Future Cafe -26ページ目

Future Cafe

音楽レビューのようなもの〜TECHNO、JAZZ、BREAKBEATS etc

「THE EMPiRE STRiKES START!!」EMPiRE

 

 

 少し前にテレビ番組「YOUは何しに日本へ?」で、日本のアイドルグループBiSHの大ファンだという外国人女性2人組がライブに参加する様子が放送されたが、BiSHが日本国内でもそれほどメジャーな存在ではないということを考えると、国籍を超えた情報のフラット化/ロングテール化が加速度的に進展している現実に驚嘆せざるを得ない。

2015年に「楽器を持たないパンクバンド」をキャッチフレーズにエイベックストラックスからデビューしたBiSHは、石を投げればアイドルに当たる地下アイドル戦国時代にあっても極めてキャラの立った個性的な存在で、ハードコアパンクやスラッシュ、グラインドコア、グランジ等を大胆に取り入れたサウンドはコアな音楽マニアの間で注目されてきた。ハードでノイジーなサウンドとアイドルの融合という点ではBABY METALを彷彿とさせるが、セカンドアルバムにおいてメタルファンに媚び過ぎてアイドルソングとしての面白さが半減してしまったBABY METALに比べ、BiSHの方がしばりが緩く、そのサウンドもストリングスを効かせたドラマチックなロック「オーケストラ」に象徴されるようにパンクに限定されないのが特徴だ。ただ、欧米のダークな文化と日本のカワイイカルチャーとの邂逅としてとらえれば、BiSHもBABY METAL同様に外国人にとって分かりやすいアイドル音楽と言えるのだろう。そのBiSHをはじめ、BiSHに先行する形でデビューしたBiS、後発のGANG PARADEといったグループを手がけているのが音楽プロダクションのWACKなのだが、所属グループの顔ぶれを見渡してみると異色アイドルのハロプロをめざしているように見えなくもない。

 今年に入ってファーストアルバム「THE EMPiRE STRiKES START!!」を発表した5人組アイドルグループ、EMPiREはそんなWACKが手がける最新プロジェクトだ。楽曲制作にはBiSやBiSHのサウンドプロデュースを務める松隈ケンタも名を連ねている。しかし、BiSHに比べるとデジタル色が強く、ロック色は薄い。エンパイアというグループ名からは、90年代にATARI TEENAGE RIOTなどのユニットにも参加して過激なデジタルサウンドを追求していたドイツ、デジタルハードコアの雄、アレック・エンパイアを連想してしまうが、デジタルハードコアに近いのはむしろGANG PARADEの方で、EMPiREはやや中途半端な感じがしなくもない。とはいえ、アルバムにはBiSHの「オーケストラ」に匹敵する「コノ世界ノ片隅デ」のような名曲も収録されており、これまでのWACKのイメージとは異なる陽性の魅力をかいま見せてくれる。

 WACK所属のアーティストを聴いているとオルタナ系アイドルというジャンルで括りたい誘惑に駆られてしまうのだが、こうしたアイドルのあり方に市民権を与え、オルタナ系への流れを用意し、決定的にしたのが〈欅坂46〉であると言ったら強引だろうか。ハロウィンイベントでナチスを模倣したとして物議を醸した軍服風コスチュームやアウシュビッツの強制労働をイメージしたと思われる「大人は信じてくれない」のミュージックビデオ、「サイレントマジョリティー」や「不協和音」、「月曜日の朝、スカートを切られた」などの楽曲に見られる反逆をテーマにした歌詞世界と言った具合に従来のアイドルとは一線を画するダークなイメージを打ち出してきた欅坂46は、本来であればキワモノとしてとらえられても不思議ではないグループだ。サブカルが衰退の一途をたどる今の時代、欅坂46のようなグループがメジャーシーンを牽引していることの意味はことのほか大きいと思う。もっとも、その源流にはゴシックとロリータの要素を結びつけた日本独自の文化としてゴスロリがあることを忘れてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「REACHING FOR CHIRON」 BIGYUKI

 

 

