江崎誠致さんの、直木賞受賞作(1957年)。
戦争という異常事態を、平易な文章で、ストイックなまでに淡々と描いていて、これがものすごい怖かった。
フィリピンのルソン島で、もはや目的も行き先も見失い、力尽きるまでただ行軍のための行軍を続ける日本兵たち。
彼らは淡々と崖で足を踏み外し、淡々と熱病に冒され発狂し、淡々と爆撃で頭の半分を吹っ飛ばされてもわからずに歩き続けるのです。
この小説に、あらすじはありません。あるのは死んでいく兵士たちに、まるで筆をあてるような藤木上等兵の視線だけです。その結果、なんていうか、イキイキした死に様みたいな、よくわかんないけどおそろしいことになっています。
指揮官たちはどうしたかというと、ルソン島が猛攻撃に遭ったら、さっさと自分たちだけ台湾に逃亡…。
戦争って呼ぶと一気にいろんなことがぼんやりしてわかんなくなるんだけど、「要するにあなたや家族や友人が、こういう目に遭うってことですよ」っていうのがわかるところに、戦争文学を読む意義があるように思う。
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