ヒト・モノ・アソビ... 人生を楽しく快適にしてくれる素敵なものたち

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サイクルと山遊びのオキドキライフスタイルから発信

自転車に「不具合」を感じた時には既に修理が必要な状態かもしれませんし、最悪の場合、乗り手に重大な危険をもたらすことになるかもしれません。そうした、あらかじめ予見しうる不具合発見の為の点検を無料にて実施させていただくことにしました。 オキドキライフスタイルでご購入いただいた製品については既に実施していることですが、重大な問題はむしろ他店で購入されたものや中古などで譲り受けたものに多くみられるようですので、この「あんぜん点検(R)」はどこで購入、または入手された自転車でも無料にて行わせていただきます。どうぞお気軽にお申し付けください。
この「あんぜん点検(R)」は何度でも受けていただいても無料です。 万が一不具合が見つかった場合には状態についてなるべく詳しく説明させていただきます。状態に応じて、お客様自身で対処していただいても、どちらかのショップへご相談されても結構です。 オキドキライフスタイルへご用命いただく際には責任を持って整備、修理、調整を行わせていただきます。 修理調整作業を行う際には、実費工賃が発生する場合があります。 

「あんぜん点検(R)」チェック項目
□ハンドル、ステムの緩み
□ヘッドベアリングのガタ、調整具合
□前輪、後輪ハブのガタ クイックの締め具合
□タイヤ空気圧 タイヤ表面の劣化や摩耗
□ホイールの振れ
□ブレーキの効き、取り付け不具合
□ペダル、クランクのガタ、取り付け不具合
□変速機の取り付け、作動状態
□サドルの緩み、ガタ
□フレームの亀裂や損傷

ただし、対象はスポーツバイク、ツーリング車に限定させていただきます。

 

おや?と思う件がありましたのでユーザーの方のことが不安になって考えてみました。

オキドキライフスタイルは、主に「自転車の整備業」としてやっていますが、製品メーカーの「サービスセンター」も務めさせていただく中で、いろいろな販売店、整備店などからの情報が耳に入ってくることがあります。丁寧なユーザー目線の作業をされているなあと感心させられるケースも多くありますが、中にはその逆に「え?お客さん、ダイジョウブ?」というケースもあります。サービスセンターとして依頼される作業は「専門的な部分はお任せしますね」という作業であったり「手に負えないからなんとかしろ」的なことであったり。もちろん製品に不具合や非がある場合にはユーザーにご迷惑をかけてしまっているという責任感で誠心誠意の作業で臨ませていただいています。ところが中には製品に非がないのに「ちゃんとやってるのに工具や製品が壊れちゃってー」とクレームに近い?ものも聞きます。結果的に製品が使えなくなった、損傷を受けたということで作業を依頼してこられることがあります。
そうした場合、全てではありませんが中には「正しい方法で作業をされていなかった」ということがあたりします。

メーカー側は販売店やユーザー個人が作業をする場合のヒントとして公式な「整備手順」の動画を公開していることがあります。内容は構造の解説、必要な工具類、具体的な作業手順、注意点などが詳細に紹介されています。ところが「工具も壊れて分解ができませんでした」というこれまでにあった報告(作業依頼)の実際の作業の様子を聞くと、これらの動画で推奨しているのと別の方法で行って残念な結果になっているようです。「一流の工具を使って」なのかもしれませんが、工具の良し悪しではなく「なぜこの方法で作業するか」それによってどういう力が働いてしまうのか、などを考えていただけなかったようです。

同じ「失敗」をしていただきたくないという思いで具体的に説明します。
OEM製品を含むDT SWISS製のホイール、ハブには「リングナット」と呼ばれるナット(正しくはオネジですのでボルトですが)が組み込まれています。リングナットはスプロケットから入力された踏力をハブ(ホイール)に伝達する主要な個所に締め込まれています。重要な伝達を担っており、踏力の全てを受け止めています。踏力は締め付ける方向に作用するため、使用過程のリングナットはかなり高い締め付け力で固定されてしまうことになります。ベアリング交換などでこのリングナットを取外す(緩める)際は非常に大きな力が必要になる場合が多く、作業を困難にする場合があります。リングナットを緩める(締める)にはそれにかみ合う専用の工具「リングナットツール」を使用します。動画では「リングナットツールを上向きバイスにしっかりと固定し、そこへホイールのリングナットがかあみ合うようにホイールを上からかぶせて力強く回して緩める」という旨の説明が行われています。言葉は英語ですが、動画を見れば説明の必要もないほどわかりやすく表現されています。実際、大きな力が必要な時はありますがこの方法で全て問題なくリングナットを緩めることができます。
ところが「工具が壊れた」という報告のケースで作業の様子を確認しますと、「ホイールをしっかりと保持しておき、リングナットツールに『モンキーレンチ』をかけてパイプなどでエクステして力をかけた」ということのようです。しっかりと固定して十分な長さに力点を伸ばせば発生する力の「大きさ」は同等かそれ以上も可能でしょう。しかし力の「種類」が違うのです。その結果、緩まない、工具が壊れた、製品が損傷した、が起こっているようです。


力の「種類」とは?
残念ながら作業をされた方は「偶力」という力のことを知らなかったのでしょうか。動画で説明がされていた「バイスに固定して」という方法は偶力によって緩めることを説明いしています。「偶力」を調べてみますと「同じ大きさで、平行かつ反対向きの2つ(一対)の力 回転を生じる」とあります。わかりやすいのは自動車のハンドルを手で回す状態でしょうか。例えば左右の手が時計の3時と9時の位置にあり、右にハンドルを回そうと思えば3時の右手は下方向へ、9時の用左手は上方向へ力を働かせて「回す」と思います。片手でもハンドルを回すことはできますが、その際は「偶力」ではありません。偶力によって何が大きく違うのか、ですがこれは「回転させる以外の力が作用しない」ことです。偶力の合力はゼロであるといわれますが、同じ大きさの反対向きのベクトルですから合計すればプラスマイナスゼロなのです。ハンドルの例でいうとハンドル軸に回転力(トルク)は生じていますがそれ以外の曲げ、せん断、などの力は作用していません。一方片手でハンドルを回す際にはトルクと同時に軸に対する曲げモーメントが作用しています。これがバイスに固定してリムを回すのとリムを保持してレンチで回すのとの違いです。感覚的な理解を深めるために別の例を。軸や穴にネジを切削するための工具として「タップ」と「ダイス」があります。軸中心に対して正確にネジを切るためには軸(穴)に対して半径方向の力は禁物で回転の力だけが必要です。タップハンドルやダイスハンドルには片棒ではなく両棒のハンドルが備わっています。試しに片ハンドルだけを回してネジを切ってみようとすればそれが適切でないことが実感できます。またよく使う工具に「六角棒レンチ」があります。多くの場合でL字型に曲がった形状のものが使われます。狭い場所や早回し、そして持ち替えて強い締め付けもできるように長さの比率を変えて曲げていることで便利に使うことができます。ただし、これを規定以上の高いトルクで使用する場合、条件が悪ければ六角穴を潰して(ナメて)しまったりが起こることもあります。オキの場合はL字も多用しますが、T字のレンチも頻繁に使用します。早回しに有利ということに加えてやはり「偶力で締め付け(緩め)ができる」+「軸圧を掛けながら回せる」がその理由です。特に差し込み穴が浅い「ヘクスローブ(トルクス)」には有効です。

リングナットの話に戻ります。
リングナットツールをモンキーレンチなどで回そうとした場合、偶力ではなく「(回転)トルク」と「曲げ力」が作用します。曲げ力は固く締まったリングナットを緩める力には作用せず、ハブアクスルを曲げたり、リングナットツールをこじったりするように作用します。リングナットが強く締まっていればいるほどそれは大きな力になって作用します。 ・・・結果的に緩まずに工具が壊れる、ということになるのです。
こうした大きな違いがあることを理解したうえで「それでもモンキーレンチで作業するのだ」というのであればそれも仕方がありませんが、どちらもと違わないだろうと早計な判断で、身近にその工具しかなかったから、で作業をした結果に「緩まない」「製品がダメージを受ける」「工具が壊れる」のは製品や工具の落ち度ではなく、作業者の責任です。 限られた経験と設備のなかで自己責任で作業するユーザーの失敗なら仕方がありませんが、まがりなりにも本業として作業する立場であればこうした簡単な物理くらいは学んで知っておくべきですし、それも面倒であればせめてメーカーの動画の通りの作業をしていただきたいと願うわけです。中には「ユーザーの使い方」「製品の設計」のせいにして保身に回る作業者がいたとしたら、ユーザーにとっては悲運でしかありません。作業がスムーズに済まずに使用できない期間が長くなることも気の毒ですし、もしかしたら交換を要する部品代をユーザーが負担させられることになってしまっていたらたまりません。

そういった悲運な思いをユーザーの方々に感じていただきたくないという思いで今回の投稿をさせていただきました。


 

フェイスブックのとあるグループへの投稿で取り上げられていましたので、改めて考察してみます。

優れた国産メーカーの製品が手軽に手に入る我々日本人にとっては「カンパニョーロを選ぶ理由」はそれほどなく、カンパニョーロ製品を所有する人は一定数に限られているのが現状だと思います。そんな馴染みの薄い「憧れの」製品であるカンパニョーロですが、ホイールに関してはフルクラムブランドの製品を含めて、たとえ「シマノフルコンポ」で仕上げていてもホイールだけはカンパニョーロ/フルクラムを使用している方が少なくない現状のようです。
ところが、「完成ホイール(完組ホイール)」はメインテナンスフリーだと思っている方が多いのでしょうか、販売店ですらカンパニョーロ/フルクラムのホイールメインテナンスについてはあまり詳しく知られていないのではと感じています。
DT SWISSやMAVICのようにカートリッジベアリングを採用していないカンパニョーロ、シマノのハブについてハブベアリングは定期的なメインテナンス(分解洗浄給脂調整)が推奨されています。さらにカンパニョーロの場合、ハブラチェットについても定期的なメインテナンスが「強く」推奨されています。その重要な内容の一つが今回取り上げる「ラチェットスプリング」です。

