岩瀬昇のエネルギーブログ #919 11月26日 OPECプラスは追加減産に踏み切るのか | 岩瀬昇のエネルギーブログ

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エネルギー関連のトピックス等の解説を通じ、エネルギー問題の理解に役立つ情報を提供します。

(カバー写真は、記事中、引用している「FT」記事のものです)

 

 〈JPMorganのクリスチャン・マレクは、他のメンバー国も “重荷を分担する” とサウジが了解すれば、2024年前半にありうるかもしれない “需要の弱さ” 事前対応策として、OPECプラスとして100万BDの追加減産を行うことがありうるだろうと語った。

 アナリストの中には、言うとおりにしなければ生産能力一杯にまで増産することも出来るのだぞと脅すことによって、サウジは他のメンバー国に対し減産するか、あるいは過去に約束した減産枠を順守するよう迫るだろうとの見方を示している人たちもいる。〉

 

 これは、東京時間2023年11月18日(土)午前3時ごろに掲載されたフィナンシャル・タイムズ(FT)の、“OPEC+ weighs further oil production cuts as anger mount over Gaza”(*1)と題する記事の一節である。

 

 記事の要旨は見出しそのものだが、ガザを巡る怒りから減産を考慮しているという後段は、次のような理由から的外れだと思うので無視しよう。

 

 まず、OPECもOPECプラスも、建前としては政治とは無縁で、メンバー国の経済的利益追求するために石油市場の安定化を目指す組織・グループだからだ。個々のメンバー国エネルギー大臣が心の中で何をどう考えているかは別にして、公には政治と経済を完全に分離して対応している。

 次に、減産を強化することがガザの支援につながるとの論理はまったく整合性がない。減産を強化して、油価が上昇したらその分の利益をガザに寄付するなどとは誰も言っていないし、そんなことをするとは思えない。

 さらに、イスラエル・ガザ戦争に対する姿勢は、OPECプラスのメンバー国内でもばらばらなので、組織として一体となって共同の行動を取るとは思えない。11月11日の「アラブ連盟」と「イスラム協力機構(OIC)」の合同サミットに参加した国の中ですら、たとえばイスラエルと国交のあるUAEや、イスラエルに強硬なイラン、クウエートやアルジェリアなどには意見の不一致がある。

 

 さて、では見出しの前段について考えてみよう。

 

 湾岸産油国の石油関係者取材では抜群の能力を誇るエナジー・インテリジェンスの記者、アメナ・バクルは、東京時間11月18日午後15時ごろ「現時点で、OPECプラスが追加減産を検討しているとは聞いていない」とXに投稿している。おそらくそうなのだろう。

 

 FTのエネルギー担当編集長である当該記事の執筆者、デービッド・シェパードも、JPMorganのクリスチャン・マレクや他のアナリストの話、として紹介している。デービッドが直接OPECプラスの関係者を取材して入手した情報でないことは明らかだ。

 

 では、アナリストたちは何を根拠にこのような判断をFTに伝えているのだろうか?

 

 筆者が思うに、これは油価予測をするときと同じ論法だろう。

 すなわち、諸般の情報や判明している事実関係から前提条件をいくつか考えて、これこれの前提通りに推移するならばこうなるはずだ、という論法である。したがって、この種の予測が妥当か否かを判断するには、当該前提条件について考えてみることが重要だろう。

 

 追加減産がありうると判断している人たちは恐らく、サウジは「少なくとも80ドル、望むらくは100ドル」を実現したいと考えている、との前提を置いているのだろう。これは筆者と同じ判断だ。

 判断が分かれるのは、OPECプラスが追加減産をしないと、2024年前半の需給バランスは大きく供給過剰となると見るか否か、ではないだろうか。供給過剰になると油価は下がる。それを防ぐために、予防措置として追加減産をする、と見ているのだ。

 この点について筆者は、自身で判断材料を持っていない。

 したがって、読者の皆さんの判断にお任せしよう。

 

 もう一つのより重要な観点は、もし油価が「少なくとも80ドル、望むらくは100ドル」のレンジを外れて下落した場合、サウジがすぐに行動する否か、の判断だ。

 筆者は「追加減産派」と異なり、しばらくの間は放置する、と見る。

 

 なぜなら、サウジは長期的観点から、OPECおよびOPECプラスをより強固なものにしたいと考えている、と見ているからだ。

 サウジは追加減産を働きかける前に、OPECプラスが先送りしている次の諸問題に、すべて同時ではなく優先順位をつけるかもしれないが、取り組むことから始めるのではないだろうか?

