前回の記事の最後でふれた

アンドリュー・パロットが指揮する

ヘンリー・パーセルの歌劇

《ディドーとエネアス》の

新録音盤の日本流通盤がこちら。

 

《ディドーとエネアス》パロット新録音盤

(Sony Records: SRCR-2515、2000.4.19)

 

録音は1994年9月9〜15日

聖ジャイルズ・クリップルゲート

行なわれました。

 

ソニーの原盤は

1999年3月にリリースされたようで

録音時期から離れすぎてますから

ソニー盤以前にどこからか

リリースされているかも知れません。

 

日本リリース盤については

本盤が初かと思いますけれど。

 

なお、今回の邦盤では

「ディド」と表記されていますが

ここでは慣例に従い

「ディドー」と表記しています。

 

 

ソリストは

ディドー:エミリー・ヴァン・エヴェラ(S)

エネアス:ベン・バリー(B)

ベリンダ:ジャネット・ラックス(S)

第2の女:ハネ・マリ・オアベック(S)

女魔法使い:ヘイデン・アンドルーズ(T)

第1の魔女:ケイト・エカーズリー(S)

第2の魔女:ルーシー・スキャピング(S)

精霊:サラ・ストーウ(S)

水夫:ダグラス・ウットン(T)

 

ご覧になってお気づきの通り

旧録音盤で第1の魔女を演じていた

ヴァン・エヴェラが

主役に抜擢されています。

 

ヴァン・エヴェラのディドーは

エマ・カークビーのディドーに比べると

「可憐にすぎる」(那須輝彦)ことはなく

かといって、矍鑠とした感じでもなくて

バランスが取れているように

個人的には思った次第です。

 

その他の人は

知らない人ばかりですけど

ベリンダ役のラックスの声質が

しっかりものの侍女という

当方の個人的な印象からすると

ちょっと合わないかなあ

という感じでした。

 

 

なお、女魔法使い役が男声なのは

ライナー小冊子の解説

(ロジャー・サヴェジ執筆の

原盤解説。翻訳は渡辺正)によると

17世紀後半の演劇では魔女役は男性が演じる習慣があったから、テイトとパーセルは邪悪な女魔法使い役としてバリトンを想定した可能性があり、この録音ではその案を採用している(pp.8-9)

とのことですけど

解説ではバリトンとあるのに

実際の録音ではテノールだという。( ̄▽ ̄)

 

以前、当ブログでご案内の

フィリップ・ピエルロ指揮版では

カウンターテナーのダミアン・ギヨンが

女魔法使いを演じてましたから

テノールかカウンターテナーが演じる

というのが定着しているのかも知れません。

 

 

やはり小冊子の解説に

今回は室内楽的な録音によって描き出されている。そのねらいは、当時のホワイトホール宮殿で行われた王政復古時代の演劇が持つ小規模かつ特権的な雰囲気を伝えることにある(p.8)

と書かれていたので

編成を確認してみたところ

確かに弦の数は少し減ってました。

 

●旧盤の編成→新盤の編成

ヴァイオリン6→2

ヴィオラ2→1

バス・ヴァイオリン1→1

バス・ヴィオール1→1

アーチリュート/ギター1→テオルボ/ギター2

チェンバロ1→2

 

アーチリュート、ないしテオルボと

ギターの奏者が1人増えているのは

旧盤では1人の奏者が

場面によって使い分けていたものを

アーチリュートないしテオルボ

そしてギターのそれぞれに

奏者が1人あてられた

ということではないかと思います。

 

チェンバロが

2台に増えている理由は

よく分かりません。

 

レチタティーヴォやアリアの奏者と

シンフォニーの奏者を分けた

ということなんでしょうかね。

 

 

合唱の人数も少し変えています。

 

●旧盤の合唱→新盤の合唱

ソプラノ6→4

アルト0→カウンターテナー2

テノール4→2

バス2→2

 

旧盤では0人だったアルト・パートが

新盤ではカウンターテナーとして

2人足していますけど

これはテノールを2人減らしたことに

対応しているのかどうか。

 

ソプラノが2人減ってますから

やや小規模になった

といえるのかも。

 

 

今回、合唱の人数を確認して

気づいたんですが

旧盤のソプラノ6人の中には

第1・第2の魔女と聖霊を演じた

エミリー・ヴァン・エヴェラ

レイチェル・ベヴァン

テッサ・ボナーも加わっています。

 

ソリストが合唱にも

加わっていたわけですが

新録音盤では予算が潤沢だったのか

合唱にソリストが加わることは

ありませんでした。

 

これまた

すでにご紹介済みの

ピエルロ指揮版だと

合唱メンバーが

第2の魔女や第1の水夫を

演じたりしてるようですから

ダブル・キャストというのは

よくあることなのかも知れません。

 

 

なお、宮廷で初演された

という説に沿っての演奏だからか

以下に記す通り

効果音が旧録音よりも増えてます。

 

第2幕第1場

 冒頭に雷の効果音

 最後に落雷の効果音

第2幕第2場

 ベリンダのアリアの前に鳥の鳴き声

 狩の一行を襲う嵐の場面に効果音

 

旧録音では最後の

狩の一行を襲う嵐の効果音だけ

でしたからね。

 

ちなみに

効果音はどういう楽器によるものか

奏者は誰なのかについては

ライナーに記載がありません。

 

雷などについては

ティンパニなど普通の打楽器か

サンダー・シートあたりが

使われたものと思われます。

 

サンダー・シートは以前

ジャン=フィリップ・ラモーの

オペラからのアリアを演奏する際に

使われているのを観たような記憶があり

バロック・オペラの効果音というのは

なるほどこうだったのかと

思ったものでした。

 

鳥の鳴き声については

管楽器というよりも

バード・コールという

擬音楽器のような気がします。

 

バロック時代に

バード・コールがあったのかどうか

よく分からないのが

もどかしい。

 

 

本盤には最後に

3つのヴァイオリンと通奏低音のための

パヴァン ト短調 Z.752 の演奏が

ついています。

 

ボーナス・トラックのようですが

その意味でつけた付録なのか

《ディドーとエネアス》の

最後に演奏するのにふさわしい

と判断してのことなのかどうかは

解説にもいっさい書かれておらず

よく分かりません。

 

 

なお、本盤は

2014年になって

Avie Records から

再リリースされています。

 

 

それだけ人気がある、

需要があるということですかね。