カンパニョーロ製ハブのラチェット構造はハブシェルに「内歯」が設けられ、フリーボティに付けられたラチェットティース(爪)がこの内歯に掛かることで駆動力を伝えています。輪っか状のラチェットスプリングはこれらの爪を「立ち上がらせる」機能を担っていますがこのスプリング、定期的に交換をしなければあるとき突然折れてしまうことがあり、そうなってしまうと駆動力をホイールにつたえることができずに「走行不能」となってしまいます。メーカーではこのスプリングを「1年で交換」を推奨としています。

使用や修理作業の現場肌感覚では、確かに突然の走行不能事案は起こっていますし、無難に定期的に交換して置いた方が良い、ということも実感しています。ただし、全ての製品で、というよりもすべてのユーザーでそのリスクが同じ頻度でありえるか、というと正直「ユーザーによる」というのが感じている点です。では何がスプリング破損につながる要因となっているのかを検証してみようと思います。

まず、外部からの影響をほとんど受けないこんなスプリングがなぜ数年で折れてしまうことが起こってしまうのでしょうか。なにも知らない知ったかフリの方であれば「ああ、疲労破壊っていうんだよ」とかなんとかいうのでしょうか。ハブ内でのスプリングの動きはラチェット爪の動きに合わせて高速で曲げ伸ばしの変形が繰り返されます。しかし、その変形領域は弾性変形のほんのわずかな領域であって破断のきっかけになる塑性変形域からは程遠いレベルにあります。この高速の変形そものが破断や疲労破壊の原因であるとは考えにくいものです。ではなぜ?
破断した検体が手元にあればその検証も容易になったのでしょうがあいにく手元にありません。が、代わりにあまり使用状況が良かったとは言えない使用済みのハブがありましたのでこれを観察して考察してみることにします。これにはラチェットスプリングの破断も起こっておらず一応正常に機能している状態のようです。早速分解して観察していきましょう。

まず3つのラチェットティースは内歯とのかみ合い部分に結構な摩耗が見られます。そこそこな距離を使用されてきたのと同時に十分なメインテナンス(給脂)が定期的に行われてきたのか、については少し疑わしい個体なのかもしれません。ラチェットティースとラチェットスプリングをとり外してみましょう。スプリングを掃除して観察するもこれといったダメージはなさそうです。ところが注意深く観察していくと… スプリングの内側にかすかな傷のようなものが見られます。画像では確認しづらいかもですが肉眼で見つけることができます。これが破断のきっかけになっている可能性が高いですが、ではなぜこんな傷がついているのでしょうか? スプリングをフリーボディの収まるべく位置にあてがってみますと、フリーボディの該当の位置に特徴的な形状が見つかりました。ラチェットティースの収まるフリーボディのティースハウジング(外周)は本来は滑らかな円滑表面のハズですが、このハブ個体のそこには何かをたたきつけたような「荒れ」が何か所か見られました。アルミ地がささくれたような指に引っかかるバリのようなものができています。コレがスプリングに擦り傷をつけていたのかもしれません。現時点ではかすかな傷ですが、このまま使用を続けて行けば擦り傷は切り傷ぐらいにまで成長し、いずれは破断のきっかけになるのではないでしょうか。 おそらくそうなのだろうと考えられます。 ではこのフリーボディの「荒れ」の原因は?この部分に近接するのはハブシェルのラチェット内歯です。通常これらが接触することはないはずですが、かなり接近した位置にあることは確かです。接触したのでしょうか?仮定してみます。もし強大なスプロケットトルクでアルミ製のハブシャフトがたわむことがあったとしたら、もしフリーボディベアリングに摩耗ガタが発生してきていれば、もしハブベアリングの玉当たり調整が万全ではなくフリーボディが首を振ってしまうような状況にあったとしたら、これらのいずれでもフリボディハウジングと内歯が接触する可能性は十分にあります。そしてこの個体に関してはフリーボディに何かが接触してできたと考えられる表面の荒れが実際に観察されています。 どうやらこれらの状況や条件が不幸にして重なってラチェットスプリングが破断することになると考えることができそうです。

スプング破断発生のメカニズムがほボ推定できたことで、今後の発生リスク低減についても考察が進みます。まず、メーカー推奨の通り、スプリングは消耗品として定期的に点検、予防交換をすることは必要でしょう。そのうえで、フリーボディの損傷(荒れ)が原因となるのであればこれも同じく消耗品として交換することも状態を観察した上で必要になるかもしれません。あるいは「荒れ」が軽微であればスプリングの損傷原因になりそうな箇所をヤスリなどを使って滑らかに整えておくことでリスクは低減できそうです。さらにフリーボディベアリングに摩耗やガタがないかを確認して必要であれば交換。加えてハブベアリングの玉当たり調整を正確精密に行うことなどを徹底すればスプリングの破断リスクを限りなく低減することができるのではないか、というのが今回の考察の結論となります。

なお、余談的裏ワザになりますが、出先でこのラチェットスプリングが折れてしまった場合、ほとんどのサイクルショップでも店頭に在庫している可能性が極めて低い部品ですので修復、走行再開が困難です。たったこれだけのスプリングで走行が全く不能になるのです。そこで、もし仮に分解、交換のための「工具」だけは確保準備できたという前提で、何とか最小限の公道復帰のアイデアです。 
スプリングの代わりに「輪ゴム」を使う方法です。耐久性については、不確かな動きで高トルクに対しては、大きな期待は禁物ですが、「応急処置」としてなんとかそーっと自走できることを実践済みです。スプリング交換などをして その構造を把握している方であれば容易にこの方法は実践していただけるはずです。もしもの時のために頭の片隅に留めておいていただければ、という裏ワザです。

こんな構成になっています。(スプロケッットが外されていれば)17mmスパナと5mmヘックスレンチだけでアクセスが可能です。

 

トh当た酢

重要な役割をラチェットスプリング。赤丸のところにキズのようなものが?

 

フリーボディの外筒にひどい「荒れ」が見られます

 

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そのまま使用するのであればスプリングが引っかかったり損傷しないようになめらかにしておくことも必要です

 

交換するのであれば必要となる部品群

 

裏技実験のために準備した「輪ゴム」

 

長距離は無理でも漕いで進む、が何とかできるようになります♪

輪ゴムでもなんとかラチェットティースを立たせることができました。
 


スポーツサイクルの空走時のホイールの転がりや伝達駆動力の効率を左右する要素にリアホイールの「ラチェット(フリー)機構」があります。ラチェット(フリー)はペダルを漕がない「空走時」にスプロケットを空転させてホイールだけを軽快に回転させるための機構で、同時に駆動の際の力を無駄なくスプロケットからホイールに伝える駆動伝達の大きな役割を担っています。ホイール/ハブを製造するメーカー各社はこのリアホイールに備わった「ラチェット(フリー)」機構に独自性を持たせ、ホイールの機能/性能として特徴づけています。多くのメーカーがラチェット機構をすべてのモデルで共通して採用する傾向ですが、DT SWISSでは用途やグレードに応じて複数の構造を使い分け、コストに応じた最適機能の組み合わせを提案した商品構成を実現しています。例えばDT SWISSでは伝達トルクが数倍に及ぶ「E-bike」用のラチェット構造を準備していたり、価格帯に応じてラチェット機構も分けて(グレイディング)作り分け、それぞれの価格帯で高いコストパフォーマンスを実現しています。


この「グレイディング」の構成を活用して、手持ちのホイールを「アップグレード」することができる、ことも「DT SWISS」の大きなメリットと言えます。DT SWISSのラチェット構造は大別して「EXP」「スターラチェット」「3ポール」に分けられます。さらに細かく性能を向上機構を持っていますが、大別はこの3つです。中でも「3ポール」はカンパニョーロに代表される、多くのホイールメーカーに採用される構造ですが、DT SWISSでの位置づけは「普及価格帯」向けとなります。そこでこの3ポールを「スターラチェット化」する「アップグレード」が用意されています。スターラチェットと区別するため「ラチェットLN」と呼ばれていますが構成部品の基幹はスターラチェットそのもので、信頼性も発展性もスターラチェットへと性能向上できるというわけです。


今回の作業はキャノンデール社のオリジナルホイール「HollowGram」です。このホイールにはDT SWISSのハブが採用されています。高性能のカーボンリム、スポーク、ハブ本体に較べると「3ポール」のラチェット機構だけが残念な部分です。これをラチェットLNに「アップグレード」してみることにします。
作業はシンプルです。3ポール用のフリーボディを取り除き、ハブシェルに組(ネジ)込まれたリングナットを取り除きます。ラチェットLNの構成部品はスターラチェットそのもので、リングナットx2、スプリングx2、スプラインリング、ベアリングワッシャーで構成されていて、3ポールのリングナットを取り除いた箇所にこれらを順序に沿って組緩めるみ込んでいきます。必要なものは3ポールのリングナットを緩めて取り除くオラブルための専よう用工具、そしてスターラチェット用のリングナットをねじ込むための専用工具が必要になります。ところで今回はラチェットの歯数に「36T」を選ぶことにします。ラチェットリングは18T、(24T)、36T、54Tなどがあり、多いほど良いというものではありませんが、伝達トルク、遊び角、耐久性などから最適なものにします。スターラチェットにアップグレードすることで、用途や性能に応じて手軽に変更できる、もこのアップグレードのメリットの一つです。


