嵐のバースデー
正直、オレは今日がその日だということをずっと知らずにいた⋯
いや⋯知らなかったというか⋯⋯阿部にもそういうものがある、という事が頭から抜けていたというか⋯考えたくなかったというか⋯⋯
でも今にしたらよく考えておくべきだったんだ⋯今日と言う日が来る前に⋯
そうしたらオレは野球を諦めてでもドラ○ンガール⋯違う、ドラゴ○ボールを探す旅に出て、必死でアレを7つ集めてお願いしたのに⋯!
どうか16年前の12月11日に生まれたタレ目なのに最強に目つきの悪い赤ん坊を抹殺して下さい⋯!
それが無理なら埼玉から遥か遠い遠い土地へ移住させて下さい⋯!!
今となってはかなわぬ夢だ⋯
いや⋯もしも叶っても⋯既にオレについてしまった傷は拭えやしない⋯
今日はみんな、朝からどこかそわそわしていた。
⋯⋯とかならオレだって気付く可能性はあったのに⋯!
実際のとこ、みんなはすこぶる普通だった。いつも通りだった。
強いていえば三橋がいつも以上にキョドってた気もするけど、なにせ三橋だから違いは良く解らなかったしいつもの事だと思ってた。
けれどそうしてオレが朝練でバテバテになり、午前の授業をほとんど寝て、昼休みに阿部に弁当のチーズカレー春巻きを取られてべそかいて、六時間目の授業で居眠りして何故か栄口がソニンの衣装(カレーライスの時のアレ)を着てる夢を見てしまって最後の号令で立ち上がれなくて花井の影に隠れて誤魔化したりしてる間にも、それは着々と進んでいたんだ⋯(えっと居眠りの夢はアレ多分阿部に春巻取られた所為だと思うんだ。チーズカレー春巻!)。
いつも通りのハードな練習。
けれど今日は、いつもマネジがおにぎりを出してくれる時間のところで、いつもの光景と違うものに切り替わった。
モモカン「さ、今日は特別にここで終わり!この後は⋯⋯花井君、準備は?」
花井「OKです」
モモカン「じゃ、みんな部室の方へ移動!⋯⋯さ、阿部君、この戸を開けてみて」
阿部「ハイ(何故か興奮気味の顔。鼻息荒くてキモイなーなんてこの時は思ってたんだ⋯)」
けど鼻息が荒いのも道理。
なにせ阿部は本人なだけに最初から期待マックスだったんだから、こんな風にされればすぐピンと来たんだろう。
阿部がさっと扉を開け、部室に踏み込むなり、そのすぐ後をどどっと駈け込んだ部員一同が一斉に叫んだ。
一同(オレ除く)「阿部ー!誕生日おめでとうー!!」
オレ「!?!?!?」
阿部「⋯⋯みんな、サンキュ⋯!(ニィッ)」
踏み込んだ部室には「Happy Birthday ABE」の横断幕。
そしてうまそうなご飯やらケーキやらがどこからか運び込んだ机にたっぷり乗っていた(後で聞いたらほとんど三橋家からの差し入れだったらしい⋯)
こんな時、サプライズパーティにポカーンとするのはふつう、祝われる当人だろう。
けれど当人の阿部がすっかり当然のように馴染んでいる中、一番のサプライズに襲われてるのは何故か阿部とはてんで無関係のオレ⋯。
え、なにこれ⋯いくらオレが阿部の誕生を呪わしく思ってるからって⋯⋯
栄口「あは、驚いた?」
オレ「あ!栄口ィィ~~!ねー何これ?何コレ??」
栄口「うん、サプライズパーティにしようと思ってたからね。水谷は阿部と同じクラスだし、なんかポロっと言っちゃいそうだから、ついでに水谷にも伏せておこうってみんなで決めたんだよ」
オレ「あ、あ~~⋯そうだったんだ~」
そ、そりゃ確かに否定できないけど~⋯
巣山「でも大変だったよなぁ」
西広「そうだねぇ⋯」
泉 「阿部は割と行動パターン決まってたから楽だったんだけどさ、昼休みは部長副部長会議か、9組に三橋を捕獲に行くか7組で三橋が掛かってくるのを待ちわびてるか、のどれかだったかな」
沖 「そうそう、ところが水谷は神出鬼没っていうかさ⋯気付いたら後ろからふっとんできてくっついてたりするから⋯」
田島「だから水谷に内緒にするって事の方が難しかったよな!」
うわあなにこれ⋯
びっくりするくらい一致団結のみんなが喋ってるよ。
普段忘れがちなあの人やあの人まで⋯
今の会話に加わって無いのって、まだ両手を高々と上げて「サンッキュー!」と言い続けている阿部(あの⋯なんていったっけ?ヒゲのおっさん歌手っぽい⋯昔3人組で歌ってた⋯)と、その阿部に熱烈に拍手を送り続けている三橋だけだし。
も、もういっそ阿部と三橋の二人だけにしてあげた方がよくない?
