昨日は久方ぶりに

四谷のオフィスで採点でした。

 

終了後、新宿で途中下車し

ディスクユニオンへ寄り道した際

探していたCDを見つけて

ちょっと気分が良かったり。

 

その探していたCDがこちら。

 

ガーディナー指揮《ディドーとエネアス》

(日本フォノグラム PHCP-5193、1993.11.26)

 

原盤はフィリップスで

《ディドーとエネアス》の他に

聖チェチーリアの祝日のためのオード

《嬉しきかな、すべての愉しみ》Z.339 が

併録されています。

 

録音は1990年7月12〜14日に

ブリストルのブランドン・ヒルにある

聖ジョージ教会で行なわれました。

 

といってもこちら

セント・ジョージズ・ブランドン・ヒル

(現在はセント・ジョージズ・ブリストル

というコンサート会場として

知られている場所のようです。

 

 

演奏は

ジョン・エリオット・ガーディナー指揮

イギリス・バロック管弦楽団

(イングリッシュ・バロック・ソロイスツ)

およびモンテヴェルディ合唱団という

お馴染みの組み合わせ。

 

ソリストは

ディドー:キャロリン・ウォトキンソン

ベリンダ:ルース・ホルトン

エネアス:ジョージ・モスリー

第二の女(次女):エリザベス・プライデー

女魔法使い:テレサ・ショウ

魔女1:ドナ・ディーム

魔女2:ショナ・ビースリー

精霊:ジョナサン・ピーター・ケニー

水夫:ポール・ティンドル

の面々。

 

誰かが複数の役を掛け持ちする

というのではなくて

全ての役に役者が

当てられているのは

録音盤ならではですね。

 

 

ライナー小冊子には

原盤についていたであろう

カーティス・プライスの解説の翻訳と

それを訳した佐藤章の

「演奏者について」

という小文が載っています。

 

佐藤はその小文で

歌い手の世界は世代交代が激しく、この録音に出演している歌手についても、浅学の筆者は、オードに起用されているマイケル・チャンス(略)以外、経歴等の情報を残念ながら持っていない。(p.14)

と書いています。

 

確かに自分も

マイケル・チャンスくらいしか

名前に聞き覚えのある歌い手は

いませんでしたけど

現在ではインターネットという

強い味方がいますので

ディドーのウォトキンソンも

(現在ではワトキンソンと表記)

ベリンダのルース・ホルトンも

あっという間に調べがつきました。

 

 

ワトキンソンは

NAXOS のディスコグラフィーを見てみたら

ヘルムート・リリングや

ペーター・シュライアーの

バッハのカンタータなど

宗教音楽の録音に参加していて

古楽関連だと

ホグウッドやコープマン

ピノックなどの下でも

歌っているようです。

 

英語版 Wikipedia には

メゾソプラノとコントラルトを

使い分けていると書かれていますから

なんだか声が低めのディドーだなあ

と思ったのも、むべなるかな。

 

割とオペラちっくな感じで

ディドーを演じているのが

ちょっと肌に合いませんでした。

 

 

ルース・ホルトンの方は

やはり英語版 Wikipedia によれば

批評家によって

The light boyish qualities

と評されたそうですから

やや高めなわけでしょう。

 

自分のイメージしている

いかにもベリンダらしい

軽快な歌いっぷりなので

その意味では

貫禄のあるディドーとの対比が

いい感じに出ていると

いえるかもしれません。

 

こちらも

NAXOS のディスコグラフィーを見てみたら

ガーディナーのバッハ・カンタータ全集の他

ブリリアント・クラシックスのバッハ全集や

コープマンのバッハ・カンタータ全集

等々に参加していて

なかなか壮観なものがあります。

 

 

ジョージ・モスリーは

Wikipedia の項目がヒットせず

Discogs

1959年4月28日ロンドン生まれ

とあるくらい。

 

そのほか

検索でヒットした記事によれば

国際モーツァルト・コンクールで

一等賞を獲得して以来

バリトンのオペラ歌手として

キャリアを築いてきたそうです。

 

そうと知ってみると

確かにオペラちっくだったなあ

とか思ったりもしますが

ワトキンソンのディドーとなら

合ってるかもしれません。

 

