Future Cafe -25ページ目

Future Cafe

音楽レビューのようなもの〜TECHNO、JAZZ、BREAKBEATS etc

「BLACK NOISE 2084」DJ Khalab

 

 

 サンズ・オブ・ケメットのリーダーであり、UKジャズシーンの最重要ミュージシャンである、シャバカ・ハッチングスがゲストとして参加するアルバムが、またしてもリリースされた。とはいってもシャバカのサックスが聴けるのは、わずか②「Dense」の1曲のみ。全編を通じて異形のアフロファンクとも言うべき個性的なサウンドが跋扈する中、シャバカのサックスはアルバム全体の空気を支配するかのように圧倒的な存在感を見せている。

 現在のロンドンでは、サンズ・オブ・ケメットを筆頭に、ザ・コメット・イズ・カミング、メルト・ユアセルフ・ダウン、エズラ・コレクティヴなど、アフロジャズやアフロファンク、アフロビートからインスパイアされたバンドやグループが一つの潮流を作り出しており、その多くにシャバカ・ハッチングスが関係して大きな成功を収めているのだが、DJカラブの「BLACK NOISE 2084」はそうした動きと連動しながらもシャバカとは異なるDJならではの方法論で制作されたアフロフューチャリズムの真打ちと言えるだろう。性急な高速ビーツを軸に民族楽器やサンプリングヴォイスが暴力的に渦巻くそのスタイルは、クロスオーバーやフュージョンといった言葉には容易に回収されない破壊力に満ちている。その相貌は、どこかパンクやアシッドハウス、ジューク/フットワークなど、初期衝動に基づく音楽にも似ている。実際は複雑なサウンドなのだが、アフロ、ジャズ、テクノの融合を安易に図ろうとするのではなく、衝突から生まれる緊張感を前景化させることで、パンクにも似た荒々しい表情を与えているのだ。もっとも「Black Noise」と題されているのだから、楽曲としてきれいにまとめる必要もないのだが・・・。しかし、このアルバムは多様なビートや楽器を異種格闘技のようにぶつけ合う一方で、それを安易にカオスなどと口にした途端、たちどころに見えなくなってしまうような繊細な美意識にも貫かれている。

 このサウンド、中毒性が高いし、なによりハマれる。エレクトロの進化を受けて初めて可能になったトライバルミュージックといえるだろう。また、クラブミュージックを知るジャズドラマーの一人であるモーゼス・ボイドの参加(⑩「Dawn」)も嬉しい。数年前にトロピカル・ベースで話題になったクラップ!クラップ!もゲストに名を連ねている(⑩「Cannavaro」)。シャバカ・ハッチングス絡みでは、いくつかのグループのメンバーから成る混成バンド、メルト・ユアセルフ・ダウンの作品を聴いたときも似たような感触を感じた。DJカラブの方がメルト・ユアセルフ・ダウンよりも未来感が強いが、衝突から生まれる緊張感を前景化させるという点では共通するところも多いと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「The Shakedown」 TENDERLONIOUS feat. THE 22ARCHESTRA

「Reflect+Respond=Now」R+R=NOW

 

     

 

 フルートを演奏するポートレイトをアルバムジャケットにしたテンダーロニアスことエド・コーソーンのデビューアルバム「The Shakedown」は、彼がフルート奏者ではあるもののハウスビートやブロークンビーツをベースにしたクラブジャズ直系のトラックメーカーであることを踏まえると、まるで王道ジャズアルバムのパロディのようにも見える。しかし、この意表を突いたジャケットには、本アルバムこそがむしろ今の時代の正当なジャズであるという自負が暗に込められているような気もする。本人にはパロディの自覚はなく、演奏をないがしろにしてはいないというこだわりの表明なのかも知れない。これまでリリースされたEPでは、同じUKのカマール・ウィリアムスのようにクラブジャズの新世代といったイメージが強かったが、本作においては、フルートやベース、シンセサイザーをはじめとする楽器を全面的にフィーチャーしつつ、本格的なリスニングに耐えられる高度な音楽センスをフルスロットルで発揮し、新たな地平を開示して見せている。