そう思ったんだけどみんなは早速テーブルの方へ移動を開始したし、正直オレもお腹がグウグウ鳴り始めた。考えてみたらそうだよね。別に驚かされたぐらいなんて事ないよね。
だってこんなに美味しそうなものがたっぷりだし~!
しのーかのおにぎりも勿論嬉しいけどドーパミンに嘘は付けないよ。
けどまだお約束のアレをやるまではご飯は食べられないらしい。
花井「よし、じゃ⋯えーと⋯アレ歌うか!」
アレってさ⋯別に言えばいいじゃん「ハッピバースデーのうた」ってさ。
花井も三橋の家で盛大に祝われたクチだから思い出し照れしちゃってんのかな。
変なとこ照れ屋なんだよね~花井って。
それでもみんな勿論なんの事か解って、よし歌うぞーと姿勢を直したところで、すっかりスター気取りのアイツが突然意見し始めた。
阿部「待ってくれ、花井。オレに一つ提案がある」
花井「?なんだ提案って」
阿部「いや⋯⋯提案というより⋯⋯ささやかな希望⋯ってトコか」
言い直しながら、阿部はニィ⋯っと笑って人指し指で鼻の下を擦った。
今にも「てへっ★」とか言い出しそうな仕草だ⋯!
お願い!言わないで!キモ恐いから!
花井「⋯で、何なんだ?」
阿部「別に難しい事じゃ無い。その⋯⋯歌だけどな、クライマックスの部分があるだろ」
花井「⋯⋯⋯⋯クライマックス?」
田島「なにそれ?イク時ってこと?」
花井「なっ⋯!バッ⋯!!何いってんだお前!」
田島「オレは別にイッてねえって。阿部が言ってんだろ?」
花井「阿部だって別にイッてねえよ!」
栄口「ちょ、ちょっと、二人とも黙って。⋯⋯阿部、それって歌の終わり頃ってこと?」
うわびっくりした⋯!
栄口もイッちゃうとか言い出すのかと思った⋯!(ドキドキドキ)
てゆうか田島がそんな事で頭一杯なのはいいけど花井もなぁ⋯。
ま、仕方ないか。変なとこで照れ屋さんだからな。
ところで阿部は結局何を言い出したんだろ?
阿部「そうだ、『ハッピバースデ~、ディーア⋯』のとこだ」
巣山「その部分がどうしたんだ?」
阿部「その部分だけは三橋一人に歌って欲しいんだ⋯」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「⋯⋯⋯⋯⋯⋯えっ、⋯うえ⋯っ!?⋯⋯オ、オレ⋯⋯!」
阿部「ああ⋯お前だけに歌って欲しい⋯!」
⋯⋯だから⋯⋯だから言⋯おうと思ったのに⋯!
二人だけにしたらどうか、って⋯!