乗り手の強大な踏力によってキツく締まったリングナットを緩めることは本当に大変でしたが、無事に作業が終わりました。さらにスターラチェット化することのメリットは「メインテナンス性の向上」です。「3ポール」構造でもスプロケットをつけたまま、工具なしで、ラチェット機構のメインテナンスは可能ですが、小さな爪やスプリングで構成されている3ポールと比較すると圧倒的に容易でトラブル発生の原因も排除できる点です。

そしてこのアップグレードはキャノンデール製「HOLLOWGRAM」ホイールの全てに対して実施可能であり、その他DT SWISS製の3ポールラチェット構造を採用するホイールにも対応しています。

これで、このホイールはさらに「無敵」になりました♪ 


作業するのはこんなホイール 「HOLLOWGRAM」キャノンデール製ですがハブはDT SWISSです


3ポールも工具不要でアクセスできますが・・・

必要な工具はコレ
・3ポールリングナットツール x1
・スターラチェットルングナットツール x1

 


ツールをバイスにセット

aiスで
そこにホイールをセットして満身の力をかけて緩めます モンキーレンチでは無理でしょう 工具が壊れる可能性がありますので必ずバイスで

a 
外した「3ポール」用の構成パーツ
これから組み込む「スターラチェット」用の構成パーツ
これだけ数がちがいます


順序通りに組んでいきます 組み立ても工具不要♪
 


ハイ、出来上がり♪

ラチェット機構のメインテナンスはスプロケットを組んだまま、「工具不要」でカンタンOKです♪

 

キャノンデール製ロードバイク 「SLATE」「CAAD12」「シナプス・アロイ」などアルミフレームを採用し、BB30を装備したバイクで使用に伴う摩耗によって費用のかさむ事案になるケースが報告されています。 ボトムブラケットの下部に「ケーブルガイド」と呼ばれる樹脂製のパーツが取り付けられています。バイクの使用の年月に伴ってこのケーブルガイドがシフトケーブルによって摩耗し、変速性能を著しく悪化、さらに進行した場合はクランクスピンドルにケーブルが接触してスピンドルに損傷を与える場合があります。そうなると最悪の場合、大きな力でペダルを踏み込んだ際にスピンドルが折れて転倒、ケガをする可能性があります。

正しく組み立て、調整が行われていても、「摩耗」によるものなので使用環境や使用状況、変速操作の頻度などによっても発生する/発生しない状況が異なります。使用者が日ごろから変速状態の変化などに気をつけておいて少しでも変化があった際には速やかに点検を依頼してその原因を調べる必要があります。これはなあかなか容易なことではありません。わずかな変化に気付く必要がありますし、その原因が「ケーブルガイドかも?」というところに気付く必要があるからです。

 

 一方、メーカー側は損傷を受けたスピンドルの無償交換を行っていません。摩耗によってその結果起きる問題は保証の対象になっていないからですが、もし仮に変速の異変に気付かずにそのまま使用し続け、ケーブルがスピンドルを切断してしまったような場合、スピンドルの交換、そのためのクラク脱着、変速ケーブルの取り外し、変速調整などの大きな費用が発生します。

幸い、このケーブルガイドは後継の製品が継続して販売されています。形状は同様ながら、シフトケーブルの力を受けて支え、ケーブルガイドの偏摩耗や変形を防いでケーブルのクランクスピンドルとの接触も回避する形状・構造になっています。摩耗が進行しているかどうかを心配しながらまめに点検して使用を続けるよりも、潔くこれらの新しいケーブルガイドに交換してしまってメカトラブルのリスクを遠ざけてしまった方が賢明です。いわば問題が起こる前の「予備整備」ということになりますが、その効果の大きなケースかと思います。

そこで、ある日突然の大きな出費を抑えるため、この予防整備を特別な条件で実施させていただくとに致しました。交換部品となります「ケーブルガイド」の部品費用だけはご負担をお願いいたします。そして以下の交換作業工賃を「無料」にて実施させていただきます。
・B30クランク、スピンドルの取り外し、組み付け
・前変速機、後変速機のケーブル取り外し、再取り付け
・変速調整
・ケーブルガイドの交換
*作業の際に再使用の不可能が確認された部品(ケーブルなど)や摩耗などで交換が必要な部品が判明した場合は必要な部品の代金やその交換工賃が発生する場合があります。

今回の交換作業「無料」とさせていただくのは、オキドキライフスタイルで該当の「完成車」「フレーム」をご購入いただいた方に限らせていただきます。他店でのご購入分については購入店でご相談ください。小店にご用命いただく際は上記の作業工賃をご負担いただけましたら作業を承ります。

このタイプのケーブルガイドを使用中の場合はご注意ください
 


後継の該当部品
 


両端に金属の爪が確認できれば「交換済み」もしくは後期の製品です。そのまま安心してお使いください

 








 

ここ2~3年でマスプロメーカー車にも「マレット仕様」が採用されるなど一般的になってきました。マレット仕様とは前後で異径のホイールを装着したマウンテンバイクのことです。具体的にはフロントに700C(29インチ)、リアに650B(27.5インチ)などを採用したフロント大径の車両です。26インチも含めて考えれば組み合わせとして、29x26も、27.5x26なども「マレット仕様」といえるでしょう。

特殊な用途を除き、これまでは「前後同一サイズ」が一般的だった自転車においては目新しい試みですが、「前後で車輪の径が違う」はフォーミュラーカーのような競技車、農用トラクター、荷役フォークリフト、輸送トラックなど4輪でも、あるいはオフロード系のオートバイなどでもむしろ一般的な手法です。これらはいずれの乗り物でも前輪と後輪でその役割が異なることから、太さ(幅)を含め外径、ホイール径もそれぞれの目的に適したサイズが選ばれているという当たり前の仕様です。むしろ、前後の車輪で役割が明確に異なり、さらにシビアな効率を求めるスポーツ自転車で頑なに「前後同一径」が守られてきたことの方が不自然だったのかもしれません。しかも多くの場合でタイヤパターンも太さ(幅)すらも同一に揃えられ、ただ「漫然」となのか何かの目的や合理性があってなのか。つまり、前後でサイズの異なる「マレット」は前後輪の役割がはっきりと異なる乗り物「自転車」に採用されるのはむしろ当然の成り行きだったのです。

では、マレットに、前後で異なるホイールを装着することのメリットは何か?について考えてみます。
荷重を受けて転がる、という車輪の役目で考えるとタイヤは「大きければ大きいほど」転がり抵抗が小さくでき、丈夫で、速く走ることができます。一方で大きくなることで、空気抵抗が増え、重量が増え、と駆動するためのエネルギーが増えることが起こります。外径を大きく保ったまま、重量や投影面積を少なくしようとした結果、「幅の小さい(細い)大径のタイヤ」これがマウンテンバイクよりも高速で走るためのロードバイクのタイヤの形です。しかし、低圧にしてグリップを稼ぎ、そのためにエアボリュームが必要なマウンテンバイクでは細くすることには限界があり、その結果が従来の「26インチ」だったはずです。空気抵抗は考慮する必要のないマウンテンバイクですが、フレームやホイール素材の改良、軽量化によって大径化による重量増が大きなデメリットでなくなって来たことでマウンテンバイクの「29インチ化」が進みます。29インチの大径化によって転がり抵抗が減って走破性が向上したマウンテンバイクは高速性能も向上して「良いことづくめ」となります。ポジション面を除いては… ポジション?正しくは「ディメンジョン」でしょうか。つまり幾何学的な問題。前輪に関してはフレームサイズによって変わりますが、後輪の位置と駆動装置の位置関係については走行性能や操作性に大きな影響を与えます。乗車状態の自転車において「乗り手」の荷重(体重)がどの配分で後輪に作用しているかは推進力、トラクション、旋回性、対障害物に対して非常に大きく影響します、特にマウンテンバイクの場合は。小さくなって太いタイヤで大径化されたリアホイールをフレームに納めるためにはチェーンステイ(リアセンター)つまり、乗り手の体重を受け止めるBB軸と後軸の距離を十分にとる必要があります。ところが、このBB~後軸の距離は後輪への荷重コントロール、旋回性、そしてフロント荷重のコントロールのために大きな影響を与え、それらの向上のためにはできれば「短い」方が良いのですが、この点で29インチ化がマイナスに働いてしまいます。そこでチェーンステイを短く保つために(せめて)後輪だけでも小さめのホイールを、というフレーム設計が「マレット」の基本的な設計の狙いです。外径が小さくなってしまった縦長の接地面積を横方向に稼ぐために太いタイヤを装着するのもそのためです。
つまり、マレット仕様の目的はコントロール性、旋回性を担う短いリアセンターのディメンジョンを維持しつつ、走破性、操舵性を向上し、転がり抵抗を低減する大径のフロントホイールを装着するための、方法というわけです。スピードを優先するクロスカントリーレーサーよりも、操作性を優先するフリーライド/エンデューロ車両に多く採用されているのもそのためです。


ところで「マレット」という呼び方はなぜなのでしょうか?
マレット、と聞いて辞書を調べるとmullet(ボラ)あるいはmallet(木槌)が出てきて???です。正しい綴りはmulletのようです。実「はマレット・ヘアー」という髪型があるそうで、魚のボラが小さい頭のわりに尾ひれが大きめのことから、全体はショートヘアーでありながら襟足だけが長い髪型を指すようです。ん?でも尻尾がデカイ、なら逆じゃやない?と不思議に思ってジテンシャと英語に詳しいジャーナリスト、コイチロ・ナカムラ氏に訊いてみます。やはり髪型の「マレット(ヘアー)」からだそうで、前後が逆なので「tellum(テルム)」と呼ぶことにしたのだそうです。しかしテルムは浸透しなかったそうで元の「マレット」が意味が逆のまま定着した、のだそうです。へー♪ 日本語であれば「逆マレット」が正式名でしょうか。


