋯オレは⋯⋯」
栄口「?」
田島「あ、さては忘れてきたのか?」
オレ「ウン、忘れてきた⋯⋯っていうか⋯⋯その⋯⋯オレだけサプライズだったし⋯」
泉 「でもパーティはサプライズでも誕生日は決まってる日だろ?」
オレ「!!あ、あ~⋯⋯そ、そうねェ⋯⋯」
ヒーそうくるの!?さすが小粒で辛口⋯!
ていうかなに?みんな普通に阿部の誕生日覚えてたわけ!?パーティ抜きでも??
その時、ポンと肩に何かが触れた。
いや⋯ポン、っていうか⋯⋯精神的にはズシン⋯というか⋯⋯
阿部「⋯⋯水谷、」
オレ「⋯⋯⋯あ、あべくん⋯⋯なにか、ナ⋯?」
阿部「気にすんな」
オレ「⋯あ、あべ⋯⋯!!」
なんだよ~!阿部ってばいいとこあるじゃん⋯!
そうだよねー今日の阿部は幸せ一杯だもんね。三橋に歌ってもらったしね。
ならオレ1人くらい目こぼしてくれていいよね。
阿部「お前の分のケーキと飯で構わないぜ」
⋯⋯⋯⋯え?
今、あべさん、なんて⋯⋯⋯?
阿部「そして、それはオレではなくオレのステディ⋯おっと言い間違えた、バッテリーの相手である、三橋にやってくれ」
⋯⋯⋯⋯え、え⋯っ!?
そ、それって今、目の前にあるこのごちそうの事!?
オレの分を?三橋に??
確実に残らないじゃん⋯⋯!!(泣)
阿部「どうだ?名案だろ?お前は罪滅ぼしになり、⋯⋯そして三橋の腹は満足するって寸法だ」
三橋「あ、ありがとう⋯!⋯⋯タカヤくん⋯!!」
ちょっとちょっとー!
なんで今度はスラっと言えてんの「タカヤくん」って⋯!
こわい⋯!この子の食欲恐い!!
阿部「気にすんな⋯⋯⋯廉!(ビシィッ)」
速攻調子こいた-!(白目)
う、うん⋯⋯もういいや⋯⋯⋯なんか違うものでお腹一杯っていうか⋯⋯
今にもなんか出そうっていうか⋯⋯
ああ⋯⋯それにしても⋯⋯⋯
みんな覚えてるか、な⋯⋯⋯?
来月は⋯⋯来月の4日はオレの誕生日ですけど⋯⋯⋯
⋯⋯⋯もしかして⋯⋯野球部ってその日⋯休みか、な⋯⋯⋯
いや⋯知らなかったというか⋯⋯阿部にもそういうものがある、という事が頭から抜けていたというか⋯考えたくなかったというか⋯⋯
でも今にしたらよく考えておくべきだったんだ⋯今日と言う日が来る前に⋯
そうしたらオレは野球を諦めてでもドラ○ンガール⋯違う、ドラゴ○ボールを探す旅に出て、必死でアレを7つ集めてお願いしたのに⋯!
どうか16年前の12月11日に生まれたタレ目なのに最強に目つきの悪い赤ん坊を抹殺して下さい⋯!
それが無理なら埼玉から遥か遠い遠い土地へ移住させて下さい⋯!!
今となってはかなわぬ夢だ⋯
いや⋯もしも叶っても⋯既にオレについてしまった傷は拭えやしない⋯
今日はみんな、朝からどこかそわそわしていた。
⋯⋯とかならオレだって気付く可能性はあったのに⋯!
実際のとこ、みんなはすこぶる普通だった。いつも通りだった。
強いていえば三橋がいつも以上にキョドってた気もするけど、なにせ三橋だから違いは良く解らなかったしいつもの事だと思ってた。
けれどそうしてオレが朝練でバテバテになり、午前の授業をほとんど寝て、昼休みに阿部に弁当のチーズカレー春巻きを取られてべそかいて、六時間目の授業で居眠りして何故か栄口がソニンの衣装(カレーライスの時のアレ)を着てる夢を見てしまって最後の号令で立ち上がれなくて花井の影に隠れて誤魔化したりしてる間にも、それは着々と進んでいたんだ⋯(えっと居眠りの夢はアレ多分阿部に春巻取られた所為だと思うんだ。チーズカレー春巻!)。
いつも通りのハードな練習。
けれど今日は、いつもマネジがおにぎりを出してくれる時間のところで、いつもの光景と違うものに切り替わった。
モモカン「さ、今日は特別にここで終わり!この後は⋯⋯花井君、準備は?」
花井「OKです」
モモカン「じゃ、みんな部室の方へ移動!⋯⋯さ、阿部君、この戸を開けてみて」
阿部「ハイ(何故か興奮気味の顔。鼻息荒くてキモイなーなんてこの時は思ってたんだ⋯)」
けど鼻息が荒いのも道理。
なにせ阿部は本人なだけに最初から期待マックスだったんだから、こんな風にされればすぐピンと来たんだろう。
阿部がさっと扉を開け、部室に踏み込むなり、そのすぐ後をどどっと駈け込んだ部員一同が一斉に叫んだ。
一同(オレ除く)「阿部ー!誕生日おめでとうー!!」
オレ「!?!?!?」
阿部「⋯⋯みんな、サンキュ⋯!(ニィッ)」
踏み込んだ部室には「Happy Birthday ABE」の横断幕。
そしてうまそうなご飯やらケーキやらがどこからか運び込んだ机にたっぷり乗っていた(後で聞いたらほとんど三橋家からの差し入れだったらしい⋯)
こんな時、サプライズパーティにポカーンとするのはふつう、祝われる当人だろう。
けれど当人の阿部がすっかり当然のように馴染んでいる中、一番のサプライズに襲われてるのは何故か阿部とはてんで無関係のオレ⋯。
え、なにこれ⋯いくらオレが阿部の誕生を呪わしく思ってるからって⋯⋯
栄口「あは、驚いた?」
オレ「あ!栄口ィィ~~!ねー何これ?何コレ??」
栄口「うん、サプライズパーティにしようと思ってたからね。水谷は阿部と同じクラスだし、なんかポロっと言っちゃいそうだから、ついでに水谷にも伏せておこうってみんなで決めたんだよ」
オレ「あ、あ~~⋯そうだったんだ~」
そ、そりゃ確かに否定できないけど~⋯
巣山「でも大変だったよなぁ」
西広「そうだねぇ⋯」
泉 「阿部は割と行動パターン決まってたから楽だったんだけどさ、昼休みは部長副部長会議か、9組に三橋を捕獲に行くか7組で三橋が掛かってくるのを待ちわびてるか、のどれかだったかな」
沖 「そうそう、ところが水谷は神出鬼没っていうかさ⋯気付いたら後ろからふっとんできてくっついてたりするから⋯」
田島「だから水谷に内緒にするって事の方が難しかったよな!」
うわあなにこれ⋯
びっくりするくらい一致団結のみんなが喋ってるよ。
普段忘れがちなあの人やあの人まで⋯
今の会話に加わって無いのって、まだ両手を高々と上げて「サンッキュー!」と言い続けている阿部(あの⋯なんていったっけ?ヒゲのおっさん歌手っぽい⋯昔3人組で歌ってた⋯)と、その阿部に熱烈に拍手を送り続けている三橋だけだし。
も、もういっそ阿部と三橋の二人だけにしてあげた方がよくない?
そう思ったんだけどみんなは早速テーブルの方へ移動を開始したし、正直オレもお腹がグウグウ鳴り始めた。考えてみたらそうだよね。別に驚かされたぐらいなんて事ないよね。
だってこんなに美味しそうなものがたっぷりだし~!
しのーかのおにぎりも勿論嬉しいけどドーパミンに嘘は付けないよ。
けどまだお約束のアレをやるまではご飯は食べられないらしい。
花井「よし、じゃ⋯えーと⋯アレ歌うか!」
アレってさ⋯別に言えばいいじゃん「ハッピバースデーのうた」ってさ。
花井も三橋の家で盛大に祝われたクチだから思い出し照れしちゃってんのかな。
変なとこ照れ屋なんだよね~花井って。
それでもみんな勿論なんの事か解って、よし歌うぞーと姿勢を直したところで、すっかりスター気取りのアイツが突然意見し始めた。
阿部「待ってくれ、花井。オレに一つ提案がある」
花井「?なんだ提案って」
阿部「いや⋯⋯提案というより⋯⋯ささやかな希望⋯ってトコか」
言い直しながら、阿部はニィ⋯っと笑って人指し指で鼻の下を擦った。
今にも「てへっ★」とか言い出しそうな仕草だ⋯!
お願い!言わないで!キモ恐いから!
花井「⋯で、何なんだ?」
阿部「別に難しい事じゃ無い。その⋯⋯歌だけどな、クライマックスの部分があるだろ」
花井「⋯⋯⋯⋯クライマックス?」
田島「なにそれ?イク時ってこと?」
花井「なっ⋯!バッ⋯!!何いってんだお前!」
田島「オレは別にイッてねえって。阿部が言ってんだろ?」
花井「阿部だって別にイッてねえよ!」
栄口「ちょ、ちょっと、二人とも黙って。⋯⋯阿部、それって歌の終わり頃ってこと?」
うわびっくりした⋯!
