2008年5月・初夏の北陸旅行(3)
- 特急「しらさぎ」/金沢観光(前編) -
キハ58を見送った後、僕は富山を9時10分発の特急「しらさぎ」で金沢へと向かう。いよいよ本格的に観光開始だ。
「しらさぎ」は683系。5年ほど前に一度だけ乗ったことがある。
今回、北陸フリー切符で、フリーエリア内の特急自由席は乗り放題なので、当然自由席に乗車。車内はガラガラで席の心配など全く必要無い。
683系普通車の車内は、決して華美でなく、あくまでビジネスライクなのに、簡素さや安っぽさなどは全く無く、むしろ高級感が漂い贅沢な雰囲気すら感じられる。思うに、黄色い灯りの間接照明の効果が大きいのだろう。…と言うか、グリーン車でもないのにこのムーディさと来たら一体どうだ。JR西日本のこのあたりの姿勢はとても好きだ。似た様な車両ばかり産み出すどこかの東日本の会社にも見習って欲しいもんだ。
雰囲気だけじゃなく、乗り心地も良い。シートは大きくどっしりとして安定感があり、シートピッチも大きくくつろげる。
「しらさぎ」は北陸路を快走する。と、それまで晴れ渡っていた空が突如曇り出し、小雨が振り出してきた。…やはり今日は、黒部峡谷鉄道取りやめて正解だったのだ。
「しらさぎ」は9時48分に金沢駅に到着。結構…と言うかかなり大きな駅だ。北陸を代表するターミナル駅、と言ったところか。
小雨の中、まずは駅の裏手から路地を歩き、駅から5分くらい歩いたところにある、「安江金箔工芸館」 へ。駅から5分、と書いたが、ちょっと分かりにくいところにある上に建物が地味なので迷うかもしれない。と言うか僕は迷った。
ここでは石川県を代表する工芸「金箔」に関しての様々な展示がなされている。金箔の製造方法や工程、使用する道具など。それを係員の人が付きっ切りで説明してくれる。更に金箔打ちの実演があり、更に更にお茶(金箔入り)と茶菓子まで出してくれる。これで入館料はたったの300円。物凄いお得だと思う。地味ながら侮れない施設だ。
見学を終え、駅へと戻り、今度は駅の正面を通ってまっすぐそのまま金沢の街の中へ歩いて行く。
金沢の街は、緑が多くなかなか良い雰囲気。以前訪れた、仙台に少しだけ似ているか? 全体的に、仙台よりも少し「控え目」な感じだが。
駅から程近い場所にある、「九谷焼黒龍堂」と言う九谷焼のお店をちらりと覘く。金沢へ来たら、九谷焼を何か買おうと思っていたのだ。
杯を色々と見せてもらい、その中の一つを手に取った瞬間、背中にビビッと電気の様なものが走り、もう買わずにはいられなくなった。こんな経験初めてでビックリした。これをまさに「出会い」と言うのだろうか。
割と有名な陶芸家の作品らしい。小さな杯だが、器の中に雁が描かれている。その絵付けが可愛らしくも繊細でとても美しい。九谷焼と言うのは初めて手にしたのだが、こんな小さな中に一つの「絵画」がきちんと描かれていると言うのが凄い。今まで、陶器はどちらかと言うと志野焼きなどのシンプルなものが好きだったのだが、それとはまた一風違った感じで面白く、色々と興味をそそられる。これで酒の楽しみがまた一つ増えた。
時間もちょうどお昼時なので、昼食を取ることに。近江町市場近くの「海鮮どん屋」と言う店にて。
見た目も豪華な、「桶ちらし」と言うのを頼んでみた。その名の通り、「桶」の上に酢飯が乗り、その上に様々な魚介、そして上には金箔が散らしてある。見た目には凄いボリュームだが、食べてみると意外にもあっさり。どちらかと言えば小食な僕にも難なく平らげることが出来た。味は文句無いが、個人的にはもっと白身系の刺身が多く乗ってると嬉しかったかも。
昼食を終え、ここでバスに乗って移動。バスと言ってもこんな可愛らしい車。これが街中をぐるぐる回って走っている。
そして、今回の金沢観光のメインとも言える「21世紀美術館」 へ。
金沢へ行くのなら是非観ておいた方が良い、と友人にも勧められたこの美術館。元々、美術館や博物館と言ったものが好きな僕としてはやはり行っておかなくてはならないだろう。