閑話休題
さて、ネットを検索すると「マレット」に関する記述も見つかります。「その効果はどれほどか?」「良いのか?」「違和感は?」などなど・・・ 効果、については上記の狙いで設計されたものですので、恩恵や感じる度合いは個人差はありながらも何かの違い(効果)はあるでしょう・・・ 
ところが関心の中心は現行あるいは所有車両を「マレット化」した場合でしょうか。前後共に29インチ、27.5や26インチで設計された車両を後から「前後異径ホイール」にした場合の影響です。良くなった?悪くなった?変わらない?ではないでしょうか。それらの内で気になったのは「的外れ」な記述も見受けられることです。「(前後)29インチ車両を『マレット』にして小回りが利くようになった」とか「低重心化して安定した」とかw ウーン・・・・

元々29インチホイールで設計されていたフレームに(リアだけを)小径の27.5ホイールを装着してもリアセンターのディメンジョンは変わらないのですから乗り手の前後位置、車両としての旋回性能(半径)などは変化せず、「小回り」にはならないかと思います。車輪の重量減による漕ぎだしや加速の「軽さ」は向上する部分はあるかもですが、上記のようにマレットとして設計されたフレームのような効果は残念ながら限定的です。むしろ前後輪で高さの差が生じたことによるヘッド角(キャスター)の変化は旋回性よりも直進性に働く方向ですので鋭い方であれば「小回りが利かなくなった?」と感じる傾向のはずです。低重心云々に関しては、前後に100㎜を越えるサスペンショントラベルがある車体において2~3㎝の高さ変化がどれだけ感じ取れるか?そして影響に現れるか、です。ですので前後同径車を「マレット化」してメリットが現れるケースは、
・前後27.5インチだった車両のフロントを29インチ化して走破性と転がり抵抗減を狙った
・前後29インチだった車両のリアを27.5インチ化して標準よりも「太い」タイヤを装着できるようにしてエアボリュームや接地面積を横方向に伸ばすことを狙った ギヤ比の向上を狙った、ブレーキ力の向上を狙った、などでしょうか。
どうやら、27.5インチ車両を29インチにマレット仕様にする方が効果は大きい、ということがいえそうです。

次に、前後同径車をマレット化したことによる姿勢変化がハンドリングにどう影響するか、を考えていきます。前輪を大径化、後輪を小径化、いずれの場合も姿勢が変化して「前上がり(後下がり)」になります。上記の「小回りが~」の項で述べた様に大回りになる傾向ですがどの程度でしょうか。
操舵性については「トレイル値」で考えていきます。
トレイルとは車輪半径、キャスター角、オフセットの3要素によって決まる操舵特性を表す指標です。乗り物の直進性や旋回性を幾何学的に数値で示したものです。その乗り物の用途や特性に応じて設計時に検討、決定されます。競技用のロードレーサーの場合、50~60㎜ほどで設計されることが多いですが、競技性の低いロングライドモデルなどでは70㎜ほど、シクロクロスモデルなどオフロードモデルも70㎜前後、数値が大きくなるほど「安定志向」、小さいほど「反応性が高い」となります。マウンテンバイクではクロスカントリーモデルで70㎜前後、トレイルモデル80mm、フリーライドモデルは100㎜を越えるような数値になります。

このトレイルを求める数式は

T=R/tanΘーF/sinΘ
T:トレイル R:タイヤ外半径 F:オフセット Θ:ヘッド角



で求めることができます。良心的な量産メーカーであればカタログに「トレイ(ー)ル量」という諸元で載せています。(表記のないものも多いです。バイクの旋回特性を知る、推測する上で重要な数値ですので表示すべきだと思いますし、目的を持って設計していることを示すものです)式からわかるように、タイヤ半径Rが大きくなればトレイルは増加(安定)します。ヘッドアングルが小さくなればやはりトレイルは増加します。マレット化することで車体が前上がりになってヘッドアングルΘが小さいく(寝る)ので「直進性」が強調されます。これが「マレット化して必ずしも小回りが利くようになるわけではない」の理由です。フロントホイールを大径化した際には半径Rが増加するのでトレイルが大きくなり「直進」寄りになります。
リア側の29インチ→27.5インチでどの程度の数値が変わるか、ですがリム径だけで考えると700CのETRTOが622㎜、650Bでは584㎜(いずれも直径)ですから高さの変化は19mm。これが高さの変化。装着するタイヤが小経化で太くするのであればこの差はさらに小さくなります。仮に高さの差が20mmとしてホイールベースが約1000ⅿⅿだったとするとヘッドアングルに生じる変化は約1(=ArcTan(20/1000))°。トレイル値での差はおよそ+6mmほどです。その程度です。
フロントタイヤを27.5から29に変更してタイヤ外径が変わることによる半径Rの差で変化するトレイル値も+7㎜程度で、合計13㎜。マウンテンバイクカテゴリーの中でも4~50mmの許容があることを考えれば大した変化ではありません。何よりも150mmほどあるサスペンションのトラベルによる姿勢変化(ヘッドアングル変化)が走行中に変化し続けることを考えればトレイル値ののこの程度の変化が全く問題にならないものだとわかります。
つまり、マレット化による旋回性の変化はほとんど影響しない、ということの様です。タイヤの選択を目的として、走破性や転がり抵抗軽減などの目的のためにマレット化をすることにはほとんどデメリットはない、と結論できそうです。その代わり、旋回性の向上などは期待できないこと、特に29フレームに27.5ホイールを組み込んでも旋回性に目立った向上はないということが証明できそうです。

今回は「トレイル値」を視点に「マレット化」によるメリットやデメリットについて説明をしてきましたが、実は「マレット」という名称で呼ぶようになるかなり前の時点で、27.5インチホイールが出現してきた時から26インチのマウンテンバイクにフロント27.5インチを装着して長く使用してきています。そこで感じているのは、まさにこれまでに述べた通りで、多少のメリットは感じられるものの、デメリットを感じる部分はほとんどなく、現在のこの状態でかなりの満足を感じているという現状です。欲を言えば当初からこの設計で造られたものが良いのは当然ながら、独自の視点で早くからマレット仕様にしておいてよかったという思いです。同時にオートバイ、特にオフロードオートバイはとっくにそんなことに気付いて遥か以前から標準な仕様として採用していることに改めて納得をした次第です。
結論としては「前後異径の「マレット」は多少の効果は期待できることは事実ながら、それによって「発生する不具合も多少でしかない」ということがいえそうです。27.5インチ車はフロントを29インチ化するのはいいかもしれません。

 

 

 














 

 

ご縁があって神戸市内の歴史ある印刷屋さんと親戚関係になりました。
神戸で100年以上続く老舗の印刷所で、ふと見ると倉庫に1台の自転車が佇んでいました。「時々は使うんだけど、さすがにもう古いから・・・」というその自転車はいわゆる「実用車」と呼ばれる初期のころの自転車、ロッドブレーキに26吋のBEタイヤを装着した骨太の業務車両です。 ただ、幾か所か残念な部分も見られ、長い年月に幾多の変遷もあったことが見られました。

 

神戸は1868年(慶応3年)に対外自由貿易港として開港しました。それに伴う様々な混乱は歴史にいろいろと記録されていますが、大坂でも大和でもない兵庫の「神戸村」が国際的な都市になったのはこのことによるものです。貿易に伴う経済の発展とともに、神戸も大きく発展しました。対外的な公用文書をはじめ、証明書や許可証など公書の需要がかつてないほどになったことに応じて「角丸印刷所」がはじめられたそうです。そしてその後も長くにわたり貿易、通関などの主要都市神戸の印刷所として繁栄をしてきたそうです。創業1900年(明治33)年、今年で123年を迎えるといことになります。

おそらく50年ほど使われてきたであろうこの自転車は、基本部分はしっかりとした造りのままでありながら、各部にふさわしくない対症整備も行われてきたようです。すでに何年も前の時点で「もう部品がない」「整備技術がない」などの理由で施されたであろう場当たり的な整備作業の跡が見られます。それら以外には整備不足や自然消耗による機能低下も見られます。さらにこれは仕方がないことですが経年的な劣化や損傷も見られます。すでに「印刷所」としての業務使用は大幅に減ってこの個体をさらに大切に長く使うという意義がないためやむを得ない状況でしょう。
しかし、印刷所の長い歴史やその半分近くの長い年月をこの印刷所で業務に使われていた車両、という歴史を考えた際にこのままお手上げになったらおしまい、ということは非常に残念に感じられます。すでに現時点で部品の調達が不可能かもしれませんが、できる限り「当時」の機能・性能、そして役割を取り戻すための自転車の整備をさせていただくことにしました。


まず、多くの自転車がそうであるように「壊れるまでは整備しない」が50年という年月だったとすれば年数に伴う機能低下は避けられないものでしょう。幸い「運搬業」ではなく、主業務に伴う配達や納品といった軽微な使用だったようですから年数のわりには損傷、消耗は少ないはずです。そして壊れた箇所を修理された場合も、入手可能な部品や技術でおこなわざるを得なかった、ことによる不適合な部品が装着されているようです。



