Future Cafe -24ページ目

Future Cafe

音楽レビューのようなもの〜TECHNO、JAZZ、BREAKBEATS etc

「TIME」Louis Cole

 

 

 ビーチ・ボーイズ、ブライアン・ウィルソン、マイケル・ジャクソン、アース・ウインド&ファイア、プリンス、ジェームス・ブレイク、ベック・・・。ルイス・コールを紹介する際に音楽メディアで引き合いに出されるアーティストたちの名前を並べてみても、ルイス・コールというシンガーソングライター/コンポーザー/ドラマーの全貌を想像するのは難しいだろう。しかし、ひとたび彼のアルバムに耳を通した人なら、そのような比喩も決して大袈裟ではなく、ルイス・コールというアーティストの確信を付いていると思うはずだ。

 昨年高い評価を受けたサンダーキャットの『DRUNK』にも曲を提供するなど、LAを拠点にドラマーでありながら、コンポーザーとしても活躍するルイス・コールが、設立10周年の<Brainfeeder>からリリースしたサードアルバムの『TIME』は、過去2作を超える傑作アルバムとして我々の元へと届けられることとなった。

 まず、1曲目の「Weird Part of The Night」。ブリープ音が炸裂するエレクトリックファンクに驚かされた。そこに乗ってくるのがマシニックなマイケル・ジャクソンばりの歌唱法で、ルイス・コールの新境地といえるのではないか。先行シングルとなった②「When You're Ugly」は、ルイス・コール自身のユニットであるノウワーのジェネヴィーヴ・アルターディをボーカルに迎えた楽曲だがややおとなしめの仕上がり。続く、③「Everytime」、④「Phone」は、過去2枚のアルバムでも聴けるように、ビーチ・ボーイズやソフトロック、A&Mサウンドなどの肥沃なバックグラウンドを感じさせるナンバーだ。

 そして、白眉ともいえるのが表題曲の⑤「Real Life」である。①「Weird Part of The Night」と同様にアップテンポなファンクだが、ピアニストのブラッド・メルドーがゲスト参加し、ピアノソロを披露している。⑦「Tunnels In The Air 」にはサンダーキャットがボーカルで参加しているが、願わくばベーシストとして参加し、ブラッド・メルドーのように弾きまくって欲しかった。

 後半がやや尻すぼみなのが残念ではあるが、ブライアン・ウィルソンにも勝るとも劣らない高いソングライティング能力の一端を垣間見せるソフトロックナンバー⑬「Things」も悪くない。

 いずれにしても、近年、これほどまでにメロディ展開も含めてマイケル・ジャクソンを彷彿とさせる歌声に出会ったことはなく、そのことだけでも大きな収穫なのだが、ライブ映像やノウワーのPVで見られる演奏家としてのドラムプレイも捨て難く、今後の展開が楽しみだ。

 

 

 

 

「Displaced Diaspora」Moses boyd

 

 

 ジョー・アモン・ジョーンズ、ヌビア・ガルシア、サンズ・オブ・ケメット、ザラ・マクファーレン、DJ KHALABなどの作品に参加するなど、サウスロンドンのジャズシーンにおける最需要人物のひとりとして脚光を浴びてきたドラマーのモーゼス・ボイド。そのキャリアにおいて自身初となるフルアルバムが「ディスプレースド・ディアスポラ」だ。モーゼス・ボイドはジャズドラマーだが、エレクトリックサウンドにも精通したコンポーザー/プロデューサーでもあり、クラブジャズとコンテンポラリージャズを橋渡しする存在としても注目されているのだが、その一方でサックス奏者のビンガー・ボールディングとデュオを結成し、インプロビゼーションを大胆に導入したフリージャズ的なアルバムを出すなど、バラエティに富んだ活動を行っている。