この頃には雨はすっかり止み、再び晴れ間が戻り始めていた。
広い敷地に、ガラス張りの建物が建つ21世紀美術館。庭には、よく分からないオブジェの様なものの姿も。
この日は、企画展でロン・ミュエックと言う作家の展示を行っていた。これがシリコンなどを材料に用いて創られた人体の巨大な彫刻作品で、ハッキリ言ってグロい。裸の人体なので当然、まあ…いわゆる「大事な部分」もリアルに作り込まれているワケで、「AVなんかだとNGなのに[芸術]ならばOKなのか?」とかくだらんコトを考えてみたり(笑)
血のべっとり付いた赤ん坊(産まれた直後の赤子か)の巨大な彫刻がかなりショッキングだった。いわゆる美術品に一般的に求められる「美しさ」はそこには決して無いのだけれど、しかし、印象には間違い無く残る。これもまた芸術の一つの形と言うことなのか。いや、一般に理解され易い、分かり易いものはそれは真の芸術とは言えないのかもしれない。本当の芸術品と言うものは、それは難解さの極地の果てにあるものなのかもしれない。
…などと色々と考えてワケが分からなくなる。
しかしこの21世紀美術館。展示うんぬんよりも、建物が良い。とにかく開放感がある。広い展示室には1室に1作品のみと言った贅沢な展示方法で、ゆったりと鑑賞出来る。
また、館内には幾つか、訪問者自身が積極的に関わって楽しむことの出来る作品も。
部屋の天井には青空の絵…では無い。なんと天井がボッカリと開いて、本物の空が見える様になっている。雨天の時などどうするのだろうか?
美術館の中には突如として存在するプール。上から見ると、水がなみなみと入った、紛れも無くプールそのものに見えるのだが…。
実はこのプール、下に入ることが出来る。下から見上げるとこう。
水はほんの数十センチ入っているだけで、その下に透明なガラス。そしてその下は青い壁の部屋になっているのだ。この部屋から上を見上げると、プールの上から覗き込んでいる人達と目が合う。
また、この日は、企画展とは別に糸崎公朗と言う人の写真展が行われていた。これが、「金沢をプリコラージュする」と題売って、金沢市内のあちこちの風景写真を繋ぎ合わせて更に大きな写真として完成させた「ツギラマ」なる作品があったり、ちょっと気になる「?」な風景のあれこれを2コマ漫画風に紹介した作品があったりと、ユーモアに富んでいて非常に面白かった。むしろロン・ミュエックよりもこっちの方が面白かったって言うのは秘密。
2008年5月・初夏の北陸旅行(2)
- キハ58との邂逅 -
さて。富山に来た僕には、どうしても確かめたい-いや、確かめなくてはならないことがあった。
北陸旅行直前にふと入手した情報だが、なんでも高山本線の富山口に、未だキハ58が走っているのだとか。
全国各地で次々とその運用を失っていくキハ58。南東北では「おもいで」号復活運転と嬉しいニュースもあるものの、四国でもこの秋限りだとか、「聖地」米坂線にも新車投入だとか、暗い噂が後を絶えない。
そんな中、高山本線には平日の朝に限り、キハ58運用の普通列車が走っていると言う。それは果たして本当なのだろうか。
その真偽を確かめるべく、高山本線列車の発着するホームへと向かう。待つことしばらく。
そして時刻は朝6時15分過ぎだったか。ゆっくりとホームへ入ってくる2両編成の列車-そう、そこには紛れもなく、キハ58+28の姿があったのだ!!
ああ…神は…ここに居た!!
噂は真実だった。高山本線のキハ58は、平日朝の84lD→844D→849D→852D→857Dと言う運用で富山⇔越中八尾間を往復しているのだ。(2008年5月14日現在)
しかしこのキハ58。小豆色に白い帯と言うカラーリングが渋くてカッコイイ。南三陸色やよねしろ色がハマってたから、キハ58にはグリーン系だとばかり思っていたが、こんな深い色も結構似合うなぁ。と言うかやはり美人は何を着ても似合うってヤツだ!!
