サイボーグ劉暁慶

「芙蓉鎮」という中国映画を覚えている人は多いだろう。86年制作、監督は謝晋。文革終了後、初めて文革を正面から描いた中国映画としてジャーナリズムの話題にもなった。
それ以上に中国俳優の魅力にあふれた映画でもあった。主人公を演じたのは姜文。のちに「陽光燦爛的日子(太陽の少年)」「鬼子来了(鬼が来た!)」の監督としてその力量を世界に知らしめた名優だ。
そしてヒロインを演じたのが劉暁慶である。中国を代表する清純派女優だった劉は、この映画で文革の「嫉妬」の嵐に翻弄されながら、たくましく生き抜く米豆腐屋の女主人役を好演した。
彼女、見た目は清純派だがその実しぶとい性格として知られ(いかにも中国人女性だ)、女優としてのキャリアを積み上げる一方で実業家としても中国版フォーブスの富豪ランキングに名前を連ねるほど成功した。
だがその運命は2002年に暗転する。同年6月に脱税容疑で中国当局に逮捕され、422日間勾留。04年に一審で有罪判決を受け、その後罰金710万元(1億1000万円)を支払う――と、清純派女優から脱税犯へと転落。そのニュースは連日中国の新聞の一面をにぎわせた。
当時、彼女の逮捕について北京の小道消息(口コミ)は「脱税取り締まりのスケープゴートにされた」とやや同情的だったが、罰金を支払ったところを見ると、やはりやましいところはあったらしい。
■□今も変わらぬ“劉暁慶節”□■
その劉暁慶が最近、出演した新作映画の宣伝で香港を訪問。亜洲週刊12月13日号がインタビュー記事を掲載しているのだが、久々に彼女の顔を写真で見て驚いた。(おそらく)整形手術で顔がサイボーグ化しているのだ(記事の掲載写真ではないが、大体こんな感じ↓)。

