東京五輪におけるIJFルールについて | 柔道が足りてない!

柔道が足りてない!

昨今、柔道人口の減少が深刻みたいなので、皆様にちょっとでも興味を持って頂けるような柔道ネタなど書いて行ければと存じます。

近年、柔道の国際ルール(IJFルール)は大幅に変更が加えられてきました。

特にオリンピック後は、それまでのルールを踏まえて新しいルールが施行され、次のオリンピックまでの期間にルールの微調整をしていく傾向が強いようです。

ルール変更の方向性としては、観戦者を強く意識した変更になっている印象。
つまり、「観戦者に分かりやすいルール」、「観戦者にとって柔道が面白く感じられるようなルール」という前提に沿ってルールが検討されている印象です。

2007年、ビゼール氏がIJF会長に就任して以降、この流れは顕著になっています。

これまでの主なルール変遷を振り返ってみますと、

2008年北京以降
・「効果」の廃止
・「足取り」を部分的に禁止
・「ベアハグ」禁止

2012年ロンドン(組み合わない試合が頻発した大会)以降
・両手で相手の組み手を切り離す行為は「指導」
・「足取り」を全面的に禁止
・旗判定の廃止
・抑え込みの時間短縮
・延長戦の時間無制限化

2016年リオ(リネール選手が「指導」差で逃げ切り勝ちした大会)以降
・「指導」差での決着を廃止
・試合時間を4分に短縮
・「有効」の廃止と「合わせ技」の廃止(後に「合わせ技」は復活)
・「反則負け」を「指導」4回から3回に変更



「足取り」禁止「指導」差決着の廃止は、タックルを連発して相手に技を出させず指導差で逃げ切りなどといったセコい戦術を駆逐し、組み合って投げ技で勝負させるためのルール変更ですし、旗判定の廃止「有効」の廃止は、微妙な決着を減らし、より分かりやすいルールとするための変更と考えられます。


一方で、今回の東京五輪で個人的に気になった部分もありました。
(あくまで個人的に感じた印象であり、客観的な統計などに基づくものでは無いので、その点ご了承の上、お読み頂ければと存じます)


実力が拮抗しすぎているため綺麗に投げが決まらず、かつての「効果」相当の技であっても「技あり」判定となる傾向が強くなった。

選手の実力が拮抗してきますと、どうしても投げ技が綺麗に決まり辛くなる傾向は避けられないように思われます。
東京五輪も大会序盤からこの傾向は見られましたが、大会が進むにつれて今のは「技あり」無かっただろというような微妙な技がポイントとして認められるケースが増えていった印象を受けました。

加えて、近年のルール変更は、「足取り」、「ベアハグ」、「立ち関節」といった、いわゆる奇襲技を禁止する方向に進んでいることも、技が綺麗に決まり辛くなる傾向に拍車を掛けているように思われます。

こうした状況でもっと技が決まりやすくなるようなルールを考えるとしたら、「足取り」を条件付きで復活させるのが良いのではないかと個人的には考えています。


もちろん、「足取り」を無制限で解禁すると、かつてのタックル連発作戦まで復活してしまい宜しくないので、足取りの「指導」は残して連発を禁じた上で、足取りによる投げの効果は認めるなど、制限付きでの復活が良いように思います。

「ベアハグ」や「立ち関節」も同様のルール適用で復活させると良いかもしれません(というよりは、復活させてほしいという個人的な願望に近いです)。


大会を通じて審判が技による勝敗を企図しすぎるあまり、3つ目の「指導」が中々出されず、延長ゴールデンスコアが延々と続く試合が多発。

これは五輪前に行われた、阿部一二三選手vs丸山城志郎選手のワンマッチが影響しているように思います。あの試合で、投げ技での決着を見るために天野審判員が3つめの「指導」を出さなかった事で、国際審判員の間でも「この方針で行こう」となったのではないかと。

確かに技による決着が好ましい事は分かるのですが、あの試合は一試合限定という特殊な状況でしたし、それと同様の方針をトーナメント方式の五輪で採用するのは、あまりにも過酷すぎる気が致します。

 

酷いものだと、相手の袖口を絞って持ったり、場外に出たりといった明確な反則行為に対しても、3つ目の「指導」になるからという理由?でスルーされた試合も見受けられました。

それ以上に、消極的である咎で「指導」を出すタイミングが審判によってバラバラだと、ある時は積極的に技を出す選手が有利になったり、またある時は守りに徹して一発勝負する選手が有利になったりといった事が起こり、競技としての公平性を欠くように感じられます。

「指導」を出すタイミングについて、もう少しルールとして客観的な基準を設ける必要があるのではないかと思いました。



「ダイナミックな柔道」を標榜して寝技から立ち技への移行を可能としたが、ルール自体が分かり辛く、寝姿勢なのか、寝技の返しなのか、投げ技なのか、判定基準が不明確だった。

今回のルールで、個人的に最も不満だったのが、この「寝技から立ち技への移行ルール」です。


なにしろ、ビデオ判定ありきのルール。主審も自信なさげに取り敢えず判定を出した後、お決まりのようにビデオ判定を要求する(「これっくらいのお弁当箱に♪」みたいな仕草の)ジェスチャー。

「ビデオ判定の結果だから」という理由付けをすることで、選手の反論を無理やり封じているような印象を受けました。

 

やはり、趣味として柔道競技をやっている立場の人間にさえ、ルールの判定基準が明確には分からないという状況は、大いに問題があると思います。

柔道経験の無い人達にアピールするには、柔道経験者が考える以上に明確で分かりやすいルールが求められます。
前述の「観戦者に分かりやすいルール」という観点からすると、今回のこのルールに関しては失敗と言って良いと思います。


組み合って勝負するようルールを適用してきたが、それでも組み手争いで勝敗が決する試合が散見された。

 

これは、個人的な感想というよりは、SNSで多くみられた五輪柔道競技に対する一般の人のコメントが元になっています。


本件に関しては、柔道というジャンルがどういう方向性を目指していくべきなのか、といった壮大なテーマに繋がってくる問題なので、もう少し自分の考えをまとめて別の機会に投稿できればと考えています。