【冥界(黄泉)】

チェンバレンは冥界について、

イザナギ・イザナミ説話と大国主神説話の共通点として、

どちらにも黃泉比良坂があることを指摘している。

食い違っている点として、

イザナギ神話の冥界(黄泉国)は、

「単に恐ろしい腐敗と執念深い死者の住まい」であり、

死んだイザナミが二度と現世に戻ることがない場所である一方、

大国主神神話の冥界は、

「まさに生きている人間の土地の一部であるかのように、

あるいはそれと同様の天界であるかのように描写されている。」

同じ冥界であってもイザナギ・イザナミ神話と大国主神神話では

描かれ方が異なっていることにチェンバレンは戸惑っているようである。

【考察】

冥界は古事記では「黄泉」、あるいは「根堅州國」と記されている。

イザナミが死去した後にイザナギが訪問する場所は「黄泉」。

黃泉国、黃泉戸、黃泉神、黃泉軍、黃泉比良坂、黃泉津大神、

などのように出てきている。

黃泉比良坂の場所は「出雲国之伊賦夜坂」であると記される。

大国主神が八十神の迫害から逃れるため、

スサノオ命が支配する根堅州国」に避難する説話がある。

大国主神は「根堅州国」でも試練を受けるが、

須世理毘売の助けによって何とか乗り切り、

黃泉比良坂を通って脱出に成功する。

その後、須世理毘売を嫡妻として「宇迦能山之山本」に宮殿を建てる。

「宇迦能山之山本」は、

『出雲国風土記』に出てくる出雲郡宇賀郷の山であると

岩波版が注を付けている。

チェンバレンが指摘しているように、

黄泉国と根堅州国の共通点は

現実の世界との境界に黃泉比良坂があること。

黄泉国、根堅州国、黃泉比良坂、宇迦能山之山本は

すべて出雲国と関連があるように記されており、

出雲国に残された原史料に基づいている可能性が強いと考えられる。