 1曲目のタイトルは「エクスパンションズ」だが、これは1975年にリリースされたロニー・リストン・スミスのアルバム「エクスパンションズ」を連想させる。ロニー・リストン・スミスの「エクスパンションズ」は、スピリチュアルジャズにファンクやソウルを融合したドラマチックなコズミックジャズで、レアグルーヴとしても人気の高いアルバムであるが、テンダーロニアスの作品もまたスピリチュアルジャズの要素を取り入れながらもダンスビートを大胆に導入し、ロニー・リストン・スミスに比肩し得るコズミックでメロウな世界観を提示しているのが特徴だ。

 本作からはユセフ・ラティーフの神秘性、ブラジリアンフュージョンの楽天性、アフロジャズの土着性など、さまざまなエレメントを感じ取ることができるのだが、そうした雑食性こそがUK新世代ジャズの屋台骨であり、このテンダーロニアスのように、クラブミュージックとジャズとのシームレスな融合を図る動きから目が離せない。本作にはカマール・ウィリアムスや松浦俊夫とも共演しているドラマー、ユセフ・デイズが参加しているが、UKジャズは人脈のかぶりが多い。そのことがUKジャズシーンの“狭さ”の表れなのか、フレキシブルな人脈の“広がり”を象徴しているのかは分からない。

 「The Shakedown」を聴く限り、テンダーロニアスの作品にはハービー・ハンコックの影響も少なからず存在する気がするが、ハービー・ハンコックからの影響をさらにダイレクトに感じさせるグループが、ロバート・グラスパー(キーボード、ピアノ)、テラス・マーティン(サックス、ヴォコーダー、キーボード)、クリスチャン・スコット(トランペット)、デリック・ホッジ(ベース)、テイラー・マクファーリン(キーボード、電子音響)、ジャスティン・タイソン(ドラム)の6人により西海岸で結成されたR+R=NOWだ。メンバーだけ見るとまさにスーパーグループといった感じだが、異なる個性のぶつかり合いと言うよりは、ヒップホップやソウルをジャズのイディオムで再構築したロバート・グラスパー・エクスペリメントの「ブラックレディオ」がそうであったように、コンセプトアルバムの要素が強く、キーボードとドラムを中心としたミニマルでアンビエントミュージック的な構成が際立っている。大物を起用しながらもメンバーは入れ替え可能でじつは誰でもかまわないっというのは、近年の「US新世代ジャズあるある」の一つなのだが、当プロジェクトもまた匿名性が高い。

 ブロークンビーツ的な変拍子を取り入れた「レスティング・ウォリアー」などは、菊池成孔率いるデートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデンのエレクトリックマイルス解釈に近い面白さがあるが、全体的にヒップホップ以降の感性を反映した21世紀型の新主流派ジャズといった雰囲気が強い。ハービー・ハンコックさながらのヴォコーダーやメロウな展開は筆者の大好物でもあるのだが、テンダーロニアスなどのUKジャズに比べるとやや真っ当すぎるというか、大人しすぎるところもあり、ハービー・ハンコックを超えているかと言えば正直なところ首肯しかねる部分も多い。それでも、クリスチャン・スコットのトランペットやデリック・ホッジのベースはクオリティが高いし、ヒップホップ経由というECMとは異なる道筋で独特な音響空間を生み出すことにある程度成功しているし、これはこれでありなのだと思う。UK新世代ジャズのようなコマーシャリズムやいかがわしさとは次元の異なるUS新世代ジャズのあり方は、かつてのロンドン・パンクとニューヨーク・パンクの違いに似ているのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「LOVEPLAYDANCE」TOSHIO MATSUURA  GROUP

 

 

