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柔道が足りてない!

昨今、柔道人口の減少が深刻みたいなので、皆様にちょっとでも興味を持って頂けるような柔道ネタなど書いて行ければと存じます。

例年は秋に開催されていた講道館杯。

新型コロナの影響で1月17、18日に延期となっていたのですが、残念ながらオミクロン株蔓延の影響で、中止となってしまいました。

 

試合に向けて準備していた選手や関係者にとって、直前の中止決定によるショックの大きさは想像に難くありません。

もう少し早い段階で中止の決断を下せなかったのかという気も致しますが、感染者数の急速な増加で仕方ない部分もあったのだと思います。

 

今回の議題はしかし、その事ではありません。

 

講道館杯では、有力選手が大会直前で欠場を表明する事態が恒例になっている印象です。

もちろん、怪我や体調不良などでどうしても出場できないという場合もあると思いますが、何やら別の事情で欠場が相次いでいると思われる節があります。

 

何故このような事が多発するのか?

 

講道館杯の位置付けをググってみますと、この大会の成績及び内容と過去一年の成績及び内容から、全日本強化選手と日本で開催されるグランドスラム大会代表選手が選考されるとの事です。

 

ここでのポイントは、講道館杯の成績や内容だけではなく、過去一年の成績や内容も選考の条件に加味されるというところです。

つまり、過去一年で成績を残した有力選手は、講道館杯で成績を残さずとも強化選手に選ばれる可能性が高いという事になります。

 

過去一年である程度の成績を残した選手の立場からすると、怪我や敗退のリスクを犯して講道館杯に出場するよりも、大会出場を回避したいと考えるのは十分理解できます。

 

しかし試合を観戦する柔道ファンの立場からすると、楽しみにしていた注目選手がイマイチはっきりしない事情で急遽欠場する事が常態化しているというのは、大会のしくみ自体に重大な欠陥があるのではないかと考えざるを得ません。

 

出場する予定だった注目選手が直前に続々と欠場を表明。

一概に比べる事はできないかもしれませんが、プロの格闘技イベントなどで同じような事が頻繁に起きれば、ファンからそっぽを向かれてしまうでしょう。

 

IJFは観戦者にとって柔道がよりエキサイティングな内容となるようルール変更を行っていますが、この大会も柔道ファンを重視するのであれば、出場予定だった選手が欠場する事態は最小限になるよう、しくみを見直すべきではないかと考えます。

あけましておめでとうございます。

 

昨年12/30に、突如IJFルールの変更について発表があり、柔道愛好家の間で騒然としましたので、その内容について触れていきたいと存じます。

 

まず、今回のルール変更の方向性としては、柔道選手の安全を確保する目的と、柔道競技を一般層やメディアにとってより魅力的なものとする目的が挙げられており、2024パリ五輪までのルールとして施行されます。

 

ちなみに、東京五輪までのIJFルールに関する小生の感想はこちらにアップしています。

 

 

さて、それでは具体的な変更内容を見てまいります。

 

技の連続性

技を掛けてから相手の背中が着くまでに、一連の動作が途切れていなければスコアになり、途中で一旦技が止まった場合は、そこから返して相手の背中を着けてもノースコアの判定となります。

 

今までのルールも概ね上記の方針に沿っていたと思いますが、今後はより厳格化し、一旦技が途切れた場合はノースコアというのを徹底していくという事かと思います。

 

ルールとして厳格化する事には個人的に賛成ですが、一方で一般層にとっては、一連の動作が連続しているかどうかの判断が分かりづらく、ルールが複雑と写ってしまう危険性はあるように感じます。

 

 

「技あり」の判定

肩と背中が畳に着き、肩と背中を結ぶラインが畳のラインから90度か、それ以上背中側に傾いていれば、下の腕が背中側に出ていたとしてもスコア。90度よりも腹側に傾いていればノースコアの判定となります。

 

東京五輪では、下の腕が背中側に出ていればノースコア、体の前方に出ていればスコアの判定だったことから、不十分に見える落ち方であっても「技あり」判定となるケースが頻発し、全体的に判定が甘い印象を受けましたが、今回のルール変更で「技あり」を厳格化する事で、この辺の違和感は解消されそうです。

 

 

両手や両肘で着地した場合の判定

大内刈などで後ろに倒された際に、両肘や両手を後ろ手に着いて背中が着くのを阻止しようとした場合、相手の技に「技あり」が与えられ、後ろ手に着いた側には「指導」が与えられます。

 

確かに、後ろ手に肘や手を着く行為は脱臼の危険があるため、この行為をすることで「技あり」を回避できるという「危険な行為をして得をする」状況をルールで規制しようという試みと考えられます。

 

 

「めくり」技はノースコア

相手の払腰や内股を潰し、相手の釣り手方向にめくり返す隅落は、ノースコアとなるようです。

名目上は選手の安全を配慮したとの事ですが、本音としては払腰や内股へのカウンター技を封じる事で、これらの技を優遇する措置なのではないかと勘ぐります。

 

