皆川達夫が

『ルネサンス・バロック名曲名盤100』

(音楽之友社 ON BOOKS、1992)で

《奥様になった女中》の

推奨盤としてあげていたのは

こちら↓のディスクでした。

 

《奥様女中》ネーメト指揮盤

(日本コロムビア 33CO-1671、1987.7.21)

 

あげられてはいるものの

すでに廃盤と書かれていて

そんなもの、どうやって探せば

と、当時、頭を抱えたものでした。

 

まあ、頭を抱えはしたものの

オペラは食わず嫌いだったので

さほど気にしてたわけでもなく。( ̄▽ ̄)

 

それでも

その後ずいぶん経ってから

確か立川のディスクユニオンで

見つけたときには

さすがに感慨に耽らずに

いられませんでしたけれど。

 

でもまあ、買った当時

すぐに聴いたわけでもなく

ほっぽっといたんですが

先に当ブログで取り上げた

ブルスカンティーニ盤が出た縁で

ようやく聴く気になった次第です。(^^ゞ

 

 

タスキ(オビ)裏には

「これまでなかったのが

 不思議なくらいの

 初めての“オリジナル演奏”による」

と書かれていて

ほほう、と感心したり。

 

その演奏については

皆川達夫は上掲書で

「芸達者ではありますが、

 すこしスキがあって

 最上の好演とはいえません」

と書いています。

 

スキがある、というのは

どういうニュアンスか

分かりませんけど

個人的にいえば

全体的にふわふわとして

輪郭がくっきりしていない

という印象を受ける演奏かと。

 

バスの低音部とか

頑張ってるんですけど

ウベルトがやや貫禄に乏しい

という印象を与えるあたりが

いちばんのネックかと。

 

 

原盤はハンガリーのレーベル

フンガロトン Hungaroton で

指揮者のネーメトは

以前、当ブログにて

ヴィヴァルディのモテット

紹介した時のディスクでも

棒を振っていた人です。

 

そう思って聴くと

親しみが湧くのですけどね。

 

 

本盤の場合

演奏よりも何よりも

ライナーの解説が

非常に有益でした。

 

本盤がリリースされた当時

一般的に使われていた

《奥様になった女中》の楽譜は

1752年にパリで上演された後に

同地で出版された初版譜に基づいており

終曲のデュエットが

'Per te io ho nel core'

(あなたのせいでこの胸を)

ではなく

'Contento tu sarai'

(これからあなたは満ち足りて)

だったそうです。

 

ネーメト盤は

ナポリにある音楽院図書館所蔵の

最古の筆写譜に基づいており

その筆写譜における

最後のデュエットが

'Contento tu sarai'

だったのだとか。

 

これまで

'Contento tu sarai' は

パリで初版譜が出た際に

新しく付け加えられたもの

と考えられていたそうですが

イタリア語による

最古の筆写譜にあることで

無名のイタリア人作曲家か

あるいはペルゴレージ自身の作曲

という可能性も

出てきたのだそうです。

 

そしてその筆写譜に

'Contento tu sarai' の

前半部分は喪失したという

注意書きがあるのを根拠として

ネーメト盤では

'Per te io ho nel core' と

'Contento tu sarai' を

続けて演奏する形にしたのだとか。

 

 

このライナーの記述を読んで

驚いたのなんの。

 

これまで聴いた録音が

どうだったか

確認したくなったのは

いうまでもありません。

 

その結果

2つの舞台映像はさておいて

(確認するのに観直さなければならず

 ちょっと時間が取れないので)

今まで取り上げてきたディスクは

'Per te io ho nel core' と

'Contento tu sarai' の

どちらかしか収録していないことが

判明した次第です。

 

今のところ

確認できた範囲だと

両方とも演奏しているのは

本盤だけのようでした

 

 

ちなみに

以前にもご紹介した

『はっち訳 奥様女中』では

 

『はっち訳 奥様女中』

(私家版、2021.3.15)

 

'Per te io ho nel core' と

'Contento tu sarai' が

両方とも収められ

訳されています。

 

当記事で

最初につけた歌詞の訳は

ですから『はっち訳』から

採ったものであることを

お断りしておきます。

 

 

なお、ネーメト盤には

《奥様女中》の他に

問題のフランスで出版された

初版譜に追加されていた3曲のアリアが

ピエール・ボウラン作曲

「《奥様女中》のための3つのアリア」

として併録されています。

 

もちろん

フランス語で歌われており

こういうところは

古楽演奏盤らしい趣向ですね。

 

 

ところで

そのフランス語版による演奏も

最近リリースされたことを知り

輸入盤しかないようですが

あわてて注文してしまいました。

 

こうして思いもよらず

《奥様女中》沼にズブズブと

ハマっていくことに. . . Orz