 3月のリリースだから少し前になるが、元ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼーションの松浦俊夫が2013年のHEX名義でのアルバム以来となる新作をリリースした。松浦俊夫が単身ロンドンに渡り、前回のブログにも登場したジャイルス・ピーターソンの協力のもとでつくりあげたというこのアルバム、クラブアンセムのカバーで構成されており、そのラインナップが凄い。ブッゲ・ヴェッセルトフト、クルーダー&ドルフマイスター、ニューヨリカンソウル(原曲はザ・ニュー・ロータリー・コネクション)、バイロン・モリス・アンド・ユニティ、ロニサイズ・レプラゼント、フライング・ロータス、インナーゾーンオーケストラ(カール・クレイグ)、それぞれの楽曲のカバーにオリジナルの新曲1曲を加えた全8曲。これらの楽曲を近年のUKジャズシーンを代表するミュージシャンたちがカバーしているのだ。ドラマー兼プロデューサーのトム・スキナーをはじめ、カマール・ウィリアムスとのユニットであるユセフ・カマールでも活躍するユセフ・デイズ、ポーラー・ベアーなどのグループにも所属するベーシスト、トム・ハーバート、ザ・コメット・イズ・カミングの鍵盤奏者、ダナログ・ザ・コンカラーなど、いずれもジャイルス・ピーターソンが推す注目すべきミュージシャンだ。

 ピックアップされた中で最も古い曲が、バイロン・モリス・アンド・ユニティによる 74年の「Kitty Bey」。この曲は、ACID JAZZレーベルが12インチをライセンスリリースしたこともあるスピリチュアルジャズナンバーで、ACID JAZZレーベルの創始者の一人であり、本アルバムの監修者であるジャイルスピーターソンへのリスペクトが込められているのではないだろうか。ロニサイズ・レプラゼントやニューヨリカン・ソウル(マスターズ・アット・ワーク)、カール・クレイグといった有名どころによる派手な楽曲に混じり、ブッゲ・ヴェッセルトフトやクルーダー&ドルフマイスターといった渋い面々による地味なナンバーもきっちりと押さえられているところに、クラブジャズシーンを牽引してきた松浦俊夫のこだわりが感じられて微笑ましい。また、フライング・ロータスはカマシ・ワシントンやサンダー・キャットなどを排出したブレインフィーダー周辺のシーンを意識してのチョイスなのだろうが、ドラムンベース以降の曲をチョイスするなら現在の南ロンドンジャズにダイレクトにつながる4ヒーローやジャザノヴァの曲をぜひ入れて欲しかった。メジャー過ぎるという理由からか、ライセンスの問題かは分からないが、恐らく現在のUKジャズシーンにテイストが近すぎるために選曲しなかったというのが真相のような気がする。

 聞きどころは、まずブッゲ・ヴェッセルトフト「Change」。北欧ならではの静謐でクールなハウスナンバーがコルトレーンの「Naima」を連想させるスピリチュアルなナンバーへと更新されている。クルーダー&ドルフマイスターの「High Noon」はスモーキーなブレイクビーツを異国情緒漂うアブストラクトジャズへとアップデイト。さらに、新曲「L.M.Ⅱ」にはベースラインがユナイテッド・フューチャー・オーガニゼーションの代表曲「ラウドマイノリティ」と酷似しているところがあり、昔からのファンは思わずニンマリしてしまいそうだ。ニューヨリカン・ソウル「I Am The Black Gold Of The Sun」とバイロン・モリス・アンド・ユニティ「Kitty Bey」は、ダンスミュージックとしてのジャズを追求。とりわけ「Kitty Bey」の高速ビートに管楽器が絡む展開はスリリングでアグレッシブだ。ロニサイズ・レプラゼント「Brown Paper Bag」は比較的原曲に忠実といえるが、人力ドラムンベースならではのゆらぎが楽曲に奥行きを与えている。フライング・ロータス「Do The Astral Plane」とインナーゾーン「At Les」はサックスを強調し、インプロビゼーションを加えることで豊穣なサウンドを生み出している。「Do The Astral Plane」ではビートがさまざまに変化し、後半にはPファンク〜プリンス的な展開も。過去の遺産を最新のUKジャズに生まれ変わらせる本作の試みは、クラブジャズを熟知する松浦俊夫とジャイルス・ピーターソンがいたからこそ可能になったと言えるだろう。2000年代にはDJミュージックは廃れ、ミュージシャンが主導権を握るムーブメントがしばらく続いていたが、フライング・ロータスとジャズメンの蜜月を通過した今、コンポーザーのDJ的な感性と演奏者のスキルがこれまでになく高い次元で相互補完し合う時代が訪れようとしているのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