栄口もイッちゃうとか言い出すのかと思った⋯!(ドキドキドキ)
てゆうか田島がそんな事で頭一杯なのはいいけど花井もなぁ⋯。
ま、仕方ないか。変なとこで照れ屋さんだからな。
ところで阿部は結局何を言い出したんだろ?
阿部「そうだ、『ハッピバースデ~、ディーア⋯』のとこだ」
巣山「その部分がどうしたんだ?」
阿部「その部分だけは三橋一人に歌って欲しいんだ⋯」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「⋯⋯⋯⋯⋯⋯えっ、⋯うえ⋯っ!?⋯⋯オ、オレ⋯⋯!」
阿部「ああ⋯お前だけに歌って欲しい⋯!」
⋯⋯だから⋯⋯だから言⋯おうと思ったのに⋯!
二人だけにしたらどうか、って⋯!
三橋「で、でも⋯⋯オレ⋯⋯歌、へた⋯」
阿部「構いやしないぜ。要は気持ち(ハート)だからな☆」
い、いま⋯今「気持ち」って書いて「ハート」って読んだ⋯!
いやだ!やっぱり早く帰りたい⋯!
このままじゃコイツ「本気」って書いて「マジ」って言うよ!
ああでもいくらなんでもここで1人で立ち上がる勇気は無い⋯
しかも目の前からは美味しそうな匂いが⋯⋯⋯ぐう⋯⋯
泉 「三橋1人になるのはそこの部分だけでいいんだろ?」
阿部「ああ」
田島「おし!じゃそこまでは全員で歌おうぜ!三橋、一気に歌っちまえばいいだけだからよ!」
三橋「う、⋯⋯うん⋯っ!」
なんとかクラスメートの助けで三橋も腹を括ったらしい。
ああ⋯⋯早く終わってくれ⋯⋯
一同「ハッピバースデ~トゥ~ユ~、ハッピバ~スデ~トゥ~ユ~」
三橋「⋯⋯ハ、⋯ハッピバースデー⋯ディア⋯⋯⋯⋯あべ、くん⋯!」
よし、言っ⋯
阿部「違ーーーーう!!」
三橋「!!!!!」
一同「!?」
え、なになに?アイツ今なんで叫んだの⋯?
阿部「三橋、そうじゃねえ」
三橋「う、え⋯っ⋯なん、で⋯⋯あべく⋯」
阿部「それが違うって言ってるんだ!」
三橋「⋯ひ、っ」
なんだよなんだよ~!三橋、ちょっとつっかえてはいたけど上出来に歌ってたじゃん。
何が不満なのさ阿部の鬼!
阿部「そうじゃなくて、『ハッピバ~スデ~、ディ~ア⋯タ~カヤ~⋯vv』⋯⋯こうだ!!」
ABEーーーーーーー!?
お、おま⋯⋯
いやそりゃね⋯解らないでも無いよ?
オレだってそりゃ⋯⋯好きな子にハッピバースデーの歌を歌って貰いたいなぁとか思うし⋯
そん時には『ハッピバースデー、ディ~ア、水谷-』よりもその⋯⋯文貴~の方が嬉しい、かなー?とはね⋯
でもさか⋯おっとやっぱ相手がさ、恥ずかしがり屋さん(あ、花井じゃないから)だったりすると可哀相じゃん⋯!
そこまで強要すんなよ⋯!しかもごちそう⋯じゃない、みんなの前で!
三橋「、う⋯っ⋯⋯⋯タ、⋯タ⋯⋯」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「タ⋯⋯⋯⋯、ッタ⋯⋯ッ」
栄口「えっと、⋯⋯も、もう一回最初から歌おうか?」
田島「おし!いくぜ!ハッピバースデー⋯」
そうして二度目のハッピバースデーも再びクライマックスへやってきた。
三橋「ハッピバースデー、ディ~ア⋯⋯⋯タ、っ⋯⋯⋯タ⋯⋯タ⋯⋯」
阿部「⋯⋯⋯⋯(目を瞑って腕組みで待ち構え)」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「⋯⋯⋯タ⋯⋯⋯ぅうっ⋯⋯⋯⋯タ⋯⋯⋯」
阿部「⋯⋯⋯⋯三橋⋯来い⋯!⋯」
なんかちっさい声で言ってるー!
小さいけど全員に丸聞こえ⋯!
三橋「⋯⋯⋯⋯タ、カ⋯⋯⋯⋯ャくんっ⋯⋯!」
阿部「⋯三橋!」
一同「ハッピバースデートゥ-ユー!阿部おめでとー!」
なんか明らかに「タカヤ」じゃなくて「タカ⋯モギョギョ」って感じだったけど、オレ達は慌ててラストまで歌い切った。
この時のオレ達は夏大のどの試合より全員の心が一つだったと思う⋯⋯
よかった⋯大きな試練が終わって良かった⋯!
あとはごちそうを⋯
花井「おし、じゃ全員プレゼントを先に渡しちまうか」
一同「おう!」
オレ「!?!?!?!?」
え、プレゼントって⋯⋯全員って⋯⋯⋯?
ああ、そうか、全員からって事で誰か買っておいたのかな?
でもオレはサプライズにされてたから当然買い出しなんて当たらなかったもんね。
巣山「オレはこれ、新作プロテインでなかなかお薦めだ」
阿部「サンキュ!後でオレの余ってるプロテインやるよ」
巣山「いや、気にしないでくれ。誕生日プレゼントだし」
田島「オレはエロ本な!おさがりだけど!」
花井「バカ!しまえ!」
田島「え~なんでだよ~」
阿部「田島、気持ちだけ貰っとく。オレ、妄⋯想像派だから」
田島「なんだそっか。なら仕方ないな!」
泉 「オレはタオル。ここの刺繍は浜田がしたから一応合作プレゼントね」
浜田「合作っつーかお前は家からタオル持ってきただけだろーが」
泉 「アイデア出したのはオレだからいいの」
え、待って待って待って。
なんで個々に出してんの⋯?
これって⋯⋯⋯え⋯⋯⋯あれ⋯⋯⋯
栄口「⋯⋯⋯これで、あとは水谷かな?」
オレ「!!⋯⋯や、えっと⋯⋯オレは⋯⋯」
栄口「?」
田島「あ、さては忘れてきたのか?」
オレ「ウン、忘れてきた⋯⋯っていうか⋯⋯その⋯⋯オレだけサプライズだったし⋯」
泉 「でもパーティはサプライズでも誕生日は決まってる日だろ?」
オレ「!!あ、あ~⋯⋯そ、そうねェ⋯⋯」
ヒーそうくるの!?さすが小粒で辛口⋯!
ていうかなに?みんな普通に阿部の誕生日覚えてたわけ!?パーティ抜きでも??
その時、ポンと肩に何かが触れた。
いや⋯ポン、っていうか⋯⋯精神的にはズシン⋯というか⋯⋯
阿部「⋯⋯水谷、」
オレ「⋯⋯⋯あ、あべくん⋯⋯なにか、ナ⋯?」
阿部「気にすんな」
オレ「⋯あ、あべ⋯⋯!!」
なんだよ~!阿部ってばいいとこあるじゃん⋯!
そうだよねー今日の阿部は幸せ一杯だもんね。三橋に歌ってもらったしね。
ならオレ1人くらい目こぼしてくれていいよね。
阿部「お前の分のケーキと飯で構わないぜ」
⋯⋯⋯⋯え?
今、あべさん、なんて⋯⋯⋯?
阿部「そして、それはオレではなくオレのステディ⋯おっと言い間違えた、バッテリーの相手である、三橋にやってくれ」
⋯⋯⋯⋯え、え⋯っ!?
そ、それって今、目の前にあるこのごちそうの事!?
オレの分を?三橋に??
確実に残らないじゃん⋯⋯!!(泣)
阿部「どうだ?名案だろ?お前は罪滅ぼしになり、⋯⋯そして三橋の腹は満足するって寸法だ」
三橋「あ、ありがとう⋯!⋯⋯タカヤくん⋯!!」
ちょっとちょっとー!
なんで今度はスラっと言えてんの「タカヤくん」って⋯!
こわい⋯!この子の食欲恐い!!
阿部「気にすんな⋯⋯⋯廉!(ビシィッ)」
速攻調子こいた-!(白目)
う、うん⋯⋯もういいや⋯⋯⋯なんか違うものでお腹一杯っていうか⋯⋯
今にもなんか出そうっていうか⋯⋯
ああ⋯⋯それにしても⋯⋯⋯
みんな覚えてるか、な⋯⋯⋯?