51年生まれの彼女は今年58歳。そもそも23年も前の芙蓉鎮当時の瑞々しさを期待するのは間違っている。だが、それを整形手術で再現しようとするのはもっと間違っている。Observingchinaは必ずしも整形を否定するものではないが、それでもちょっと違うのではないか、と突っ込みたくなる顔だ。
かつて「人として生きるのは難しく女として生きるのも難しいが、有名女優として生きるのはもっと難しい」という“名言”を吐いた劉暁慶だが、このインタビューでも
「(かつて女優から事業家に転じたのは)敵がいないのは寂しいもの。ライバルがいなくて、たった一人で演じていて何が面白いの? それで事業を始めたわ」
「(いまだに醜聞記事を書かれることについて)人気があるから注目が集まる。死んだ犬を蹴る人間はいない」
と“劉暁慶節”を炸裂させている。
だが記事は彼女の発言として脱税事件の顛末について「最後はまったく問題なく無罪で釈放された」と明らかに事実と異なる記述をしている。
その整形顔は、才能があふれているのに、結局虚飾の人生を歩んでしまった劉暁慶という一人の中国人女性を象徴しているように映る。
北京大学生残酷物語
黎力は北京科技大学の「4年生」だった。長江南岸に位置する江西省の寒村から、前中共政治局常務委員の羅幹、現北京市委書記の劉淇を輩出した北京の名門大学にやって来たとき、黎は若干16歳。あまりに優秀で高校をすっ飛ばした少年は、一緒に入学した同級生たちより3歳も若かった。
黎は3年生までは1科目も「挂科(単位を落とすこと)」しない優秀な生徒だった。ところがバラ色の夢と希望に輝いていた黎の学生生活が、4年生のときに一転する。
昔はほとんどタダで行けた中国の大学の学費は最近うなぎのぼりで、北京科技大も年5000元(7万円)の学費プラス宿舎費900元(1万4000円)が必要。ほかに生活費もかかる。平均収入が今なお5000元の中国農民にとっては、どう考えても借金なしにひねり出せないカネだ。
父母の負担を案じた黎は、4年生になったとき大学近くのハイテク街中関村にあるパソコン会社でアルバイトを始める。起床は朝6時。アルバイトといっても終日で、バイトから帰ったらシャワーを浴びてすぐ宿舎のベッドに直行……案の定、黎は4年で留年。規則で大学の宿舎を追い出されることになる。
中国の宿舎は1部屋に6~12人が住むという劣悪な環境なのだが、寮費は安くてすむ。ところが外で部屋を借りて住もうと思うと、安くても1カ月500元(7000円)、1年で6000元(8万4000円)かかる。
アパート代をひねり出すためさらにバイトをし、勉強がさらにおろそかになる……というお決まりの悪循環に陥った黎は、5年生の試験でカンニングをしてしまう。だがそれが見つかり、大学生活6年目突入を余儀なくされる。
北京科技大では6年で卒業できないと放校処分が待っている。黎に残されたのはあと1年。黎はバイト中心の生活を改め、勉強に集中して卒業を目指すことにする。今年の春節の頃に黎と会った友人によれば、このころの黎の表情は希望に満ちて明るかったという。
だがこの友人は数ヶ月後、黎が最後の試験に失敗したというニュースを人づてに耳にすることになる。びっしり書き込んだ答案に黎も自信をもち、試験結果の確認にも行かなかったほどだった。落第を知ったときのショックは計り知れないと、この友人は振り返る。
※
北京の大学生が夏休みに入ろうかという7月12日、黎は大学構内にある中国銀行支店に刃物を持って押し入り、客2人を人質に取って10万元(140万円)を奪って逃走。スーパーの前で警察に捕まった。
黎は現金を大学の西門近くに埋め、捕まったときは財布すら持っていなかったという。遺書を書いており、人民網によると奪った10万元は学費で迷惑をかけた父母への「遺産」のつもりだったらしい。
※
中国青年報によると、北京市海淀区人民検察院は22日、黎を「拉致罪」で起訴した。逮捕容疑は強盗罪だったが、検察は「強盗中に暴力を行使した対象の人間と、カネを差し出させた人間が同一人物」でなく、強盗罪より拉致罪の構成要件にあたると判断した。また犯行時に「病気」の影響で正常な判断能力がなかったという鑑定もあるといい、「限定責任能力者」として刑が減軽される可能性がある。
※
未確認だが強盗罪より拉致罪のほうが刑が軽いのだろう。この犯罪事実で強盗罪を構成しないとすれば、どうすりゃ「タタキ」が立つの検事さん?と日本のおまわりさんなら頭を抱え込みそうな判断だが、何が何でも刑を軽くするための政治判断のはず。それほど中国の大学生の生活&就職をめぐる事情は不安定化している。

(↑劉の「放校」証明書。なるほど元「村の神童」を彷彿とさせる知的な顔立ちだ)
黎は3年生までは1科目も「挂科(単位を落とすこと)」しない優秀な生徒だった。ところがバラ色の夢と希望に輝いていた黎の学生生活が、4年生のときに一転する。
昔はほとんどタダで行けた中国の大学の学費は最近うなぎのぼりで、北京科技大も年5000元(7万円)の学費プラス宿舎費900元(1万4000円)が必要。ほかに生活費もかかる。平均収入が今なお5000元の中国農民にとっては、どう考えても借金なしにひねり出せないカネだ。
父母の負担を案じた黎は、4年生になったとき大学近くのハイテク街中関村にあるパソコン会社でアルバイトを始める。起床は朝6時。アルバイトといっても終日で、バイトから帰ったらシャワーを浴びてすぐ宿舎のベッドに直行……案の定、黎は4年で留年。規則で大学の宿舎を追い出されることになる。
中国の宿舎は1部屋に6~12人が住むという劣悪な環境なのだが、寮費は安くてすむ。ところが外で部屋を借りて住もうと思うと、安くても1カ月500元(7000円)、1年で6000元(8万4000円)かかる。
アパート代をひねり出すためさらにバイトをし、勉強がさらにおろそかになる……というお決まりの悪循環に陥った黎は、5年生の試験でカンニングをしてしまう。だがそれが見つかり、大学生活6年目突入を余儀なくされる。
北京科技大では6年で卒業できないと放校処分が待っている。黎に残されたのはあと1年。黎はバイト中心の生活を改め、勉強に集中して卒業を目指すことにする。今年の春節の頃に黎と会った友人によれば、このころの黎の表情は希望に満ちて明るかったという。
だがこの友人は数ヶ月後、黎が最後の試験に失敗したというニュースを人づてに耳にすることになる。びっしり書き込んだ答案に黎も自信をもち、試験結果の確認にも行かなかったほどだった。落第を知ったときのショックは計り知れないと、この友人は振り返る。
※
北京の大学生が夏休みに入ろうかという7月12日、黎は大学構内にある中国銀行支店に刃物を持って押し入り、客2人を人質に取って10万元(140万円)を奪って逃走。スーパーの前で警察に捕まった。
黎は現金を大学の西門近くに埋め、捕まったときは財布すら持っていなかったという。遺書を書いており、人民網によると奪った10万元は学費で迷惑をかけた父母への「遺産」のつもりだったらしい。
※
中国青年報によると、北京市海淀区人民検察院は22日、黎を「拉致罪」で起訴した。逮捕容疑は強盗罪だったが、検察は「強盗中に暴力を行使した対象の人間と、カネを差し出させた人間が同一人物」でなく、強盗罪より拉致罪の構成要件にあたると判断した。また犯行時に「病気」の影響で正常な判断能力がなかったという鑑定もあるといい、「限定責任能力者」として刑が減軽される可能性がある。
※
未確認だが強盗罪より拉致罪のほうが刑が軽いのだろう。この犯罪事実で強盗罪を構成しないとすれば、どうすりゃ「タタキ」が立つの検事さん?と日本のおまわりさんなら頭を抱え込みそうな判断だが、何が何でも刑を軽くするための政治判断のはず。それほど中国の大学生の生活&就職をめぐる事情は不安定化している。