「Starting Today」JOE ARMON-JONES

 
 
 ジャイルス・ピーターソンの周辺が再び活気を帯びてきている。1980年代にはアシッドジャズ・レコード(エディ・ピラーと共同)、90年代にはトーキング・ラウドを設立するなど、クラブジャズ草創期から一貫してUKニュージャズにおけるトレンドセッターのポジションを担ってきたジャイルス・ピーターソンだが、2000年代に入ってからはブランズウッドレコーディングスを主宰したり、ホセ・ジェームスの発掘に目利きとしての才能を発揮するものの、ニコラ・コンテが創設したイタリアのスケーマやファイブ・コーナーズ・クインテットを擁したフィンランドのリッキー・ティック等の躍進に押され、その活動はいささか精彩を欠いていた。ところが、2014年以降、ザラ・マクファーレンやシャバカ・ハッチングスのブランズウッドからのリリースを皮切りに、UKジャズの最新モードをパッケージしたオムニバスコンピレーション「WE OUT HERE」リリースし、再びシーンの最前線へと返り咲こうとしている。
 そのジャイルス・ピーターソンが、シャバカ・ハッチングスに続きブランズウッドレコーディングスから世に問うのが、「WE OUT HERE」にも収録されていた鍵盤奏者及びコンポーザー、ジョー・アーモン・ジョーンズのデビュー・アルバム「Starting Today」だ。ジョー・アーモン・ジョーンズは、2017年にはエズラ・コレクティヴのメンバーとしてEP「Juan Pablo: The Philosopher」をリリースし、さらにDJ/トラックメイカーのマックスウェル・オーウィンとのコラボレーションによるディープハウスアルバム「Idiom」をリリースするなどすでにUKジャズ界では注目されており、待望のといえるソロアルバムリリースである。
 このアルバムは雑食的なイギリスの音楽シーンを象徴するかの如き一枚で、ジャズ、アフロビート、ダブ、ソウル、フュージョンに加え、ハウスやダブステップ、ヒップホップ、ブロークンビーツなど、あらゆるジャンルのうま味が見事に抽出されて詰まっている。その手さばきはUSのロバート・グラスパー一派が無骨に見えてくるほど、しなやかで洗練されている。これを1993年生まれの若者が作ったとはにわかには信じがたいのだが、ここには過去のジャズは言うに及ばず、90年代以降のUKクラブジャズのエッセンスまでもが投影され、かつてクラブジャズを牽引した鍵盤奏者であるカイディ・テイタムやマーク・ド・クライブローでさえもたどり着けなかった高みへと到達しているから驚きだ。ブロークンビーツからの影響をコンテンポラリージャズへと昇華させるドラマーのモーゼス・ボイドをはじめ、トランペット奏者のディラン・ジョーンズやベーシストのムタレ・チャシなど、サポートメンバーも素晴らしい。
 変幻自在なドラミングが緊張感を演出するプログレッシブ・ファンク①「Starting Today」、アメリカ西海岸のサンダーキャットと共振し合うかのようなメロウフュージョン②「Almost WEnt Too Far」、エイドリアン・シャーウッドのOn-Uサウンドのようなダブを大胆に取り入れた③「Molison Dub」、サン・ラーにカリブ風味をまぶしたカマシ・ワシントンへの回答とも言うべきコズミックジャズ④「London’s Face」など、魅力的な楽曲が並ぶ。
 ここで忘れてはならないのは、マイケル・ガーリック、ドン・レンデル、イアン・カー、アラン・スキドモアから、マイク・ウエストブルック、ニール・アードレー、キース・ティペット、そしてソフト・マシーン、ゴング、ハット・フィールド・アンド・ザ・ノーズなどのカンタベリージャズ、さらにはアシッドジャズへと繋がっていくUKジャズの歴史だ。プログレッシブロックやテクノダンスミュージックとの融合など、フェイクと紙一重の実験や跳躍こそがUKジャズの真髄であると言っても過言ではない。ジョー・アーモン・ジョーンズは、そうしたUKジャズの真髄を体現するキーマンであり、そこにはUSのロバート・グラスパーやサンダーキャットがいくらヒップホップやテクノを導入してみても、逆立ちしたって真似できないセンスと余裕が溢れているのだ。西ロンドンのブロークンビーツ以降、ダブステップなどの小ムーブメントを除き、10年以上に渡り存在感が希薄だったUK音楽シーンだが、やはりその底力は計り知れない。
 

