クリストファー・ホグウッドが指揮する
ヘンリー・パーセルの歌劇
《ディドーとエネアス》と一緒に
あざみ野のBOOK•OFFで見つけたのが
今回ご紹介する、こちらの盤です。
(キングレコード KKCC-451、2001.5.23)
原盤レーベルは
古楽ファンにはお馴染みの
ハルモニア・ムンディ・フランスで
むこうでは同じ年の1月に
リリースされたようです。
演奏は
ルネ・ヤーコプス指揮
クレール大学チャペル合唱団と
エイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団。
上では邦盤の表記通り書きましたが
「クレール大学チャペル合唱団」って
どこの大学だろうと思ったら
Clare College Chapel Choir
とありますので
ケンブリッジ・クレア・カレッジ合唱団
あえて正確に訳せば
クレア・カレッジ聖歌隊
ではないかと思われます。
合唱監督はティモシー・ブラウンだと
原盤のライナー小冊子にありますから
ケンブリッジ大学のクレア・カレッジで
間違いないでしょう。
2001年の段階で
カレッジを「大学」と訳すのは
ちょっと見識が疑われますけどね。
ソリストは
ディドー:リン・ドーソン(S)
ベリンダ:ローズマリー・ジョシュア(S)
エネアス:ジェラルド・フィンリー(B)
第2の女(侍女):マリア・クリスティナ・キール(S)
女魔法使い:スーザン・ビックリー(S)
第1の魔女:ドミニク・ヴィス(CT)
第2の魔女:スティーヴン・ウォーラス(CT)
精霊:ロビン・ブレイズ(CT)
水夫:ジョン・ボーエン(T)です。
スーザン・ビックリーについては
検索してみたら
メゾ・ソプラノとしている
サイトもありましたが
ここでは邦盤のライナーに従って
記しておきました。
録音は
ロンドンの
1998年10月に行なわれました。
キャップ(オビ)の表側に
「完全版」と謳われていますけど
別に今までこちらでご紹介の
古楽系の録音が不完全だった
というわけではありません。
キャップの裏側には
「欠落している場や楽器のギター・パートを
音楽学者の協力で蘇生させています」と
書かれていますけど
今までの古楽系の盤にしても同様です。
中古盤の売り手がよく
オビは広告として扱っており
商品の一部と見なしておりません
と注記するのを見かけますが
それもしょうがない
と思わせるような惹句です。
ただ、邦盤の売り手が
何をセールスポイントと考えているか
窺い知ることができるわけで
そういう意識を知る上では
貴重な一文とはいえましょう。
ライナー小冊子の解説は
原盤の解説を
佐藤章が訳したものですけど
ルネ・ヤーコプスが解説の中で
ベンジャミン・ブリテンが
校訂版を出した際の言葉を
引用しているのが貴重です。
古写譜で欠けているのは
第2幕の最後で
女魔法使いと魔女たちが歌う
〈われらの魔法は功を奏した〉と
その後に続く〈森の踊り〉の音楽だ
ということが分かるからです。
ブリテンがその際
パーセルの別のどういう曲を流用したのか
ということが気になりますが
それについては何も書かれていません。
また、ブリテン以前はどうしていたのか
ブリテン以後はブリテンの校訂譜を
流用しているだけなのかということも
気になるんですけど
何も書かれていません。
本盤の場合、ヤーコプスは
セミ・オペラ《妖精の女王》中の曲を
流用したことを明記していますが
これまで聴いてきた盤だと
そこらへんについて
明記されていませんでした。
それゆえに
「欠落している場や楽器のギター・パートを
音楽学者の協力で蘇生させています」
というキャップ表側の惹句が
書かれたのかもしれない
と想像されます。
あと
マリエル・クーリという人の解説中に
同時期のフランスでシャルパンティエが書いた
室内オペラを範としているのではないか
戴冠前のチャールズ2世が
フランスに亡命している時
それを聴いている可能性がある
と書かれている説を
本盤で初めて読み
知見が広がりました。
こうなると
シャルパンティエが書いたという
小型オペラの録音が聴きたくなり
懐が寒くなるのが
辛いところですけど
録音されてるのかしら。
(調べてみたら、もちろん
録音がありました。うーんw)
それはそれとして
本盤の演奏ですが
編成は以下の通り。
ヴァイオリン:9(+2)
ヴィオラ:2(+1)
チェロ:1(+1)
ヴィオローネとヴィオラ・ダ・ガンバ:1
リコーダー:2
バス・リコーダー:1
バスーン:1
チャンバロとオルガン:1
テオルボとギター:3
数字は演奏者数で
カッコ内は
第2幕・第1場のラスト
〈女魔法使いと魔女、妖精による
エコー・ダンス〉を演奏する際の
追加演奏者数です。
メインの旋律に呼応する
エコーの旋律を演奏しているように
自分の耳には聴こえました。
編成に
リコーダーとバスリコーダー
バスーンという
管楽器が加わっているのは
ちょっと珍しいかも。
本盤を聴いてみた印象としては
ソプラノがちょっと弱いというか
自分の肌に合わない感じです。
ソリストの中には
手持ちのCDで歌っている人もおり
一度は歌唱を聴いている人も
いるんですけどね。
ディドー役のリン・ドーソンなどは
ベリンダをやってた人だと
検索していて気づかされましたけど
まったく記憶に残っておらず
我ながら物覚えの悪さに
呆れてしまうばかり。(^^;ゞ
第2幕の第2場は
ベリンダのアリアと
第2の女のアリアから
始まるんですけど
それが両方とも
自分の趣味からすれば
テンポが遅い。
それが一番、気になりました。
善人の側というか
普通の人間の側が
どうも覇気が乏しく感じられるのに対し
女魔法使いや魔女は
生き生きとしています。
生き生きとしすぎなくらい。( ̄▽ ̄)
特にドミニク・ヴィスは
皆川達夫が
レクイエムの演奏について
いっていたように
あざとくオーバーな音楽を作る
というノリが全開。
キャップ(オビ、タスキ)の裏側で
「ことにカウンターテナーの
ドミニク・ヴィスの芸達者ぶりは
特筆もの」とか書かれているのも
むべなるかな。
確かに魔女という役柄には
合っているとは思いますけど
ディドー&エネアス側が暗いので
悪目立ちしている感じが
しないでもなく。
ここらへんのバランスは
難しいですね。
効果音は1箇所だけ
第2幕の冒頭
魔法使いや魔女たちの
洞窟の場面で
雷鳴が鳴りますが
ちょっとリアルすぎる気も
しないではなく。
SEを使っただろう!
と突っ込みたくなったり。( ̄▽ ̄)
全体的に
微温的な印象は拭えず
(ヴィスは除くw)
愛聴盤になるかといえば
微妙なところですね。
ピノックやパロット
ホグウッドの演奏に
軍配をあげずにはいられない
というのが正直なところ
だったりします。