(↑劉の「放校」証明書。なるほど元「村の神童」を彷彿とさせる知的な顔立ちだ)
香港メディアの台湾侵攻作戦

香港のメディア企業「壹傳媒」の主席、黎智英が「壹週刊」「蘋果日報」で台湾に殴りこみをかけたのは01年。この2つのペーパーメディアで台湾の新聞・出版界を制圧した黎は11月、新たに台湾でインターネットニュース「動新聞」の配信を始めた。この「動新聞」、既存のニュースメディア人士が思いもつかなかった方法でニュースを伝えているのだが、その過激ゆえに良識ある台湾のお父さんお母さんたちの猛反発を招いている。
通常ニュース映像がない場合、テレビメディアはほかの資料映像を使ったり、あるいは写真を静止画として使ったりしてお茶を濁す。ところが、「動新聞」は自分でCGを使ってニュース映像を作ってしまう。最近ではタイガー・ウッズにビンタを食らわせ、逃げるウッズの車の後部ガラスをゴルフクラブで叩き割る美人鬼嫁の姿も再現している。
これを「暴力」「性」絡みの犯罪ニュースでやるのだから、台湾のお父さんお母さんはたまらない。11月末、社会福祉団体の抗議を受けて台北市長の郝龍斌が蘋果日報に計100万台湾ドル(280万円)の罰金を課し、小中高校での同紙の購読を禁じる措置を取ると(そもそも蘋果日報を学校で読むのもどうかと思うが)、蘋果日報側も市長を「強制罪」で告訴。ところが蘋果日報がなぜか突然謝罪文を紙面に掲載した。
突然のわび入れの背景には、壹傳媒が台湾でテレビ局の開設申請をしていることがあるらしい。台湾当局は日本政府と違って放送局の新設に寛容だが、それでもさすがに「壹電視」の開設は認められないだろう、という見方が大勢のようだ。
台湾人たちが動新聞に拒絶反応を起こすのは単に「エロ」「暴力」ゆえ、ではないような気がする。壹週刊も蘋果日報も報道の自由を誇る香港の媒体だし、そもそも壹傳媒は反大陸、民主派メディアである。それでも、台湾人は何となくその背後に大陸の影と不安を感じているのではないか。じわじわ大陸に飲み込まれる香港に、自分たちの将来を重ねているわけだ。
このニュースが両岸の事実上のFTAである中台経済協力枠組み協定(ECFA)の話し合い(と反対デモ)に合わせて出て来たのは、単なる偶然ではないだろう。