自分の城を築きたい。そう思う者は少なくないだろう。

それは、マイホームなり、独立した会社なり。

この淳という少年にとって、それは、まずチームだった。

当時、家に帰ると誰もいない暗い部屋がいつも待っていた。

それはそれで、心地よいものであり、かえって嬉しいぐらいだった。

一人でだだっ広い空間にいるのは、慣れない分、少し難儀に感じることはあったが。

誰にも注意されないので、夜更かしもするようになった。

楽しくて仕方がない。

お金は無かったので、まずは、週刊の漫画雑誌を大量に集めてきて、

自分用のソファーを作った。

誰もが寝ている時間に自分が起きていることに、すごく優越感を感じた。

ただそれだけ、と言われれば、本当にそうなのだが、その時吸う空気は、やはり格別だったのだ。

SCREAMに出入りしだしたのも、この頃からだ。

SCREAMの活動にも慣れたとある深夜、コンビニで常日頃バカにしていた巨漢の同級生に会った。

少し気まずかったが、妙な親近感が沸いたのは事実だ。

巨漢の男は古い反逆の曲を良く聴いていた。

学校でもだ。

完全に浮いていた。

その歌の古さをよく馬鹿にしていて、ネタにもなっていた。

この巨漢の男こそ野見山だ。

暴力反対!と叫ぶ女の髪の毛を掴んで殴ってしまうような男だ。

そういう意味で完璧な男だった。

喧嘩はもはや、強いというレベルではなかった。

普段は大人しいというなら話しは別だが、野見山はそれなりに口が達者で

デリカシーの欠片もないロン毛男だ。

淳は普段決して言えないようなセリフがその夜スラスラと言えた。

野見山の聞いている曲を聞きたくて仕方が無かったからだ。

淳にとって、そんな夜だった。

淳は野見山のイヤホンを耳に入れ、笑顔を浮かべていた。

この日はあの野見山も嬉しそうな、照れくさい表情を浮かべていた。

この日を境にして、表向きは全くの無関係だが、稀にだが、

淳と野見山は深夜に接点を持つようになる。

13歳から14歳にかけてのことだった。

淳はSCREAMに所属し、年齢的にまだ幼かったが、喧嘩が強く、なにより集金力が抜群にあった。

チーム同士がかち合えば、特攻隊長のように派手に飛び込んで行き、

勝利するまでゾンビのように起き上がり、延々と冷酷に相手チームを叩きのめした。

戦いの後はスポークスマンとしても活躍し、すぐにSCREAMの顔となった男である。

当時SCREAMの3代目は、SCREAM史上一番有名なトオルがヘッドの時代であった。

第7話に続く。

7話の挿入。

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第8話に続く。


第8話



今日も東京では、いつも通り、太陽が沈みかけている。


人は、この没落の様子に見とれる。



この消えない焚き火を疑う者など、そうはいない。



薄々気づいているんだろ、このシステムにも。


俺らが絶やさぬよう、毎夜放火していることにも、


故に、明日は我が身だってことにも。



神が創った火で今日は何を焼こうか。


美味しい食事と安らかな睡眠、それが幸福の秘訣で、


寂しければ一晩泣いて、幸せのなる木を育てれば良い。



どの世界も、明けない夜はない。


そう信じて行儀良く歯を磨き、寝たら良い。



俺らに終らない夜はない。


どんな国境をも越えて、転がり走る。


舐められたんじゃ、生きては行けない。



溶けたが最後、俺らの没落の余韻を


甘い舌した奴にライムされるだろう。



俺らがTokyo Midnight Candy


舐められるものなら、舐めてみろ。



第9話に続く。





『おおっと、殺る気まんまんだね、どこ刺す?』


『ど、どこがいいっすか?』


『バッコリいけよ! 心臓!』


『マジすっかっ』


『テメぇ、怖気づいてんじゃねーよ。』


『バッコリっすか?』


『バッコリだよ。』


公園の暗闇から目を合わさずに喋る2人の微かな声が聞こえる。


真っ黒な傘を差した2人の少年が、お互い少し離れた位置でうつむきながら、


水が溜まりつつある地面の砂利を足でイジりながらタバコをふかしている。


怪しげな灰色の煙は、少し強めの風に乗って遠くに消えて行った。


香りだけ残して、秋の夜空に何か狼煙のような物が上がった夜だった。


鼻をつくこの香りも、時間と共に薄れてゆく。


警察犬でも嗅ぎ付けることはできないだろう。


淳が今夜のミッションを確認する。


あたかも自分が描いた絵ではなく、まるで神の啓示かのように。


このでっち上げられた神の存在については、また後で触れることとしよう。


あたかも淳は伝道者というスタンスを崩さなかったことは確かだ。



淳は小さな声で語りだすと、となりの男が首を縦に振るのを待った。



男はダンマリを決め込んだ。


淳が煮え切らない男の方へと視線を上げると、


男は目をかっ開き、1歩、2歩と後退しながら口を開いた。


『昨日、野見山さんが腹に一発キメればいいって・・・』


淳の顔の表情が強張る。


野見山がこの男と接触し、勝手に下らぬ入れ知恵をしているからだ。