来月は⋯⋯来月の4日はオレの誕生日ですけど⋯⋯⋯
⋯⋯⋯もしかして⋯⋯野球部ってその日⋯休みか、な⋯⋯⋯
西浦サミットinクラブ七組
前の日記から気付けば一週間以上の日数が⋯
日々吐き出したい哀しみは溜まって行くんだけど、なんせ朝5時から夜9時までの練習で疲れ果ててるんだよね~。
あ、オレの側頭部の微クレーターはなんとかなりそうです⋯うう⋯(泣)
花井に帽子を借りっぱなのも悪いから、自前の帽子をかぶったり女子に貰ったピンで留めたり⋯涙ぐましい努力は続けてるけどさ~⋯アイツほんと加減てモンを知らないからな⋯。
そんな阿部が今日も加減知らずの大暴走をしてみせた。
あれは昼休みの恒例部長・副部長会議の時の事⋯。
日頃から部長の花井と可愛く無い方の副部長の阿部が揃っている七組は、昼休みミーティングの場になりやすい。
そんな時、やっさしい方の副部長の栄口は1組からおべんと抱えてやってくる訳だ。
今日も昼休みになって5分ばかりが過ぎた頃、七組の後ろの扉のところに季節外れのヒマワリの花が⋯v⋯と思ったら栄口だった。
なーんだ見間違いかー(照)
栄口「悪い、遅れた」
オレ「ううん~vv全然だよ~vvv」
オレはさ、この時ばかりは常に感謝してるよ。
花井が部長だったことと、栄口を副部長に選んでくれたことにさ⋯(悦)
阿部「なんでテメェが答えてんだよ、関係ねぇだろうが」
でもいつだって阿部を副部長に選んだ事はちょっと怨⋯⋯ううん、なんでもない(弱)
オレ「うっ⋯いいだろー別に!⋯だって実際まだ昼休みになって5分⋯」
阿部「栄口、始めるぞ!」
栄口「うん⋯⋯えーと、今日ずいぶん混んでるなぁ」
気付くとオレらの席のとこまできた栄口が困ったようにまわりを見渡している。
普段ならその辺の奴がよそのクラスに行ったりで、1個か2個は椅子が空いてるのに、今日はこの辺りはどれも埋まってたみたいだった。
花井「うーん⋯空き椅子無かったか。ここからだと理科室が近いから丸椅子でも持ってくるか?」
栄口「いや、そのうち空くかもだからいいよ」
そんな⋯!栄口を立ちんぼにさせておくなんて出来ないよ!
花井「でもそれじゃ飯食えないだろ」
そうそう、流石キャプテン花井!
阿部「大丈夫だろ、サンドイッチなんて立ってても食えるぜ」
あ、阿部!?お前ってどうしてそう血も涙も無いんだ!?
はるばる1組から来た栄口に立ち食いさせようなんて⋯!
いくらサンドイッチでも⋯⋯って、え?栄口の弁当⋯まだ包みに入ってんのに、なんで中が分かるんだ??それにあの形って普通の弁当箱っぽいんだけど⋯⋯え⋯⋯⋯あれ⋯⋯?
阿部「おら、さっさと立てよ、水谷」
オレかよ!!
栄口「ちょっと阿部⋯!水谷、オレいいから」
阿部「何言ってんだよ、話し合いが進まねえだろ」
栄口「だからって何で水谷を立たせるんだよ」
阿部「会議に関係ないし、コイツ」
栄口「だからって水谷の席なのに⋯」
阿部・花井「「いや、別にここ水谷の席じゃねえし」」
栄口「⋯⋯⋯⋯え?」
⋯⋯⋯くそう⋯痛いところを⋯⋯
栄口「ココ⋯⋯水谷の席じゃないの?」
ええそうですよ⋯
ここは3分でパンをかき込んで、今は体育館にバスケをしにいってる三井君の席です⋯。
この前までオレは恐怖の阿部の前の席だったけど⋯今週明けての席替えで、なんでかオレだけ二人から離れた席になったんだよね⋯
花井「ま、こうなったら仕方ないな」
阿部「ったく毎回関係ねえのにはまり込もうとしてウゼエんだよ。とっととテメェの席に戻れ、あの特等席に」
うっさい阿部!
うう⋯一人で飯食えってのかよ~⋯淋しいよー
しかもあんな教卓の真ん前⋯(泣)
でも理科室の丸椅子ならともかく、このふつうサイズの椅子をギュウギュウの机の間の通路にもってきて座るのもきついしなぁ⋯
それになによりこれ以上栄口を立たせておくなんてできないし。
オレ「ごめんね~⋯自分のとこ戻るね~⋯」
栄口「こっちこそごめんな、早めに打ち合わせ終わらせて明けるから」
オレ「んーん、気にしないで~」
ていうか栄口が帰ったら、オレわざわざこっちの席に来る理由ないし。
トボトボと教卓前の席へと戻って腰を下ろした途端、七組の前の扉のところにゴジラが⋯!⋯と思ったら田島(オプション三橋)だった。
な、なーんだ見間違いかー(震)
田島「はないー!メシ食ったか!?」
花井「⋯⋯田島⋯⋯メシも会議もこれからだから⋯」
田島「やりー!これからならつまみ放題~」
花井「あっ、バッ⋯!それメインの空揚げ⋯!」
どうやら今日も早弁で弁当終了らしい田島が、それこそ椅子いらずでつまみ食いを開始している。
花井、お気の毒⋯
しかしオプションの方はしっかり弁当箱を抱えていた。
阿部「三橋、昼まだ食って無いのか?」
三橋「う⋯、ウヒ、」
阿部「さっさと食わねえと昼休み終わるぞ」
三橋「食べる!⋯よ、」
阿部「つってもココ、席がな⋯。⋯⋯⋯仕方ねえ、」
おいおいおいおい、『仕方ねぇ』って何!?
さっきそんな単語出なかったよ、ねえ?なんでオレの時には仕方なく無いの!?
何で今は出る妥協案がさっきは出ない訳、ねえ?答えてよ阿部ー!!
阿部「ほら、ここ座れ、三橋」
オレ「ブハッ!」
あ、あべ!?!?!
その時オレには遠くからでもはっきり見えた⋯分かったしまった⋯
椅子を軽く引いて机から半分身体を出した阿部が⋯「ここに座れ」と言いながら自分の膝を叩くのが⋯
な、なにそれ⋯!ギャグだよね?ネタだよね!?
でもそれって三橋に通用するの!?
三橋「えっ⋯で、でも⋯」
阿部「でもじゃねえよ、このままじゃオレもお前も弁当が食えないだろ。部活に差し支えるぞ」
三橋「ぶっ⋯部活、は⋯ちゃんと⋯⋯!ゲンミツに⋯⋯」
阿部「だろ?じゃ取りあえずここ座ってメシ食おうぜ(サムズアップ)」
なにあの笑顔⋯!なにあの親指⋯⋯!!(鳥肌)
本気だぜ⋯阿部はヤバいくらい本気だぜ⋯!
三橋「で、も⋯オレ、重い⋯」
阿部「バカ、お前一人支えられなくて他校の3年生ブロックできっかよ」
三橋「⋯⋯⋯⋯!!」
阿部「そこで思い出して青ざめてる暇あったら座れって。⋯⋯平気だって言ってんだろ?オレは3年間ケガも病気もしねえよ」
三橋「あ、べくん⋯!(感激)」
阿部「さ⋯、こいよ、三橋」
三橋「⋯⋯うんっ⋯!」
頷いちゃったー!!(震)
う、わ⋯まじで座って⋯⋯⋯ウワァ⋯⋯⋯
え~⋯⋯⋯ていうか、さ⋯⋯
周りの反応コエ~と思ったら、昼休みの教室なんてあちこち勝手に騒いでてけっこ見てやしねえしさ⋯⋯
花井は花井で田島から弁当守るのに必死だしさ⋯
⋯⋯⋯ていうか栄口ーー!!(焦)
ヒィ⋯!可哀相⋯!あの異常空間に超隣接⋯!
特等席で見せられてるよ⋯!あんまりだ!
三橋「あ、の⋯阿部君⋯」
阿部「なんだ⋯三橋⋯?(陶酔)」
三橋「⋯⋯⋯ゴハン⋯、」
阿部「ああ、さっさと食えよ。三橋は食べるのが遅いからなァ」
三橋「⋯⋯阿部君、は⋯?」
そうだよ⋯阿部、お前一体どうやって飯食う気だよ⋯
膝に三橋を乗せただけじゃ飽き足らず、そんな腰にガッチリ両手回してたら、たとえサンドイッチだって食えないぜ!?
三橋「それ、じゃ⋯⋯阿部君、食べれない、よ⋯?」
ほら、流石の三橋だって異常さに気付いてるじゃん。
ほんと早く目を覚まして⋯!栄口がお腹を壊す前に⋯!
阿部「そうだな⋯⋯じゃこうするぞ」
どうするってんだよ、でも多分どうしたって今より酷くはならねーよ!
阿部「お前が、そこにあるオレの弁当の中味をオレに食わせてくれ」
すいません、オレが甘過ぎましたァァァァ!!(土下座)
信じられない⋯!なにその恐い発想力⋯!
どうしてそんな恐い作戦、平気で選ぶの!?
バスターコールです!今、西浦高校1年7組に恐怖のバスターコールが⋯!!
こりゃいくらなんでも三橋だって⋯
三橋「⋯うんっ、⋯⋯阿部君、どれ⋯食べる?」
⋯やっちゃうんだ⋯⋯!(白目)
阿部「まずは卵焼きだな」
三橋「ウ、ウヒッ」
阿部「こぼすなよ」
三橋「だ、いじょ⋯ぶ」
う、あ⋯⋯恐⋯!
恐いのに目が放せな⋯⋯!
三橋「⋯⋯あべ、くん⋯次は⋯?」
阿部「うーん、次は⋯⋯たこさんウインナだ」
あ、阿部が⋯!
阿部が『たこさんウインナ』って⋯⋯!!(鳥肌)
ギャーーーー!!いやだあああ!
誰かとって!オレの耳から今聞こえちゃった声取ってェェェ!!!!
もうだめ、流石にあまりの恐怖映像に視線をバリっと剥がして机に突っ伏しちゃったよ。
なにあの恐ろしさ⋯
なにあの視覚と聴覚への暴力⋯!