三橋「で、でも⋯⋯オレ⋯⋯歌、へた⋯」
阿部「構いやしないぜ。要は気持ち(ハート)だからな☆」
い、いま⋯今「気持ち」って書いて「ハート」って読んだ⋯!
いやだ!やっぱり早く帰りたい⋯!
このままじゃコイツ「本気」って書いて「マジ」って言うよ!
ああでもいくらなんでもここで1人で立ち上がる勇気は無い⋯
しかも目の前からは美味しそうな匂いが⋯⋯⋯ぐう⋯⋯
泉 「三橋1人になるのはそこの部分だけでいいんだろ?」
阿部「ああ」
田島「おし!じゃそこまでは全員で歌おうぜ!三橋、一気に歌っちまえばいいだけだからよ!」
三橋「う、⋯⋯うん⋯っ!」
なんとかクラスメートの助けで三橋も腹を括ったらしい。
ああ⋯⋯早く終わってくれ⋯⋯
一同「ハッピバースデ~トゥ~ユ~、ハッピバ~スデ~トゥ~ユ~」
三橋「⋯⋯ハ、⋯ハッピバースデー⋯ディア⋯⋯⋯⋯あべ、くん⋯!」
よし、言っ⋯
阿部「違ーーーーう!!」
三橋「!!!!!」
一同「!?」
え、なになに?アイツ今なんで叫んだの⋯?
阿部「三橋、そうじゃねえ」
三橋「う、え⋯っ⋯なん、で⋯⋯あべく⋯」
阿部「それが違うって言ってるんだ!」
三橋「⋯ひ、っ」
なんだよなんだよ~!三橋、ちょっとつっかえてはいたけど上出来に歌ってたじゃん。
何が不満なのさ阿部の鬼!
阿部「そうじゃなくて、『ハッピバ~スデ~、ディ~ア⋯タ~カヤ~⋯vv』⋯⋯こうだ!!」
ABEーーーーーーー!?
お、おま⋯⋯
いやそりゃね⋯解らないでも無いよ?
オレだってそりゃ⋯⋯好きな子にハッピバースデーの歌を歌って貰いたいなぁとか思うし⋯
そん時には『ハッピバースデー、ディ~ア、水谷-』よりもその⋯⋯文貴~の方が嬉しい、かなー?とはね⋯
でもさか⋯おっとやっぱ相手がさ、恥ずかしがり屋さん(あ、花井じゃないから)だったりすると可哀相じゃん⋯!
そこまで強要すんなよ⋯!しかもごちそう⋯じゃない、みんなの前で!
三橋「、う⋯っ⋯⋯⋯タ、⋯タ⋯⋯」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「タ⋯⋯⋯⋯、ッタ⋯⋯ッ」
栄口「えっと、⋯⋯も、もう一回最初から歌おうか?」
田島「おし!いくぜ!ハッピバースデー⋯」
そうして二度目のハッピバースデーも再びクライマックスへやってきた。
三橋「ハッピバースデー、ディ~ア⋯⋯⋯タ、っ⋯⋯⋯タ⋯⋯タ⋯⋯」
阿部「⋯⋯⋯⋯(目を瞑って腕組みで待ち構え)」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「⋯⋯⋯タ⋯⋯⋯ぅうっ⋯⋯⋯⋯タ⋯⋯⋯」
阿部「⋯⋯⋯⋯三橋⋯来い⋯!⋯」
なんかちっさい声で言ってるー!
小さいけど全員に丸聞こえ⋯!
三橋「⋯⋯⋯⋯タ、カ⋯⋯⋯⋯ャくんっ⋯⋯!」
阿部「⋯三橋!」
一同「ハッピバースデートゥ-ユー!阿部おめでとー!」
なんか明らかに「タカヤ」じゃなくて「タカ⋯モギョギョ」って感じだったけど、オレ達は慌ててラストまで歌い切った。
この時のオレ達は夏大のどの試合より全員の心が一つだったと思う⋯⋯
よかった⋯大きな試練が終わって良かった⋯!