個人的には、持ち技のひとつを封じられて痛いところですが、幸い「指導」の対象ではないようなので、ノースコアであっても隅落でめくっておいて抑え込むという使い方はできそう。

 

 

逆背負投(いわゆる韓国背負)の禁止

今回、最も衝撃的だったのは、このルール変更ではないでしょうか。

 

北京五輪60kg級で金メダルを取った韓国のチェ・ミンホ氏らが得意技として多用し、一時期流行して世界中に広まった事から通称「韓国背負」と呼ばれる技術が、ノースコア&「指導」の対象となってしまいました。

 

確かに韓国背負は、通常の背負投とは反対側(引き手側の肩越し)に投げ落とすことから、投げられる側としては意表を突かれるため受け身が取りづらいという理由で、日本でも少年規定のルールでは禁止されていましたが、IJFのルールとして禁じてくるとは意外でした。

 

近年のルール変更の全体的な傾向を見ると、立ち関節やベアハグを禁止にするなど、いわゆる奇襲技をルールで規制する方向に進んでいるような印象を受けます。

 

ちなみに韓国背負も、個人的に持ち技の一つだったので、禁止措置は痛手です。

 

 

投げ技の最終局面で相手の帯より下を掴む行為

公式の説明が分かりづらく、小生の解釈に間違いが無いか不安なのですが、例えば払巻込や外巻込などで巻き込んでいって、最後に相手を裏返す局面で相手の脚に手が触れるのはスコアとして認められ、巻き込みの途中で一旦動作が止まった場合、それ以降は相手の帯より下を掴む行為は寝技として認められる、という事のようです。

 

このルールも「技の連続性」に関するルールと同様、立ち技と寝技の境界が分かりづらく、一般層から敬遠される要因になりかねない気が致します。

 

 

両襟(引き手で前襟、釣り手で奥襟)の組み手について

相手を投げようとして攻め続けている限り、両襟の組み手をキープしていても「指導」は与えられないという内容です。

 

 

標準的ではない組み方について

相手の帯を掴む、片襟、クロスグリップ、ピストルグリップ、ポケットグリップなどの「標準的ではない組み手」は、攻撃の準備として用いられる場合には反則とならないようです。

 

現時点では情報量が少なく、このルールの細かい部分に関しては続報待ちといった感じです。

 

 

組み手を切る行為について

組み手を切った後、すぐに相手を掴みに行かない場合は「指導」の対象となります。

 

公式の動画を見る限り、相手の袖などを掴んだ状態で組み手を切る場合はお咎め無し。

具体的にどの程度厳密に「指導」を取るのかは、実際の試合を見て判断する必要がありそうです。

 

 

柔道衣や髪を直す行為

1試合の中で、乱れた柔道衣や髪を直すのは1回のみ認められ、2回目以降は「指導」との事。

柔道衣に関しては、自ら一度帯を解いて結び直す行為の事を指していると思われます。

 

休むための時間稼ぎ/遅延行為を禁じるためのルールと考えられます。

 

 

ヘッド・ダイビングについて

内股などを掛けた側が頭から畳に突っ込む行為(ヘッド・ダイビング)は、これまでも「反則負け」の対象でしたが、今後はこの反則をさらに厳格に取るという事のようです。

 

東京五輪でも、大野選手の内股がヘッド・ダイブではないかと一部で物議となりました。当時はお咎め無しでしたが、今後は「反則負け」の対象となる可能性が高いです。

 

 

 

以上が、今回発表されたルール変更の内容ですが、今までの経緯から判断すると、国内でも今年からこのルールが適用されるものと思われます。

柔道の乱取り稽古で意外と陥りがちな状況として、同じ相手にいつも同じパターンでやられてしまう、といった事があるかと思います。

 

小生も、上記のような状況にハマっていたのですが、やられる原因について考えてみたところ状況が好転した例がありましたのでシェアしたく存じます。

 

小生が陥っていた状況としては、

・いつもやられているのは、自分より体格で上回る相四つの相手。

・組み負けて苦しい体勢になり、一か八かの接近戦を挑んで、返り討ちに合うというのが負けパターン。

 

いつもやられる状況を上記のように書き出してみると、どこが悪いのか考えをまとめやすくなる気が致します。

 

小生の場合、組み負けて苦しい体勢になり、焦って体格で勝る相手に無理な接近戦を挑んでいたのが失敗の原因と考えました。

 

そこで、組み負けた際に焦って技を掛けようとするのではなく、まずは凌ぐ事に注力したところ、奏功したのか同じパターンでやられる場面が減りました。

 

上記のケースだと、「凌ぐ事に注力する」という対策が巧くいきましたが、対策案を試してみたものの巧くいかない場合だってありますし、現時点での自分にできる手札の中には良い対処法が無い事もあり得るでしょう。

 

そのような場合であってもトライアル&エラーで良い対策案を探す、或いは自分の手札を増やすために新しい技や体捌きを練習する、といった試行錯誤が、柔道稽古の醍醐味のひとつだと感じます。