淳は心底、このことが気に入らなかった。


いかにも短絡的で不器用な野見山が、自分の仕事の領域に入ってきたようで、面白くなかったし、


アイツが勝手に調子コキ始めたら緻密な計画が狂い、痛手となるのではないかということを案じたのだ。



『他には、アイツから何か言われたか?』


『いえ、別に・・・』


『じゃあ、何も考えずに腹でも何でも刺してこいよ。ビビんなよ。それ最悪だかんな。

事によっちゃ、お前生きていけないようにしてやるよ。』


淳は新聞に包んだ包丁を男に渡した。


『細身だろ、突き刺すには丁度いい。』

どことなく情報を発し、誰の指示で、何の為に使うかが分からないように


この男の家からこの包丁を盗ませたのだ。


まるで伝言ゲームのように2日で色んな奴の手を渡った。


勿論、淳が終点であることも知られていない。


恐怖が全てを支配していた。


淳の得意分野だ。



雨の中、男は周りを気にしながら傘の中で背中を丸めて、新聞を解いて包丁を確認した。


自分の家の包丁とは気づいていないようだ。


男は呟いた。


『すごいっすね、これ』


『これなら、簡単にエグれるぜ』



この男は、全国に支部を持つ、凶暴な巨大組織SCREAMの末端構成員だ、


通称クスブリ君だ。


淳は、つい先程までSCREAMの幹部を務めていた。


SCREAMに出入りしているという噂は紛れも無く、本当だったのだ。



第6話に続く。









話は少し前後するが、ここで杏の紹介をしたいと思う。


杏と私は同じ3年生でクラスも同じ!


髪の毛がサッラサラで、モデルのようにすらっとした容姿。


超天然な女の子だ。


泳ぎはというと、どの大会に出ようが負けたところを見たことがない。


人のことは言えないが、勉強の方はあまり芳しくないようである・・・。




もう既に色んな学校から推薦の話しは来ているようだが、


本人的には水泳に固執するつもりはないし、勉強からは、もう解放されたい模様なのだ。


将来は美容師になりたいと、このあいだ話していたばかりだ。


彼女は全国区レベルで有名で、杏に憧れるスイマーはたくさんいる。


水泳大会の会場では、彼女の一挙手一投足が注目され、行動しずらいぐらいだ。


そんな杏も、実は結構いろんな人の影響を受けやすい体質らしく、


気分の浮き沈みも人並みにあり、ごく一般的な子なのだ。



クラブチームに所属しているわけでははく、彼女が泳ぐのは学校でだけだ。


部活が終われば、友達や彼氏とブラブラと普通に遊んでいるのが、


何気ない彼女の日常なのだ。



さて、練習が始まり、私は3コースを泳いでいる。泳力があるものから順に


1コースから入ってい行くのだ。


1コースを泳ぐトップチームのマリちゃんや杏はやはり速く、調子も良さそうだ。



今日の練習のシメは、50メートル×2本の


タイムトライヤルだった。


1本目は自由形。


自由形といっても暗黙の了解で皆クロールを泳ぐ。


2本目は自由形以外の泳ぎ。私は平泳ぎである。



ちなみに女子メドレーリレーは、


綾が背泳ぎ、私が平泳ぎ、マリがバタフライで、杏がアンカーのクロールなのでである。



タイムトライヤルでは本番さながらのテンションで毎度ベストタイムを狙って泳ぐが、


なかなかベストの更新は難しい。


たった0コンマ数秒が縮まらないのだから・・・。


自分って、ある種、精密に泳ぐことができるんだって感心してしまったり・・・。




練習が終わり、着替え終わると17:30であった。


髪の毛を乾かす為、蒸し暑い更衣室を出た。


タイルの上を素足で歩くには熱すぎたので、水に濡れている部分を


探して、そこで髪を拭いていた。


さっさと着替え終わった淳やテツが帰ろうとしていたので


バイバイをして見送り、着てたメールに返信をしてたりした。



照りつける太陽であっという間に体は乾き、


耳の中と鼻のムズムズが妙に際立った。



メッシュキャップを被って、鼻のつーんとする感じを


味わいながらぼーとしていた。


ヤス、塩素入れすぎ。



更衣室の中から 


「マリちゃんバイバーイ」という杏の声と笑い声が聞こえた。


2人もとても仲が良い。


杏が出きて、帰ることとなった。


杏のビーサンがかわいかったので、お互い交換して履いて帰った。





まさにこれが、いい意味で、とりわけ良くも悪くもない、ごく普通の毎日の光景だった。


この頃、難しいことなんて、別に考えていなかった。


目の前のことで一杯だったし。


刺激と退屈。この裏表の事柄も、強い陽射がスパイスとなり、


蝉のけたたましい鳴き声の下で、静かに調和を図っていた。



なにがその合図だったのかすら私には分からないが、


この数週間後、全国大会の近辺で、確実に均衡は破られた。


絶妙に保っていたバランスが傾いたのだ。



心に、夏の終わりを感じたのだろうか。


時に、秋という季節は人の心を狂わせてしまう。



そういえば、昨年の秋、ある事件が都内で起こったと聞いた。


紙面を大きく飾ったあの事件のことである。



第5話に続く。