整備の必要箇所を挙げていきます。
・フレーム自体には塗装の損傷を除いて問題はなさそうです。ただし、ヘッドベアリング、BBベアリングは状態を見て整備をすべきでしょう。
・ホイール。こちらもベアリングの整備が必要でしょう。リムの錆はあるものの変形や問題はなさそうです。装着されたBEタイヤの摩耗はすぐに交換しなければという状態でもなさそうです。 しかし、スポークの錆はかなり酷いものです。
・ハンドル回り。この車種の大きな特徴となっているロッドブレーキですが、すでに部品供給がなくなっている状況の中でどれだけ十分な機能状態にまで整備しきれるか、でしょう。
・チェーン、スプロケット、クランクは開けてみて見ないことには何ともいえません。
・サドル。機能的にはスポンジサドルでも良いのですが、可能であれば長持ちする上に身体に合っていくオリジナルな「革」が良いでしょう。あれば、ですが。
・ペダル 安直なプラスチック製、が装着されてしまっています  
・ブレーキシュー。消耗していてそれが原因で効きが悪くなっています。ロッド類は修正/整備して使用できるでしょうか。
・ベル、ライト、反射器  機能はしていますが・・・
・泥除け 衝突などによる損傷も見られますし、不適正なスタンドの取り付けによって変形してしまっているようです。
・両の立スタンド 簡易な物に代わってしまっていますが、寸法的に適合していません。それによってアルミの泥除けが変形してしまっています。
・必要性から取り付けられたいる「鍵」ですが、タイヤ太さや泥除けを含めた径に対応しておらず、泥除けを変形させてしまって、しかも十分に機能していません。





美観再生(世間でいうレストア)でなければ基本的には機能的な整備(分解・給脂・調整)と不適合部品の交換だけで満足のいく状態にはできそうです。ただ、サドルが懸案事項です。入手できる英国メーカー製の金額は躊躇するものです。かといって国内メーカーはとっくに製造を終了しています。
消耗品の手配もできるだろう、と安易に判断して作業に取り掛かります。何はともあれ、フレームからすべての部を取り外していきます。50年分の埃、脂、汚れの堆積が出てきますが、無事にフレーム単体にまでできました。絶望的な錆や損傷は見られず、これをきれいに掃除して、再び取り外した部品を組み戻していきます。ベアリング類はチェックして再利用できそうであれば洗浄して戻してゆきます。ブレーキパーツやハンドル回りなど機能部品とはいえ、正しく作動するためにも徹底的に磨いてめっきを艶出しておきます。ロッドは丁寧に曲がりなどを修正すれば問題なさそうです。ところがブレーキシューはメーカーが製造終了しているようで見つけることができません。取引のある問屋さんでもないようです。これには困ったので意を決して地元の老舗自転車店へお願いしてあみたところ、数日後に「あったよ♪」とどうにかして見つけてくださいました。さすがにそういったネットワークには感謝するばかりです。スタンド、ですが現時点で装着されていものはフレーム(チェンステイ幅)に合っていないものを無理に削って装着されているもので、これは交換を要します。幸いインダストリーがかろうじて?まだ製造・供給をされている様ですので実用車用を手配します。セーフ♪リンエイ製の鉄箱も製造終了ですがこれは軽く色を塗ってカッティングシートで看板文字を入れておきます。ライト、ダイナモは最新機能(LED)で外観それっぽい、が入手できます。入手できるだろう、と安心していたBEタイヤですが発注して届いたものはすっかり中国製のものに変わってしまっていました。トレッドパターンも肉厚も別物でがっかりです。しかも「耳」の部分が異常に大掛かりな構造でこれをリム内にきれいに収めるには通常のBEタイヤでもてこずるのにさらに困難なものになってしまっています。この点を見ても実用車の将来はかなり厳しそうです。そして、問題のサドルです。実はこれも大陸性のノーブランドの雰囲気商品は比較的安価で手に入ります。しかし乗り手にとっては大切な部分でもあり、造りのノウハウで大きく影響される箇所ですので安直に手をだせません。中古も含めて探してみた結果、カシマ製の比較的使用の少ないものが適価で見つかりました。しかし、届いてみてから重要なレール部品が一部欠品していたのです。ああ、イチから探しなおしか?と思いましたが製造のカシマサドルのHPに旧革サドルのベースパーツのみの供給があることを見つけ、これを求めて万事休止。ホイールはハブのオーバーホールは当然としても、リムを磨いてそのまま終了と考えていたのですが、スポークの錆が思いのほかひどく、部品価格を見ると1台分で1000円ちょっと、二度と整備されることはないだろうと考えるとこの際スポークの全交換をしてくことにしました。
以上の作業をすべて済ませ、フレームも軽く艶出し磨きをして完成。まあまあオリジナルに近い状態で、そして機能的にはほぼベストな状態に復活することができました。

 

 

「試運転」という名目で、神戸の港町を回ってみることにします。重厚な変速機構を持たない車両ですので坂道は苦手ですが、街中の平坦な道は思ったほどでもなくすいすいと軽快に走ってくれます。転がりがよく進む、というと手前味噌になってしまいますが、タイヤサイズとギヤ比、フレームの剛性/しなりが程よくバランスしているのでしょうか。神戸開港155年ははるか昔でも、神戸が貿易輸出入の拠点として栄えていた時を想い忍びながら、当時に活躍した印刷所自転車であたりを散策してみます。海岸通、税関関連施設、世界各国からの船員でにぎわったであろう元ドヤ街・・・ おそらく当時もこの速度で走るこの自転車が一番しっくりと来ていたはずです。

 


 

 

アクセサリーを含め、チタンの投稿が続きましたので、しつこくもう少しチタンについて書いてみようと思います。



【自転車のフレームとしては ・・・「好み」です】 
フレームの素材と金属としてしてチタンがいかに優れているか、本当に優れているのか、が今一つ正しく理解されていないようにも感じています。金属として(加工コストや量産効果が少ないことによって)アルミや鋼よりも高価であるがゆえに「優れている(に違いない)」ととらえられているのではないでしょうか。
「錆びないから!」カーボン(C-FRPのことです)やアルミ、ステンレスだって錆びません。
「強度がある!」ステンレスを含むスチールの方が(引張)強度は高いものが実現できています。
「軽い!」アルミの方が比重は小さいですし、カーボンはさらに軽いです。
「(重量に対する強度)比強度が高い!」もちろんカーボンの方が優れています。
「希少な価値のある金属なんでしょ!」地中(地殻)には、アルミ、鉄、マグネシウムに次ぐ4番目に多い金属です。
「生体親和性が高い!」ジテンシャのフレームにその点は特に求める必要は無いはずです。
と、何一つ、一番の「優れた点」を持っているわけではありません。このことが、一時はもてはやされたものの、その性質ではなく数値的な物差しで評価する傾向の自転車産業では使用されることが少なくなったのではないかと思います。軽さで言えば「カーボン」、細さの精悍さや撓りで言えば「スチール」、安い価格でいえば「アルミ」と区分され、選択されていった結果、チタンは一部を除いて高く評価されなくなってしまったのではないでしょうか。評価されるとすれば「好み」とでもいうべきでしょうか。
オキにとってはフレーム?素材としてのチタンはかなりの「好み」です。上述のように何一つ飛びぬけた特徴がない代わりに、(オキの好む使用目的の)フレーム素材として理想的な「バランス」を持っているからです。「スチールほど重くはないがアルミほど軽くなくてもいい」、「アルミほど撓りを抑え込む必要は無いがスチールほど撓ってくれなくてもいい」、「環境耐性(錆・腐食)はアルミでも心配ではないが靭性(疲労破壊)を考えるとアルミでは心配」などいくつもの「そこそこいい」を高次元で満たしてくれています。この点に気付いて、気に入った人(達)にとっては「チタンはこの上なく優れたフレーム」と捉えられているのです。もちろんチタンで作られていればどのフレームでも優れているのか、といえば前提として(素材に応じた)ジテンシャのフレーム自体を性能良く作ることができる、技術やノウハウを持った上での、ということになりますが。

【アクセサリー素材として】
チタンフレームの優れた点は、「好みです」という結論に至ったとして次に、アクセサりーなどの素材としてのチタンが優れているのか、あるいはそうでないか、の本題についてお話していきたいと思います。アクセサリー(ここでは装飾品、というよりも身に付ける物という意味でアクセサリーという言葉を使うことにします)

【錆びるの?錆びないの? 実は錆びやすい卑金属です】
まず金属の分類の一つに「貴金属」と「卑金属」という呼び方があります。多くの方が「貴金属は高級(高価)な金属」をイメージすると思います。惜しいのですが正しくは違います。卑金属、貴金属はその金属が「酸素の影響を受けて酸化しやすいか、そうでないか」を表現、分類したものです。金属には「イオン化傾向」という物性特性があります。酸素と反応して酸化、還元しやすい金属を「卑金属」、反応しにくい金属を「貴金属」と呼ぶことにしています。卑金属はイオン化、酸化しやすいということは錆やすく、電気を生じやすい特性になります(バッテリー原料のリチウムは非常にイオン化傾向の強い卑金属です)。一方貴金属はイオン化の低い、酸化しにくい錆びにくい特性になります。金やプラチナがイオン化傾向が小さい金属です。しかし、それほど高価でもない銀や銅も「貴金属」ですので必ずしも高価な金属が貴金属ではない、と理解いただけるとおもいます。酸化しにくく、腐食や変質が起らない→価値が変わらない→貨幣(硬貨)にも使えるなどのことから埋蔵量との関りもあって金やプラチナが高価なもの、として定着したのでしょうか。そしてこのイオン化傾向が小さい、酸化しにくいは人体にとっても影響が少なく、つまり金属アレルギーも起こりにくいようです。金、プラチナ、銀、(銅)などの貴金属がアクセサリー類に多く使われてきたのはこのためでしょう。ところが、チタンはアルミと並んで非常に酸化しやすい「卑金属」です。「錆ないのがチタンだろ!」と考える方が90%以上でしょうか。事実は、「チタン(やアルミ)はイオン化傾向の非常に大きな酸化しやすい金属です」。チタン(やアルミ)は非常に酸化しやすく、鉄などよりもはるかに早く酸化します。が酸化によって表面に形成される「酸化被膜」が「不動態皮膜」を形成して酸素を遮断し、それ以上の酸化を進行させないのです。ステンレレス鋼が錆びないのも同じで、添加されたクロムが酸化して不動態皮膜を形成するからです。アルミの場合には意図的に酸化被膜を形成する技術がアルマイトと呼ばれています。
いずれにしてもチタンには貴金属を上回るほどの強い「不動態皮膜」のお陰で卑金属であってもアレルギーも起こり難く、アクセサリー向きということになります。

