『おおっと、殺る気まんまんだね、どこ刺す?』
『ど、どこがいいっすか?』
『バッコリいけよ! 心臓!』
『マジすっかっ』
『テメぇ、怖気づいてんじゃねーよ。』
『バッコリっすか?』
『バッコリだよ。』
公園の暗闇から目を合わさずに喋る2人の微かな声が聞こえる。
真っ黒な傘を差した2人の少年が、お互い少し離れた位置でうつむきながら、
水が溜まりつつある地面の砂利を足でイジりながらタバコをふかしている。
怪しげな灰色の煙は、少し強めの風に乗って遠くに消えて行った。
香りだけ残して、秋の夜空に何か狼煙のような物が上がった夜だった。
鼻をつくこの香りも、時間と共に薄れてゆく。
警察犬でも嗅ぎ付けることはできないだろう。
淳が今夜のミッションを確認する。
あたかも自分が描いた絵ではなく、まるで神の啓示かのように。
このでっち上げられた神の存在については、また後で触れることとしよう。
あたかも淳は伝道者というスタンスを崩さなかったことは確かだ。
淳は小さな声で語りだすと、となりの男が首を縦に振るのを待った。
男はダンマリを決め込んだ。
淳が煮え切らない男の方へと視線を上げると、
男は目をかっ開き、1歩、2歩と後退しながら口を開いた。
『昨日、野見山さんが腹に一発キメればいいって・・・』
淳の顔の表情が強張る。
野見山がこの男と接触し、勝手に下らぬ入れ知恵をしているからだ。
淳は心底、このことが気に入らなかった。
いかにも短絡的で不器用な野見山が、自分の仕事の領域に入ってきたようで、面白くなかったし、
アイツが勝手に調子コキ始めたら緻密な計画が狂い、痛手となるのではないかということを案じたのだ。
『他には、アイツから何か言われたか?』
『いえ、別に・・・』
『じゃあ、何も考えずに腹でも何でも刺してこいよ。ビビんなよ。それ最悪だかんな。
事によっちゃ、お前生きていけないようにしてやるよ。』
淳は新聞に包んだ包丁を男に渡した。
『細身だろ、突き刺すには丁度いい。』
どことなく情報を発し、誰の指示で、何の為に使うかが分からないように
この男の家からこの包丁を盗ませたのだ。
まるで伝言ゲームのように2日で色んな奴の手を渡った。
勿論、淳が終点であることも知られていない。
恐怖が全てを支配していた。
淳の得意分野だ。
雨の中、男は周りを気にしながら傘の中で背中を丸めて、新聞を解いて包丁を確認した。
自分の家の包丁とは気づいていないようだ。
男は呟いた。
『すごいっすね、これ』
『これなら、簡単にエグれるぜ』
この男は、全国に支部を持つ、凶暴な巨大組織SCREAMの末端構成員だ、
通称クスブリ君だ。
淳は、つい先程までSCREAMの幹部を務めていた。
SCREAMに出入りしているという噂は紛れも無く、本当だったのだ。
第6話に続く。