ちなみに実を言うとこちら側はキハ28。と言うことは、逆側にはキハ58がいるハズなので、そちらを覗いてみると…。
な、なななななんと!!!
パノラミックウィンドウ車キタコレ!!!!!
もう興奮のあまり、早朝からテンション上がり過ぎでおかしくなりかける僕。そして更に追い討ち。床下から聴こえてくるエンジン音がね…もうね…。
これってもしや原型のDMH17H!?
この独特の「カランカラン…」と言う高らかなアイドリング音。間違いない。DMH17Hの音だ。
まさかここへ来て、エンジン未換装のキハ58に会えるだなんて…。
と言うか。
パノラミックウインドウにエンジン未換装だなんて、なんと言う萌え要素!! なんと言う萌えキャラ!!
ああっもうなんなのこの可愛いコ!!
…ちょっと待て俺。幾らなんでも興奮し過ぎだ。少し冷静になれ(汗)
このキハ58は折り返し、7時16分発の普通越中八尾行きとなる。つまり、出発までまるまる1時間あるのだが、その間、待避線へ入るでも無く、ずっとホームに停車している。
と言うワケで、思う存分にキハ58を眺め、写真を撮りまくる僕。小雨降りしきる早朝の、誰もいない無人のホームで、旧型気動車の周りを何回も何回もぐるぐると回っては独りニヤニヤしていた僕は、傍から見れば明らかにおかしな人だったと思う。うん。
車内はワンマン対応、そして近郊化改造されている。デッキが無くなり、ドア付近がロングシートになってしまっているのは残念だが、しかしボックスシートに腰を下ろせば、昔、急行として走っていた頃の雰囲気がそのまま味わえる。
さて。僕はこのまま、このキハ58に乗って越中八尾まで行くことにする。越中八尾は「おわら」で有名な町。情緒溢れる、風情ある町とのことだが、別に越中八尾に用は無い。ただキハ58に乗りたい、それだけだ!!
7時16分。列車は定刻通りに富山を出発。この時点で、車内に客はほんの6,7人と言ったところか。ゆっくりとキハ58は動き出す。カランカラン…と言うアイドリング音が、低く響くエンジンの唸りへと変わる。しかしこのDMH17Hエンジン、その響きは意外にも静かでおとなしい。同じDMH17系列でも、17Cエンジンのけたたましくすさまじい轟音とは対照的だ。
キハ58は富山の田園風景の中を走って行く。この頃には、雨も止み、いつしか晴れ間がのぞいていた。水が張られた田に、青空が美しく反射する。
こんないい天気になるのなら、予定通りに黒部峡谷鉄道に行くべきだったか…と、僕の心の中で一瞬の後悔が走る。が、その思いはすぐに打ち消される。
そんなことよりも、今のこの一時-キハ58と過ごすこの一時-それが何よりも一番大事なのだ、と。
キハ58の普通列車は7時43分、終点の越中八尾に到着した。
僕はここで駅から出ることも無く、そのまままた、このキハ58で引き返す。折り返し7時59分発の富山行き普通列車。富山には8時35分に戻ってきた。
旅の初めに、早朝のキハ58との素晴らしい出会い。まさに夢の様な一時だった。
折り返し、富山を8時54分発の越中八尾行き普通列車として再び走り出すキハ58。
その姿を、僕はずっといつまでもいつまでも見送っていた。
2008年5月・初夏の北陸旅行(1)
- 旅の始まり 寝台特急「北陸」 -
つい先日、5月13日の夜から15日まで、北陸の方へと旅をしてきた。北陸は未だ訪れたことの無かった地。主な目的は黒部峡谷鉄道に乗ること、そして金沢の兼六園を訪れることだったが、それ以外にも色々とあった、たった2日間ながら内容の濃い充実した旅だった。
その時の旅日記をつらつら綴っていこうと思う。
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2008年5月13日(火) 仕事を少し早めに切り上げ、一旦帰宅。荷物の用意を済ませ、着替えて出発する。今回の旅のスタート地点は上野駅。ここから寝台特急「北陸」に乗って富山を目指すのだ。
上野駅に着いたのは夜22時半前だったか。夕食を買い(残念ながら既に駅弁屋は閉まっていたので、仕方なく近くのコンビニで握り飯など買う)、しばらく待つ。そして22時45分位になり、いよいよ寝台特急「北陸」が入線してくる。
