設定、いやタイトルが一番だったかもしれない。
「カメラを止めるな」と同じえんぶゼミ発の自主映画。死んだ人が場所とかでなく、生き物でない物体にとりつくことができる。そのアイデアはメチャいいし、セリフを被せるだけで、それっぽく見せることはできる。ただそのあとがなぁ…。モノ目線は最初だけで、すぐに客観視になっちゃうし、展開にも工夫がない。自分が動けなくても、ネコにくわえさせるとか、時間を変化させるとか、物語を動かすことはできたはず。時間が持たないからオムニバスにしているのはどうやろ?出だしがよかっただけに惜しい作品だった。
田中圭が途中で言ってた通りや。
ネット小説にハマっている配達員の兄ちゃんが、配達先の「人の消えるマンション」で謎に巻き込まれるミステリー。確かにやりたいことはわかる。あそこやあそこで見た凄いトリックを組み合わせて…それはよくできていたと思う。でもそれはなんのために?主人公も監督も「なんか面白そう」だけで動いてしまい、物語に説得力がなく、薄い。これを見た記憶もあっという間に消えてしまうんやろなぁ。
母の愛だって、やっぱり。
耳が聞こえない両親から生まれた聞こえる子ども、コーダと呼ばれる少年の物語。もちろん障害や周りの目による苦労はたくさんあっただろうけど、両親の「これは個性と考えている」前向きさから、あまり深刻には感じず、むしろ普通の青年の成長を描いているように感じた。それを支えていたのは、母の大き過ぎるくらいの愛と、いいスタンスで見つめる父親の存在感。障害なんて関係ない!見習いたい両親がいた。
エンディングテーマの歌詞が心にささったことも記しておきたい。
そのへんのホラー映画より、よっぽど。
森山未來の長年会っていなかった父親が藤竜也。父親が警察に保護されたというので仕方なく会いに行ったらガッツリ認知症だった。そこに至るまでの人生はわからないが、実家に残されたものを見ていくうちに少しずつ浮かんでくるオヤジの生きた道、という話だ。これからこの時期を迎えるかもしれない親を抱える身としては正直怖さしか感じなかった。子どもだった自分には見せなかった一人の男や女としての親。子どもになんか頼りたくない親のプライド。でも衰えを感じ、なんとかしたい焦り。
そういう複雑な状況を一気にグチャグチャにしてしまう認知症の身勝手さ。俺はどう心の準備をすればいいのか?温暖化より、なんやらの持続より、よっぽど喫緊の課題だわ。
それがし、器用には生きられないもので。
あの「カメ止め」と同じく、ミニシアターから火がつき、シネコンに広がった作品。ざっくりいうと幕末の京都で長州藩士と対決した会津藩士が、雷に打たれてタイムスリップ。現代の太秦撮影所にまぎれてしまったという話だ。設定のユニークさはあるけど、前半はタイムスリップものによくある一通りの騒動でベタだ。でもこの作品が良かったのは後半。現代に順応するのに精一杯だった主人公が、ある出来事をキッカケにサムライとしての原点に立ち返る。そのことでかかえる苦悩と展開がおっさんの心には響いた。主演の山口馬木也、素晴らしかった。
まあカメ止めほどの斬新さはないし、若い世代に響く作品じゃない。でも時代劇の自主映画が令和の世でここまで来た。夢があるじゃないか。
自分のお日さまをみつけられるか。
舞台は北海道のどこか。どもりがあってスポーツがあまり得意じゃない小6男子、フィギュアスケートに打ち込む中学女子、現役引退後ふらりと街にやってきて彼女のコーチを引き受けた青年。この3人のストーリーだが、事件は起こらず淡々と進む。北海道の冬の話なので太陽はあまりでてこないけど、それぞれが「お日さま」を見つけていく。その描写がたまらなく幸せで心に残った。でも空と同じで晴れた日ばかり続くわけじゃない。90分という短い時間、登場人物も規模も小さな世界に、大事なことが詰まっていたような気がした。自分だけがわかる、お日さまでいいねん。
史実とホンモノの迫力。
韓国映画はレベル高いなと思うことも多いけど、正直邦画に負けてほしくない気持ちはある。ただこういうジャンルは太刀打ちできない。戦時中とかでなく、自分が生まれたあとの時代に、こんなとんでもないクーデターが起きていた事実。しかも失脚したあととはいえ、それを映画として作れる環境。
わずか数時間の中で、目まぐるしく変わる優劣の入れ替わりだけでなく、戦いに臨む男たちの緊張感。せいぜいヤクザやチンピラ止まりの日本とはケタが違う。ただ人物多いのと名前覚えにくいので、途中からわけわからんくなったのは残念だけど。
やっぱり韓国やなぁ…
難民国として国際試合が認められていなかった1947年に、ボストンマラソンに出場して優勝。世界をあっと言わせた英雄の実話ベースの作品。世界記録でオリンピックで優勝しながら、当時占領されていた日本の選手としてメダルを受けるしかなかった監督とコーチの無念。数々の困難を乗り越え、弟子と成し遂げた偉業。スポ根というより民族の誇りをかけた戦いの物語だ。爽快感はあるけど、意外性もライバルも存在しない。たぶんスポーツ映画ではないんだろうな…
そういうタイトルだし、ドキュメントだし。
覚悟はしていたつもりだったが、冒頭から分解されてない新鮮な野糞やウジのアップはなかなかきつかった。太古の昔から地球全体を覆う食物連鎖。人間だけ蚊帳の外なような気がしてるけど、本来そうじゃないはず。出したものや死体を他の生き物が分解して土になり、その栄養で植物が育ち、二酸化炭素から酸素を作ってくれる。そんな研究を続けている3人を追った人生で一番「うんこ濃度」の高い2時間。気持ちよくはないけれど自然の凄さや大きさを感じ、畏敬の念をもった。
たまたま劇場に行く前に、グラングリーン大阪に行き「作られた自然風のもの」とか「株価とかカッコつけのためのSDGs」に違和感を感じまくった後だったのも、後押ししてくれたのかもしれないが。
飲み込まれそうになったのは…
堤幸彦監督の新作。死刑囚と結婚という設定、予告を見ていた限りでは、羊たちの沈黙を和風にした印象だった。でもその上を行く展開。心情セリフの多さや、振りだけの未回収などもあったけど、原作漫画は12巻もあるそうなので、仕方ないところか。魅力はなんと言っても黒島結菜の力演、そして怪演につきる。狭く暗い面会室でアラタやその周りを引き付け、振り回した目の演技と描き方がすごかった。アラタは踏みとどまったけど、俺はとりこまれてしまったような気がする。あと忘れられない歯の存在感!芸能人はやっぱり歯が命なんやなぁ…