今回のブログは、久坂部羊著の『人はどう老いるのか』を抜粋一部加筆したものである。 |
|
「まえがき」より ~ 老いれば、様々な面で、「肉体的および機能的な劣化」が進む。
目が見えにくくなり、耳が遠くなり、物忘れがひどくなり、人の名前が出てこなくなり、
指示代名詞ばかり口にするようになり、動きがノロくなって、鈍くさくなり、力がなく
なり、ヨタヨタするようになる。 |
(中略)イヤなことばかりを書いたが、これが「老いるということ;すなわち長生き」と
いうことである。 |
にもかかわらず、長生きを求める人が多いのは何故なのか。それは「生物としての人間の
本能」であり、長生きをすればいいこともいっぱいあるからだろう。 |
世の中には、それを肯定する言説や情報が満ち溢れている。曰く「八十歳からの幸福論」,
「すばらしき九十歳」,「人生百年!」,「いつまでも 元気で自分らしく」,「介護いらず、
医者いらず」等々。そのことに、私は危惧を深めるのである。そんな絵空事で安心してい
てよいのだろうか。・・・(後略) |
|
医師として、多くの高齢者に接してきた著者が、上手に楽に老いている人、下手に苦しく
老いている人を見てきた経験から、初体験の「老い」を失敗しない方法について語る。 |
|
「医療が進歩した」と言っても、やはりがんで亡くなる患者さんも少なくない。 |
大事な人が亡くなるのはとてもつらいことであるが、しっかりと事前に情報を集め、心の
準備をしておかないと、徒に死にゆく人を苦しめ、あとで己の行為を悔やむことになる。 |
がんの終末期において、患者は様々な症状に直面する。骨転移や神経障害性疼痛,全身の
倦怠感,せん妄(軽い意識障害)、発熱などがその一部である。 |
がん患者が亡くなるときは大抵が「悪液質」になっているから、状況を理解しない家族は、
無理に食事を摂らせようとしたり、点滴や注射や酸素マスク等を求めて、患者を苦しめる。 |
特に、痛みに苦しむ患者に対して多くの人々がやってしまう「愚かで残酷なこと」がある。
それは、「麻薬が怖い」という思い込みから、「患者を我慢させること」なのである。 |
|
「何かせずにはいられない」という気持ちはわかるが、悪液質になった患者には、静かに
見守ることがもっとも楽な方法である。しかし、前もってしっかりと心の準備をしておか
ないと、なかな難しいだろう。 |
医療は死に対しては無力である。それどころか「よけいな医療は死にゆく患者を苦しめる
ばかり」である。「よけいな医療」というのは、死を遠ざけようとする処置である。 |
こういうイヤだけれどほんとうのことを、医療者がなかなか口にしないのは、患者や家族
から「見捨てるのか」,「あきらめろと言うのか」と非難されかねないからである。 |
「まだ治療の余地があります」とか、「なんとか別の方法を試してみましょう…」などと
言う医者も、内心では「何もしないほうがいいんのだけれど と思っている」というのが、
本当のところであろう。 |
|
一方で、死にゆくがん患者に必要な医療もある。それは「痛みをコントロールするために
医療用麻薬の使用」である。「モルヒネ」が主であるが、ほかにも人工麻薬の「フェンタ
ニル」や「オキシコドン」などもある。飲み薬や 持続注射、座薬や貼り薬等もあるから、
患者の状態に応じて使用できる。 |
麻薬を使用することは、終末期のがん患者にとって重要な緩和ケアの一環である。 |
|
「麻薬」というと、中毒や副作用を恐れる人もいるだろうが、「死にゆく人に中毒の心配
をするのはナンセンス」であるし、「使用量をまちがわなければ副作用で命を縮めること
はない」のである。 |
「いや、親戚のだれそれは、麻薬を使ったらすぐ亡くなった」というようなことを言う人
もいるが、それは「麻薬の副作用で亡くなったのではなく、麻薬を忌避するあまり、亡く
なるギリギリまで使わずにいたから、使ったらすぐに亡くなったように見える」だけだ。 |
「麻薬は怖い」という思い込みで、がんの末期で痛みに苦しんでいる患者を我慢させる程、
愚かで残酷なことはない。 |
|
小生のようながん患者のみならず、「老い」や「病気」,「死」に対して不安を持っている
方には必読書ではなかろうかと思う。 |
小生は、3年半前の2020年11月に、「多発性骨髄腫ステージ3」との診断を受けた。
3か月の入院後に、自宅療養生活を3年余り続けながら、幸いなことに「寛解」が続いて
おり、今はありがたい限りである。 |
だが、「骨髄腫患者としての平均的な余命」もあと数年と言われており、自分なりの終活を
しながらも、「いつかは転移・再発して、行く行くはがんで死亡することになるだろう」と
身構えてはいる。 |
「死にゆくがん患者」に対しては、「余計な医療」を無理強いせずに、「必要な医療=痛み
をコントロールするために医療用麻薬の使用」をお願いしたい。 |
著者の久坂部羊医師が述べられているように、「がんで最期を迎えることになれば、早々に
医療用麻薬を開始してもらって、麻薬の安楽な朦朧状態で この世とお別れしたい」と願う。 |