先日の「あけぼの」の様に遅れることなく来てくれたのでゆっくりと写真を撮ったりし、それから車内へと乗り込む。
今回もソロ個室に乗車する。ところで今回の旅、北陸フリー切符を使用しているのだが、奮発してこれのグリーン車用を選んだのに、寝台はB寝台しか乗れないと言うのは一体どういうことだろう。グリーン用なら寝台もA寝台乗れたってイイのに…。
「北陸」のソロは、「あけぼの」とは異なるタイプ。「あけぼの」は真ん中に通路があり、両側に個室が並んでいたが、こちらは通路が端にある。
個室の中へと入る。今回、個室は下段の方だった。
この「北陸」のソロは、昔乗ったことのある「北斗星」に近いタイプ。ベッドが枕木方向に並んでいて、ベッドそのものの大きさは「あけぼの」のタイプよりも狭いのだが、しかし居住空間自体はとても広く感じる。なにより、天井がそこそこ高く、一応は立って着替えられるのが良い。「あけぼの」は個室内で立てなかったからなぁ…。
荷物を置くスペースもきちんと確保できるのもありがたい。「あけぼの」はホント、荷物置く場所にも困ったからなぁ…。
ただ、細かいことだが気になったことが一つ。ハンガーの掛ける場所が、テーブルのすぐ上と言うのはいかがなものか。このテーブルを使って何か物を食べたり飲んだりすることになるのだが、そんな場所の近くに服を掛けると言うのは汚してしまいそうで何となくイヤな気がする。(だから結局、無理矢理窓枠に掛けたりしたが)
寝台特急「北陸」は、23時03分に上野を出発。浴衣に着替え、早々に車内改札も済ませ、となればあとはもうやることは一つ。酒しかない。
事前に買っておいた日本酒2本。左は普通の日本酒(純米酒)だが、右の「すず音」と言うのは微発砲性のもの。日本酒と言うよりは、米で創られたシャンパンだと思った方が良い。スッキリとした味わいで、食前酒にイイ感じだ。
ベッドの上の簡易ソファーに腰掛け(この簡易ソファーがあるのもポイント高い)、ゆるりと日本酒を飲みながら、ぼんやりと夜景を眺めて過ごす。こうしていると、普段は考えもしない様な、様々なことが頭に浮かんでは消える。仕事のことだったり、自分自身のこと、家族のこと、過去、未来…様々に。
物思いに独りふける時間が持てる、寝台列車での一夜と言うのはやはり、特別なものと言う気がする。
が、あまりぼんやりして夜更かししていてもいけない。何しろ今回の旅、朝が早いのだ。翌朝5時半には富山に着いてしまうのだ。
と言うワケで、早々に(と言っても夜中1時を回っていたが)ベッドへ潜りこみ、就寝。
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揺れが気になり、なかなか寝付けない…と思いながらいつしかぐっすり眠っていた様だ。朝5時にセットしておいた携帯のアラームで飛び起きる。無理矢理に目を覚まし、着替えて用意を済ませる。
5時33分。富山に到着した。
まだ完全には夜の開けきらぬ、ほんのり薄暗い中、「北陸」を見送る。
そして隣のホームへ目をやると、いきなりとんでも無いヤツを発見!!
おお…これは…あの583系寝台電車をムリヤリ(笑)近郊化改造した変わりダネ、419系ではないか!!
そうだ。北陸地方と言えば、こんなレアモノが未だに走っているのだ。この他にも、各地でもう現役から引退してしまった、急行形電車なんかも走っていると言うからな…ううむ。今回の北陸旅行、色々と楽しみになってきたぞ!!
と、アガる僕のテンションとは裏腹に、天気は小雨交じりで決して良いとは言えないコンディション。ここで僕は重要な決断を迫られる。
と言うのも今回の旅行。当初の予定では1日目は黒部峡谷鉄道をメインに富山で過ごし、2日目は金沢へ移動し兼六園その他を観光するつもりだった。…が、雨模様で黒部峡谷鉄道のトロッコ列車と言うのもいただけない。そこで急遽、1日目と2日目の行程を入れ替えることにする。
まあ、何はともあれ。ここから本当の旅のスタートだ。
























