(ポリドール POCL-1470、1994.8.25)
先月、春期講習で
あざみ野まで行った際に
同地のBOOK•OFFで見つけました。
クリストファー・ホグウッド指揮
エンシェント室内管弦楽団&合唱団の
ヘンリー・パーセルの歌劇
《ディドーとエネアス》の演奏を
探していたところだったのに加え
自分の基準からすると適価だったので
チョー嬉しかったです。
原盤は、古楽ファンにはお馴染み
イギリスのデッカ・レコード傘下の
古楽専門レーベル、オワゾリールから
1994年の6月1日に
リリースされたようです。
録音はロンドンの
ウォルサム・アセンブリー・ホールで
1992年9月2〜4日に
行なわれました。
ライナーには
雷雨などの効果音を
スウェーデンの
ドロットニングホルム宮廷で用いられた
オリジナルの機械装置を使ったと
書かれていますけど
ドロットニングホルムでの録音ではないので
借りてきたということでしょうかね。
この装置を使った効果音ですが
金属板を叩いているようにしか
聴こえなかったりしたりして
そこが愉快かつ
悩ましいところかなあと。( ̄▽ ̄)
ソリストは
ディドー:キャサリン・ボット(S)
エネアス:ジョン・マーク・エインズリー(T)
ベリンダ:エマ・カークビー(S)
第2の女:ジュリアン・ベアード(S)
魔法使い:デイヴィッド・トーマス(B)
第1の魔女:エリザベス・プライデイ(S)
第2の魔女:セイラ・ストー(S)
精霊:マイケル・チャンス(CT)
水夫:ダニエル・ロックマン(B-S)
ディドーを演じていたカークビーは
こちらではベリンダを演じてますが
ライナーの解説で礒山雅が
次のように述べているのに同感です。
何よりの華は、美しい旋律に恵まれたベリンダ役をエマ・カークビーが歌っていることだ。彼女はもちろんディドーの歌い手としても知られているが、声に合うのはやはりベリンダの方で、その結果、より落ちついた風格を見せるキャサリン・ボット(ディドー)との間に、理にかなった対比が生み出されている。(p.7)
自分の場合
『古楽CD100ガイド』
(国書刊行会、1996)で
那須輝彦が次のように書いているため
キャサリン・ボットのハスキーなダイドーは、むしろ下町の姐御風情に聞こえなくもないのだが、他のCDでもダイドー歌手は一長一短である。(p.144)
どれだけハスキーなのかと
身構えてたんですが
さほどとも思えず
違和感なく聴けたことを
付け加えておきます。
魔法使いがバスなのは
ライナーに書いてあったように
17世紀後半の演劇において
魔女役は男性が演じるという
習慣があったことによります。
ライナーでは
そのように書かれているのに
パロット盤ではテノールでしたけど
ホグウッド盤ではちゃんと
バスが演じてます。
精霊役を
カウンターテノールが演じるのは
ライナーに載っている
ホグウッドの解説によれば
カウンターテノールという存在が
「伝統的に超自然的な連想を持つ」
ことに由来するそうです。
エネアスが
バスではなくテノールというのは
珍しいといえば珍しい。
テノールにした理由は
どこにも書かれていませんが
テノールが演じることで
経験が乏しい若造であるがゆえに
魔女の計略に引っかかってしまうところ
あるいは若さゆえの
ある意味、軽率な振る舞いに
説得力が感じられる気もします。
第2幕で
狩の獲物を見せるところは
もう少し表情をつけても
と思いましたけど。
もうひとつ珍しいのは
水夫役をトレブル
(ボーイ・ソプラノ)が
演じていること。
ライナーの解説ではホグウッドが
「音部記号が示す通り」と述べており
当時は11歳で士官候補生になれた
と注釈を入れてます。
音部記号とはなんなのか
何を指すのか分からず
検索してみたところ
Wikipedia に立項されてましたけど
そちらよりも以下の記事の方が
分かりやすいかもです。
《ディドーとエネアス》は
女子寄宿学校の生徒のために
作曲されたものだと
考えられていましたが
初演は王宮ではないか
という説が唱えられていることを
以前にも当ブログで書きました。
今回のホグウッド盤が
初めて、その説に従って
ただし王宮での上演ではなく
本格的な劇場での上演を想定し
録音したものになります。
パロット新録音盤は
宮殿で初演されたという想定で
むしろ編成を少なくしていましたが
ホグウッド盤は劇場での上演
というふうに想定しているため
むしろ以下のような
大きな編成で演奏しています。
第1ヴァイオリン:7
第2ヴァイオリン:7
ヴィオラ:5
バス・ド・ヴィオロン:5
バス・ヴィオール:1
アーチ・リュート:1
ギター:2
テオルボ:1
チェンバロ:2
それでいて合唱の編成は
ソプラノ4
アルト、テノール各3
バス4、というふうに
むしろ小さいくらいですが
それでもパロット盤よりは多い。
(パロット盤はA、T、Bは各2)
録音はホールだからなのか
マイクの位置が遠い感じがされ
例によって古い方のパソコンで
Bluetoothのイヤホンで聴くと
やや音が聴き取りにくいので
新しい方でイヤホンを使わずに
聴き直しました。
それでも冒頭の
ベリンダのアリアは
舞台の袖から登場して
徐々に中央に移動しながら
歌っているように聴こえましたが
これは演出なのかどうか。
それとも自分の耳がおかしいのか。( ̄▽ ̄)
なお、ライナー小冊子には
礒山雅の短い解説と
音楽学者リチャード・ラケットの「曲目について」
アン・シュナイダー執筆の「あらすじ」
ホグウッドの「演奏のためのノート」
佐藤章による歌詞対訳(またもや!)
執筆者不詳のアーティスト紹介が
掲載されています。
ラケットの「曲目について」は
オリジナルの資料がどういうものか
という説明に加え
王宮での初演説の
経緯などが書かれており
たいへん有益でした。
寄宿学校版の
台本の表紙の写真が
掲載されているのも
ありがたかったです。
ただひとつ、文末に
「[礒山 雅・訳/一部省略]」
と記されているのが
気になるところ。
専門的すぎる部分は省略した
ということなんでしょうか。
だとしたら
余計なお世話だったと
個人的には
思うんですけどね。( ̄▽ ̄)
それにしても
初リリース時が箱入り版だとは
思いもよらず。
しかもディスクの受け皿は
プラスチック整形のものが
箱に直接貼り付けられています。
箱にしたのは
ライナー小冊子が
厚くなったためだろうと
思われますけれども
サイズに合うビニール袋の調達に
苦労させられたり
(冒頭の写真のは紙ジャケ用のものを流用)
受け皿のツメが折れたら
処置なしだったりと
不便なことがいろいろありうるため
個人的には、あまり好みではありません。
幸いタスキ(オビ)の方は
折れ曲げずに収まりますので
とりあえずビニール袋について
考えずに済むのが
わずかに救いですけれど。
収集マニア寄りの
懲りない悩みでした。(^^ゞ