 リリースは昨年末だから、ずいぶん前の話になるが、本作をCDショップのジャズコーナーで視聴したときには、何かの間違いかと思い耳を疑った。気鋭の鍵盤奏者による技巧的な演奏を想像していたのだが、ヘッドフォンのスピーカーから聴こえてくるのはヒップホップ風のビートやラップ、R&B風のヴォーカルばかりで、ピアノの音色はほとんど耳に入ってこない。店員が間違えて別のCDをセットしたのでないかと思った。ロバート・グラスパーのブラックレディオシリーズの例もあるし、いまどきのジャズメンのリーダー作にあっては決して珍しいことはないのだが、ジューク/フットワークからの影響も見受けられるそのサウンドはテクノ的ですらあり、どうしてもバークリー音楽大学を卒業し、ライブではインプロビゼーションを主体に聴かせるというBIGYUKIその人のものとは思えなかった。しかし、聴き方によってはブレインフィーダーのビートミュージック勢、ハドソン・モホークやマシュー・デビッドあたりを思わせもするそのサウンドは紛れもなく、BIGYUKIのものだったのだ。もっとも彼のプロフィールにはア・トライブ・コースト・クエストやビラルとの共演歴も記されており、その点を踏まえていたならジャズの範疇を軽々と超えたアルバムであることは想像することができたはずだ。演奏者が楽器を弾きまくるタイプのリーダー作ではなく、細部までコントロールされたサウンドを通じてひとつの世界観を提示するプロデュース作だったというのがことの真相なのだが、先入観に凝り固まった耳にはインプロビゼーションとは対極にあるデジタルサウンドはまさに想定外だったのだ。

 BIGYUKIは在アメリカ日本人だが、彼のサウンドには日本人アーティストにありがちな「緻密に作り込まれているのだが、箱庭のようにこじんまりとまとまりすぎている感じ」が無く、無駄な音をそぎ落とすことで極めてダイナミックかつエモーショナルな印象を生み出している。とはいっても、本作におけるサウンドの構成はかなり複雑だ。一つ一つの要素が適材適所に収まることで、強度を発揮しているという意味では彼もまた日本人ならではの職人的な遺伝子を受け継いでいるといえるのではないだろうか。ヴォーカルにイェバをフィーチャーした6曲目の「in a Spiral」のみ、ジャズ鍵盤奏者としてのアリバイを担保するかのようなジャジーなピアノ伴奏が入っているが、エッジの効いたデジタルサウンドとも喧嘩することなく共存し、アルバムを通して聴いても全く違和感がない。1曲目の「Pom Pom」などにも現れているように、クラシカルなテイストもまたBIGYUKIの特徴であり、単なるヒップホップジャズやテクノの影響を受けたジャズとは一線を画する独自の美意識が本作に深みと魅力を与えているといえるだろう。

 また、収録曲「2060 Chiron」のMVは、お笑いコンビ、野生爆弾のくっきーが手がけており、松本人志プロデュースの番組「ドキュメンタル」(Netflix)でもくっきーがかぶって登場し、苦笑を誘ったたテンガ風船も登場する奇抜なものとなっているが、そうした肩の力の抜けようもまた、彼の作品にダイナミズムを与えているのだろう。本作に先駆けてリリースされた実質的なデビュー作である「GREEK FIRE」も併せて聴いてみたが、アルバムとしての完成度の高さは本作と遜色なく、BIGYUKIのプロデューサーとしての能力の高さに改めて驚かされることとなった。

 

 

 

 

 

 

「11月のアンクレット」 AKB48

 

 

 前作の「♯好きなんだ」は久々に疾走感のあるAKB48らしい良曲だったが、渡辺麻友の卒業シングルとなる本作も、なかなかの良曲だ。レトロ趣味全開の「シュートサイン」、マイナー調のメッセージソング「願い事の持ち腐れ」というビミョーなシングルが続いていただけに、ポップスの原点に回帰するかのようなこの流れは歓迎したい。

 本作「11月のアンクレット」は、ザ・ロネッツの「Be My Baby」やビーチボーイズの「Don't Warry Baby」に類似したハートウォームなサウンドがリスナーを季節外れのビーチへと誘うフィル・スペクターインスパイア系の楽曲だ。とりわけイントロから続く、流れるようなAメロが素晴らしい。多重録音とエコー処理により厚みのあるサウンドをつくり上げる「ウォール・オブ・サウンド」の手法で有名なフィル・スペクターは、1960〜70年代のアメリカンポップスを代表する音楽プロデューサーであり、ビーチボーイズをはじめ、大瀧詠一まで、彼の影響を受けたアーチストは枚挙にいとまがない。ザ・ロネッツの「Be My Baby」はフィル・スペクターのプロデュース。ブルース・スプリングスティーンの「Hungry Heart」、そして「Hungry Heart」にインスパイアされた(?)佐野元春「Someday」も、フィル・スペクターインスパイア系の楽曲だ。筆者はこの系譜が大好物なのだが、AKBグループの楽曲ではこれまであまり聴くことができなかった気がする。(AKBグループの曲を 全曲調べたわけではないからあくまでも印象なのだが・・・・)