 

とか何とか書いてきましたが

本盤の聴きものは

ソリストより合唱ではないか

と思ってしまうほど

モンテヴェルディ合唱団が素晴らしい。

 

録音した場所が場所だけに

響きがいいんでしょうけど

完全にソリストを食っている

という印象を受けました。

 

本盤ではまだ

「イギリス・バロック管弦楽団」

という表記になっている

イングリッシュ・バロック・ソロイスツの音も

素晴らしく軽快で響きがいいです。

 

 

興味深いのは

オリジナルのリブレットに

ギターによるシャコンヌとか

ギターによるグラウンド

とか指示されていながら

楽譜が残っていない箇所で

同時代の別の作曲家のギター曲を

演奏しているところ。

 

パーセルの楽曲とは音響的にも

あまりにも異なる雰囲気なので

ものすごく違和感があります。

 

全体のバランスを考えた時

この処理はどうかと思いますけど

原資料の内容を垣間見せているくれるのは

ちょっと嬉しかったりもしてます。

 

 

まあ、そんなこんなで

これこそベスト盤だ!

とまではいえませんけど

聴いて良かったし

買えて良かったことは

間違いありません。

 

ライナー小冊子の

カーティス・プライスの解説も

今までのライナーにはなかった

情報が載っていて

読み応えがありましたし。

 

 

解説の記述で

ただ一点、気になったのは

本盤では水夫をソプラノが歌う

と書かれていること。

 

水夫を演じる

ポール・ティンドル

(現在はティンダルと表記)は

テノールなんですよね。

 

これ、誤訳でなければ

プライスの誤記

ということになりますが

どうしてこんな誤記をしたものか。

 

謎です。

 

 

古楽器演奏ではあと

アーノンクール盤がありますけど

いまだに邦盤を見かけません。

 

輸入盤なら見かけたんですけど

邦盤が出てるだろうしなあ

と思うと手が出せず。

 

願を掛ける意味でも

いつか出会うことを期待してます

と書いておくことにしよう。( ̄▽ ̄)

今では

何を探していたか忘れましたが

CDの山をひっくり返していたら

こんなのが出てきました。

 

《我を憐れみたまえ[バロック名宗教曲集]》

(ポリドール F35L50199、1985.9.25)

 

原盤レーベルはロンドン・レコード

 

演奏は

スティーヴン・クレオベリー指揮

ウェストミンスター・カテドラル聖歌隊で

録音は1983年6月に

ウェストミンスター・カテドラルにて

行なわれました。

 

オルガン伴奏が加わる曲は

アンドリュー・ライト

という人が弾いています。

 

アレグリ《ミゼレーレ》の

トレブル・ソロは

ソール・カーク Saul Quirke 君。

 

 

ライナー小冊子の解説

(菅野浩和執筆)によれば

ロンドンの観光名所のひとつ

ウェストミンスター・アベイとは別の

カトリック信者の大本山だそうです。

 

ウェストミンスター・アベイは

ウェストミンスター寺院と訳され

ウェストミンスター・カテドラルは

ウェストミンスター大聖堂と訳されるのが

今では通例のようですね。

 

以下に Wikipedia の記事を

貼り付けておきます。

 

 

 

これは、いつ

どういう動機で買ったのか

記憶にないんですけど

やはりアレグリの《ミゼレーレ》

(我を憐れみたまえ)を聴くために

買ったのかもしれません。

 

同じクレオベリーが指揮した

ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団の

やはり《ミゼレーレ》を

タイトルにしたCDは

以前、紹介しましたけど

 

 

クロウバリー指揮KKC《ミゼレーレ》

(ポリグラム POCL-1830、1998.6.1)

 

あちらはルネサンス時代から

現代にかけての曲を

取り上げていました。

 

それに対してこちらは

ルネサンス・バロック時代の曲で

統一されていて、まとまりがよく

録音も、耳遠い感じがせず

あちらより良いかと思われます。

 

収録曲は以下の通り。

 

パレストリーナ

 神に歓喜せよ[エクスルターテ・デオ](H・ワシントン編)