 本作では「ディスプレースド・ディアスポラ」のタイトルにも現れているように、シャバカ・ハッチングスをはじめ、移民を祖先に持つ多くのサウスロンドン系のミュージシャンと共鳴し合うかのようにディアスポラ(故郷喪失者)としてのアイデンティティを意識したと思われる楽曲も多く収録されているのが特徴だ。モーゼス・ボイド自身は移民第2世代で、父親は西インド諸島のドミニカ、母親はジャマイカ出身らしいのだが、冒頭の「ラッシュアワー/エレグア」とエンディングとなる10曲目「アンセスターズ」ではカリビアンのルーツのひとつであるアフリカ系のヨルバ語によるヴォーカルがフィーチャーされている。1曲目では都会の猥雑さを象徴するかのようなパトカー、救急車のサイレンにオーバーラップするかのように土着的なボーカルが聞こえてくるのだが、サウスロンドン・ミーツ・アフリカを鮮烈にイメージさせる幕開きといえるだろう。さらに、「アンセスターズ」では、 打ち込み風ドラムと共に西インド諸島のトリニダード島の民族音楽であるカリプソが効果的に用いられており、地域も時代も超越したスケールの大きな世界を聴かせてくれる。②「フロントライン」もケヴィン・ヘインズのアルト・サックスをフィーチャーしたアフロテイストの楽曲だが、2016年にリリースされた③「ライ・レーン・シャッフル」へと続く。性急なビートとパワフルなブラス隊がドラマチックに共演するこの曲は何度聞いても鳥肌が立つ。⑤「アクシス・ブルー」や⑧「マルーンド・イン・エス・イー・シックス」のようにノスタルジックな雰囲気のトラックもあり、手数の豊富さを伺わせる。ザラ・マクファーレンがボーカリストとして参加した「シティ・ノクターン」はカマシ・ワシントンのボーカル曲に匹敵するクオリティで夜のしじまに引き込まれる。

 モーゼス・ボイドについて調べていて分かったのだが、じつはこのアルバム、今から遡ること3年前の2015年にすでに録音されていたらしい。新録(既発曲を除いて)だとばかり思っていた筆者は唖然としてしまった。エレクトリックサウンドを経て自らのルーツを意識はじめたのだろうと頭の中で勝手にストーリーを作り上げていたが、実際は全く違っていた。2019年にリリースされるというセカンドは、もっとエレクトリックサウンドに舵を切ったものになる可能性もある。3年前にしてこの域に到達していたモーゼス・ボイドは、やはりただ者ではない。

 

 

 

「POWER」Chelmico

 

 

 ふだん日本のラップは余り聴かないのだが、KREVAのシングル「存在感」を聴いて、日本語ラップも捨てたものではないと思った。“存在感がある”というコトバがひたすら繰り返されるのだが、そぎ落とされたミニマムな表現の中に、俳句のように深遠な世界が広がっている。そのリリックには幾ばくかの青臭さを感じてしまうことも否めないが、そうした点を補って余りある個性がこの楽曲の魅力だ。

 そしてもうひとつ、最近気になっているのが、MC RACHEL(渡賀レイチェル)とMC MAMIKO(鈴木真海子)によるラップユニット、Chelmicoだ。フィーメルラップグループといえば、リリカルスクールを思い出すが、リリカルスクールはあくまでもアイドルユニットであり、Chelmicoの方がトラックの完成度が高く、ラップのスキルも勝っている。それでもChelmicoとリリカルスクールには共通点が多く、たとえばKREVAのトラックに込められているような主義主張やメッセージは彼女たちのラップにはない。恋バナとパーティーとモラトリアム。メッセージ性の欠如こそが彼女たちの魅力であり、それは、「源氏物語」において政治性を無視して恋バナを展開した紫式部や、「枕草子」において現代なら差し詰めインスタ映えするものばかりをピックアップした清少納言など日本の女流文学の伝統と共鳴し合う。もっとも、メッセージ性の欠如は女子に限ったことではなく、スチャダラパーやリップスライム、ケツメイシなどの特徴でもあり、日本語ラップの主流といえるのかも知れないのだが・・・・

 セカンドアルバムとなる「POWER」では、彼女たちは残念ながらリリックを手がけるのみで、トラックはサウンドクリエーターにおまかせのようだけど、アップテンポなラテンドラムンベースが楽しい②「Player」、コモンにも劣らずメロウでジャジーな⑧「E.P.S」、トラックとラップの絡みが圧倒的に格好いい⑪「Highlight」など、バラエティ豊かな楽曲が揃っていて飽きずに聴ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Phase」MILDLIFE

 

 