 背景を構成するサウンドは、大瀧詠一のナイアガラサウンドやアラン・パーソンズ・プロジェクトの「Don't Answer Me」、ワム!の「Heart Beat」を思い起こさせるが、『意外に混んでるビーチハウス♪』の下りは、1980年代のテクノポップデュオ、ヤズーの「Only You」にメロディーが似ている。シンセポップの意匠をまとっているから、そうは聞こえないかも知れないがヤズーの「Only You」もまたフィル・スペクターインスパイア系の楽曲といっても差し支えないだろう。

  「60年代? 70年代? 80年代? 結局は、レトロ趣味全開だな!!」という声が聞こえてきそうだが、レトロ趣味とエヴァーグリーンは違う。フィル・スペクターサウンドははじめから時代を超越しており、決して古びることがない。「11月のアンクレット」は、永遠のアイドルであろうとし続けてきた渡辺麻友の卒業シングルにふさわしい永遠のポップスなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「THE SELF」リチャード・スペイヴン

 


 クラブミュージックの歴史は、ビートの歴史であるといっても過言ではないだろう。80年代後半のアシッドハウスから、テクノ、ドラムンベース、2ステップ、ブロークンビーツ、2000年代のダブステップに至るまで、常に新しいビートが発明され、リズムの側面から音楽の可能性が拡張されてきた。ダブステップ以降、ポストインダストリアルという限定的なムーブメントを除き、ビート変革の歴史は袋小路に陥り、クラブミュージックはダンスミュージックの皮を被ったロックであるEDMに取って代わられることとなってしまったが、ビートの歴史を更新してきたのはイギリスのクラブシーンだった。

 本作の主人公であるリチャード・スペイヴンは、そのイギリスクラブシーンにおいてブロークンビーツシーンを牽引してきた4ヒーローやマーク・ド・クライヴ=ロウ、シネマティック・オーケストラとの共演歴を持つ、ドラマーだ。打ち込み中心だったクラブミュージックに生演奏ドラムという手法を定着させた功労者の一人である。クラブジャズが下火になってからは、ホセ・ジェイムスやフライング・ロータスのアルバムに参加するなど、USの新世代ジャズシーンにUKならではの感性を吹き込む役割を果たしてきた。また、その一方でオランダのフィン・シルヴァーや ブルガリアのルス・コレヴァといった女性ヴォーカリストのドラマー/コンポーザーを務め、2012年にはキーボーディストのヴィンセント・ヘルバースとセラヴィンスというバンドを結成してブロークンビーツをベースとした歌ものアルバムをリリースなど、イギリスを拠点にワールドワイドな活動を展開している。

 「THE SELF」は、リチャードスペイヴン名義では「 WHOLE OTHER」に続く2枚目のアルバムであり、ブロークンビーツやドラムンベースなど、彼が過去に関わってきたクラブミュージックがより純化された形でアップデートされたビートの結晶体のような作品だ。アップデートといっても、それはコンピュータから人力への進化であり、新たなテクノロジーの導入が必ずしも進化を意味しないところが、近年のジャズの面白いところだといえるだろう。

 アルバムの全編を貫いているのは非常にクールなビートと感情を抑えたヴォーカルだ。まるで人間ができることの限界に挑戦するかのような正確無比なドラムがリチャード・スペイヴンの持ち味なのだが、そのプレイがコンピュータに近づけば近づくほど、かえって生身の人間にしかコントロールできないであろう微妙なズレのようなものが際立ってきて、機械的なサウンドがヒューマンな色彩を帯びてくるのが面白い。

 本作において特筆すべきは、フォーテックの「THE HIDDEN CAMERA」のカヴァーが収められていることだろう。1997年にリリースされた同曲は、リチャード・スペイヴンのドラミングさながらにストイックな中に革新性をたたえたドラムンベースの名曲であり、数あるドラムンベースの古典の中から、この曲をチョイスするところに、表面的な派手さよりも実質を重んじるリチャード・スペイヴンの渋いセンスが伺われる。原曲はコンピュータによる打ち込みだが、本アルバムでは精緻な生ドラムによって“間”を活かした独特の空気感が再現されており、ダークでありながら、美しく感動的だ。原曲にはない「ロンドンスタイル〜」というMCが、ヒップホップをベースにしたUSジャズへのUKからの回答に聞こえるのは気のせいだろうか。その他に、ファラオ・サンダースの「GREETING TO SAUD( BROTHER McCOY TYNER)」のカヴァーも収録されているのだが、原曲に比較的忠実な「THE HIDDEN CAMERA」に対し、こちらはドラムレスの原曲をドラム主体の楽曲へと大胆に再構築している。