あとはごちそうを⋯
花井「おし、じゃ全員プレゼントを先に渡しちまうか」
一同「おう!」
オレ「!?!?!?!?」
え、プレゼントって⋯⋯全員って⋯⋯⋯?
ああ、そうか、全員からって事で誰か買っておいたのかな?
でもオレはサプライズにされてたから当然買い出しなんて当たらなかったもんね。
巣山「オレはこれ、新作プロテインでなかなかお薦めだ」
阿部「サンキュ!後でオレの余ってるプロテインやるよ」
巣山「いや、気にしないでくれ。誕生日プレゼントだし」
田島「オレはエロ本な!おさがりだけど!」
花井「バカ!しまえ!」
田島「え~なんでだよ~」
阿部「田島、気持ちだけ貰っとく。オレ、妄⋯想像派だから」
田島「なんだそっか。なら仕方ないな!」
泉 「オレはタオル。ここの刺繍は浜田がしたから一応合作プレゼントね」
浜田「合作っつーかお前は家からタオル持ってきただけだろーが」
泉 「アイデア出したのはオレだからいいの」
え、待って待って待って。
なんで個々に出してんの⋯?
これって⋯⋯⋯え⋯⋯⋯あれ⋯⋯⋯
栄口「⋯⋯⋯これで、あとは水谷かな?」
オレ「!!⋯⋯や、えっと⋯⋯オレは⋯⋯」
栄口「?」
田島「あ、さては忘れてきたのか?」
オレ「ウン、忘れてきた⋯⋯っていうか⋯⋯その⋯⋯オレだけサプライズだったし⋯」
泉 「でもパーティはサプライズでも誕生日は決まってる日だろ?」
オレ「!!あ、あ~⋯⋯そ、そうねェ⋯⋯」
ヒーそうくるの!?さすが小粒で辛口⋯!
ていうかなに?みんな普通に阿部の誕生日覚えてたわけ!?パーティ抜きでも??
その時、ポンと肩に何かが触れた。
いや⋯ポン、っていうか⋯⋯精神的にはズシン⋯というか⋯⋯
阿部「⋯⋯水谷、」
オレ「⋯⋯⋯あ、あべくん⋯⋯なにか、ナ⋯?」
阿部「気にすんな」
オレ「⋯あ、あべ⋯⋯!!」
なんだよ~!阿部ってばいいとこあるじゃん⋯!
そうだよねー今日の阿部は幸せ一杯だもんね。三橋に歌ってもらったしね。
ならオレ1人くらい目こぼしてくれていいよね。
阿部「お前の分のケーキと飯で構わないぜ」
⋯⋯⋯⋯え?
今、あべさん、なんて⋯⋯⋯?
阿部「そして、それはオレではなくオレのステディ⋯おっと言い間違えた、バッテリーの相手である、三橋にやってくれ」
⋯⋯⋯⋯え、え⋯っ!?
そ、それって今、目の前にあるこのごちそうの事!?
オレの分を?三橋に??
確実に残らないじゃん⋯⋯!!(泣)
阿部「どうだ?名案だろ?お前は罪滅ぼしになり、⋯⋯そして三橋の腹は満足するって寸法だ」
三橋「あ、ありがとう⋯!⋯⋯タカヤくん⋯!!」
ちょっとちょっとー!
なんで今度はスラっと言えてんの「タカヤくん」って⋯!
こわい⋯!この子の食欲恐い!!
阿部「気にすんな⋯⋯⋯廉!(ビシィッ)」
速攻調子こいた-!(白目)
う、うん⋯⋯もういいや⋯⋯⋯なんか違うものでお腹一杯っていうか⋯⋯
今にもなんか出そうっていうか⋯⋯
ああ⋯⋯それにしても⋯⋯⋯
みんな覚えてるか、な⋯⋯⋯?
