涙のバースデー | 実録鬼阿部日記

涙のバースデー

ほぼ年中無休の、我らが西浦野球部も流石に年末年始はお休みに入る。
年末は12/31から、年始は1/3まで⋯⋯の予定だったんだけれども、今年はそのお休みの間に学校の水道管がトラブっただかなんだかで、やっぱり3日まで休みだった業者が入るのが4日からしかないので急きょ全部活1/4まで校内立ち入り禁止を言い渡されてしまった。


 1 / 4 に 立 ち 入 り 禁 止 ⋯ !


その知らせに俺は白目を剥いた。
普段ならちょっと不謹慎だけど、「一日お休み伸びたー!ラッキ!」なんてのもアリかもしれない。

でも⋯!でも1/4⋯⋯!!

⋯⋯正直、俺だってちょっと⋯まだちょっと期待してたんだ⋯⋯
先月のあの阿部の誕生日⋯⋯皆でサプライズで準備して(俺だけはポロっと阿部に喋りそうという理由で伏せられてたから、俺にとっても無駄にサプライズな出来事だったんだけど⋯)お祝いしてたよね⋯。
あれを⋯もしかしたら今回も⋯?なんて結構ドキドキして、さ⋯⋯

「部室のドアを開けたらいきなり」編
「部活終了かけ声後にワっと取り囲まれ」編
「部活後にマック行こうぜーから始まる」編

と3つのパターンでのサプライズの場合のお礼の言い方シミュレートをしたりもしてたのに、さ⋯⋯!
⋯⋯⋯仕方ないから、「まだ寝巻き姿のオレの家に皆がワっとやってきた」編(寝巻きだけど髪とかはそこそこ整ってるのが大事!)と、「やけにシリアスな雰囲気の栄口に呼び出されて行ってみたらクラッカーがパパンと鳴ってみんなが一斉に登場」編と、恐ろしいけど「阿部に引きずられて行った三橋家がパーティ会場だった」編の3つにシミュレートを変更したんだよね。

や、やっぱなんでも準備がね⋯!

そりゃ少なくとも2パターン分は無駄になっちゃうんだけどね。備えるって大事じゃん!
なんかシガポもそんな感じの事を言うじゃん!

だから正直言うとこっそりもう1パターン、

「思いつめた表情の栄口が俺の家にやってきて、部屋に上げたけどなんだかずっと黙り込んだままでいて、『えっと、なんか今日元気ないね?』『!⋯⋯そんなこと⋯だって今日は⋯俺の1年で一番大事な日なのに⋯』『えっ⋯でも、栄口の誕生日は6月⋯だよね?』『⋯⋯じ、自分より、大切って⋯⋯思ったらダメ、かな⋯?』え、栄口それって、それって⋯!以下略」編

なんてのもやたら綿密にシミュレートしてたのにさぁ⋯!


現在⋯⋯1/4もそろそろ午後3時⋯⋯
今だにオレの携帯はピクリとも反応しない⋯
親も姉ちゃんも出掛けた家の中はシーンとしていて、集金の一つもきやしない⋯⋯
え⋯⋯晩飯合わせのサプライズ?それならそれで母さんには連絡しておいて貰わないと夕食無駄になっちゃうんだけど⋯その辺はまぁ花井がうまくやってくれそうかなとも思うけどさ。
無駄にマダムキラー疑惑のアイツがいるからさ。

⋯なんて考えてるうちにもう4時じゃん!
こ、これはもしかして⋯⋯
恐れていた通りの展開⋯?
オレが⋯⋯シミュレートはしたくないけど頭の片隅で考えずにいられなかった⋯⋯


誕生日、忘れられてる(覚えられて無い)編⋯?(泣)


でもこれで諦めるなんてできっこない⋯!
たとえ⋯たとえ誕生日を祝って貰えないとしても、この日に会いたい相手はやっぱいるんだし⋯!
ちょっとムナシーけど自分から会いに行ってでも⋯!

そう思ってオレは、大急ぎで家を飛び出した。
とは言えオレの家から栄口の家までは物凄く遠い。
オレん家から学校までの距離の更に倍くらいある。
それでも張り切ってしまったので毎朝の爆走時間の記録を更に縮めちゃったりもしたんだけど⋯⋯栄口の家のすぐ傍まで来てしまってから、オレはにわかに動揺し始めた。

き、来たはいいけどどうしたらいいのかな⋯?
やっぱ流石にオレの方から「祝って!」なんて言⋯えない事もないけどちょっと恥ずかしいし。
時間も遅くなっちゃったから(もう6時近い)移動するのも栄口の家にあがるのもなんか申し訳ないし⋯。
⋯⋯こそっと栄口の家の外から窓眺めて帰ろうかな⋯
え⋯なんかそれってちょっとストー⋯(以下略)
いやいやいや⋯!
違う違う!そんな変態さんみたいなことでなくて!
オレのはなんていうかもっとやるせない、甘酸っぱい感じ?
会いたいけど、でもでも⋯!みたいなもどかしさが成せる技でさ⋯!
決してそんな電気ついたら窓の向こうに姿が透けないかなとか、郵便受け覗いちゃおうかなとかそんな事は思ってないし!

あ~⋯でも会えないんじゃ結局独りよがりだよね⋯
さよならオレの16歳のバースデー⋯
と、くるっと帰る方向へ向き直ったところで、少し前方から待ちわびた声が聞こえてきた。


栄口「あれ?水谷じゃない?」


ささささ栄口ィィィィ!!!!(感涙)

あ、諦めなくてよかった⋯!
来ちゃってよかったぁぁぁ⋯!

神様ありがとう!
誕生日にオレの天使をありがとう!