【金属の殺菌、抗菌作用 他の金属にはない「光触媒」】
さらに、金属には「殺菌作用」というものがあります。金属による殺菌作用はイオン化の影響があると考えられていますが、イオン化傾向の大小に関わらるものでもないことも知られています。イオン化の小さい「銀」や「銅」にその効果が表れ、古くから活用されてきました。しかし、金やプラチナに顕著な殺菌、抗菌の効果はなく、逆に卑金属のコバルトなどにその作用があり、実はなぜ金属に殺菌作用があるのかは明確に解明されていないようです。「衛生的な」のイメージを持つステンレスですが、ステンレス自体には抗菌や殺菌の作用はなく、その点は鋼であることに変りはないようです。酸化しにくいため躊躇なく水などで洗浄できることで衛生を保つのであって、そういえば流台シンクや排水口など放っておくと黒くぬるぬるした状態になります。サージカルステンレスと呼ばれる医療用にも使われるステンレスが有ります(SUS317/317L)がこれも耐食性を向上させただけにすぎません。腕時計のケースやバンド、最近ではアクセサリー類にもステンレスが使われていますが、これらにも抗菌作用はなく黒い堆積物や臭いの元となってしまっているようです。

一方、チタンではどうでしょうか。このことこそがチタンの最大の特徴といっても良いと思うのですが、チタン(酸化チタン)には「光触媒」という他の金属にはない(タングステンにも)特性があることが判っています。乱暴に説明しますと、酸化チタンに紫外線が照射されると有機物が分解される、というのが「光触媒」です。有機物、ですから油汚れ、タンパク質、そして細菌やウイルスを分解して不活性化させることができるということです。おそらく銀や銅にも同様の触媒効果があるのだろうと考えられていますが、酸化チタンの光触媒に関してはそのメカニズムが解明されていて確実な作用とされてます。「チタンじゃなくて酸化チタン?」ご心配なく、上述のようにチタンは非常に酸化し易い卑金属ですのでその表面は既に酸化チタンによって覆われています。その結果、チタンにはステンレスや金、プラチナにはない、銀や銅よりも明確で効果的な「殺菌・抗菌」の作用があるのです。このことは、チタンを使ったアクセサリー、ネックレスやブレスレット、指輪、時計、めがねなどを身に付けることでその汚れや臭いが発生しないだけでなく、周辺の皮膚、身体を衛生的に、細菌やウイルスから守ることにも効果が期待できます。必ずしも十分な水が確保できないようなアウトドアで使用する食器やカトラリーもチタンで作られたものであればその効果があると思われます。


軽くて強い、そして高いだけだと思っていたチタンですが、実はこうした他の金属にはない優れた特性があったというわけなのです。装飾などの類には全く興味のないオキがチタン製のものを身に付ける理由を、少しご理解いただけたかと思います。

チタン製のネックレス、ブレスレットなどを取り扱いしています。
 

子どもの乗るジテンシャは「おさがり」を活用することで物質的な無駄や環境に対する負担が低減するのではないかと考え、「繋がる「リ」さいくる」として我が子にはおさがりジテンシャの活用を実践してきました。
過去記事:16インチ車
過去記事・20インチ車
主には「使っていないジテンシャを有効に利用したい」という想いからによるものですが、特に我が子に関しては「自分仕様ジテンシャを作り上げていくプロセスの体験」が大きな目的となっています。新しい高性能の新品を買い与えることも大切ですが、ぬりえ感覚で自分だけのジテンシャを作っていく喜びを体験してもらいたいという想いです。幸い、子どもはジテンシャが新品であるかどうかよりも「好きな色」とか「自分でやった」の方に満足を感じてくれた様で、16インチ車に続き20インチ車も同様に親切な車両ご提供者のお陰もあってこの試みが実践できています。

そんな前投稿をご覧になって、共感を頂いたお客様より、同様の体験を子ども(姪)さんにさせてあげたい、というお申し出を頂きました。しかし、再生の元となるジテンシャもなく、それも含めてのご依頼です。
これまでに小店でお買い求めいたお客さまを中心に広くお声掛けしたところ「もう使っていないモノがありますよ 良かったらお使いください」というありがたいお申し出をいただきました。小店から販売されたものではありませんでしたが、そこは問題ではありません。画像でご依頼者の方に確認を頂き、これで、と了解を得て実車が店に運ばれてきました。「使っていただけるのであれば結構ですよ」とのことで金銭のやり取りは無くても良いそうです。実車をご依頼者に確認していただきます。元前持ち主は活発な男の子。黒と赤の精悍なカラーリングのジテンシャです。一方ご依頼者はピアノを習いに行く際にも使う、という女の子です。このまま「おさがり」として使うのではなくやはりフレームの塗り替えを含む組み直しをして再利用するということになります。
フレームは塗り替えて好みの色でお使いいただくことになるのですが、例えば色の塗り替えが困難なリムなどはそのままの前提です。現車は赤いリムで組まれていますのでその塗り替えが不可能(困難)であることと、フレームカラーとの影響をご考慮いただく旨を伝えます。それまでに考えていたカラーリングを変更してしまわなければばならないかもしれません。これらをご了解していただた上で作業へかかります。

まずはフレーム単体とするために全ての部品を取り外していきます。再利用しないプラスチックのカゴや跳ね上がった泥除けは廃棄します。そうしてフレーム単体となったモノをご依頼者にお渡しします。これよりフレームの色付けやデザインはご依頼者の元に持ち帰って行われます。さてどんな色に仕上がってくるのでしょうか。

お預かりしたフレームから取り外された各パーツは再組立てに向けて各部の点検と整備を進めておきます。各種軸受け、ベアリングは状態を確認して給脂や調整を行います。使用の限界に達したものは残念ながら交換を必要としますが、やはり今回もその必要は無さそうです。一方、タイヤやチェーン、ケーブルやハウジングは交換をして新品時かそれ以上の使いやすさを狙います。実はこのプロセスが案外と効果的で、子ども車の多くが新車納車時に大人のスポーツ車並みの納車整備をされていることは少なく、あまり使いやすい状態で使われてきているケースは少ないようです。ベアリングの予圧やレバー類の操作性など、多くは手間暇を掛けることなど無くそのままであることが多いのです。ですのでこうした組直しをした際にこれまでよりも「良い作動」を得ることができることがあります。

さて、幾週間の時間の後に塗りなされたフレームが持ち込まれてきました! 調色を優先して「ハケ塗り」で塗られたサーモンピンクのフレームにピンク、赤、白のカッティングシートから切り出された「シール」がレイアウトされています。刷毛塗りの彩色は初めての体験だったのでしょうか。ところどころに垂れたりムラになっていたりしますがそんなものが全く気にならない出来栄えです。おそらくその過程の時間を存分に楽しんだのだろう、という様子がビシビシと伝わってくるようです。
ではせっかくの綺麗に彩色されたフレームを痛めないように細心の注意を払って部品の組み戻しをしていきましょう。こちらジテンシャ店にできることは極僅かですが、フレーム色にあわせた色使いや体格に合わせた組付け、調整、操作性を目指して仕上げていきます。「カゴが必須」とのことでしたので、実用サイズでありながら大きすぎないサイズのカゴを探して取りつけます。 さあ、完成♪


金額的な価値観は人によって様々です。仮に無償で譲り受けたジテンシャであっても使用して減ってしまった消耗部品を交換して、フレームに色を塗るための材料や準備、そして手間賃などを併せると、新しいジテンシャが買える金額になってしまうかもしれません。あるいはそれを上回ることも。真新しいモノを手に入れる喜びも大切な気持ちですが、「自分だけのジテンシャを作り上げていく体験」は新品新車のジテンシャの購入には付加してこないものです。どちらが大切と考えるかは人ぞれぞれ、そして当の本人である子どもさんがどちらを喜ぶのか、だと思います。
おさがりの活用はそうした選択肢を一つ追加できるチャンスだと考えてています。 ご相談はお気軽にお問合せください。また、使っていないジテンシャの活用のご相談もお気軽にどうぞ。



*フレーム彩色時の写真をお借りしました


 




 

 

お店を始めた頃から「ツーリング車が究極」と口にしていました。「今」はマウンテンバイクやロードバイク、そのスピードに傾倒するも、その「先」にあるのはツーリング車、旅車なのだろうと考えていました。ついつい、「車種」でそのカテゴリーを区分しがちですが、要は使われ方、用途、そしてスタイルによってその選ぶバイクは決まっていくのだろうということにも気づき始めていました。競技がその目的であればロードバイクが最適でしょうし、パークや専用コースを主にするのであればそれに適したマウンテンバイクなのかもしれません。しかし、ツーリング要素の強いロードライド、トレッキング要素の強いトレイルライドが自らの「好むところ」「向かうところ」であることを知るにつれ、そして「速さ」に囚われることから解放されるつれ、機材(車種)によってカテゴライズされるのではなく、ロードバイクもマウンテンバイクも区別はなく、ただその路面や用途によってのみ区分され、そして選んで使っていることを強く実感することになります。そしてさらにより広範囲、汎用性、実用性を求めていった結果、特性を絞り込んだマウンテンバイクやロードバイクではなく、「旅車」がいきつく先なのかも知れない、と確信したのです。旅、となると「財布一つ」でできる範囲は限られ、未知なる発見を求めるほどに、「備える」つまり装備が増えることになります。より深く自然の中にはいって過ごすためにキャンプ装備を携行するのであれば自転車に求められる機能も自ずと定まってきます。そういえばクルマもオートバイも結局のところ、実用性を重視した「旅車」に収束したように、やはりジテンシャもその方向に向かうのが自然なのでしょうか。