 罪を犯す者

 汝はペテロなり(H・B・コリンズ編)

アントニオ・ロッティ

 十字架につけられ[クルティフィクス]

トマス・ルイス・デ・ヴィクトリア

 シオンよ、讃えよ(A・ペッティ編)

アレグリ

 我を憐れみたまえ[ミゼレーレ・メイ](G・ゲスト編)

モンテヴェルディ

 おんみを崇めん、キリストよ(D・アーノルド編)

 主にむかいて新しき歌をうたえ(同)

カヴァッリ

 ようこそ女王[サルヴェ・レジーナ](R・レッパード編)

ジョヴァンニ・ガブリエリ

 神に歓呼せよ[ユビラーテ・デオ]

 

ほとんどの曲がオリジナルではなく

カッコ内の人々によって

編曲された版だというのが

いただけませんけど

さすがカトリックの伝統を

受け継いできただけのことはある

というべきなのか

ポリフォリーがくっきりと聴き取れ

編曲だと知らなければ

パレストリーナやヴィクトリアは

ルネサンス時代に属しますけど

「やっぱりバロックの曲はいいなあ」

と思って済ませてしまうでしょう。

 

今回、聴き直して

トラック・リストを打つまでは

自分もそう思ったクチです。( ̄▽ ̄)

 

 

ちなみに編曲者ですけど

G・ゲストについては

上にもリンクを貼った

以前の記事(以下)で

書いておいた通りです。

 

 

他に、R・レッパードが

レイモン・レッパードではないか

と思われるものの

他の人たちは

ファーストネームが頭文字で

ファミリーネームだけだと

見当をつけかねます。

 

 

それでもさっと調べてみたところ

A・ペッティのフルネームは

アンソニー・G・ペッティ

Anthony G. Petti(1932-1985)

ではないでしょうか。

 

D・アーノルドは

映画音楽を書いている

デイヴィッド・アーノルド

かもしれませんし

違うかもしれません。

 

 

それはともかく

本盤の表題曲である

アレグリの《ミゼレーレ》については

ボーイ・ソプラノ(トレブル)のソロが

今ひとつという感じがしました。

 

ハイC以外の装飾が

なんだか猪口才な、というか

軽薄さを感じさせるところがあり

聴かせどころのハイCも

ちょっと苦しそうです。

 

もっともこれは

イヤホンで聴いた時の感想で

この記事を打ちながら

パソコンのスピーカーから直に

夜中ということもあり

音を小さくして流していると

さほどひどくも感じませんでした。

 

 

本盤の演奏を誉めている

ブログの記事を見つけましたので

以下に貼り付けておきます。

 

 

この記事の方が書いている

ガブリエリ《神に歓呼せよ》

(ユビラーテ・デオ)の感想には

自分も大いに同感するものです。

 

書いているうちに

思い出してきましたが

上に貼ったブログ記事を

以前、読んで

本盤を聴いてみたくなって

探して購入したのかもしれません。

 

 

ところで

アレグリの《ミゼレーレ》を

本盤で他の曲と並べて聴くと

アレグリの同曲が

ポリフォニー音楽という観点からは

やや魅力に乏しいことを

露呈してしまっている

という気もしています。

 

皆川達夫が

『改訂版 合唱音楽の歴史』で

 

皆川達夫『改訂版 合唱音楽の歴史』

(全音楽譜出版社、1965.12.15/

 上掲写真は1983.4.10. 第17版)

アレグリの「ミゼレレ」にしても、パレストリーナの亜流にすぎず、しかも、本質的にホモフォニーの音楽です。(p.230)

と書いているのが腑に落ちた

とでもいいましょうか。

 

 

ちなみに上記の皆川の著書は

「あとがき」が1965年7月の日付を持ち

「改訂版によせて」が

1974年5月という日付ですので

第17版が改訂版初版

というわけではありません。

 

改訂版初版の年月日は

奥付に記されていないという

実に困った本なのでした。

 

 

困ったといえば

本盤のリリース年月日は

ケース裏側のジャケットに

記されてはいるんですけど

それがタスキ(オビ)に隠れて

見えないんですね。

 