来月は⋯⋯来月の4日はオレの誕生日ですけど⋯⋯⋯
⋯⋯⋯もしかして⋯⋯野球部ってその日⋯休みか、な⋯⋯⋯
いや⋯知らなかったというか⋯⋯阿部にもそういうものがある、という事が頭から抜けていたというか⋯考えたくなかったというか⋯⋯
でも今にしたらよく考えておくべきだったんだ⋯今日と言う日が来る前に⋯
そうしたらオレは野球を諦めてでもドラ○ンガール⋯違う、ドラゴ○ボールを探す旅に出て、必死でアレを7つ集めてお願いしたのに⋯!
どうか16年前の12月11日に生まれたタレ目なのに最強に目つきの悪い赤ん坊を抹殺して下さい⋯!
それが無理なら埼玉から遥か遠い遠い土地へ移住させて下さい⋯!!
今となってはかなわぬ夢だ⋯
いや⋯もしも叶っても⋯既にオレについてしまった傷は拭えやしない⋯
今日はみんな、朝からどこかそわそわしていた。
⋯⋯とかならオレだって気付く可能性はあったのに⋯!
実際のとこ、みんなはすこぶる普通だった。いつも通りだった。
強いていえば三橋がいつも以上にキョドってた気もするけど、なにせ三橋だから違いは良く解らなかったしいつもの事だと思ってた。
けれどそうしてオレが朝練でバテバテになり、午前の授業をほとんど寝て、昼休みに阿部に弁当のチーズカレー春巻きを取られてべそかいて、六時間目の授業で居眠りして何故か栄口がソニンの衣装(カレーライスの時のアレ)を着てる夢を見てしまって最後の号令で立ち上がれなくて花井の影に隠れて誤魔化したりしてる間にも、それは着々と進んでいたんだ⋯(えっと居眠りの夢はアレ多分阿部に春巻取られた所為だと思うんだ。チーズカレー春巻!)。
いつも通りのハードな練習。
けれど今日は、いつもマネジがおにぎりを出してくれる時間のところで、いつもの光景と違うものに切り替わった。
モモカン「さ、今日は特別にここで終わり!この後は⋯⋯花井君、準備は?」
花井「OKです」
モモカン「じゃ、みんな部室の方へ移動!⋯⋯さ、阿部君、この戸を開けてみて」
阿部「ハイ(何故か興奮気味の顔。鼻息荒くてキモイなーなんてこの時は思ってたんだ⋯)」
けど鼻息が荒いのも道理。
なにせ阿部は本人なだけに最初から期待マックスだったんだから、こんな風にされればすぐピンと来たんだろう。
阿部がさっと扉を開け、部室に踏み込むなり、そのすぐ後をどどっと駈け込んだ部員一同が一斉に叫んだ。
一同(オレ除く)「阿部ー!誕生日おめでとうー!!」
オレ「!?!?!?」
阿部「⋯⋯みんな、サンキュ⋯!(ニィッ)」
踏み込んだ部室には「Happy Birthday ABE」の横断幕。
そしてうまそうなご飯やらケーキやらがどこからか運び込んだ机にたっぷり乗っていた(後で聞いたらほとんど三橋家からの差し入れだったらしい⋯)
こんな時、サプライズパーティにポカーンとするのはふつう、祝われる当人だろう。
けれど当人の阿部がすっかり当然のように馴染んでいる中、一番のサプライズに襲われてるのは何故か阿部とはてんで無関係のオレ⋯。
え、なにこれ⋯いくらオレが阿部の誕生を呪わしく思ってるからって⋯⋯
栄口「あは、驚いた?」
オレ「あ!栄口ィィ~~!ねー何これ?何コレ??」
栄口「うん、サプライズパーティにしようと思ってたからね。水谷は阿部と同じクラスだし、なんかポロっと言っちゃいそうだから、ついでに水谷にも伏せておこうってみんなで決めたんだよ」
オレ「あ、あ~~⋯そうだったんだ~」
そ、そりゃ確かに否定できないけど~⋯
巣山「でも大変だったよなぁ」
西広「そうだねぇ⋯」
泉 「阿部は割と行動パターン決まってたから楽だったんだけどさ、昼休みは部長副部長会議か、9組に三橋を捕獲に行くか7組で三橋が掛かってくるのを待ちわびてるか、のどれかだったかな」
沖 「そうそう、ところが水谷は神出鬼没っていうかさ⋯気付いたら後ろからふっとんできてくっついてたりするから⋯」
田島「だから水谷に内緒にするって事の方が難しかったよな!」
うわあなにこれ⋯
びっくりするくらい一致団結のみんなが喋ってるよ。
普段忘れがちなあの人やあの人まで⋯
今の会話に加わって無いのって、まだ両手を高々と上げて「サンッキュー!」と言い続けている阿部(あの⋯なんていったっけ?ヒゲのおっさん歌手っぽい⋯昔3人組で歌ってた⋯)と、その阿部に熱烈に拍手を送り続けている三橋だけだし。
も、もういっそ阿部と三橋の二人だけにしてあげた方がよくない?