もしかして新しいイジメ!?(注:三橋ではなくオレへの)
ホントあり得ないから⋯!
真っ昼間の教室でありえないから⋯!
だからって二人きりでやるのもどうかって話だけどさ、でも二人きりなら周りに害ないし?それにまあ⋯そういうのは二人の自由だから、さ⋯
オ、オレだってさ⋯⋯
もし⋯⋯もしもだけど⋯⋯その⋯⋯オレの好きな子と二人きりでさ⋯
オレの膝にさか⋯おっと、好きな子を乗っけて⋯⋯おべんと食べさせて貰ったりなんかしたら⋯⋯(ぽや~ん)
『ハイ、あ~んv⋯ほら、こぼすなよ、水谷』
なんて言われちゃったりしたらさ⋯⋯(ぽやや~ん)
「⋯⋯ずたに、水谷⋯、」
う、うわあ⋯⋯それ⋯いいなぁ⋯⋯
や、もちろん二人きりでって話だよ!?
「⋯ね、水谷ってば⋯、」
オレ「んっとねー、オレ次はうさぎのりんご~」
栄口「は?」
オレ「!うわ、栄口!?どうしたの!?」
栄口「どうしたって⋯お前こそなんかボンヤリしてるけど大丈夫?」
オレ「ア、アハハ!全然大丈夫~」
ヤ、ヤッベ~!
オレ今とんでもない白昼夢に突っ込みかけてたよ⋯!
それもこれも阿部がキモい事した所為で⋯⋯
あ、あれ⋯ていうか栄口、どうしてここに⋯?(ドキ⋯)
まさか⋯阿部達になんか触発されちゃった⋯?(ドッキンドッキン)
栄口「⋯⋯あのさ、水谷⋯⋯あっちの席、使って?」
オレ「え⋯⋯で、でもそしたら栄口、座るとこがなくて⋯」
でもってオレの膝に座るしか無くなっちゃうけど⋯⋯?
い、いいの?そんな⋯オレ達にはまだ早くない!?
栄口「⋯⋯いいよ、オレもう腹、限界だから⋯⋯」
オレ「⋯⋯⋯⋯⋯あ、」
どうやら阿部の暴挙に、栄口の繊細な腹はあっという間にリミットブレイクを迎えたらしい⋯⋯
近くの席どころか⋯栄口が7組にいる昼休みすら味わい損ねちゃったじゃないかよ、阿部⋯!(怨)
挙句オレにまで変な白昼夢を見させてバカバカ!
⋯って、ちょっと自業自得って奴⋯?
うわ、考えたくなーい⋯忘れよう。
今日の事は(事も?)忘れよう⋯⋯
日々吐き出したい哀しみは溜まって行くんだけど、なんせ朝5時から夜9時までの練習で疲れ果ててるんだよね~。
あ、オレの側頭部の微クレーターはなんとかなりそうです⋯うう⋯(泣)
花井に帽子を借りっぱなのも悪いから、自前の帽子をかぶったり女子に貰ったピンで留めたり⋯涙ぐましい努力は続けてるけどさ~⋯アイツほんと加減てモンを知らないからな⋯。
そんな阿部が今日も加減知らずの大暴走をしてみせた。
あれは昼休みの恒例部長・副部長会議の時の事⋯。
日頃から部長の花井と可愛く無い方の副部長の阿部が揃っている七組は、昼休みミーティングの場になりやすい。
そんな時、やっさしい方の副部長の栄口は1組からおべんと抱えてやってくる訳だ。
今日も昼休みになって5分ばかりが過ぎた頃、七組の後ろの扉のところに季節外れのヒマワリの花が⋯v⋯と思ったら栄口だった。
なーんだ見間違いかー(照)
栄口「悪い、遅れた」
オレ「ううん~vv全然だよ~vvv」
オレはさ、この時ばかりは常に感謝してるよ。
花井が部長だったことと、栄口を副部長に選んでくれたことにさ⋯(悦)
阿部「なんでテメェが答えてんだよ、関係ねぇだろうが」
でもいつだって阿部を副部長に選んだ事はちょっと怨⋯⋯ううん、なんでもない(弱)
オレ「うっ⋯いいだろー別に!⋯だって実際まだ昼休みになって5分⋯」
阿部「栄口、始めるぞ!」
栄口「うん⋯⋯えーと、今日ずいぶん混んでるなぁ」
気付くとオレらの席のとこまできた栄口が困ったようにまわりを見渡している。
普段ならその辺の奴がよそのクラスに行ったりで、1個か2個は椅子が空いてるのに、今日はこの辺りはどれも埋まってたみたいだった。
花井「うーん⋯空き椅子無かったか。ここからだと理科室が近いから丸椅子でも持ってくるか?」
栄口「いや、そのうち空くかもだからいいよ」
そんな⋯!栄口を立ちんぼにさせておくなんて出来ないよ!
花井「でもそれじゃ飯食えないだろ」
そうそう、流石キャプテン花井!
阿部「大丈夫だろ、サンドイッチなんて立ってても食えるぜ」
あ、阿部!?お前ってどうしてそう血も涙も無いんだ!?
はるばる1組から来た栄口に立ち食いさせようなんて⋯!
いくらサンドイッチでも⋯⋯って、え?栄口の弁当⋯まだ包みに入ってんのに、なんで中が分かるんだ??それにあの形って普通の弁当箱っぽいんだけど⋯⋯え⋯⋯⋯あれ⋯⋯?
阿部「おら、さっさと立てよ、水谷」
オレかよ!!
栄口「ちょっと阿部⋯!水谷、オレいいから」
阿部「何言ってんだよ、話し合いが進まねえだろ」
栄口「だからって何で水谷を立たせるんだよ」
阿部「会議に関係ないし、コイツ」
栄口「だからって水谷の席なのに⋯」
阿部・花井「「いや、別にここ水谷の席じゃねえし」」
栄口「⋯⋯⋯⋯え?」
⋯⋯⋯くそう⋯痛いところを⋯⋯
栄口「ココ⋯⋯水谷の席じゃないの?」
ええそうですよ⋯
ここは3分でパンをかき込んで、今は体育館にバスケをしにいってる三井君の席です⋯。
この前までオレは恐怖の阿部の前の席だったけど⋯今週明けての席替えで、なんでかオレだけ二人から離れた席になったんだよね⋯
花井「ま、こうなったら仕方ないな」
阿部「ったく毎回関係ねえのにはまり込もうとしてウゼエんだよ。とっととテメェの席に戻れ、あの特等席に」
うっさい阿部!
うう⋯一人で飯食えってのかよ~⋯淋しいよー
しかもあんな教卓の真ん前⋯(泣)
でも理科室の丸椅子ならともかく、このふつうサイズの椅子をギュウギュウの机の間の通路にもってきて座るのもきついしなぁ⋯
それになによりこれ以上栄口を立たせておくなんてできないし。
オレ「ごめんね~⋯自分のとこ戻るね~⋯」
栄口「こっちこそごめんな、早めに打ち合わせ終わらせて明けるから」
オレ「んーん、気にしないで~」
ていうか栄口が帰ったら、オレわざわざこっちの席に来る理由ないし。
トボトボと教卓前の席へと戻って腰を下ろした途端、七組の前の扉のところにゴジラが⋯!⋯と思ったら田島(オプション三橋)だった。
な、なーんだ見間違いかー(震)
田島「はないー!メシ食ったか!?」
花井「⋯⋯田島⋯⋯メシも会議もこれからだから⋯」
田島「やりー!これからならつまみ放題~」
花井「あっ、バッ⋯!それメインの空揚げ⋯!」
どうやら今日も早弁で弁当終了らしい田島が、それこそ椅子いらずでつまみ食いを開始している。
花井、お気の毒⋯
しかしオプションの方はしっかり弁当箱を抱えていた。
阿部「三橋、昼まだ食って無いのか?」
三橋「う⋯、ウヒ、」
阿部「さっさと食わねえと昼休み終わるぞ」
三橋「食べる!⋯よ、」
阿部「つってもココ、席がな⋯。⋯⋯⋯仕方ねえ、」
おいおいおいおい、『仕方ねぇ』って何!?
さっきそんな単語出なかったよ、ねえ?なんでオレの時には仕方なく無いの!?
何で今は出る妥協案がさっきは出ない訳、ねえ?答えてよ阿部ー!!
阿部「ほら、ここ座れ、三橋」
オレ「ブハッ!」
あ、あべ!?!?!
その時オレには遠くからでもはっきり見えた⋯分かったしまった⋯
椅子を軽く引いて机から半分身体を出した阿部が⋯「ここに座れ」と言いながら自分の膝を叩くのが⋯
な、なにそれ⋯!ギャグだよね?ネタだよね!?
でもそれって三橋に通用するの!?
三橋「えっ⋯で、でも⋯」
阿部「でもじゃねえよ、このままじゃオレもお前も弁当が食えないだろ。部活に差し支えるぞ」
三橋「ぶっ⋯部活、は⋯ちゃんと⋯⋯!ゲンミツに⋯⋯」
阿部「だろ?じゃ取りあえずここ座ってメシ食おうぜ(サムズアップ)」
なにあの笑顔⋯!なにあの親指⋯⋯!!(鳥肌)
本気だぜ⋯阿部はヤバいくらい本気だぜ⋯!
