岩瀬昇のエネルギーブログ #954 新たなオイルショック到来!? | 岩瀬昇のエネルギーブログ

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エネルギー関連のトピックス等の解説を通じ、エネルギー問題の理解に役立つ情報を提供します。

   東京時間2024年8月27日午前1時ごろ、英経済紙「Financial Times」が「石油需要は2050年までに大幅減少するとして投資をしないと、新たなオイルショックを招くことになる、とエクソンが警告している」(Exxon warns of oil shock if suppliers assume demand will fall bay 2050)と題する記事を掲載した(*1)。

 

 読んで見ると、エクソンが恒例の年次長期予測を発表したとして、その内容を紹介している記事だった。

 

 要は、石油需要は2050年まで、現状同様の1億BD(一日あたりバレル)と想定されるので、もし投資を十分に行わないと油価が4倍にもなる新たなショックに見舞われるというのだ。

 

 同時に、欧州大手石油会社「BP」は、2050年需要を75百万BDと予測しており、IEA(国際エネルギー機関)は公表誓約シナリオ(Announce Pledge Scenario:各国政府がすでに誓約している政策を時間通りに実行するシナリオ)でも5,480万BDに落ち込むとしていることも紹介している。

 

 「エクソン」予測では、石油需要はほぼ横ばいだが、エネルギー利用の効率化やCCSや再エネ技術の革新等により、排出CO2は2050年までに▲25%になるとしている。だが、これではパリ協定の目標と比べると少なすぎる、と記事は指摘する。

 

 また、IEAは今年6月に、2030年までに大幅な供給過剰となると警告していた。

 

 当該「エクソン」予測では、人口増により石油やガスなどを含むエネルギー消費は2050年までに現状より15%増えるとしており、ガソリン用需要は25%減少するが産業用需要がその減少分を補い、石油全体ではほぼ横ばいとなっている。

 

 この「エクソン」予測に対し環境派は、これは化石燃料派による最後のあがきだと手厳しく評価している、と「記事」は結んでいる。

 

 気になったので「エクソン」年次長期予測の原文を探してみた(*2)。

 

 膨大な報告書だが、冒頭、主要なポイントとして次の5項目が記載されている。

 

1. 現存するすべてのエネルギーが、エネルギーミックスを引き続き構成する。

2. 再エネが最大の増加を見せる。

3. 石炭が最大の減少を見せる。

4. 信頼しうる如何なるシナリオでも、石油ガスは必須のものとして残る。

5. 低炭素技術が急速に拡大するためには政策的支援が必要だが、究極的には市場の力に支えられなければならない。

 

 その下に「Executive Summary」ページへのボタンがあったので押してみた(*3)。

 

 すると、興味深いグラフは数多く掲載されていた。

 

 いくつか紹介しておこう。

 

 まず、2050年の世界全体のエネルギー需要は+15%だが、先進国では▲10%で、途上国

が+25%だというグラフ。

 

 

 そして次に、エネルギーミックスの比率が2050年にどのようになっているか、というグラフ。

 ここでは「IEA」の「STEPS」および「IPCC」(Intergovernmental Panel for Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の「Likely Below 2℃ Avg」と対比させている。

 

 

 もっとも衝撃的なのは、「FT」記事がタイトルにまでしている「投資不足→新たなオイルショック」なることを示す次のグラフだ。

 

 

 もし既存油田への投資(赤色)や新規開発(薄い水色)が行われないと、濃い青色部分しか供給されないことになり、不足分が膨大な量となり油価は高騰する、という訳だ。

 

 うむ?

 

 これは何かがおかしい。

 

 供給不足になれば油価が高騰し需要が減少するはずだが、それはどう見ているのだろうか?

 

 それよりも「投資が行われない場合の世界全体の石油供給」グラフの落ち込み方がおかしい。

 なぜなら油田の自然減退率は3~5%程度のはずだからだ。

 

 そこでExecutive Summaryの説明を読んで見た。

 すると次のように記載されていた。

 

・油田の自然減退は▲15%/年と見る。

・IEAは、▲8%/年と見ている。

・「エクソン」は、シェールなど原油生産が「非在来型」にシフトしているので、自然減退率は大きいと見ている。

・投資を止めたら、初年度15百万BD以上の供給不足が発生し、2030年には現状1億BDの供給が3千万BDに落ち込んでしまう。

 

 これはおかしい。

 なぜなら、米国のシェールオイル生産量は現在数百万BDだ。他には、アルゼンチンや中国で少量があるだけ。カナダのオイルサンドも米国のシェールオイルより少ない程度だ。

すなわち、世界全体の生産量に占める「非在来型」はせいぜい1割程度ではないだろうか。

 

 そもそも「IEA」が「▲8%/年」と見ているというのも初耳だ。

 

 筆者の「在来型自然減退率▲3~5%」という認識が間違いなのだろろうか。

 

 あるいは「エクソン」は「オイルショック」になるという結論を導き出したいためにこのような理屈を重ねているのではないだろうか? 

 

 これは考えてみなければ。

 

 そうだ、勉強して、「?の手習い」で始めた「のびパパエネルギーチャンネル」で成果を紹介しよう。

 

*1 Exxon warns of oil shock if suppliers assume demand will fall by 2050 (ft.com)

*2 ExxonMobil Global Outlook: Our view to 2050 | ExxonMobil

*3 2024 ExxonMobil Global Outlook Executive Summary