そう思ったんだけどみんなは早速テーブルの方へ移動を開始したし、正直オレもお腹がグウグウ鳴り始めた。考えてみたらそうだよね。別に驚かされたぐらいなんて事ないよね。
だってこんなに美味しそうなものがたっぷりだし~!
しのーかのおにぎりも勿論嬉しいけどドーパミンに嘘は付けないよ。
けどまだお約束のアレをやるまではご飯は食べられないらしい。
花井「よし、じゃ⋯えーと⋯アレ歌うか!」
アレってさ⋯別に言えばいいじゃん「ハッピバースデーのうた」ってさ。
花井も三橋の家で盛大に祝われたクチだから思い出し照れしちゃってんのかな。
変なとこ照れ屋なんだよね~花井って。
それでもみんな勿論なんの事か解って、よし歌うぞーと姿勢を直したところで、すっかりスター気取りのアイツが突然意見し始めた。
阿部「待ってくれ、花井。オレに一つ提案がある」
花井「?なんだ提案って」
阿部「いや⋯⋯提案というより⋯⋯ささやかな希望⋯ってトコか」
言い直しながら、阿部はニィ⋯っと笑って人指し指で鼻の下を擦った。
今にも「てへっ★」とか言い出しそうな仕草だ⋯!
お願い!言わないで!キモ恐いから!
花井「⋯で、何なんだ?」
阿部「別に難しい事じゃ無い。その⋯⋯歌だけどな、クライマックスの部分があるだろ」
花井「⋯⋯⋯⋯クライマックス?」
田島「なにそれ?イク時ってこと?」
花井「なっ⋯!バッ⋯!!何いってんだお前!」
田島「オレは別にイッてねえって。阿部が言ってんだろ?」
花井「阿部だって別にイッてねえよ!」
栄口「ちょ、ちょっと、二人とも黙って。⋯⋯阿部、それって歌の終わり頃ってこと?」
うわびっくりした⋯!
栄口もイッちゃうとか言い出すのかと思った⋯!(ドキドキドキ)
てゆうか田島がそんな事で頭一杯なのはいいけど花井もなぁ⋯。
ま、仕方ないか。変なとこで照れ屋さんだからな。
ところで阿部は結局何を言い出したんだろ?
阿部「そうだ、『ハッピバースデ~、ディーア⋯』のとこだ」
巣山「その部分がどうしたんだ?」
阿部「その部分だけは三橋一人に歌って欲しいんだ⋯」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「⋯⋯⋯⋯⋯⋯えっ、⋯うえ⋯っ!?⋯⋯オ、オレ⋯⋯!」
阿部「ああ⋯お前だけに歌って欲しい⋯!」
⋯⋯だから⋯⋯だから言⋯おうと思ったのに⋯!
二人だけにしたらどうか、って⋯!
三橋「で、でも⋯⋯オレ⋯⋯歌、へた⋯」
阿部「構いやしないぜ。要は気持ち(ハート)だからな☆」
い、いま⋯今「気持ち」って書いて「ハート」って読んだ⋯!