三橋「で、も⋯オレ、重い⋯」
阿部「バカ、お前一人支えられなくて他校の3年生ブロックできっかよ」
三橋「⋯⋯⋯⋯!!」
阿部「そこで思い出して青ざめてる暇あったら座れって。⋯⋯平気だって言ってんだろ?オレは3年間ケガも病気もしねえよ」
三橋「あ、べくん⋯!(感激)」
阿部「さ⋯、こいよ、三橋」
三橋「⋯⋯うんっ⋯!」
頷いちゃったー!!(震)
う、わ⋯まじで座って⋯⋯⋯ウワァ⋯⋯⋯
え~⋯⋯⋯ていうか、さ⋯⋯
周りの反応コエ~と思ったら、昼休みの教室なんてあちこち勝手に騒いでてけっこ見てやしねえしさ⋯⋯
花井は花井で田島から弁当守るのに必死だしさ⋯
⋯⋯⋯ていうか栄口ーー!!(焦)
ヒィ⋯!可哀相⋯!あの異常空間に超隣接⋯!
特等席で見せられてるよ⋯!あんまりだ!
三橋「あ、の⋯阿部君⋯」
阿部「なんだ⋯三橋⋯?(陶酔)」
三橋「⋯⋯⋯ゴハン⋯、」
阿部「ああ、さっさと食えよ。三橋は食べるのが遅いからなァ」
三橋「⋯⋯阿部君、は⋯?」
そうだよ⋯阿部、お前一体どうやって飯食う気だよ⋯
膝に三橋を乗せただけじゃ飽き足らず、そんな腰にガッチリ両手回してたら、たとえサンドイッチだって食えないぜ!?
三橋「それ、じゃ⋯⋯阿部君、食べれない、よ⋯?」
ほら、流石の三橋だって異常さに気付いてるじゃん。
ほんと早く目を覚まして⋯!栄口がお腹を壊す前に⋯!
阿部「そうだな⋯⋯じゃこうするぞ」
どうするってんだよ、でも多分どうしたって今より酷くはならねーよ!
阿部「お前が、そこにあるオレの弁当の中味をオレに食わせてくれ」
すいません、オレが甘過ぎましたァァァァ!!(土下座)
信じられない⋯!なにその恐い発想力⋯!
どうしてそんな恐い作戦、平気で選ぶの!?
バスターコールです!今、西浦高校1年7組に恐怖のバスターコールが⋯!!
こりゃいくらなんでも三橋だって⋯
三橋「⋯うんっ、⋯⋯阿部君、どれ⋯食べる?」
⋯やっちゃうんだ⋯⋯!(白目)
阿部「まずは卵焼きだな」
三橋「ウ、ウヒッ」
阿部「こぼすなよ」
三橋「だ、いじょ⋯ぶ」
う、あ⋯⋯恐⋯!
恐いのに目が放せな⋯⋯!
三橋「⋯⋯あべ、くん⋯次は⋯?」
阿部「うーん、次は⋯⋯たこさんウインナだ」
あ、阿部が⋯!
阿部が『たこさんウインナ』って⋯⋯!!(鳥肌)
ギャーーーー!!いやだあああ!
誰かとって!オレの耳から今聞こえちゃった声取ってェェェ!!!!
もうだめ、流石にあまりの恐怖映像に視線をバリっと剥がして机に突っ伏しちゃったよ。
なにあの恐ろしさ⋯
なにあの視覚と聴覚への暴力⋯!
もしかして新しいイジメ!?(注:三橋ではなくオレへの)
ホントあり得ないから⋯!
真っ昼間の教室でありえないから⋯!
だからって二人きりでやるのもどうかって話だけどさ、でも二人きりなら周りに害ないし?それにまあ⋯そういうのは二人の自由だから、さ⋯
オ、オレだってさ⋯⋯
もし⋯⋯もしもだけど⋯⋯その⋯⋯オレの好きな子と二人きりでさ⋯
オレの膝にさか⋯おっと、好きな子を乗っけて⋯⋯おべんと食べさせて貰ったりなんかしたら⋯⋯(ぽや~ん)
『ハイ、あ~んv⋯ほら、こぼすなよ、水谷』
なんて言われちゃったりしたらさ⋯⋯(ぽやや~ん)
「⋯⋯ずたに、水谷⋯、」
う、うわあ⋯⋯それ⋯いいなぁ⋯⋯
や、もちろん二人きりでって話だよ!?
「⋯ね、水谷ってば⋯、」
オレ「んっとねー、オレ次はうさぎのりんご~」
栄口「は?」
オレ「!うわ、栄口!?どうしたの!?」
栄口「どうしたって⋯お前こそなんかボンヤリしてるけど大丈夫?」
オレ「ア、アハハ!全然大丈夫~」
ヤ、ヤッベ~!
オレ今とんでもない白昼夢に突っ込みかけてたよ⋯!
それもこれも阿部がキモい事した所為で⋯⋯
あ、あれ⋯ていうか栄口、どうしてここに⋯?(ドキ⋯)
まさか⋯阿部達になんか触発されちゃった⋯?(ドッキンドッキン)
栄口「⋯⋯あのさ、水谷⋯⋯あっちの席、使って?」
オレ「え⋯⋯で、でもそしたら栄口、座るとこがなくて⋯」
でもってオレの膝に座るしか無くなっちゃうけど⋯⋯?
い、いいの?そんな⋯オレ達にはまだ早くない!?
栄口「⋯⋯いいよ、オレもう腹、限界だから⋯⋯」
オレ「⋯⋯⋯⋯⋯あ、」
どうやら阿部の暴挙に、栄口の繊細な腹はあっという間にリミットブレイクを迎えたらしい⋯⋯
近くの席どころか⋯栄口が7組にいる昼休みすら味わい損ねちゃったじゃないかよ、阿部⋯!(怨)
挙句オレにまで変な白昼夢を見させてバカバカ!
⋯って、ちょっと自業自得って奴⋯?
うわ、考えたくなーい⋯忘れよう。
今日の事は(事も?)忘れよう⋯⋯
髪は長い友達って?
あれは今日の2時間め休み(普通のより5分長い)の事だった⋯
我ら西浦野球部の⋯可愛く無い方の副部長殿は大変お疲れだったようで⋯机に突っ伏して完全ではないけど半分寝てるみたいに過してた。
黙ってれば何もされないんだし、オレだってけしてちょっかい出す気なんて無かったんだ。
でもシャー芯切れちゃっててさ~⋯
しかも次の英語の宿題終わって無くてさー⋯
仕方ないから後ろの席の阿部を振り返ってペンケースをそおっと持ち上げて、
オレ「シャー芯、借りま~す⋯」
と2本失敬(いや返せってんなら今度買って返すよ?)したんだよね。
でもってそのまま向きを戻そうとしたんだけど、そこで起きかけた阿部がちょこっと動いたんだ。
オレ「!」
阿部「⋯⋯⋯ぅう⋯」
でもまだ起きる気にはならなかったみたいでうつぶせたまんまで。
そしたらさ~⋯⋯目に入っちゃったんだよね~⋯
これオレすっごい気になるの。昔からオヤジの探して抜いてあげるのオレの仕事だったんだもん。
オレ「あべべ~、若白髪あるよ~、抜いていい?抜いた方がいいよね?抜いてあげるね~」
誓って言うよ。これ、オレの親切心です。
それにそこで阿部もほぼ起きてたんだよ?
「んあ⋯?白髪~⋯?」って返事聞こえたもん。
でも「やめろ」って言わなかったもん!
オレ「いっきまーす⋯(ぷちぷち)」
阿部「ってェッ!!!」
オレ「!?」
なのにオレが若白髪を抜くなり、阿部は派手なリアクションで飛び起きた。
え、え⋯一体なんで⋯
阿部「⋯⋯水谷⋯テメェ今何した⋯」
オレ「え、え、阿部返事したじゃん!『若白髪抜いてあげるよ』っていったら『んー』って⋯!」
阿部「白髪だァ⋯?」
オレ「そうだよ!目立つんだから~!ちゃんとこやって⋯⋯」
と、さっき抜いて握ったまま、突然の事にびっくりして避けていた右手をズイッと差し出した、⋯⋯んだけど⋯⋯
阿部「オイ、お前確か『若白髪』抜いたっつったな⋯」
オレ「⋯⋯⋯⋯ハイ⋯」
阿部「お前が握ってるソレなんだ?」
オレ「あべの若白髪⋯⋯1本⋯⋯」
阿部「と?」
オレ「⋯⋯⋯えと⋯⋯⋯その⋯周辺⋯にあった⋯⋯⋯黒い、の⋯⋯5本⋯かな⋯?」
お、おっかしいな~??
ちゃんと握ったつもりだったのに⋯!
阿部怒って⋯⋯と思ったら⋯え?なにそのキモい笑顔⋯
阿部「水谷(ニィッ)」
オレ「はぁい⋯(びくびくニコニコ)」
阿部「白髪、抜いてくれてサンキュ」
オレ「い、いや⋯どいたまして⋯」
阿部「ところでな、お前もここに若白髪あるの気付いてたか?」
オレ「え、どこどこ!?」
慌てて自分の机の方に向き直って鞄から鏡を取り出す。
頭を映しつつわしゃわしゃ髪をかき分けようとしたら、いくらも弄らないうちにそれが見つかった。
オレ「うわ、ホントだァ~」
けっこ抜きにくそうな側頭部だったけど、これをそのまま生やしてる訳に行かない。
掴めるかな~?と思った時に、ふと覗き込んでいた鏡に人陰がよぎった。
オレのすぐ真後ろ。
阿部だ⋯!