 オーストラリア・メルボルンから現れた4人組バンド、マイルドライフのデビューアルバム「Phase」が圧巻だ。リリースは2月だから、半年以上たつが、新曲「Phase II」のMVが発表されたばかりなので、この機会に取り上げたい。このバンドの何が凄いかと言えば、コズミックディスコ/バレアリックディスコのスペイシーな浮遊感に、ファンクのグルーブやモンドミュージックの猥雑さ、プログレのインテリジェンスを融合したようないいとこ取りのサウンドの中に、ピンと1本スジが通っているところ。2010年前後にクワイエット・ヴィレッジやリンドストローム、メンサーダルズなどが登場し、チルアウトディスコのブームが形成されたことがあったが、マイルドライフのサウンドはその当時を彷彿とさせつつも、バンドによって生み出されるアンサンブルがジャジーなメロウグルーブに厚みを持たせているのが特徴だ。アメリカ南部テネシー州ナッシュビル出身で極上のエレポップを奏でるジャンセン・スポータグの時にも書いたが、かつてはこうしたサウンドはイギリスやドイツ、北欧のものと相場が決まっていた。しかし、サウンドのテイストと国や都市のカラーが密接に連動していたのは昔の話。オーストラリア一の大都会、シドニーならまだしも、メルボルンからこのようなバンドが生まれる時代になったのは喜ばしいことだ。新しい音楽を語る上で依然、ロンドンやニューヨークの重要性は変わっていないものの、ポップミュージックの世界において辺境の地と思われていた地域がますます面白くなってきていることは間違いないと確信させるに足るアルバムだ。James Donald、 Adam Halliwell、 Kevin McDowell、 Tom Shanahanの4人組は今後も要注意だ。

 

 

 

 

 

「It's A World Before You」KAIDI TATHAM 

「A So We Gwarn」DEGO & KAIDI

 

     

 

 1989年から2000年代前半まで、ドラムンベースからブロークンビーツへと時代の動向を巧みに反映させながUKクラブミュージックを牽引してきた4ヒーローのディーゴ・マクファーレンと、2000年代前半にバグズ・イン・ジ・アティックをはじめ、数多くのユニットに鍵盤奏者として参加し、ウエスト・ロンドンのキーマンとしてブロークンビーツのシーンを支えてきたカイディ・テイタム。その2人によるユニットで、シルエットブラウンや2000ブラック以来の共演となるDEGO&KAIDIが2014年にリリースしたEP「DEGO&KAIDI」の1曲目「Ankle Injury」を遅れて聴いてみて、その新鮮さに驚かされた。同曲が制作された2014年の時点でも2人ともアーティストとしての旬はとうの昔に過ぎている。2010年代に入ってからリリースされるディーゴやカイディの新作を聴いてみても、決して悪くはないが、そこに革新的な要素を見出すことはできず、DEGO&KAIDIにも、さほど期待はしてなかった。しかし、「Ankle Injury」にはいい意味で予想を裏切られた。粗野にして、繊細。強靱にして、軽やか。これまで聴いたことがありそうでなかったクセになるビートパターン。このみずみずしさはなんだろう。サッカーに喩えるなら、ジダンが現役に復帰してゴールを決めたようなものと言えば言い過ぎだろうか。その3年後、2017年にセオパリッシュが運営するデトロイトのレーーベル、Sound Signatureから届けられたフルアルバム「A So We Gwarn」も、「Ankle Injury」ほどではないものの、豊かな音楽性に裏打ちされた完成度の高い楽曲群が円熟味さえ感じさせる、ブロークンビーツ後の迷いを吹き払う傑作だった。

 そして、今年7月にリリースされたカイディ・テイタムの新作「It's A World Before You」。本作もまた、どこか吹っ切れたかのような印象が清々しく、ベテランの健在ぶりをアピールする作品として期待以上の作品に仕上がっている。テンダーロニアスやモーゼス・ボイド、ヘンリー・ウーなどを中心に、ブロークンビーツの影響を音楽的に昇華したサウンドにより次世代のジャズを開花させつつあるサウス・ロンドンのシーン。そうしたシーンの活況ぶりを追い風にすることで、レジェンドとしての自信を取り戻したのか、カイディ・テイタムはここで横綱相撲ともいえる堂々たるサウンドを展開している。全盛期と比較するとブラックミュージック色が後退し、フュージョン色が前面に出てきているのも特徴だ。その結果、DEGO&KAIDIもそうだったが、ブラジリアン・フュージョン・バンド、アジムスがクラブサウンドを取り入れるようになった2000年代の諸作にも似てきている。④「Cold」や⑦「2Tone」のようなフュージョン・サウンドは、カイディ・テイタムが再びシーンの前線を射程距離に収めはじめていることを感じさせるが、クラブジャズの最先端に届くにはいささかエッジが足りない。しかし、それはカイディ・テイタムの年齢を踏まえると致し方ないことなのだろう。また、鍵盤奏者だけに随所に小技が効いているのも魅力のひとつ。例えば、②「Your Dreams Don't Mean A Thing」には、マイルス・デイビスの「Spanish Key」を彷彿とさせるところもあり、ハッとさせられる。かつてウエスト・ロンドンを牽引したカイディ・テイタムは、自らの子どもでもあるサウス・ロンドンのジャズシーンと共鳴し合うかのように、ダンスミュージックの範疇に留まらない豊饒さをいま謳歌しはじめている。