いやだ!やっぱり早く帰りたい⋯!
このままじゃコイツ「本気」って書いて「マジ」って言うよ!
ああでもいくらなんでもここで1人で立ち上がる勇気は無い⋯
しかも目の前からは美味しそうな匂いが⋯⋯⋯ぐう⋯⋯
泉 「三橋1人になるのはそこの部分だけでいいんだろ?」
阿部「ああ」
田島「おし!じゃそこまでは全員で歌おうぜ!三橋、一気に歌っちまえばいいだけだからよ!」
三橋「う、⋯⋯うん⋯っ!」
なんとかクラスメートの助けで三橋も腹を括ったらしい。
ああ⋯⋯早く終わってくれ⋯⋯
一同「ハッピバースデ~トゥ~ユ~、ハッピバ~スデ~トゥ~ユ~」
三橋「⋯⋯ハ、⋯ハッピバースデー⋯ディア⋯⋯⋯⋯あべ、くん⋯!」
よし、言っ⋯
阿部「違ーーーーう!!」
三橋「!!!!!」
一同「!?」
え、なになに?アイツ今なんで叫んだの⋯?
阿部「三橋、そうじゃねえ」
三橋「う、え⋯っ⋯なん、で⋯⋯あべく⋯」
阿部「それが違うって言ってるんだ!」
三橋「⋯ひ、っ」
なんだよなんだよ~!三橋、ちょっとつっかえてはいたけど上出来に歌ってたじゃん。
何が不満なのさ阿部の鬼!
阿部「そうじゃなくて、『ハッピバ~スデ~、ディ~ア⋯タ~カヤ~⋯vv』⋯⋯こうだ!!」
ABEーーーーーーー!?
お、おま⋯⋯
いやそりゃね⋯解らないでも無いよ?
オレだってそりゃ⋯⋯好きな子にハッピバースデーの歌を歌って貰いたいなぁとか思うし⋯
そん時には『ハッピバースデー、ディ~ア、水谷-』よりもその⋯⋯文貴~の方が嬉しい、かなー?とはね⋯
でもさか⋯おっとやっぱ相手がさ、恥ずかしがり屋さん(あ、花井じゃないから)だったりすると可哀相じゃん⋯!
そこまで強要すんなよ⋯!しかもごちそう⋯じゃない、みんなの前で!
三橋「、う⋯っ⋯⋯⋯タ、⋯タ⋯⋯」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「タ⋯⋯⋯⋯、ッタ⋯⋯ッ」
栄口「えっと、⋯⋯も、もう一回最初から歌おうか?」
田島「おし!いくぜ!ハッピバースデー⋯」
そうして二度目のハッピバースデーも再びクライマックスへやってきた。
三橋「ハッピバースデー、ディ~ア⋯⋯⋯タ、っ⋯⋯⋯タ⋯⋯タ⋯⋯」
阿部「⋯⋯⋯⋯(目を瞑って腕組みで待ち構え)」
一同「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
三橋「⋯⋯⋯タ⋯⋯⋯ぅうっ⋯⋯⋯⋯タ⋯⋯⋯」
阿部「⋯⋯⋯⋯三橋⋯来い⋯!⋯」
なんかちっさい声で言ってるー!
小さいけど全員に丸聞こえ⋯!
三橋「⋯⋯⋯⋯タ、カ⋯⋯⋯⋯ャくんっ⋯⋯!」
阿部「⋯三橋!」
一同「ハッピバースデートゥ-ユー!阿部おめでとー!」
なんか明らかに「タカヤ」じゃなくて「タカ⋯モギョギョ」って感じだったけど、オレ達は慌ててラストまで歌い切った。
この時のオレ達は夏大のどの試合より全員の心が一つだったと思う⋯⋯
よかった⋯大きな試練が終わって良かった⋯!
