姉妹が愛した男
能『松風』は能ファンの中では、人気が高い曲であると思う。
作品主題でありテーマソング的な在原行平の歌…『立ち別れ、因幡の山の峰に生ふる待つとし聞かばいま帰り来ん』(百人一首16番、古今和歌集巻八離別)
この歌を能『松風』のヒロイン松風が朗詠する時、観客もクライマックスに導かれてゆく。
百人一首でも知られた名歌の一つだ。
能『松風』に対しては、姉松風と妹村雨を同時に愛した行平を巡って、二人の恋の確執(三角関係、恋愛バトル)に触れても話としての解釈も成立するだろう。
だが…作品中では妹村雨は冷静で、狂乱する姉を諫めている。
そんな妹村雨の心境…?
おそらく妹村雨も、姉に劣らず情欲における妄執は強い。だが、姉に仮託させる事で妹の心に潜む心象を描いているとも言える。
もう一つは作品が成立した時代背景がある。能『松風』は、先行作品があったようだ。もっと別な演出内容(俗な…)であったかも知れない。しかし、改作された過程において謡が描写する感情表現は激しいが、舞いや所作は控えめとなり月に行平の面影を移して、甘美で優雅な風情を演じる。
世阿弥以降の都における観客の目に耐えるよう『洗練』された…という結果があると思う。
能は一つの歌や小さな逸話を基礎として扱い、作者がテーマを増幅して創作したものが多いのだ。『松風』も、そういう作品の一つと言える。
第2回…松風
第2回…松風。これは、お手伝いしている会のパンフ用に作成した粗筋原案を転用。
能『松風』
西国行脚を思い立った旅僧が、須磨の浦を訪れる。須磨の旧跡、歌人在原行平を旅僧が追想する間にも、秋の日は夕闇へと急速に落ちてゆく。
月の照らす海辺の夕闇、そこへ汐汲み車を引いた二人の若い女海人が現れた。
僧は二人に一夜の宿を借りる。そして、先ほどの旧跡の事を問うと、二人は落涙し、自分達は行平に寵愛された松風・村雨の姉妹の霊であると告げ、行平が残した形見の装束を取り出して、生前の恋物語を二人は懐かしむ。
やがて、姉の松風は形見の装束を身に付け、恋しい行平を偲ぶままに次第に恋の妄執が募る。
松風の心は死後においても恋の苦しみから、狂乱の様相と化してゆく。闇に佇む松を行平の訪れと思い、妄執に身を募らせる。
やがて二人は僧に弔いを頼み、夜明けとともに風のように消えてゆくのだった。
古今和歌集の在原行平の歌を作品の主題に導入し、行平を中心に二人の恋の妄執を描きながらも、甘美な歌物語へと展開している。
通常は前場、後場の二つに分かれる夢幻能形式であるが、二人が霊と名乗った後も巧みに一場能として構成。前半の汐汲み車、後半の松と舞台上の作り物も演出上的な効果をあげている。
四位少将と小町
この能二百余番粗筋紹介企画…学問的価値は皆無であることを予めお断りしておく。
深草少将は小野小町への強い恋慕にあった。小町は少将が百夜通ったならば契りを結ぼうと約束する。少将は九十九夜通い続け、ついに百夜目を迎えたが思いかなわずに、その嫉妬と妄執の中に死んだとされる。
この深草少将(四位少将)の亡霊が小町の霊に取り付いた結果、互いの苦しみがさらに重なり合う。
描かれた演出は対話形式でありながら、少将の心理展開へ導きつつ成仏へと向かい、合わせて小町の魂も救済してゆく。
さて、よく言われる事なのだが、この少将と小町…結局、生前は男と女の関係であったのだろうか。なお、小野小町は実在の人物とされるが、四位少将は架空の人物と考えられている。つまり、流布した小町伝説に乗じて作成された物語が『通小町』なのだ。
小町との望みを遂げぬまま少将は死んだから、彼は亡霊となって小町を追うのか…?
創作された物語ではあるが、私は百日目の夜、小町と少将は関係を結んだと解釈している。
しかし、俗に云う『一度、一緒に寝たくらいで彼氏顔されては困るわ…』女性の古今を問わず、普遍的言質で以後は少将を小町は拒絶したのであろう。
しかし、一途に性快楽に酔いしれて、心狂ってしまった少将…ついに死して煩悩の鬼となってしまったようだ。
恋慕う男を女が拒否続けると仇となる喩え話に小町を引いて『平家物語(巻9小宰相)』で触れている。
美人であるがゆえに高慢に過ぎ、果てに凋落した小町伝説は、幾多の典拠として多くの作品に登場する。
深草少将は小野小町への強い恋慕にあった。小町は少将が百夜通ったならば契りを結ぼうと約束する。少将は九十九夜通い続け、ついに百夜目を迎えたが思いかなわずに、その嫉妬と妄執の中に死んだとされる。
この深草少将(四位少将)の亡霊が小町の霊に取り付いた結果、互いの苦しみがさらに重なり合う。
描かれた演出は対話形式でありながら、少将の心理展開へ導きつつ成仏へと向かい、合わせて小町の魂も救済してゆく。
さて、よく言われる事なのだが、この少将と小町…結局、生前は男と女の関係であったのだろうか。なお、小野小町は実在の人物とされるが、四位少将は架空の人物と考えられている。つまり、流布した小町伝説に乗じて作成された物語が『通小町』なのだ。
小町との望みを遂げぬまま少将は死んだから、彼は亡霊となって小町を追うのか…?
創作された物語ではあるが、私は百日目の夜、小町と少将は関係を結んだと解釈している。
しかし、俗に云う『一度、一緒に寝たくらいで彼氏顔されては困るわ…』女性の古今を問わず、普遍的言質で以後は少将を小町は拒絶したのであろう。
しかし、一途に性快楽に酔いしれて、心狂ってしまった少将…ついに死して煩悩の鬼となってしまったようだ。
恋慕う男を女が拒否続けると仇となる喩え話に小町を引いて『平家物語(巻9小宰相)』で触れている。
美人であるがゆえに高慢に過ぎ、果てに凋落した小町伝説は、幾多の典拠として多くの作品に登場する。

