桜木紫乃さんの連作短篇集で、第149回直木賞受賞作。

ホテルローヤルという、廃墟になったラブホテル。時間をさかのぼるようにして、かつてそこにいた人を次々と描いていく。

ここに出てくる人たちが、「廃墟でヌード写真を撮るのが趣味の男と、その彼女」「ラブホ閉業の日に、業者の男とセックスしようとする女将」「寺の存続のために檀家に体を売る僧侶の妻」どれもこれも、一歩間違えたらB級週刊誌の読み切り漫画みたいな世界。

なのに桜木さんがこの人たちを描くと、道東のどんづまりでそういうふうにしか生きられなかった人間の哀感が、湿地にたちのぼる霧のようにしっとり漂いはじめるのが職人芸。

性愛がテーマらしいんだけど、まあ確かにそうだと思うけど、ぜんぜんいやらしくないし、こっぱずかしくもならない。読後感のよい、不思議な性愛小説集でした。