杏と私は同じ3年生でクラスも同じ!
髪の毛がサッラサラで、モデルのようにすらっとした容姿。
超天然な女の子だ。
泳ぎはというと、どの大会に出ようが負けたところを見たことがない。
人のことは言えないが、勉強の方はあまり芳しくないようである・・・。
もう既に色んな学校から推薦の話しは来ているようだが、
本人的には水泳に固執するつもりはないし、勉強からは、もう解放されたい模様なのだ。
将来は美容師になりたいと、このあいだ話していたばかりだ。
彼女は全国区レベルで有名で、杏に憧れるスイマーはたくさんいる。
水泳大会の会場では、彼女の一挙手一投足が注目され、行動しずらいぐらいだ。
そんな杏も、実は結構いろんな人の影響を受けやすい体質らしく、
気分の浮き沈みも人並みにあり、ごく一般的な子なのだ。
クラブチームに所属しているわけでははく、彼女が泳ぐのは学校でだけだ。
部活が終われば、友達や彼氏とブラブラと普通に遊んでいるのが、
何気ない彼女の日常なのだ。
さて、練習が始まり、私は3コースを泳いでいる。泳力があるものから順に
1コースから入ってい行くのだ。
1コースを泳ぐトップチームのマリちゃんや杏はやはり速く、調子も良さそうだ。
今日の練習のシメは、50メートル×2本の
タイムトライヤルだった。
1本目は自由形。
自由形といっても暗黙の了解で皆クロールを泳ぐ。
2本目は自由形以外の泳ぎ。私は平泳ぎである。
ちなみに女子メドレーリレーは、
綾が背泳ぎ、私が平泳ぎ、マリがバタフライで、杏がアンカーのクロールなのでである。
タイムトライヤルでは本番さながらのテンションで毎度ベストタイムを狙って泳ぐが、
なかなかベストの更新は難しい。
たった0コンマ数秒が縮まらないのだから・・・。
自分って、ある種、精密に泳ぐことができるんだって感心してしまったり・・・。
練習が終わり、着替え終わると17:30であった。
髪の毛を乾かす為、蒸し暑い更衣室を出た。
タイルの上を素足で歩くには熱すぎたので、水に濡れている部分を
探して、そこで髪を拭いていた。
さっさと着替え終わった淳やテツが帰ろうとしていたので
バイバイをして見送り、着てたメールに返信をしてたりした。
照りつける太陽であっという間に体は乾き、
耳の中と鼻のムズムズが妙に際立った。
メッシュキャップを被って、鼻のつーんとする感じを
味わいながらぼーとしていた。
ヤス、塩素入れすぎ。
更衣室の中から
「マリちゃんバイバーイ」という杏の声と笑い声が聞こえた。
2人もとても仲が良い。
杏が出きて、帰ることとなった。
杏のビーサンがかわいかったので、お互い交換して履いて帰った。
まさにこれが、いい意味で、とりわけ良くも悪くもない、ごく普通の毎日の光景だった。
この頃、難しいことなんて、別に考えていなかった。
目の前のことで一杯だったし。
刺激と退屈。この裏表の事柄も、強い陽射がスパイスとなり、
蝉のけたたましい鳴き声の下で、静かに調和を図っていた。
なにがその合図だったのかすら私には分からないが、
この数週間後、全国大会の近辺で、確実に均衡は破られた。
絶妙に保っていたバランスが傾いたのだ。
心に、夏の終わりを感じたのだろうか。
時に、秋という季節は人の心を狂わせてしまう。
そういえば、昨年の秋、ある事件が都内で起こったと聞いた。
紙面を大きく飾ったあの事件のことである。
第5話に続く。
