愛しのエノラ
『ねぇ…エノラ。いつ見ても君はキュートで可愛いよ。今夜のデートは、映画を見ようか…』
当時、アメリカで上映された作品には『オズの魔法使い』『スミス、都へ行く』がある。
作品詳細には触れないが、戦争中でも優れた映画作品を産み出す背景が、対戦国にあった事実を日本人は、どれだけ知っていただろうか。
日本が真珠湾に爆弾を投下した瞬間、政治、工業、科学、医学、思想史、文芸に至るまで扉が開かれて、世界は静かな核戦略へと変貌の道を進んだ。
そこを、おそらく日本はもとより、米国も認識はしていなかった。しかし、歴史の文脈を整理し、統合した能力は米国の方が早かった。
その認識が、最初に具現されたのが『ミッドウェー海戦』なのだと私は思う。
ミッドウェーの洋上で敗北した南雲艦隊の指揮が、特に劣っていたわけではない。彼らは、やることは、しっかりやって戦っている。
しかし、劇的に進化展開する戦争形態と社会、支えて行く自国の国民のあり方、その世界観の認知という視点で、新しい時代の土地を開拓するフロンティアではなかったのだ。
それが、日本が敗戦に至った敗因だと思う。
チャラ男が戦場に出て行く。
チャラい若者は運転する車を飛行機に代え、裸みたいな薄着でアイスをなめていたギャルが、朝からB29を組み立てる。
叔父の手紙にあった米国の様子。すでに自家用車が普及しつつあり、休みにはガールフレンドと青年が遊んでいる。女の子も自由な服装で、社会生活を楽しんでいる。
その背景に圧倒的な資本力と経済政策があり、工業製品に慣れ親しんだ米国の若者が見えてくる。
真珠湾攻撃の後、アメリカ大統領は自動車企業の役員を招集して航空機の大量生産を依頼。フォード、ダコタ、クライスラー、GM等は工場を拡張し、人員を募集、そうして多くの女子学生や主婦が集められて、用意された製造マニュアルに従って増産を開始。
さらに車のタイヤを製造していたGoodyearには、巨大な航空機用タイヤの製造注文が入る。
こんなタイヤが必要な重い飛行機ってアメリカにあったか?
いや…これから予算が付いたんで本気で開発するらしいよ。
それが戦略爆撃機B29である。
本来はドイツ爆撃の目的で開発されたが、転じて日本の都市を焼き払う結果となった。
そして操縦するのは、昨日まで彼女と車デートに興じていた若者達であった。
車から飛行機…慣れるには時間は必要としない。
田舎町で走っている車が珍しい…車でデートなんて、いったい?
そこに日本の青年達と、米国の青年達が知り得た『物質文明の差』があった。
機密保持
機密保持。
男にとって他人に知られなくないのが、下半身の問題…色々ある。
性能如何もあるが、機密は一生伏せねばならない。
さて…真珠湾作戦開始から、米軍に対して機密を保持せねばならない絶対事案が、日本海軍にもあった。むろんデカチンの巨砲を積んだ戦艦大和の存在などではない。
それは零戦の存在である。しかし、真珠湾作戦やミッドウェー海戦、同時に行われたアリューシャン攻略戦でも同様なのだが、不時着機の搭乗員回収を敵支配地域の島に設定していたことだ。
指導部は、最高機密であった零戦が無傷で敵の情報機関に落ちる危険を、全く考慮した気配がない。
すでにミッドウェー海戦で零戦の性能はピークに達しており、母艦搭載機として後継機を必要とする時期でもあった。
ならば、機密こそは絶対である。零戦が工業製品としてピークに達した以上、ライバル企業に追い抜かれるのは目前であるのだ。
絶対に零戦だけは不時着は海上が原則で、そこだけは徹底する必要があった。
実際、ハワイ空襲でも零戦が不時着、さらにアリューシャン作戦で島へ不時着した零戦は無傷に近い。これを入手した米軍はグラマンF6を開発する。
F6は、エンジンが二千馬力、機銃6丁、数百発の弾丸 、爆撃機並みのロケット弾、爆弾など多彩。速度、防御性能、そして何よりも空中無線の高度な会話性能。
この無線電話によってグラマンの編隊は誘導され、防空レーダーに従って迎撃体勢をとる。
…まだ、続く。