 



「旅車(ツーリング車)」とはいえ、それは用途の名称であって、車種カテゴリーを限定するものではありません。ツーリング車と言えば多くはランドナー、スポルティフなどを指すのかもしれませんが、そこに囚われるつもりはありません。ロードバイクやマウンテンバイクをベースにツーリング仕様として利用するスタイルもあるでしょうし、昨今はシクロクロス(風)やグラベルバイクをその近道として選ぶこと、あるいはメーカーが提案することも多く見られます。しかし・・・ 「旅(ツーリング)」という漠然とした用途はその目的や経路、スタイルや距離、地形、日数などによってさまざまですし、さらにそこに「未知の」を含ませるならそのための機材(ジテンシャ)を他人の推奨で簡単に決めてしまう、型に当てはめてしまう、のは少し異なってきてしまいます。
旅は経験と回数によってスタイルが変化、成長し、自身の「旅スタイル」が形成されてくるものだと思います。同時にそれに使われる機材(道具)としてのジテンシャも経験とスタイルの形成によって必要なものが求められ、不要なものを削ぎ落しながら最終的な「形」にたどり着くものなのだと思います。冒頭での「究極」と表現したのはそうした意味を含んだものです。初期の段階では先人がたどり着いた一つの形であるランドナーを選ぶこともその近道かもしれませんが、最終的に「自身のスタイル」がそれと全く同じ、とはならないかもしれません。



細やかなことに拘る必要はありませんし、この手のカテゴリーで重視されがちな?「様式美」に囚われるつもりも毛頭ありませんので、ある程度の積載ができ、輪行に適したもので、壊れにくくトラブルを最小限に抑えられるもの、の機能を満たせば様式的なメーカーの「吊るし(=完成車)」でも一向にかまわないのです。泥除や荷台の装着に幾分の工夫を要しながらも自分のスタイルに近いものはそう難しく無く実現ができます。現在もそうして使用過程のツーリング車を楽しく使っているところです。舗装路では富山~乗鞍岳をロードバイクと共にこなし、1000ⅿ越えの雪のシングルトラックライドをマウンテンバイクと共にこなし、もちろんキャンプ装備での輪行の実績もあり、十分に満足の出来るものです。
ただし、ブレーキの性能は舗装路で、積載時の制動力、そして悪路でのシューの消耗で不満があります。リムブレーキ(カンティブレーキ)によってホイール径は選択ができませんが、フレーム自体は700Cから26x2.4程度までキャパがあるので、ブレーキ形式を変更できれば理想的です。
「このーリング車をディスクブレーキ仕様にできれば良いのに」が長らくの「夢」でした。



そんな「理想の」ツーリングバイクの話を、あるキャンプツーリングを実践されているお客様にしたところ「もしそれが可能ならぜひお願いしたい!」といことになりました。 しかし、理想とはいえ実現できるかどうか・・・ フレームにディスク台座を取りつけて製作すればよいだけですので物理的には何ら難しいことではなく、既に市販されている物もあります。それこそ、上述のシクロ(ディスク)車やグラベルロード、日本では馴染のないアドベンチャーロードをベースにそれっぽいバイクに仕上げることは可能です。しかしそれらでは乗り手の「スタイル」とは異なるものとなってしまいます。様式には囚われない、とはいうものの「こうありたい」という部分も譲れません。譲りがたい条件としては・・
・機材トラブルのない、輪行のしやすい「Wレバー+ブレーキレバー」を使用
・650x38(42)Bを主に700x35Cまで対応
・フロントキャリアの装着を想定したスチールフォーク
・ハンドル(ステム)の抜きを考慮してノーマル(クイル)ヘッド(1")
・実荷重に耐えうるキャリア取りつけ台座
・当然、泥除け(脱着式)が「キレイに」装着

どうにも実現難しそうな条件です。加えて個人的には将来的なことを見据えて
・油圧式、機械式ディスクブレーキシステムにも対応(フラットマウント)
・前後共にスルーアクスル
などなど・・・

これらをクリアしようと考えてみますが、ディスクブレーキ台座やスルーアクスル取りつけのノウハウ、ツーリング車独特のフレーム工作に関わるノウハウなどこの双方に精通するフレーム製作者が思い当たりません。つまりツーリング専門ビルダーにディスクをお願いするのは、マウンテンバイク主軸のビルダーにツーリング用の工作を、依頼することがはばかれます。あるいは「できねえ」と門前払いでしょうか。「できるよ」といってこちらの思うものが出来上がってくるのでしょうか・・・


「理想」「夢」が実現できないまま、ほぼ諦めつつあったのですが、ダメ元で店主の最も信頼するビルダー、東洋フレームの石垣氏に恐る恐る相談してみることにしました。TIG溶接に関しての技術の高さはもちろんのことなのですが、新しい発想や応用、挑戦に対しても「一歩先を行く」ビルダーです。

「ディスクのツーリング車をお願いしたいんですが・・」
「できるよ」
あまりに簡単に。
「1インチスチールフォーク、フラットマウント、スルーアクスルで」
「それかあ~」「ちょっと考えさせて。アイデアはあるねん」
簡単ではないながら検討はしてもらえるようです。早速この話をご依頼者に伝えますと、大変喜んでいただけたようです。なんとしてでも実現したいものです。
素人ながらに想像しても容易なことではありません。泥除け装着となると車軸~クラウン下の距離がミリ単位で(しかもナナメ)正確に決め無ければなりませんし車軸位置に対するフラットマウント台座の位置決めも難しそうです。スルーアクスルのフォークエンドに十分な強度を備えたキャリア台座をその位置に取り付けるか、泥除けステーの台座の干渉しないための位置決めなど困難は山積みです。
「ストレートフォークでならなんとかできるなあ」という回答を頂きました。「先曲げ」のフォークが外観的な特徴のスチールツーリング車ですが、実は「先曲げ」自体は大して乗り心地に影響していない事実を理解していますのでそれは問題ありません。しかし、ストレートフォークの方が「設計(図面)」が困難になることも理解しています。ありがたい決断です。市販車の、他のビルダーがこの部分で「諦め」ているのだろうと思います。そしてリアのエンド形状。こちらも実用キャリアを装備でき、泥除け装着が可能なものを検討。チューブの接合方法に関しては、様式的には「ラグ」としたい(イメージ)ですが「ラグでもできるけど、ロウ材はいずれ劣化するので。TIGの方が強度も耐久性も高いよ」とのアドバイスでTIG溶接で製作していただくことに。ジオメトリーはもちろんのこと、完全な理想のバイクをなるべく細かい仕様を全て決めていきます。ご依頼者の「好み」によりゴムバンド式のチェンプロテクター(台座)を装着します。カンティブレーキ台座に関しては不要であることを考えながらもキャリア取りつけステーの台座としての機能を残すことにステー台座を装着しようかと考えましたが、大きく手間も費用も変わらないので保険的に「カンティブレーキ台座」を前後に装着・・・ 細かな個所の指定を全て決めてフレームの製作依頼となりました。ジオメトリーに関しては一般的な走行性能に見合った設計と、ご依頼者の体格に合わせて複合的な寸法取りになるようですが、これに関してはいくつかの質問事項(これまでの使用バイクの寸法や積載荷重)に回答をしてお任せ、です。
相当な手間と労力を掛けてしまっているなあと想像できるのは「装着するタイヤ付きのホイール前後と装着するキャリア、泥除けも準備して預けおいてほしい」と言われ、全ての取り合いを確認しながらフレームが製作を進められていくのだろうということ。なにもかもお任せして安心して依頼ができそうです。



使用するホイールを組み上げ、泥除け、キャリアと共に石垣氏に預けて、全てを委ね、待つことわずか2か月ほどで「フレーム生地が出来上がりました」とのメールと幾点かの画像が届きました。「これですです! コレです!」 ほぼワンオフの1”フォークをはじめ、フレームの雰囲気も、依頼した工作も想像か想像以上のものです。TIGとロウ付けを必要に応じて自在に作られたフレームはその両方の技術に精通する石垣氏ならでは、の物です。未塗装の生地フレームの画像に気持ちもアガります!
さらに待つこと数か月、依頼していた塗色で仕上がって来たフレームがようやく出来上がってきました!!



初めて見る、1インチクロモリフォークにフラットマウントディスク台座、カンチ台座、スルーアクスルエンド。できあがった物を見るのはカンタンですが寸法決定を含めて相当な手間ともしかすると試行錯誤がされたものなのかもしれません。実用荷重に耐える様に作られたキャリア台座付のスルーアクスルリアエンドも初めて目にするものです。できあがった物を見ると、むしろフラットマウントディスク台座だからこの形が実現できたのかーと気付かされるのと同時に、ケーブル(ホース)をダウンチューブに沿って導くこととWレバー台座が共存するための現実的な困難さが上手くクリアされていることにも気づかされます。ノーマルブレーキレバー(アウター出し)ケーブルを「右前」で運用する際のアウターの引き回し方もいろいろ考えての上でしょう。TIG溶接による接合を選んだ時点で諦め?ることになるラグの「様式的」な形状ですが、ヘッドチューブの補強のために巻かれた「ハチマキ」にはささやかな装飾的な「ヒゲ」がわざわざ付けられた洒落っ気も見られます。競技用フレーム製作のノウハウからでしょうか、単純にフレーム用管を繋いだだけではない細かなチューブの曲げ、扁平、リブ補強などが見られ、これが走りに活きてくるのでしょうか。 フレームを眺めているだけでフレームの製作に掛かった手間、時間、そして込められた想いが伝わってくるようです。その何倍もの価格がする「高性能」と言われる最新素材のフレームよりも、何十倍、何百倍も価値のあるフレームに感じられます。 今回の無理難題に応じていただいた東洋フレームの石垣氏には感謝しかありません。