阿部と鏡越しのアイコンタクト。うぇーキモ。
しかもますますいい笑顔。
え、何なの⋯?その笑み一体⋯?と思っていたら⋯
阿部「水谷ィ⋯若白髪抜いてやるぜ?1オレは基本、3倍返しだからな」
オレ「!!!!!!!」
でも既に伸びてきた手に頭を押さえられてるオレに逃げ場は無く⋯
阿部「いくぜ⋯オラ!」
オレ「いった~~~~~い!!(泣)」
阿部さ⋯そんな奥ゆかしいサバ読みやめろよな⋯
どこが3倍返しだよ。
くっきり30倍返しじゃん!!
見兼ねた花井が帽子を貸してくれた。
え⋯そんなに⋯?とちょっと哀しくなったのは花井には秘密だ。
うう⋯⋯ちゃんと生えてきますように⋯!
我ら西浦野球部の⋯可愛く無い方の副部長殿は大変お疲れだったようで⋯机に突っ伏して完全ではないけど半分寝てるみたいに過してた。
黙ってれば何もされないんだし、オレだってけしてちょっかい出す気なんて無かったんだ。
でもシャー芯切れちゃっててさ~⋯
しかも次の英語の宿題終わって無くてさー⋯
仕方ないから後ろの席の阿部を振り返ってペンケースをそおっと持ち上げて、
オレ「シャー芯、借りま~す⋯」
と2本失敬(いや返せってんなら今度買って返すよ?)したんだよね。
でもってそのまま向きを戻そうとしたんだけど、そこで起きかけた阿部がちょこっと動いたんだ。
オレ「!」
阿部「⋯⋯⋯ぅう⋯」
でもまだ起きる気にはならなかったみたいでうつぶせたまんまで。
そしたらさ~⋯⋯目に入っちゃったんだよね~⋯
これオレすっごい気になるの。昔からオヤジの探して抜いてあげるのオレの仕事だったんだもん。
オレ「あべべ~、若白髪あるよ~、抜いていい?抜いた方がいいよね?抜いてあげるね~」
誓って言うよ。これ、オレの親切心です。
それにそこで阿部もほぼ起きてたんだよ?
「んあ⋯?白髪~⋯?」って返事聞こえたもん。
でも「やめろ」って言わなかったもん!
オレ「いっきまーす⋯(ぷちぷち)」
阿部「ってェッ!!!」
オレ「!?」
なのにオレが若白髪を抜くなり、阿部は派手なリアクションで飛び起きた。
え、え⋯一体なんで⋯
阿部「⋯⋯水谷⋯テメェ今何した⋯」
オレ「え、え、阿部返事したじゃん!『若白髪抜いてあげるよ』っていったら『んー』って⋯!」
阿部「白髪だァ⋯?」
オレ「そうだよ!目立つんだから~!ちゃんとこやって⋯⋯」
と、さっき抜いて握ったまま、突然の事にびっくりして避けていた右手をズイッと差し出した、⋯⋯んだけど⋯⋯
阿部「オイ、お前確か『若白髪』抜いたっつったな⋯」
オレ「⋯⋯⋯⋯ハイ⋯」
阿部「お前が握ってるソレなんだ?」
オレ「あべの若白髪⋯⋯1本⋯⋯」
阿部「と?」
オレ「⋯⋯⋯えと⋯⋯⋯その⋯周辺⋯にあった⋯⋯⋯黒い、の⋯⋯5本⋯かな⋯?」
お、おっかしいな~??
ちゃんと握ったつもりだったのに⋯!
阿部怒って⋯⋯と思ったら⋯え?なにそのキモい笑顔⋯
阿部「水谷(ニィッ)」
オレ「はぁい⋯(びくびくニコニコ)」
阿部「白髪、抜いてくれてサンキュ」
オレ「い、いや⋯どいたまして⋯」
阿部「ところでな、お前もここに若白髪あるの気付いてたか?」
オレ「え、どこどこ!?」
慌てて自分の机の方に向き直って鞄から鏡を取り出す。
頭を映しつつわしゃわしゃ髪をかき分けようとしたら、いくらも弄らないうちにそれが見つかった。
オレ「うわ、ホントだァ~」
けっこ抜きにくそうな側頭部だったけど、これをそのまま生やしてる訳に行かない。
掴めるかな~?と思った時に、ふと覗き込んでいた鏡に人陰がよぎった。
オレのすぐ真後ろ。
阿部だ⋯!
阿部と鏡越しのアイコンタクト。うぇーキモ。
しかもますますいい笑顔。
え、何なの⋯?その笑み一体⋯?と思っていたら⋯
阿部「水谷ィ⋯若白髪抜いてやるぜ?1オレは基本、3倍返しだからな」
オレ「!!!!!!!」
でも既に伸びてきた手に頭を押さえられてるオレに逃げ場は無く⋯
阿部「いくぜ⋯オラ!」
オレ「いった~~~~~い!!(泣)」
阿部さ⋯そんな奥ゆかしいサバ読みやめろよな⋯
どこが3倍返しだよ。
くっきり30倍返しじゃん!!
見兼ねた花井が帽子を貸してくれた。
え⋯そんなに⋯?とちょっと哀しくなったのは花井には秘密だ。
うう⋯⋯ちゃんと生えてきますように⋯!
足りてると言ってくれ
じゃぶじゃぶじゃぶと、夜中にこっそり洗面台で洗い物をする。
でもこれはけしてパンツとかパジャマのズボンとかシーツとかではない。
田島ほどじゃないだろうけど、夢で粗相をするほどためない主義です。
でもこんなもの⋯母さんに見られるワケにも⋯⋯
こんな事になったのも⋯元はと言えば⋯⋯(泣)
今日の部活の時に、モモカンが全員を集めてこう切り出した。
モモカン「さて、うちもだいぶチームとして形になってきたけど、勝ち上がるためにはまだ足りないものがあるよね。 まず、何が欲しい?」
こうしてモモカンが聞いてくるってのは、オレ達に欲しいモンの希望を聞いてるんじゃなく、何が足りないのか分かってる?って尋ねてきてるんだってことくらい、オレにも分かる。
あれこれ騒がなかったとこ見ると田島にだって分かってんだろう。
それでも咄嗟には言葉がでなくて、みんながまだ黙っていると⋯⋯アイツがすっと手を上げた。
モモカン「ハイ、阿部君!」
名を呼ばれて、みんなが注目する中⋯⋯阿部の言った台詞は⋯⋯
阿部「もう一人レフトが欲しい!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え⋯⋯?
レフト⋯⋯⋯レフトはいます、けど⋯⋯?
ていうか⋯「もう一人」ってことは、いるのは分かってんだよな⋯?
え、でも⋯⋯なんで「もう一人」⋯⋯??
阿部「レフトが水谷一人でこの先どうすんだ!」
プロや強豪校じゃないんだから⋯まして部員は全部で10人⋯⋯レフトが一人なのは当たり前だと思うんだけ、ど⋯
ていうか他のポジションも全部一人じゃないの??
阿部「今週から練習試合組んでんだぞ」
や⋯あの⋯そりゃオレもそんなスタミナ抜群のタフガイとはいいませんが⋯でも投手じゃないんだから1日2試合くらいもつよ?
阿部「水谷をレフトにおいて試合をするなら、そこにもう一人いるんだよ!」
オレ「え⋯オレひとりで守れるけど⋯」
阿部「ざっけんなっ!」
ヒィ!!(震)
すくみ上がったオレをタレ目でギロっとねめ回した阿部は、次に全員を見て言った。
阿部「そういうワケだ。西広をガンガン鍛えると同時に、新入部員も募集する。体育の授業で『これは』って奴がいたら声をかけるようにしてくれ」
ちょ、ちょっと待って⋯
オレは体育の授業のヒーロー程度に負ける部員なの!?
奴の台詞から拳が飛び出してきて脳天ボコってきてる気がする⋯クラクラする⋯
田島「篠岡!なんか書くもんかして!」
思わず座り込んだ向こうで、田島が何か騒いでると思ったら、急に背中に激痛が走った。
オレ「~~~~~!!!?*@#$%&☆!」
キューキュッキュという音と共に背中に何かがゴリゴリめり込んでくる。
くすぐったさと痛さとシンナー臭さに更にクラクラしていると、最後に一際ゴリっと何かが背中にめり込む感触と共に田島の満足げな声が聴こえた。
田島「おし!これでどーよ!」
おそるおそるまだ痛みの残る自分の背中を見ると⋯白い練習用ユニフォームに何か黒い字がのた打っている⋯
ボタンを外して一度脱いでみた背中にはでっかい「7」の背番号。
それだけならギリギリ厚意⋯⋯と思えない事もない⋯んだけど⋯⋯
7の数字の下に書かれていたのが、
「西うらのクソレフト、見参!!」
更に追い討ちをかける一言が⋯
田島「その通り名はお前のだからよ!いつもしょっとけ!」
た じ ま ⋯ !(泣)
花井「た、田島⋯!お前な!!」
おお⋯!さすがクラスメート兼キャプテン!
かばってくれるなんて、フミキ感激!(愛)
花井「どうして『見参』がかけて『西浦』の『浦』が書けないんだよ!この先、それこそ背負ってく自分の学校の名前くらいちゃんと漢字で覚えろ!」
は な い ⋯ !!(号泣)
ずれてる⋯ずれてるよ花井⋯⋯!