ブラジリアン柔術や総合格闘技では通称「キムラロック」として知られる形です。「キムラ」の呼称の由来は、昭和初期の柔道家・木村政彦が得意としていた腕緘で、柔術家・エリオ・グレイシーに勝利した事にちなんで付けられたとの事です。

高専/七帝柔道だと「召し取り」などとも呼ばれるようです。

以前、外旋型の腕緘(いわゆる「固の形」の腕緘)について投稿した際に、相手の肘角度を90度にして掛けると肩関節が極まりやすい旨を紹介しましたが、内旋型は外旋型以上に肩関節が極まりやすく、現行の柔道ルールでは厳密に言うと肩関節を極めるのは反則になってしまいます。

しかしながら、実際の試合ではこの辺のルール適用は曖昧で、腕緘で肩関節が極まっていたとしても(肩を脱臼するなど明確な証拠が無い限りは)反則を取らない事が多いようです。

とは言え、柔道の試合で内旋型の腕緘を極める際には、相手の肘を伸展させてピンポイントで肘関節に圧が加わるようにするなど、できるだけ肩が極まらないようにするのが無難だと思います。

このように、極め技として使う際には注意が必要ですが、内旋型の腕緘は抑え込みや立ち技との相性も良く、立ち姿勢や亀の相手の腕を捉え、引込返のようにして「召し取り返し」で寝技に移行するパターンは、東京五輪で金メダルを取った阿部詩選手や濱田尚里選手も試合で多用しています(立ち関節は現行ルール上反則ですが、相手の腕を捉えた時点では関節が極まっていないという事で、立ち姿勢で使っても反則にはならないようです)。


ちなみに、ブラジリアン柔術では、腕緘のグリップは、親指と四指で相手の手首を挟む「サムアラウンド(鷲掴み)グリップ」よりも、親指は自分の掌側面に添えて指を相手の手首に引っ掛ける「サムレスグリップ」の方が良いと言われます。

 

サムアラウンド(鷲掴み)グリップ

 

サムレスグリップ

 

何故、鷲掴みよりもサムレスグリップの方が良いとされるのか?については諸説あるようですが、個人的には「相手の肘が曲がった状態で腕緘のグリップを作る場合、サムレスグリップの方がタイトに組める(鷲掴みにすると親指の位置で止まるので、それ以上深く組めない)から」ではないかと解釈しています。

 

あくまで個人的な印象ですが、手首を相手の体に押し付けるようにして動きを制したい場合はサムレスグリップが効率良く、手首を相手の体から遠ざけたい場合(相手の肘を伸展させて極めにいく時など)には鷲掴みの方がやりやすい気が致します。

 

参考までに、前述の木村政彦、阿部詩選手は鷲掴み、濱田尚里選手はサムレスグリップのようです。

柔道の体さばきについてググってみますと、大抵は基本の体さばきに関する説明のみであり、応用的な体さばきについての情報はほとんど見つかりません。

 

逆に言えば、応用的な体さばきというのは意外と未開拓の分野なのかも?

という事で、今回は新しく日本代表の男子監督に就任した鈴木桂治監督の現役時代の内股を題材に、体さばきを研究してみたいと思います。

※現在、監督ではありますが、現役当時の技を題材にしますので、以降は鈴木選手と記載させて頂きます。

 

状況としては、ケンカ四つで自分が左釣り手を下から持っている状況。が鈴木選手です。

 

まず鈴木選手、下から持った左釣り手の肘を外に開くようにしながら胸を張って上体を起こす事で、相手との間合いを詰めています。

相手は上から持っていた右手をいなされる形で間合いを詰められ、若干及び腰。



ここから鈴木選手、左大内刈のようにして、左膝裏で相手の右脚内側を弾くようにしながら、左足を相手の両足の間に深く踏み込んでいます。

 

相手選手は右脚を内側から弾かれ、左足を外側に踏み出して堪らえようとしています。

鈴木選手は素早く反転しつつ、踏み込んでいた左足の位置辺りまで右軸足を継いで、内股で跳ね上げています。

 

 

体さばきとしては、応用的な左足前回りさばきという事になるかと思います。

 

このように、相手の重心の下に踏み込んでいって跳ね上げるタイプの内股は追い込み内股などと呼ばれますが、特に相手の両足の間に跳ね足を深く踏み込んでおいて、その足の位置付近まで軸足を継いで跳ね上げる内股は、試合でも頻繁に見られるポピュラーな技法で、現役では丸山城志郎選手やウルフアロン選手も、この技法の内股を得意としています。


ちなみに、この技法がより効果的なのはケンカ四つのケースですが、その理由としてはケンカ四つで組んだ場合、最初に跳ね足で弾く相手の脚が自分に近い位置にあるスタンスとなるため、技を掛けやすいという事が考えられます。

 

なお、ウルフ選手の試合を見ていると、相四つの相手には、組み際や完全に組み勝った時など、相手に持たれていない状況に限定して、この技法を使っているようです。

 


最後に、右組みの人用に左右反転させたイメージを貼っておきます。