さて、ここから先は「ジテンシャ屋」の出番です。このフレームの価値を最大限に活かして実用性の高い満足度の高いジテンシャ車に作り上げていかなければなりません。少しの重圧感と期待感がまじりあう気持ちで臨みます。

フレーム内への防錆対策を施した後は、通常通りの部品の組付けを行っていきます。古典的なスチールフレームへの部品組付け作業になんら大きな問題はありません。ディスクブレーキ、に関してもむしろ手慣れた作業です。
ホイールは「ディスクブレーキ・スルーアクスル」を選択した時点でハブは決まってしまいますが、さらにシルバーポリッシュのリムに合せた仕様で、となるとなかなか厳しい選択肢の中から工夫(と労力)を要することになります。黒で良いのであればもちろん、赤や青でもいい、よりもはるかにハードルの高い課題になりましたが何とかご依頼者のご希望と必要な機能に沿うホイールができました。
ホイール、ハンドル、ブレーキ、駆動機器が組付けられて「ジテンシャ」の形にはなりましたが、ココからがツーリング車としての特徴的な作業となります。今回のゴールはこの手のカテゴリーにありがちな「様式美」ではなく、旅用途に対する実用性、耐久性、走行性をはるかに高い次元で目指すことです。旅の道具として「使い倒してナンボ」を目指して作業を進めていきます。キャリアの装着を前にまず泥除けの装着です。実際に「輪行」でも多用されるツーリング車ですので泥除けは本来の「泥除け」としての機能と脱着の簡便さと耐久性に注力します。700Cでの使用も視野に入れて決定したブリッジ取りつけ位置&フォークブレード長さでしたが、さすが!準備しておいた泥除けにピッタリの寸法でフレームが製作されています。700C想定とはいえ、専らは650(x38B)で使用するため、シビアな取り付けが求められ、ゴマカシは効きません。加えて「脱着」機能を優先するのですが、リアは分割式、フロントは「先外し/後付け」が可能な構成にします。いわゆる「ランドナー」と呼ばれる古典的なカテゴリーでの手法ではこれらのドロ除けを「革ワッシャー」なるものを使用して固定するらしいのですが、固定しようとするものに対して柔軟性のある「革」を使用しても「締結」は不可能なはずです。おそらく「音鳴り」を防止する目的でしょうか。しかし固定が不十分なために泥除けが走行の振動によって微動を繰り返した結果、薄いアルミ素材の穴をどんどん広げでしまって全く固定できない状態、に至ってしまう様子をこれまでにいくつも診てきました。それでも様式(?)を優先して「取り外さない・旅にもつかわない」ランドナーの泥除けとして革ワッシャーを使用するのは勝手ですが、今回に関しては「実用的」に機能することが何倍も優先です。革ワッシャを使用しないだけでなく、泥除材に開けた穴を恒久的に保護するために全ての穴明部にアルミワッシャを溶接に匹敵するといわれる強固な接着剤で接着固定します。これで穴部の保護ができます。また、泥除けには「ステー」と呼ばれる線材を取りつけて固定しますが、そのステーと泥除材とは「ダルマ」と呼ばれる貫孔のボルトを用います。通常は固定箇所1カ所に対してダルマを並列に二つ使用して固定されることがランドナーなどの定番らしいのですが、これをセンターのみの1カ所にします。位置決めの保持力は低減しますが、1カ所留であればイモネジを少し緩めればステーは自由に回転することができ、ステー付きの泥除けをコンパクトに「折り畳む」ことができます。正統派の輪行では外した泥除けは同じく取り外したホイールに被せてステーを護るらしいのですが、折り畳むことができれば収納の自由度もあがりますし、ステーや泥除けの不要な変形を避けることもできます。フロントフェンダーの取り付けの際に採用される「隠し止め」も採用しません。隠し止めとはフォーククラウンの裏側に雌ネジを設けて置き、泥除けの内側からボルトなどで固定する、という締結です。この際にやはり革ワッシャという不完全な固定が行われることもありますが、いずれにしても前輪を取りはずさなければその締結ボルトを緩める/締めるができない構造です。しかもプラス頭であっても六角穴であっても工具を使用しなければならず、せっかくステー先端のフォークエンドでの固定ををダルマジネジ+D環ボルトにして「工具不要」としている意味が半減(どころか全減)です。また車輪脱着の手順としては泥除けが装着された状態で車輪の脱着は不便でしかありませんので「車輪が装着されたまま泥除けの脱着が可能」な方法を取ることが実用上はなるかに重要です。そこで、「見た目」的には好き嫌いが分かれますが、露出したブラケットを取りつけて、車輪装着のまま泥除けの脱着が可能なように「外留め・蝶ナット」による固定を採用します。これで隠し止めボルトがなかなか締付け出来ずにイライライラからは回避されます。吊りボルトによる固定もあるようですがやはり同じ理由で採用しません。飾って楽しむランドナーには「隠し留め」で♪
さらに、作業の核心はリア泥除けの「分割加工」です。フレームに対して2カ所固定+1カ所ステーのリアについては2カ所のフレーム固定箇所を残して後端を「切断(分割)」して脱着を容易にする手法が採用されます。頻繁に輪行をする際にはそうであるかないかは大きく差が出る個所ですので実用ツーリング車では分割が好まれることは多いのです。分割(切断)する箇所はシートステイで固定した部分以降となりますが、その確実な固定方法とそしてその分割箇所が「目立たないこと」が期待される課題です。今回のフレームのシートステイブリッジには泥除け装着を前提として縦穴(ラジアル)のM5雌ネジが設けられていますので泥除けの装着自体は容易です。が、切断ラインを目立たないように(&汚れを最小限)するためには切断箇所をブリッジ下にした方がよく、結果的に切断ラインは横一線ではなく、「曲線」で分割することになります。現物合わせの根気のいる作業となります。
この分割箇所の穴は脱着の度に締め/緩めが繰り返され、かつ走行中の振動も大きく発生する箇所ですので上述の穴を保護する補強アルミワッシャーの接着が重要となります(他の穴開け箇所にも全てワッシャを接着しています)が、長い期間の使用を考えて十分な対策を取るべき箇所です。分割箇所の脱着はこちらもホイールを装着したまま泥除け(分割)の脱着が工具不要で可能なようにやはり蝶ナットを用いて留める様にしており、ボルト側は分割部の支えに溶接してタイヤ側への張り出しを最小限に&ボルトの紛失を防ぐように工夫しています。
泥除けの固定ができ、位置決めができると、それに合わせてキャリアの取り付けを行います。機能的には泥除けとキャリアに関連性はないため、泥除けの位置に関わらずキャリアの位置決めを行うことは可能ですが、接触や干渉して音の発生や変形してもなりませんし、かといって大きく隙間が空いてしまうことは収容性の面でも不利です。理想は「干渉がない範囲でできるだけ近接したキャリアの高さ」に取り付けられていることが望まれます。キャリアの取りつけ高さを決定しているものはキャリアが持つその足の穴の位置であり、フレーム(フォーク)側のキャリア台座(雌ネジ)の位置によって決まります。試しにデフォルトの状態で合わせてみますと、フロント側では泥除けに完全に接触して取りつけ不可能ですし、リア側では無駄に高(離れ)過ぎの状態でした。そこでフロントキャリアの足を延ばして高さを稼ぐ必要とリアキャリアの低くなる位置に穴を追加して、アクスルと干渉する余分な部分をカットする必要があります。特にフロント側は泥除けの前端部分をキャリアとボルト締結するというオプションもあり、ミリ単位で高さを稼ぐ必要があります。穴を開けたステンレスフラットバー(帯鋼)を溶接して約7㎜延長します。リアは約10㎜下げる様に加工しました。キャリア上部の固定はカンティ台座を利用して固定しますが、カンティ台座のボス(軸)をそのま露出して使用するのもなんだかと思い、アルミのスペーサを加工して挿入します。もちろんキャリア座面の「水平」には十分に注力します。以上の工作は溶接部材を含めて全て「ステンレス」を使用し、長年の使用でも腐食や劣化を回避する様にしました。これでで泥除けとキャリアの装着が完了してツーリング車としての出来上がりです。


最後にハンドルバーに革製のバーテープを巻き、革サドルを取り付け、脱着式のペダルを装着して「完成」です。


構想、の期間を含めればかなりの時間を要してようやく実現、完成することができた理想の「ツーリング車」です。実際に制作する側の苦労はあったことは想像がつきますが、必ずしも「不可能」だったことではないはずなのですが、それでもなかなか実行に移せなかったのは、「(ツーリング車たるもの)~でなきゃ」が作り手にも、乗り手にもあったからなのかもしれません。重量物を積載して悪路を含む道のりを天候も選べない複数日に渡るツーリングでそのブレーキがディスクブレーキであることのメリットは、ロードバイクのそれよりも、晴れた日しか乗らないトレイルバイクよりも明らかです。様々な用途や路面、行き先に応じてホイールを選んで変更して装着できる構造はツーリング車にとってさらに可能性を広げることができる大きな「武器」となるはずです。にも拘わらず、「ツーリング車はカンティブレーキでなければ」とか「正統派スタイルでない」云々という既成概念が邪魔をしてそんなフレーム/フォークをこれまで誰も作ってくれなかったのでしょう。「ツーリング車はこんな形(様式)」という思い込み、型に嵌めた考えがユーザー側にあればこれまで誰もが具現化してみようと思わなかったのでしょう。様式だけを重視して、キャンプを含めた本当の意味での「ツーリング」をする人があまりに少数なのかも知れません。
しかし、それを望む方にその理想を実現できることが証明できた貴重な実績となりました。製作をご依頼いただいたお客様に対して、フレームを製作していただいた東洋フレームの石垣氏に対して、店主の理想の実現のためにご協力いだいたことに深く感謝する次第です。ありがとうございます。