 さらに、フィラデルフィア出身のハウス系プロデューサー、キング・ブリットの別名義であるフロストン・パラダイムの「LETTERS OF THE PAST」のカヴァーも収録されているのだが、クラブミュージックレジェンドへのオマージュだろうか。それにしてもキング・ブリット名義の曲ではなく、フロストン・パラダイムというところが一筋縄ではいかない。2014年にロンドンのダブステップレーベル〈ハイパー・ダブ〉からリリースされたフロストン・パラダイムのアルバムは、純粋なダブステップではないがテクノ色が強く、キング・ブリットの作品としては異色といえる。やはり、ここでもキーワードは「ロンドン」ということになるのだろうか。

 リチャード・スペイヴンと同様、ウエストロンドンのブロークンビーツ畑から登場し、USジャズと関係を深めていった存在に鍵盤奏者&コンポーザーのマーク・ド・クライヴ=ロウがいるが、彼らは沈没するUKクラブジャズから抜け出しリアルジャズへと流れ着いたクラブジャズ難民といってもいいだろう。本作に参加している元シネマティック・オーケストラのギタリストであるスチュアート・マッカラムもその一人であり、彼らUKクラブジャズの生き残りによってリアルジャズの側が活性化されていくのを見るのは実に楽しい。彼らの作品を聴くと UKクラブミュージック出身の彼らにしか描けないスタイリッシュで陰影に富んだサウンドスケープがあることを強く実感させられるのだ。それはリチャード・スペイヴンと同様にテクノの影響をジャズへと昇華させることに精魂を傾けているUSのドラマー、マーク・ジュリアナの音楽とも明らかに違う。クラブジャズ難民が生み出すジャズの魅力は、フェイクと紙一重のいかがわしさにあるのかも知れない。

 

 

 

 

 

「♯TWICE」TWICE

 


 楽曲のマンネリ化や大所帯グループの乱立ぶりに辟易して、ここ何年もK-popから遠ざかっていたが、久々に魅力を感じるグループが日本デビューした。サバイバル形式のオーディション番組「SIXTEEN」で勝ち残った9人によって結成されたTWICEだ。本国でのデビューは2015年だから、満を持しての日本デビューといえるだろう。振り付けが話題となった「TT」はもとより、少女時代の「GEE」を思わせる「SIGNAL」など、日本盤に収録された5曲はいずれも粒ぞろいだ。このグループ最大の特徴は、韓国人5人、日本人3人、台湾人1人のメンバーによって構成される多国籍ユニットであるということ。国内の音楽市場だけで食べていける日本とは異なり、マーケット規模が小さく、輸出を念頭に置かざるを得ないという韓国音楽業界ならではの事情もあるのだろうが、このTWICEをはじめ、韓国人と中国人による混成男性アイドルグループEXOやVARSITYなど、政治体制や歴史的背景を超えて広がるポップス界の大東亜共栄圏ともいうべき動向が、K-popの世界から生まれているのは興味深い。

 調べてみると、韓国における多国籍アイドルグループの歴史は意外に古く、すでに1998年には韓国人2人、日本人2人、中国人1人の5人の少女で構成されるCircleがデビューしている。(デビュー曲の「Sweet Love」は、90年代に活躍した日本のSPEEDを意識しているのだろうか、R&Bテイストの名曲だ)しかし、グループの活動期間は短く、わずか2年ほどで解散している。まだ、K-popという言葉さえも存在しなかった当時、多国籍ユニットは早過ぎたのかも知れない。

 近年は歌番組から韓流アイドルグループが姿を消すなど、日本でのK-pop人気は大きく低下しているようにも見えるが、オリコンやレコチョクのヒットチャートに目を転じれば、BIGBANGや防弾少年団、2PM、スーパージュニアなどの男性グループ、そしてA pinkやI.O.Iなどの女性グループはチャートの常連であり、一時期のような韓流バブルではないものの、流行に関係なく定着したというのが実態だろう。最近は韓流ボイコットも下火になってなっており、TWICEはじつにいいタイミングで日本に上陸したといえるのではないか。日本人メンバーがいるということもあってか、韓流グループとしては久しぶりとなるミュージックステーションへの出演も果たした。

 また、韓国では2016年には韓国人10人・中国人3人から成る13人組の宇宙少女(WJSN)や、韓国出身に加え、オーストラリア出身やタイ出身のメンバーを含む4人組ブラックピンクもデビューしている。ひとつのビジネスモデルが成功すると、雨後の竹の子ように似たグループが登場する韓国音楽業界。アイドルグループの多国籍化のムーブメントはしばらく続きそうだ。