あけましておめでとうございます。
昨年12/30に、突如IJFルールの変更について発表があり、柔道愛好家の間で騒然としましたので、その内容について触れていきたいと存じます。
まず、今回のルール変更の方向性としては、柔道選手の安全を確保する目的と、柔道競技を一般層やメディアにとってより魅力的なものとする目的が挙げられており、2024パリ五輪までのルールとして施行されます。
ちなみに、東京五輪までのIJFルールに関する小生の感想はこちらにアップしています。
さて、それでは具体的な変更内容を見てまいります。
技の連続性
技を掛けてから相手の背中が着くまでに、一連の動作が途切れていなければスコアになり、途中で一旦技が止まった場合は、そこから返して相手の背中を着けてもノースコアの判定となります。
今までのルールも概ね上記の方針に沿っていたと思いますが、今後はより厳格化し、一旦技が途切れた場合はノースコアというのを徹底していくという事かと思います。
ルールとして厳格化する事には個人的に賛成ですが、一方で一般層にとっては、一連の動作が連続しているかどうかの判断が分かりづらく、ルールが複雑と写ってしまう危険性はあるように感じます。
「技あり」の判定
肩と背中が畳に着き、肩と背中を結ぶラインが畳のラインから90度か、それ以上背中側に傾いていれば、下の腕が背中側に出ていたとしてもスコア。90度よりも腹側に傾いていればノースコアの判定となります。
東京五輪では、下の腕が背中側に出ていればノースコア、体の前方に出ていればスコアの判定だったことから、不十分に見える落ち方であっても「技あり」判定となるケースが頻発し、全体的に判定が甘い印象を受けましたが、今回のルール変更で「技あり」を厳格化する事で、この辺の違和感は解消されそうです。
両手や両肘で着地した場合の判定
大内刈などで後ろに倒された際に、両肘や両手を後ろ手に着いて背中が着くのを阻止しようとした場合、相手の技に「技あり」が与えられ、後ろ手に着いた側には「指導」が与えられます。
確かに、後ろ手に肘や手を着く行為は脱臼の危険があるため、この行為をすることで「技あり」を回避できるという「危険な行為をして得をする」状況をルールで規制しようという試みと考えられます。
「めくり」技はノースコア
相手の払腰や内股を潰し、相手の釣り手方向にめくり返す隅落は、ノースコアとなるようです。
名目上は選手の安全を配慮したとの事ですが、本音としては払腰や内股へのカウンター技を封じる事で、これらの技を優遇する措置なのではないかと勘ぐります。
個人的には、持ち技のひとつを封じられて痛いところですが、幸い「指導」の対象ではないようなので、ノースコアであっても隅落でめくっておいて抑え込むという使い方はできそう。
逆背負投(いわゆる韓国背負)の禁止
今回、最も衝撃的だったのは、このルール変更ではないでしょうか。
北京五輪60kg級で金メダルを取った韓国のチェ・ミンホ氏らが得意技として多用し、一時期流行して世界中に広まった事から通称「韓国背負」と呼ばれる技術が、ノースコア&「指導」の対象となってしまいました。
確かに韓国背負は、通常の背負投とは反対側(引き手側の肩越し)に投げ落とすことから、投げられる側としては意表を突かれるため受け身が取りづらいという理由で、日本でも少年規定のルールでは禁止されていましたが、IJFのルールとして禁じてくるとは意外でした。
近年のルール変更の全体的な傾向を見ると、立ち関節やベアハグを禁止にするなど、いわゆる奇襲技をルールで規制する方向に進んでいるような印象を受けます。
ちなみに韓国背負も、個人的に持ち技の一つだったので、禁止措置は痛手です。
投げ技の最終局面で相手の帯より下を掴む行為
公式の説明が分かりづらく、小生の解釈に間違いが無いか不安なのですが、例えば払巻込や外巻込などで巻き込んでいって、最後に相手を裏返す局面で相手の脚に手が触れるのはスコアとして認められ、巻き込みの途中で一旦動作が止まった場合、それ以降は相手の帯より下を掴む行為は寝技として認められる、という事のようです。
このルールも「技の連続性」に関するルールと同様、立ち技と寝技の境界が分かりづらく、一般層から敬遠される要因になりかねない気が致します。
両襟(引き手で前襟、釣り手で奥襟)の組み手について
相手を投げようとして攻め続けている限り、両襟の組み手をキープしていても「指導」は与えられないという内容です。
標準的ではない組み方について
相手の帯を掴む、片襟、クロスグリップ、ピストルグリップ、ポケットグリップなどの「標準的ではない組み手」は、攻撃の準備として用いられる場合には反則とならないようです。
現時点では情報量が少なく、このルールの細かい部分に関しては続報待ちといった感じです。
組み手を切る行為について
組み手を切った後、すぐに相手を掴みに行かない場合は「指導」の対象となります。
公式の動画を見る限り、相手の袖などを掴んだ状態で組み手を切る場合はお咎め無し。
具体的にどの程度厳密に「指導」を取るのかは、実際の試合を見て判断する必要がありそうです。
柔道衣や髪を直す行為
1試合の中で、乱れた柔道衣や髪を直すのは1回のみ認められ、2回目以降は「指導」との事。
柔道衣に関しては、自ら一度帯を解いて結び直す行為の事を指していると思われます。
休むための時間稼ぎ/遅延行為を禁じるためのルールと考えられます。
ヘッド・ダイビングについて
内股などを掛けた側が頭から畳に突っ込む行為(ヘッド・ダイビング)は、これまでも「反則負け」の対象でしたが、今後はこの反則をさらに厳格に取るという事のようです。
東京五輪でも、大野選手の内股がヘッド・ダイブではないかと一部で物議となりました。当時はお咎め無しでしたが、今後は「反則負け」の対象となる可能性が高いです。
以上が、今回発表されたルール変更の内容ですが、今までの経緯から判断すると、国内でも今年からこのルールが適用されるものと思われます。