栄口「こんな時間にどうしたの?⋯あ、どっかの帰り?」

オレ「う、ううん⋯!あのね、オレね⋯」

栄口「あ、わかった。阿部に会いに来た?」

オレ「ちっ、違うよおおおお!(泣)」

栄口「アハハ、リアクション激しいなぁ」

オレ「だってだって⋯そんな休日に阿部に会うなんて⋯そんな恐ろしくて禍々しい事を⋯!」

栄口「水谷ってホント、阿部の事恐れてるねぇ」

オレ「だって恐く無い!?あの横暴さとか、み、三橋へのその⋯色々とか⋯」


ここまではあまり理想的でないなりにそこそこポンポンと言葉が出てきていたんだけど、オレのこの台詞を聞くなり、何故か栄口はフっとサミシそうな表情になってしまった。
え⋯⋯栄口もまさか密かに阿部から横暴な事をされて⋯?
だとしたら許せない⋯!死ぬ気で阿部を倒ぉぉす!(リボーン助けて!死ぬ気弾撃ってェ!)


栄口「阿部と三橋、か⋯⋯」


ええっ、その台詞⋯!?
⋯⋯⋯もしかしてさっきの台詞の後半部分が効いた⋯?
ていうかキちゃった⋯⋯?

も、もしかして⋯⋯阿部が三橋を構うみたいに⋯とか⋯?
オレ、今までちょっと遠慮気味に来てたけど、もっとアクセル踏んでよかった感じ⋯?
栄口もオレの膝にのっかったり皆の前で「文貴v」って呼んでみたりそんなときめきハイスクールライフ求めてた⋯!?
だ、だったらオレ、その夢⋯⋯!!


栄口「ホント、阿部って変わったよなぁ⋯」


⋯⋯⋯ん?
阿部は確かに変わった奴だよ。
変わった⋯っていうかオカシ(略)
あれ、でもちょっと違うね?

「変わってる」じゃなく「変わった」って言ったよね。


栄口「中学の時はさ、しっかりしててもあんな面倒見いいっていうか⋯他人に構うタイプだとは思わなかったんだよね」

オレ「へ、へえ~⋯」


そういえば栄口と阿部って同中だっけ。うへえ長い付き合いになっちゃって可哀相⋯!
栄口みたいないい子があの鬼と⋯そりゃお腹も壊すよ。


栄口「だからさ、意外だったっていうか⋯見直したっていうか⋯ちょっと三橋の事、羨ましくもあるかな、なんて⋯」


⋯⋯んん?
三橋を羨ましいっていうのはオレの予想通りなんだけ、ど⋯
⋯⋯なんか決定的なとこがちがくない!?


栄口「水谷にだけ言っちゃおうかな⋯」


う、なにその魅惑的な言葉!
なのに⋯この嫌な予感はなに!?!?


栄口「オレ⋯中学の時から、ちょっとだけ阿部に憧れてるんだよね。⋯⋯あ、もちろんヘンな意味でじゃないよ!?」


⋯⋯真っ赤になって顔の前でパタパタ手を振る栄口は凄く可愛い⋯
でも可愛いものを見てこんなに傷付く事があるなんて⋯

オレはびっくりしちゃったよ⋯⋯(放心)


栄口「ほ、ほら、オレと阿部は同じ中学でも部に入って無いからチームメイトではなかったし、アイツはシニアでも榛名さんと組んで活躍してたし⋯そういう身近だけど凄い奴って言う感じがね⋯チームメイトになった今でもちょっとね⋯」


⋯⋯その後も栄口は照れながらも15分くらいあれこれ喋ってたけど⋯⋯オレはもうそれらの言葉を記憶に留める事が出来なかった⋯⋯⋯





既にとっぷり暗くなった道を独りトボトボ歩いていると⋯不意に足元に衝撃が走った。


オレ「イテッ!」


何かにぶつかって転んでしまったオレが振り向くと、小学校高学年か中一くらいのガキが突っ立ってる。


オレ「こら!何こんなとこに突っ立ってんの!てゆかもう真っ暗でしょー?子供はお家にお帰んなさーい!」


さっきからの悲しいのと痛いのがミックスで、ちょっとヒステリー気味に喚いてしまってから、子供相手にちょっとやばかったかな⋯?と思った時、そのガキはなんと⋯


ガキ「⋯⋯チッ、⋯⋯キャンキャンうるせェな⋯」

オレ「なっ⋯!お、お前な⋯!」

??「おい、どうしたんだ?」

オレ「!!」


ヒィ⋯!その声は⋯!


阿部「⋯なんだ、水谷か?何してんだお前、こんな時間に。ていうかオレの弟に何かしたか?」


ヒィ!やっぱり阿部!しかもこのガキ、阿部Jr!(誤)


オレ「してない!なんもしてない!ぶつかって転んだだけ!」

阿部+阿部Jr.「「フン⋯鈍くせェな⋯(ニィッ)」」


キャー!キモ恐いユニゾン!勘弁してェ!!


オレ「オ、オレ遅いし急いで帰らないと⋯!」


慌ててオレが走り去ろうとすると、阿部の声が追ってきた。


阿部「あ、おい。水谷」

オレ「な、なんですかぁ~?(ビクビク)」



阿部「誕生日、おめでとう(サムズアップ)」



オレ「!!!!!!!!!!!」



そ、そういえばオレ今日⋯!
ていうか栄口は結局覚えてくれてなかったのに何でABEー!?


オレ「な、なんで⋯オレの誕生日なんて知ってんの⋯?」

阿部「⋯⋯趣味、かな⋯?(ニィッ)」




それって人の誕生日覚えるのが趣味なのか⋯それともオレが趣味なのか⋯⋯
⋯⋯⋯⋯恐くてとても聞けなかった⋯