あとはごちそうを⋯
花井「おし、じゃ全員プレゼントを先に渡しちまうか」
一同「おう!」
オレ「!?!?!?!?」
え、プレゼントって⋯⋯全員って⋯⋯⋯?
ああ、そうか、全員からって事で誰か買っておいたのかな?
でもオレはサプライズにされてたから当然買い出しなんて当たらなかったもんね。
巣山「オレはこれ、新作プロテインでなかなかお薦めだ」
阿部「サンキュ!後でオレの余ってるプロテインやるよ」
巣山「いや、気にしないでくれ。誕生日プレゼントだし」
田島「オレはエロ本な!おさがりだけど!」
花井「バカ!しまえ!」
田島「え~なんでだよ~」
阿部「田島、気持ちだけ貰っとく。オレ、妄⋯想像派だから」
田島「なんだそっか。なら仕方ないな!」
泉 「オレはタオル。ここの刺繍は浜田がしたから一応合作プレゼントね」
浜田「合作っつーかお前は家からタオル持ってきただけだろーが」
泉 「アイデア出したのはオレだからいいの」
え、待って待って待って。
なんで個々に出してんの⋯?
これって⋯⋯⋯え⋯⋯⋯あれ⋯⋯⋯
栄口「⋯⋯⋯これで、あとは水谷かな?」
オレ「!!⋯⋯や、えっと⋯⋯オレは⋯⋯」
栄口「?」
田島「あ、さては忘れてきたのか?」
オレ「ウン、忘れてきた⋯⋯っていうか⋯⋯その⋯⋯オレだけサプライズだったし⋯」
泉 「でもパーティはサプライズでも誕生日は決まってる日だろ?」
オレ「!!あ、あ~⋯⋯そ、そうねェ⋯⋯」
ヒーそうくるの!?さすが小粒で辛口⋯!
ていうかなに?みんな普通に阿部の誕生日覚えてたわけ!?パーティ抜きでも??
その時、ポンと肩に何かが触れた。
いや⋯ポン、っていうか⋯⋯精神的にはズシン⋯というか⋯⋯
阿部「⋯⋯水谷、」
オレ「⋯⋯⋯あ、あべくん⋯⋯なにか、ナ⋯?」
阿部「気にすんな」
オレ「⋯あ、あべ⋯⋯!!」
なんだよ~!阿部ってばいいとこあるじゃん⋯!
そうだよねー今日の阿部は幸せ一杯だもんね。三橋に歌ってもらったしね。
ならオレ1人くらい目こぼしてくれていいよね。
阿部「お前の分のケーキと飯で構わないぜ」
⋯⋯⋯⋯え?
今、あべさん、なんて⋯⋯⋯?
阿部「そして、それはオレではなくオレのステディ⋯おっと言い間違えた、バッテリーの相手である、三橋にやってくれ」
⋯⋯⋯⋯え、え⋯っ!?
そ、それって今、目の前にあるこのごちそうの事!?
オレの分を?三橋に??
確実に残らないじゃん⋯⋯!!(泣)
阿部「どうだ?名案だろ?お前は罪滅ぼしになり、⋯⋯そして三橋の腹は満足するって寸法だ」
三橋「あ、ありがとう⋯!⋯⋯タカヤくん⋯!!」
ちょっとちょっとー!
なんで今度はスラっと言えてんの「タカヤくん」って⋯!
こわい⋯!この子の食欲恐い!!
阿部「気にすんな⋯⋯⋯廉!(ビシィッ)」
速攻調子こいた-!(白目)
う、うん⋯⋯もういいや⋯⋯⋯なんか違うものでお腹一杯っていうか⋯⋯
今にもなんか出そうっていうか⋯⋯
ああ⋯⋯それにしても⋯⋯⋯
みんな覚えてるか、な⋯⋯⋯?
来月は⋯⋯来月の4日はオレの誕生日ですけど⋯⋯⋯
⋯⋯⋯もしかして⋯⋯野球部ってその日⋯休みか、な⋯⋯⋯