 

 

 

 

 

 

「isolation」KALI UCHIS

 

 

 参加メンバーの多彩さとジャケットの怪しさに心を揺さぶられ、久しく遠ざかっていたR&Bのアルバムをダウンロードして聴いてみた。コロンビア出身、ロサンゼルスを拠点に活動する、カリ・ウチースのメジャーデビュー作となる「isolation」がそれだ。まず、トルコあたりのローカル歌手のアルバムかと思ってしまうほど、エキゾチックかつチープなジャケットワークが目を惹く。ダウンロードして聴いているのだからジャケットなどは所詮アイコンに過ぎないのだが、やはり気になってしまうのは私が旧世代だからだろうか。赤い下着を纏った女性がアンニュイなしぐさを決めるモンドなセンスにはいやがおうにも期待が高まってしまう。

 まず1曲目、イントロと表記された「Body Language」に意表を突かれた。「WE COULD BE FLYING」の頃のカーリン・クローグのような声音で歌われるミステリアスなボッサチューンで最高だ。私はこの1曲で心を持っていかれ、ジャケットのセンスと相まって傑作アルバムであることを確信したのだが、この1曲目のようにあからさまにメロウでノスタルジックな楽曲は、じつは他にはインタールードと表記された12曲目「Gotta Get Up」しか存在しない。「Gotta Get Up」もまたデビッドボウイの「スペース・オディティ」のようなミステリアスでスペイシーなサウンドではじまるトラックなのだが、このアルバム、イントロとインタールードにジャケットのイメージ通りのモンドテイストのチューンを配置し、全体の流れにアクセントを添えているのだ。アルバム全体は、R&Bからファンク、ポップス、レゲトン、スパニッシュラップ、ポエトリーリーディングまで、さまざまなスタイルを取り入れた構成で、ノスタルジックな感触の楽曲の中にコンテンポラリーな時代の空気が凝縮されている。

 本アルバムの白眉ともいうべきは、13 曲目の「After the Storm」だろう。プロデューサーにはトロントのジャズヒップホップバンド、BADBADNOTGOODを迎え、ヒップホップグループ、 OFWGKTAのリーダーであるテイラー・ザ・クリエイター、R&Bバンドのジ・インターネットでギターを担当しているスティーヴ・レイシー、さらにはPファンクのレジェンドの一人であるブーツィーコリンズが参加している。豪華な共演陣に目を奪われがちだが、ここで聴けるのは流行りのサウンドではなく、普遍的な価値を纏った良質なポップスだ。さらに、7曲目の「Dead To Me」と14曲目の「Feel Like a Fool」はポップな中にサウンドプロダクトの巧みさが光るトラックだ。9曲目の「In My Dreams」はまるでノイ!のようなクラウトロック調の楽曲で、ひときわ異彩を放っているが、アルバム全体を支配するドリーミーなムードに軽妙な息吹を吹き込んでいる。他にもサンダーキャットを始め、フランク・オーシャンのプロデューサーであるオンマス・キースやケンドリック・ラマーのプロデューサーのサウンウエイヴ、アデルのプロデューサーのグレッグ・カースティン、サム・スミスのプロデューサーのトゥー・インチ・パンチ、TV・オン・ザ・レディオのデヴィッド・シーテックなど、どこに誰がどう関わっているかも判別できないほど、さまざまな才能がこれでもかと言わんばかりに集結しているのだが、オールスター的に派手な中身を期待すると肩すかしを食らうことになるかも知れない。これだけ多くのゲストが関わっていても、アルバムはひとつのトーンで統一されており、まごうかたなきカリ・ウチースの音楽になっているからだ。