そんな訳で⋯夜中の洗面所でオレは自分の練習用ユニをじゃぶじゃぶ洗っている⋯⋯
こんな事になったのも、阿部があんな提案をしたからだ⋯!酷いよ阿部!!(泣)
あ~⋯⋯これ油性ペンだよ~⋯⋯
でもこれはけしてパンツとかパジャマのズボンとかシーツとかではない。
田島ほどじゃないだろうけど、夢で粗相をするほどためない主義です。
でもこんなもの⋯母さんに見られるワケにも⋯⋯
こんな事になったのも⋯元はと言えば⋯⋯(泣)
今日の部活の時に、モモカンが全員を集めてこう切り出した。
モモカン「さて、うちもだいぶチームとして形になってきたけど、勝ち上がるためにはまだ足りないものがあるよね。 まず、何が欲しい?」
こうしてモモカンが聞いてくるってのは、オレ達に欲しいモンの希望を聞いてるんじゃなく、何が足りないのか分かってる?って尋ねてきてるんだってことくらい、オレにも分かる。
あれこれ騒がなかったとこ見ると田島にだって分かってんだろう。
それでも咄嗟には言葉がでなくて、みんながまだ黙っていると⋯⋯アイツがすっと手を上げた。
モモカン「ハイ、阿部君!」
名を呼ばれて、みんなが注目する中⋯⋯阿部の言った台詞は⋯⋯
阿部「もう一人レフトが欲しい!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え⋯⋯?
レフト⋯⋯⋯レフトはいます、けど⋯⋯?
ていうか⋯「もう一人」ってことは、いるのは分かってんだよな⋯?
え、でも⋯⋯なんで「もう一人」⋯⋯??
阿部「レフトが水谷一人でこの先どうすんだ!」
プロや強豪校じゃないんだから⋯まして部員は全部で10人⋯⋯レフトが一人なのは当たり前だと思うんだけ、ど⋯
ていうか他のポジションも全部一人じゃないの??
阿部「今週から練習試合組んでんだぞ」
や⋯あの⋯そりゃオレもそんなスタミナ抜群のタフガイとはいいませんが⋯でも投手じゃないんだから1日2試合くらいもつよ?
阿部「水谷をレフトにおいて試合をするなら、そこにもう一人いるんだよ!」
オレ「え⋯オレひとりで守れるけど⋯」
阿部「ざっけんなっ!」
ヒィ!!(震)
すくみ上がったオレをタレ目でギロっとねめ回した阿部は、次に全員を見て言った。
阿部「そういうワケだ。西広をガンガン鍛えると同時に、新入部員も募集する。体育の授業で『これは』って奴がいたら声をかけるようにしてくれ」
ちょ、ちょっと待って⋯
オレは体育の授業のヒーロー程度に負ける部員なの!?
奴の台詞から拳が飛び出してきて脳天ボコってきてる気がする⋯クラクラする⋯
田島「篠岡!なんか書くもんかして!」
思わず座り込んだ向こうで、田島が何か騒いでると思ったら、急に背中に激痛が走った。
オレ「~~~~~!!!?*@#$%&☆!」
キューキュッキュという音と共に背中に何かがゴリゴリめり込んでくる。
くすぐったさと痛さとシンナー臭さに更にクラクラしていると、最後に一際ゴリっと何かが背中にめり込む感触と共に田島の満足げな声が聴こえた。
田島「おし!これでどーよ!」
おそるおそるまだ痛みの残る自分の背中を見ると⋯白い練習用ユニフォームに何か黒い字がのた打っている⋯
ボタンを外して一度脱いでみた背中にはでっかい「7」の背番号。
それだけならギリギリ厚意⋯⋯と思えない事もない⋯んだけど⋯⋯
7の数字の下に書かれていたのが、
「西うらのクソレフト、見参!!」
更に追い討ちをかける一言が⋯
田島「その通り名はお前のだからよ!いつもしょっとけ!」
た じ ま ⋯ !(泣)
花井「た、田島⋯!お前な!!」
おお⋯!さすがクラスメート兼キャプテン!
かばってくれるなんて、フミキ感激!(愛)
花井「どうして『見参』がかけて『西浦』の『浦』が書けないんだよ!この先、それこそ背負ってく自分の学校の名前くらいちゃんと漢字で覚えろ!」
は な い ⋯ !!(号泣)
ずれてる⋯ずれてるよ花井⋯⋯!
そんな訳で⋯夜中の洗面所でオレは自分の練習用ユニをじゃぶじゃぶ洗っている⋯⋯
こんな事になったのも、阿部があんな提案をしたからだ⋯!酷いよ阿部!!(泣)
あ~⋯⋯これ油性ペンだよ~⋯⋯
行かなきゃ良かった?
「どうして、こんなになっちゃったんだろう⋯」
目をつぶれば、必ず浮かんでくるのがこの言葉(泣)
阿部「ホントはあの日⋯完全試合を三橋に経験させられる筈だったんだよ⋯
一体誰がそれを邪魔したんだろうなぁ?分かるか、左翼手?」
オレ「はっ、はいぃぃぃ!すいませぇぇん!!」
三橋の為だけに、くるくる変わる阿部の機嫌⋯
それに振り回され、阿部にジャンピング土下座の日々の哀しいオレ⋯
阿部「3年間、頑張って行こうな!」
入部する時、優しく微笑んだ阿部の顔など、今では思い出すのも困難だ。
モモカンの影響なのか?暴力は増えるわ、暴言は増えるわ、朝から晩までスパルタ特訓の3重苦(涙)
いや、オレだけ八つ当たりまでされるので4重苦だった。
雨の日に置き傘で帰ろうとすれば、
阿部「三橋が濡れるのは嫌なんだよな⋯」
オレ「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい、どうぞ⋯」
傘を方々で無くす三橋の分を問答無用で取り上げられる悲惨な日々。
更に雨が三日続けば
阿部「お前のことさぁ、窓辺に吊るしていい?」
と、真顔で聞くチームメイトがどこにいるのか?(泣)
そんな苦悩と苦痛に満ちた毎日を、迂闊に誰かに見られたくはないけどとにかく吐き出したくて書き始めたのがこの「実録鬼阿部日記」のブログ。
⋯⋯既にこの辺りで何かに引っ掛かりそうで恐くてたまらない⋯
思わずトラックバック拒否してみた⋯
とにかく阿部の三橋への執着とオレへの横暴っぷりは酷い。
この前、うっかりみんなでカラオケに行った時も悲惨だった。
もとはといえば、三橋が友達とカラオケに行った事が無いと知った田島が「なら今から行こうぜー!」と盛り上がり、栄口と花井が賛同したのがきっかけだった。
オレは栄口と出かけられるなら、しかもカラオケなら大歓迎ー!と思ってたんだけど⋯盛り上がる連中を見て仁王立ちでやたら満足げに頷いてる阿部の姿に、不安を感じておくべきだった⋯。
個室に入ると、田島と三橋は早速食い物のメニューに釘付けになっていた。
栄口が注文を取りまとめてあげてて、花井はマイクをフックから外したり歌本を全員に回したりしてて、オレはあれこれやろうにも出遅れてて。
そんな中⋯ためらいもせず速攻リモコンを握る阿部⋯
しかも今考えたらアイツ歌本見ないで曲番入れた⋯
機種なんて行く度に当るの変わるのに、暗記してるの?アイツ⋯(震)
栄口が注文をしてくれてる間に阿部の入力した歌が始まった。
小田○正の「Oh Year」⋯⋯⋯
いや⋯そりゃ名曲だよ?
でもさ⋯部活仲間のみんなで来たカラオケの1曲目から入れる曲か!?
ふつうは最近のはやりモンとかから入ってさ⋯(ドラマの主題歌とかさー)
そのうちウケ狙い系に流れてさ⋯(昔のジャニーズとかウケるんだよねー。姉ちゃんのお陰で詳しいんだけどさ)
でもって好きな子が一緒に来てる時は(実はオレの好きな子もこのメンバーにいるんだけどさ~⋯うわー書いちゃったー!)中盤くらいからこう⋯さりげなくアレな曲を歌ってみたりするのもいいけどさ~!
でも初っ端からそんな勝負歌⋯⋯
しかもアイツ、全然さりげなくない⋯
歌ってる間中、三橋の事をガン見(震)
今考えたらアイツTV画面見ないで歌ってた⋯
歌詞⋯完全に暗記してんの⋯?(震)
そんな阿部に周り中が震えてたのに、当の三橋は阿部に凝視されるのが既に当然の生活になっちゃったもんだから、
三橋「あ、あべくん、うまい、⋯ね!」
なんて顔真っ赤にして拍手しちゃってさ⋯
いやそれはいいんだけど。三橋がオドオドせず楽しそうなのはいいんだけど。
それで歌い終えたアイツの得意絶頂な顔⋯⋯!
こんな常識知らずなカラオケ態度が許されるならオレだって⋯!って思うじゃん。
さか⋯おっと、好きな子に向けて歌っちゃうよって思うじゃん。
とりあえず、それこそドラマの主題歌だし流行りモンのふりして捧げちゃえーって選曲したのにさ⋯
オレ「アイワナビアポッ⋯(ブツッ)」
阿部「あ、悪ィ、間違って演奏解除押したわ」
あんまりだー!!(泣)
オレ、1小節も歌って無いんだけど⋯!
