2014年に亡くなった

クリストファー・ホグウッドは

トレヴァー・ピノックや

ジョン・エリオット・ガーディナーと並んで

イギリスの古楽演奏を牽引してきた存在

という印象があります。

 

ほとんどの録音が

オワゾリール・レーベルで出ているので

セオンやドイツ・ハルモニア・ムンディ(DHM)

アルヒーフなどのCDを中心に

聴いてきた人間には

あまり聴く機会に恵まれず

手許にもホグウッドのCDって

実はそんなになかったり。

 

それでもその令名は

よく伺っていましたので

ヴィヴァルディのボックスを

ディスクユニオンで見つけた時

ヴォーカル作品も入っていることを知り

ちょっと悩んでから

購入することにしました。

 

それがこちらの

The Vivaldi Recordings.

 

Hogwood: The Vivaldi Recordings

(Universal Music: 480 8019、2013)

 

1976年から2000年にかけて

オワゾリース・レーベルに残された

録音を集成した20枚組。

 

演奏はホグウッド率いる

アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック

The Academy of Ancient Music で

曲によってはホグウッドも

チェンバロやオルガンを担当しています。

(ホグウッドはもともと鍵盤奏者)

 

 

CD1〜18までが器楽曲で

残り2枚に声楽曲が収録されています。

 

ピノックのボックス

声楽曲抜きで7枚組だったのに比べると

その倍以上あるのにはびっくり。

 

さらに、ピノックのボックスでは

声楽曲がオミットされていたのに対し

ちゃんと入っているのも

好感度高し、といったところ。

 

 

ホグウッドは声楽曲では

ソプラノのエマ・カークビーと

組むことが多かったような

印象があります。

 

本ボックスでも

カークビーが参加しており

モテット《まことの安らぎはこの世にはなく》RV630 と

カンタータ《愛よ、お前の勝ちだ》RV651 を

歌っています。

 

(モテットは1978年、

 カンタータは1980年の録音。

 ちなみに本ボックスではRV630は

 なぜかカンタータと記されています)

 

その他に

カウンターテナーのジェイムズ・ボウマンが歌う

スターバト・マーテル RV621 と

ニシ・ドミヌス RV608

(録音年不詳。1976年かも)

サイモン・プレストン指揮の

グローリア RV589 を収録。

(録音は1978年7月)

 

グローリアにも

エマ・カークビーが

ソプラノ独唱で参加しています。

 

 

1970年代後半の時点で

モテットとカンタータを録音しているのは

特に後者は、かなり早い方でしょう。

 

エマ・カークビーの歌唱は

最近のイタリア系の録音に比べると

アクの強さに欠ける気が

しないでもありません。

 

それでも

その透き通った素直な歌声は

一聴に値するといえましょうか。

 

 

前にコルボの旧盤

『グローリア・ミサ』のトラックについて

1楽曲1トラックは変だ

というようなことを書きましたが

ここに収められている歌曲の場合も

トラックの切り方が独特です。

 

さすがに1楽曲1トラック

というわけではありませんけど

スターバト・マーテルが

3トラックになっているのは

何か意図がありそう。

 

そんなことを考えながら聴くのも

また愉し、といったところ。

 

 

グローリアは、皆川達夫の

『ルネサンス・バロック名曲名盤100』

(音楽之友社 ON BOOKS、1992)に

ピノックに次ぐ推薦盤として

あげられていたものです。

 

皆川があげた盤は以前に購入済みで

それがこちら。

 

プレストン『グローリア/マニフィカト』

(ポリドール POCL-2549、1991.8.25)

 

オワゾリール・ベスト50という

シリーズものの1枚です。

 

セオンとDHMの

オーセンティック・ベスト50

というシリーズを揃えていたので

こちらのベスト50は買い控えていたのか

ほとんど持ってません。

 

 

これを購入したのは

皆川があげていたからというより

廉価だったのに加えて

バッハのマニフィカト 変ホ長調版が

収録されていたから

ではなかったか知らん。

 

一般的に録音されるマニフィカトは

ニ長調版ですけど

ここではクリスマス用の最初の稿が

収録されていて珍しい

と思ったんでしょう。

 

ヴィヴァルディのグローリアも

クリスマスに由来する要素があるので

このカップリングになったものと思われます。

 

 

皆川は前掲書で

本盤のグローリア演奏について

「合唱の扱いには不満が残ります」

と書いています。

 

自分が初めて聴いたときの印象は

もう覚えてませんけど

今回、聴き直してみると

確かに冒頭の合唱は今ひとつ。

(あと、コントラルト独唱が弱い)

 

ただ、ボックス版で聴き直すと

リマスタリングされているためなのか

バッハとのカップリング盤よりも

ちょっとマシかなと思いました。

(コントラルトはやっぱり弱いですけど)

 

 

あと、全体として

ピノック盤のように

きらきらと華やかなのではなく

穏やかで落着いた感じなんですが

それはクリスマス用ということを

意識したからかもしれません。

 

でも、最後のフーガは

個人的にはもう少しテンポが早くても

いいかなと思います。

 

 

グローリアの合唱パートは

サイモン・プレストン率いる

オックスフォード・クライスト・チャーチ聖歌隊が

歌っているんですけど

聴いているうちに

もしかしたら男声だけの合唱隊ではないか

というふうに感じてきました。

 

そう思って聴くと

ソプラノ・パートは

ボーイ・ソプラノのように

聴こえてくる。

 

皆川が合唱の扱いに

不満を覚えたのは

そのためではないか知らん

とか思ったり。

 

 

それにグローリアは

ピエタ女子養育院の生徒が

歌うことを前提として

作られたものと思われるので

男声の合唱隊を起用すると

オーセンティックとはいえない

という気もしてきたり。

 

もっとも

ボーイ・ソプラノだと思って聴けば

それなりに興味深く聴けるので

オーセンティックかどうかに

あまりこだわる必要は

ないのかもしれませんけれど。

 

 

なお、上で書いた

グローリアの録音年月は

オワゾリール・ベスト50盤記載の

データに拠ります。

 

ホグウッドのボックスだと

スターバト・マーテル、ニシ・ドミヌス

グローリアを収録したCD20のデータは

「1975-1980」とあるだけで

なぜかこの盤だけ

表示がいいかげんなのでした。

 

マルPが1976とありますから

(上でスターバト・マーテルと

 ニシ・ドミヌスの録音年を

 1976年かも、としたのは、それゆえ)

それだけでも「1980」とあるのは

おかしいわけですけど

不思議とこういうミス(?)があるため

バッハとのカップリング盤も

買っておいて正解でした。

 

ちなみに

バッハとのカップリング盤では

グローリアのマルPが

1978年となっていることを

付け加えておきます。

 
 
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