《我を憐れみたまえ[バロック名宗教曲集]》シール・オビ裏側(部分)

 

タスキ(オビ)が

いわゆるシールオビなので

剝して確認したら

タスキが傷むというか

元通りにならないように思えて

剝そうという気になれず。

 

結局

インナートレイを外して

ジャケ裏のペーパーを取り出し

確認する、という手間を

かけねばなりませんでした。

 

《我を憐れみたまえ[バロック名宗教曲集]》ジャケ裏側

 

おまけに年代の表示は

年代記号(アルファベット)の

時期のもので

つくづく面倒なやつ

と思ったのは

ここだけの話です。( ̄▽ ̄)

 

 

話が逸れましたけど

《ミゼレーレ》を聴くためでなく

ルネサンス・バロック期における

合唱宗教音楽(女声抜き)の

ポリフォニー入門盤としてなら

おススメできるのではないか

と思った次第です。

 

トレブル・ソロを聴くなら

音はちょっと悪いですけど

以前の記事で紹介した

ロイ・グッドマン盤が

やはり今のところおススメ

ということになりましょう。

 

でもあちらは歌詞が英語だからなあ。

 

ままならないものです。

以前

ペルゴレージ

《スターバト・マーテル》の

歌のない、ピアノ演奏のみの動画を

ご紹介したことがあります。

 

 

その際

そこで使われている楽譜は

ヘルムート・フッケによる

リダクション版だろう

と当たりをつけて

手元にはそれとは異なるアレンジの

ピアノ独奏版があると書きました。

 

そのCDが出てきましたので

ご紹介しておきます。

 

ピアノ独奏版《スターバト・マーテル》

(独 cpo: 555 103-2、2017.6.22)

 

リリース月日は

タワーレコード・オンラインに拠ります。

 

ピアノ独奏は

ドイツのピアニスト

マリー=ルイーズ・ヒンリクスで

録音は2016年6月13〜14日。

 

独奏用のアレンジは

ヒンリクス自身によるものです。

 

 

ヒンリクスのコメントによれば

とても感動的な音楽だったので

ピアノで弾きたいと思い

独奏譜に起こしたとのことです。

 

2010年に

ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの

本来は声楽曲である作品を

ピアノに編曲して

リリースしたことがあるので

宗教的な感動を受けた音楽に対し

思い入れがあるのかもしれません。

 

以前ご紹介の

ヘルムート・フッケ編曲版は

まさに伴奏譜という感じでしたが

ヒンリクス編曲版になると

本来の歌唱も含めて

演奏しようとしている

という感じがします。

 

 

本盤の《スターバト・マーテル》は

演奏時間が36分ほどなので

ドメニコ・スカルラッティの

500曲以上あるソナタから

以下の5曲が併録されています。

 

 ソナタ 変ロ長調 K.551

 ソナタ ニ短調 K.9

 ソナタ ニ短調 K.64

 ソナタ ハ長調 K.159

 ソナタ ホ長調 K.380

 (K は作品を整理した

  ラルフ・カークパトリックの

  姓に由来します)

 

スカルラッティのソナタは

ホロヴィッツが録音したことで

ピアニストが取り上げることも多く

本盤もその流れにある1枚でしょう。

 

ちょうどチェンバロから

フォルテピアノに移行する時期に

作曲されたこともあり

どうしてもチェンバロでないと

というわけではありませんが

チェンバリストとピアニストでは

演奏する作品の選択に偏りがある

という説を目にしたこともあります。

 

上の5曲の中では

K.9、K.15、K.38 あたりに

聴き覚えがあるので

この3曲はチェンバロでも

よく弾かれる曲かもしれません。

 

 

なお

ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの

ヒンリクスによるピアノ編曲盤は

Vocation - Hildegard von Bingen

Visions(2023)の2タイトルあって

前者は現在、廃盤のようです。

 

いずれも

ヒルデガルト・フォン・ビンゲンだけでなく

ゲオルギイ・グルジエフの曲が併録されており

Visions にはヒンリクス自身の曲も

演奏されています。

 

タワーレコード・オンラインで

コンポーザー・ピアニスト

と紹介されているのは

そういうことによるものでしょうか。