味噌が足りない。
御年92歳の草笛光子さんが演じるのはふらっと町にやってきて、つぶれたバーを再オープンした怪しげな老婦人。はじめは距離を置いていた町の人も、そのうち引き込まれていき…というよくあるパターンの話だ。長さといい、展開といい、主演を立てればあとはどうでもいい感じといい、令和なのに昭和みたいな作品。92歳であの矍鑠(かくしゃくってこう書くんだ…)とした草笛さんは確かにすごい。でもそこだけしか表現していないのが残念だった。長い人生経験や、酸いも甘いも経てきた懐の深さみたいなものが、アンジーというキャラクターから感じられなかったし、町の人々の描写もちょっとだけで、薄っぺらかった。あと30分使って、そこの深さや味をじっくり堪能させてくれたら、もっといい作品になったのになぁ。まあ、だから昭和邦画なんだけど。
ナチス相手なら、何してもいいの?
007のモデルになったと言われている、第2次大戦下のイギリスでチャーチル首相が抱えていた超法秘密部隊の物語。Uボートを使って制海権を押さえていたナチスから、それを取り返した作戦の実話ベースの物語だそうだけど、やりすぎやないか?
7人くらいのメンバーが、無敵で、虫けらのようにひたすらナチスを殺しまくる。こっちはほぼ無傷で大したピンチもないから、こどもらがやってるFPSのよう。ナチスの兵隊にだって、親もいれば家族や国に残した恋人もいるだろうに、何の余韻も見せ場もなく、秒で殺し続けるだけの作品は、エンタメとは言えどうかと思うなぁ。
キライじゃない、雰囲気だけど。
大学の女子寮?というかボロアパートに住んでいるワタシとバンドでボーカルやっているセンパイの物語。何をやりたいのか見つからず、ふわっと生きてる大半の連中と、自分のやりたいことが見えているセンパイ。その対比で見せていく展開はマンガにありがちなブツ切れなところもあったけど、納得させられる部分も多かった。ただそこまでセンパイをトリコにする音楽の表現がチープだったのが残念。監督にもセンパイ並に音楽に取り組んでほしかった。
ただ漂っていられた。
洪水に飲み込まれ、人間は誰もいない世界。そこでたまたま船に出会って生き残った黒猫と、カピバラ、リスザル、イヌ、ワシの物語。フルCGで作られているが、擬人化したりせず、90分くらいの間、一切人間の言葉は出てこない。もちろん作りものではあるし、都合のいい展開もたくさんあるけど、ダーウィンが来たみたいなドキュメントをボーっと見ているような気分に浸れ、癒された。それぞれの動物たちも、猫は自由、イヌは協調とか社会、サルは知恵、ワシは気高さ、カピバラは大らかさを象徴しているよう。それが助け合って強大な自然に立ち向かう。言葉はないけど、態度で伝わる。CGのテクスチャーは粗いけど、動きの表現は素晴らしかった。世界中の老若男女が楽しめるのもいいよね。

どうせなら、振り切ってよ!
金も美も家族も手に入れたニコール・キッドマン演じる美人CEOが、若いツバメに「命令される快感」に堕ちていく物語。予告編で雰囲気は伝わってきて、期待と股間を膨らませて見に行った。前半の焦らしの長さはまだ我慢できたが、後半の言い訳展開がなぁ…ニコールも顔はとても57歳には見えないけど、手や足の衰えには一気に現実に引き戻される。
映画なんだから、作りもの、こうなったらいいなぁという倒錯の世界のまま走りきってほしかった。
画竜点睛を欠いたなぁ。
生活保護を食いものにしている連中と、ケースワーカーが堕ちていく物語。窪田正孝、河合優実ら役者陣の熱演は見事だったし、今の日本の抱える闇に迫った物語も良かった、途中までは。ラストがなぁ…わざとらしい台風情報から、勢ぞろいして殺し合いて!そんなんで話まとめてどうすんねん。韓国映画の悪い影響だわ。
おもてたんより、オモロかった。
監督は「パラサイト」のポン・ジュノ。予告を見て、何度も同じ時を繰り返すタイムリープものだと勘違いしていた。繰り返すのはミッキーだけ。死んでも記憶を引き継いで再プリントされるエクスペンダブル、この設定がムチャよかった。倫理的に許されないから宇宙空間で、新たな調査や研究のためのモルモットとして何度も死を繰り返すミッキー。死んだと思ってた17が生きていて18と同時に存在することになって、物語が後半さらに展開していく。自分がミッキーだったら…ではなく、ミッキーを利用できたらを考えてしまった。RPGでセーブしたあと無謀な挑戦を繰り返させる感じ。どんな活用法があるだろうか?
オチにやられた。
ローマ教皇が亡くなった後、新教皇を決める選挙「コンクラーベ」の物語。100人を超える枢機卿たちが、外界からは閉ざされた合宿で、誰かが2/3の票を得るまで投票を繰り返す「根比べ」だ。神に仕える聖なる仕事だが、実情は権力と謀略にまみれた世界。そのごちゃごちゃは予想通りだったが、さんざん揉めた末の結論をそうするか!モヤモヤしてたから、逆にスッキリした部分もあるけれど。
ちょっとファンタジーすぎへん?
馳星周の直木賞作品と、このタイトル。久しぶりに気持ちいい涙を流したいと前情報を入れずに行って…失敗した。
人に寄り添い、その存在が助けになる犬っていると思うけど、それを一頭に押し付けるのはしんどいやろ。あとワケありの登場人物たちも共感できるポイントが少なく、挙句の果てに幽霊て。図鑑を忘れただけで長い話聞かされた少女も、たぶん焼肉だけじゃ元取れなかったんちゃうかな。
映画自体はそんなにだけど。
台湾からアメリカに渡り、長年コツコツ家族のために貯めた財産を詐欺で奪われたじいさん。その体験を本人の主演、脚本、本物の家族の出演で映画にしてしまったという作品。詐欺の手口やハマってしまう物語は粗いけれど、転んでもタダで起きないジェリーの精神力に感動すら覚えた。金持ちから一転、無一文になりウーバーで働きながら、この経験を劇場映画化しようて!昔台本を書いて家族で撮ったホームビデオ作りが楽しかったからて!逞しいにもほどがあるやろ。