阿部「ガタガタうるせぇな、もう一回入れておけばいいんだろ」
って、お前先に自分の歌う歌入れてんのはどういう⋯?
いやもうこの際1曲や2曲の順番は気にしないけどさ⋯
さ、今度こそ仕切り直しーとマイクを握って画面を見たら⋯
『 大きな古時計 』
堅違いだから⋯!!(白目)
阿部「⋯なんだよ、コイツの歌が良かったんだろ?たいしてかわんねぇじゃねえか」
変わるよ⋯!
大きく変わるよ阿部⋯!!
なんでお前が夜が明けるまでオゥ~イエ~な後に恋が大騒ぎまでしちゃって三橋に猛アピールの中、オレはおおきなのっぽの古時計を朗々と歌い上げないとなんないの?
⋯⋯いや、歌うよ⋯歌うんだけどさ⋯⋯
田島「うおぉ⋯⋯じいちゃーん!!」
やけに歌詞に集中してしまったじいちゃんっ子の田島がまさかの号泣。
可哀相に花井のシャツは田島の涙と鼻水まみれになった。
阿部「ったくお前が変に念込めて歌うからだろ、花井も気の毒に」
え、オレの所為⋯?(震)
挙句、あまりの惨状に
栄口「⋯⋯ごめん、オレちょっと便所⋯」
嘘⋯!
次こそ『POP STAR』入れ直したのに⋯!!(汗)
その後⋯本格的に腹を壊した栄口は先に帰宅⋯
泣き疲れた田島をおぶって花井もリタイア⋯
オレは三橋に捧げる阿部・オンステージの場に独り、取り残されてしまった⋯
ようやく長い長い3時間が終わる、という頃になんと三橋が
三橋「あ、阿部君⋯、オレ、⋯⋯最初に⋯阿部君の歌ったの、⋯もう一度⋯聞き、たい⋯!」
MIHASHIー!!???
なにそれ⋯!
大人しい顔してオマエ⋯!
アレがよかったわけ?よくなっちゃったワケ??
阿部「よし、任せろ⋯三橋!」
⋯⋯⋯阿部の笑顔はもしかして入部の時のそれだったのかもしれない⋯
でもオレの視界はもうなんかハイジ似の天使が一杯飛んでてよく分からなくて⋯
その日、家に帰って風呂に入っても布団に潜っても、耳から阿部の「オ、イエ~⋯(囁)」が離れなかった⋯。
目をつぶれば、必ず浮かんでくるのがこの言葉(泣)
阿部「ホントはあの日⋯完全試合を三橋に経験させられる筈だったんだよ⋯
一体誰がそれを邪魔したんだろうなぁ?分かるか、左翼手?」
オレ「はっ、はいぃぃぃ!すいませぇぇん!!」
三橋の為だけに、くるくる変わる阿部の機嫌⋯
それに振り回され、阿部にジャンピング土下座の日々の哀しいオレ⋯
阿部「3年間、頑張って行こうな!」
入部する時、優しく微笑んだ阿部の顔など、今では思い出すのも困難だ。
モモカンの影響なのか?暴力は増えるわ、暴言は増えるわ、朝から晩までスパルタ特訓の3重苦(涙)
いや、オレだけ八つ当たりまでされるので4重苦だった。
雨の日に置き傘で帰ろうとすれば、
阿部「三橋が濡れるのは嫌なんだよな⋯」
オレ「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい、どうぞ⋯」
傘を方々で無くす三橋の分を問答無用で取り上げられる悲惨な日々。
更に雨が三日続けば
阿部「お前のことさぁ、窓辺に吊るしていい?」
と、真顔で聞くチームメイトがどこにいるのか?(泣)
そんな苦悩と苦痛に満ちた毎日を、迂闊に誰かに見られたくはないけどとにかく吐き出したくて書き始めたのがこの「実録鬼阿部日記」のブログ。
⋯⋯既にこの辺りで何かに引っ掛かりそうで恐くてたまらない⋯
思わずトラックバック拒否してみた⋯
とにかく阿部の三橋への執着とオレへの横暴っぷりは酷い。
この前、うっかりみんなでカラオケに行った時も悲惨だった。
もとはといえば、三橋が友達とカラオケに行った事が無いと知った田島が「なら今から行こうぜー!」と盛り上がり、栄口と花井が賛同したのがきっかけだった。
オレは栄口と出かけられるなら、しかもカラオケなら大歓迎ー!と思ってたんだけど⋯盛り上がる連中を見て仁王立ちでやたら満足げに頷いてる阿部の姿に、不安を感じておくべきだった⋯。
個室に入ると、田島と三橋は早速食い物のメニューに釘付けになっていた。
栄口が注文を取りまとめてあげてて、花井はマイクをフックから外したり歌本を全員に回したりしてて、オレはあれこれやろうにも出遅れてて。
そんな中⋯ためらいもせず速攻リモコンを握る阿部⋯
しかも今考えたらアイツ歌本見ないで曲番入れた⋯
機種なんて行く度に当るの変わるのに、暗記してるの?アイツ⋯(震)
栄口が注文をしてくれてる間に阿部の入力した歌が始まった。
小田○正の「Oh Year」⋯⋯⋯
いや⋯そりゃ名曲だよ?
でもさ⋯部活仲間のみんなで来たカラオケの1曲目から入れる曲か!?
ふつうは最近のはやりモンとかから入ってさ⋯(ドラマの主題歌とかさー)
そのうちウケ狙い系に流れてさ⋯(昔のジャニーズとかウケるんだよねー。姉ちゃんのお陰で詳しいんだけどさ)
でもって好きな子が一緒に来てる時は(実はオレの好きな子もこのメンバーにいるんだけどさ~⋯うわー書いちゃったー!)中盤くらいからこう⋯さりげなくアレな曲を歌ってみたりするのもいいけどさ~!
でも初っ端からそんな勝負歌⋯⋯
しかもアイツ、全然さりげなくない⋯
歌ってる間中、三橋の事をガン見(震)
今考えたらアイツTV画面見ないで歌ってた⋯
歌詞⋯完全に暗記してんの⋯?(震)
そんな阿部に周り中が震えてたのに、当の三橋は阿部に凝視されるのが既に当然の生活になっちゃったもんだから、
三橋「あ、あべくん、うまい、⋯ね!」
なんて顔真っ赤にして拍手しちゃってさ⋯
いやそれはいいんだけど。三橋がオドオドせず楽しそうなのはいいんだけど。
それで歌い終えたアイツの得意絶頂な顔⋯⋯!
こんな常識知らずなカラオケ態度が許されるならオレだって⋯!って思うじゃん。
さか⋯おっと、好きな子に向けて歌っちゃうよって思うじゃん。
とりあえず、それこそドラマの主題歌だし流行りモンのふりして捧げちゃえーって選曲したのにさ⋯
オレ「アイワナビアポッ⋯(ブツッ)」
阿部「あ、悪ィ、間違って演奏解除押したわ」
あんまりだー!!(泣)
オレ、1小節も歌って無いんだけど⋯!
阿部「ガタガタうるせぇな、もう一回入れておけばいいんだろ」
って、お前先に自分の歌う歌入れてんのはどういう⋯?
いやもうこの際1曲や2曲の順番は気にしないけどさ⋯
さ、今度こそ仕切り直しーとマイクを握って画面を見たら⋯
『 大きな古時計 』
堅違いだから⋯!!(白目)
阿部「⋯なんだよ、コイツの歌が良かったんだろ?たいしてかわんねぇじゃねえか」
変わるよ⋯!
大きく変わるよ阿部⋯!!
なんでお前が夜が明けるまでオゥ~イエ~な後に恋が大騒ぎまでしちゃって三橋に猛アピールの中、オレはおおきなのっぽの古時計を朗々と歌い上げないとなんないの?
⋯⋯いや、歌うよ⋯歌うんだけどさ⋯⋯
田島「うおぉ⋯⋯じいちゃーん!!」
やけに歌詞に集中してしまったじいちゃんっ子の田島がまさかの号泣。
可哀相に花井のシャツは田島の涙と鼻水まみれになった。
阿部「ったくお前が変に念込めて歌うからだろ、花井も気の毒に」
え、オレの所為⋯?(震)
挙句、あまりの惨状に
栄口「⋯⋯ごめん、オレちょっと便所⋯」
嘘⋯!
次こそ『POP STAR』入れ直したのに⋯!!(汗)
その後⋯本格的に腹を壊した栄口は先に帰宅⋯
泣き疲れた田島をおぶって花井もリタイア⋯
オレは三橋に捧げる阿部・オンステージの場に独り、取り残されてしまった⋯
ようやく長い長い3時間が終わる、という頃になんと三橋が
三橋「あ、阿部君⋯、オレ、⋯⋯最初に⋯阿部君の歌ったの、⋯もう一度⋯聞き、たい⋯!」
MIHASHIー!!???
なにそれ⋯!
大人しい顔してオマエ⋯!
アレがよかったわけ?よくなっちゃったワケ??
阿部「よし、任せろ⋯三橋!」
⋯⋯⋯阿部の笑顔はもしかして入部の時のそれだったのかもしれない⋯
でもオレの視界はもうなんかハイジ似の天使が一杯飛んでてよく分からなくて⋯
その日、家に帰って風呂に入っても布団に潜っても、耳から阿部の「オ、イエ~⋯(囁)」が離れなかった⋯。