 もちろん、成功するという保証はない。多くの不確実性がある。

 

 筆者は中東協力センターニュース2023年6月号に『王族エネルギー大臣と、曲がり角に立つ「OPECプラス」』と題する論考を寄せた(*2)。その中でOPECプラスが先送りしている問題として次のことを挙げておいた。

 

・生産枠に関するダブルスタンダードと、一部未達国の問題

・サウジとUAEのすきま風

・ロシア減産免除?

 

 2番目の「サウジとUAEのすきま風」は種類の異なる問題なので、ここでは取り上げないが、1番目の「生産枠」と3番目の「ロシア減産?」はサウジがいま取り組まなければならない重要課題ではないだろうか。

 

 「中東協力センターニュース」掲載論考の書き出しで紹介した、2023年4月2日にサプライズとして発表した合計116万BDの “自主減産“ こそが、実は今日の問題の根底にあると考える。

 すなわち、OPECあるいはOPECプラスが組織として “going concern” と認知されるためには、やはり「自主減産」ではなく、組織決定に基づく生産枠を定める必要があるのだ。 そのためにはやはり「生産枠」について、メンバー国全員の合意を得る必要がある。

 

 自主減産とは、当時OPEC事務局長が説明していたように「主権国の予防的措置」としての減産なのだから、自らの判断で生産枠を順守しなくても誰に何も言われるいわれはない、という性質を持つものだからだ。

 特にロシアは、4月2日のサプライズ減産に先立つこと2か月、2月の段階で50万BDの自主減産なるものを発表していた。 だが、実際にどのように「減産」していたのかは記録に残ることもなく、夏の間に自主的に輸出量を減少する、というものに変質していた。これですら自主的な「主権国の予防措置」だから、記録に残ることもなく、守らなくても誰に文句をいわれる筋合いではない、というものであることは不変だ。

 サウジはロシアに対し、生産量と輸出量のデータを開示するよう要求している、と報じられていた。

 

 さらに「プーチンの戦争」が継続している中、10月7日にイスラエル・ガザ戦争が勃発し、国際政治はさらに混迷の度を深めているが、石油市場にとっての2023年は過ぎ去ろうとしている。

 自主減産をめぐる諸問題は、川の流れのようにゆらゆらと漂い続けている。

 

 と、ここまで書いて思い出した。

 たしかOPECプラスは、2024年の生産枠について条件付きで合意していたはずだ。検索したところ、6月4日の合同閣僚会合で一定の合意をしていた。

 どのメディアも報じておらず、今日紹介しているFT記事も触れていないが、あの条件はどうなっているのだろうか?

 

 2023年6月4日、OPECプラスは第35回共同閣僚会合を開催し、2024年生産枠について、アンゴラ、ナイジェリアおよび今後の生産能力に関して外部3社(IHS、Wood Mackenzie、Rystad Energy)に評価させる、ロシアについては6月末までにレビューする、との条件付きで合意していた(*3)。

 

 筆者が見ている限り、2024年生産枠もそうだが、これらの「条件」について報じているメディアはない。

 あのアメナ・バクルですら言及していない。

 どうなっているのだろうか?

 

 サウジもOPECプラスの枠組みを維持したいと思っているはずだ。

 だが、ロシアとの間でどのような妥協ができるのかだろうか。

 

 11月30日から始まる「COP28」を前に、極めて重要な会合となるが、11月26日開催予定の次回OPECプラスの閣僚会合は、いろいろな意味で面白いものになりそうだ。

 

 そろそろ2034年の油価予測を真剣に考えなければいけない時期になるが、この会合がカギを握ることになりそうだな。

 

 

 

 

*1 Opec+ weighs further oil production cuts as anger mounts over Gaza (ft.com)

 

*2 中東情勢分析_王族エネルギー大臣と,曲がり角に立つ「OPECプラス」 (jccme.or.jp)

 

*3 OPEC : 35th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting