MOSES BOYD〜2015年からの手紙 | Future Cafe

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「Displaced Diaspora」Moses boyd

 

 

 ジョー・アモン・ジョーンズ、ヌビア・ガルシア、サンズ・オブ・ケメット、ザラ・マクファーレン、DJ KHALABなどの作品に参加するなど、サウスロンドンのジャズシーンにおける最需要人物のひとりとして脚光を浴びてきたドラマーのモーゼス・ボイド。そのキャリアにおいて自身初となるフルアルバムが「ディスプレースド・ディアスポラ」だ。モーゼス・ボイドはジャズドラマーだが、エレクトリックサウンドにも精通したコンポーザー/プロデューサーでもあり、クラブジャズとコンテンポラリージャズを橋渡しする存在としても注目されているのだが、その一方でサックス奏者のビンガー・ボールディングとデュオを結成し、インプロビゼーションを大胆に導入したフリージャズ的なアルバムを出すなど、バラエティに富んだ活動を行っている。

 本作では「ディスプレースド・ディアスポラ」のタイトルにも現れているように、シャバカ・ハッチングスをはじめ、移民を祖先に持つ多くのサウスロンドン系のミュージシャンと共鳴し合うかのようにディアスポラ(故郷喪失者)としてのアイデンティティを意識したと思われる楽曲も多く収録されているのが特徴だ。モーゼス・ボイド自身は移民第2世代で、父親は西インド諸島のドミニカ、母親はジャマイカ出身らしいのだが、冒頭の「ラッシュアワー/エレグア」とエンディングとなる10曲目「アンセスターズ」ではカリビアンのルーツのひとつであるアフリカ系のヨルバ語によるヴォーカルがフィーチャーされている。1曲目では都会の猥雑さを象徴するかのようなパトカー、救急車のサイレンにオーバーラップするかのように土着的なボーカルが聞こえてくるのだが、サウスロンドン・ミーツ・アフリカを鮮烈にイメージさせる幕開きといえるだろう。さらに、「アンセスターズ」では、 打ち込み風ドラムと共に西インド諸島のトリニダード島の民族音楽であるカリプソが効果的に用いられており、地域も時代も超越したスケールの大きな世界を聴かせてくれる。②「フロントライン」もケヴィン・ヘインズのアルト・サックスをフィーチャーしたアフロテイストの楽曲だが、2016年にリリースされた③「ライ・レーン・シャッフル」へと続く。性急なビートとパワフルなブラス隊がドラマチックに共演するこの曲は何度聞いても鳥肌が立つ。⑤「アクシス・ブルー」や⑧「マルーンド・イン・エス・イー・シックス」のようにノスタルジックな雰囲気のトラックもあり、手数の豊富さを伺わせる。ザラ・マクファーレンがボーカリストとして参加した「シティ・ノクターン」はカマシ・ワシントンのボーカル曲に匹敵するクオリティで夜のしじまに引き込まれる。

 モーゼス・ボイドについて調べていて分かったのだが、じつはこのアルバム、今から遡ること3年前の2015年にすでに録音されていたらしい。新録(既発曲を除いて)だとばかり思っていた筆者は唖然としてしまった。エレクトリックサウンドを経て自らのルーツを意識はじめたのだろうと頭の中で勝手にストーリーを作り上げていたが、実際は全く違っていた。2019年にリリースされるというセカンドは、もっとエレクトリックサウンドに舵を切ったものになる可能性もある。3年前にしてこの域に到達していたモーゼス・ボイドは、やはりただ者ではない。