西はベネズエラ、南はブラジルと国境を接する人口80万人の南米の小国、ガイアナ。
10年ほど前は貧困国の一つに過ぎなかったが2015年、米大手国際石油「エクソン」が沖合で大油田を発見し、急成長が約束された国になった。
一人当たりGDPで日本を追い抜くのも時間の問題のようだ。
一人当たり名目GDP:ガイアナと日本
出所:世界経済のネタ帳
「ロイター」(2024年7月19日、*1)によると、ガイアナの原油生産量は数十万BDの現在から、2030年代初めには150万BDを超える見通しとなっている。これは、サウジ、イラク、UAEには及ばないが、クゥエートに次ぎナイジェリアに匹敵する産油量だ。
ちなみに日本の消費量は300万BD強である。
出所:「Reuters」2024年7月19日「Exxon clash with Chevron hinges on change of control of Hess Guyana asset, sources say」
かつてはナイジェリアのように「資源の呪い」に襲われるのではないかとも懸念されていたが、「エクソン」率いるコンソーシアムが着実に石油ガス開発を推し進めており、このほど第8次計画として「最大15億立米/日」のガス開発が動き出しそうだ、と「ロイター」が報じている(“Exxon group’s eighth Guyana project to produce up to 1.5bdfd of gas”、*2)。
1.5bcfdとは、LNG換算1,250万トン/年、さらにコンデンセート(軽質原油類似)を29万BDするとのことだ。
「ロイター」は「エクソン」などが提出した環境許可取得申請書を基に当該記事を書いているのだが、生産されるガスを使用して、ガス火力、石油化学などの建設も意図している由。望ましい展開だ。
思い出すのは「FT」エネルギーコラムニストだったニック・バトラーが “How Guyana can avoid the cause of oil”(2018年2月5日、*3 )を寄稿し、次の諸策を採ることを推奨していたことだ。
・埋蔵量には限界があることを認識し、ゆっくりと開発を進めること
・インフラなど基幹産業に投資し、石油ガス収入に依存する「レンティア国家」にならないこと
・国家資産基金(SWF)を設立すること
・自国民の能力・手腕を磨き上げること
・「エクソン」など大手国際石油が支援すること
ガイアナの動きを見ていると、限りある埋蔵量をゆっくりと開発する、インフラ等への投資を優先していること、そして大手国際石油の支援を得ていることについてはバトラーのサジェッションを踏まえているように見えるが、国家資産基金を設立する動きはあるのか、また自国民の能力・手腕を磨き上げて「サウジアラムコ」のようにガイアナ人が自国の石油産業を運営できるようになるのか、今後の展開を見る必要がありそうだ。
出所:「JOGMEC」2024年1月『ベネズエラとガイアナが国境をめぐり対立 ~背景にある両国の石油開発状況~』(*4)
米国が制裁を課している隣国ベネズエラがガイアナ西半分のエセクイボの領有を主張しており、外からの脅威が全くないわけではないが、米最大手の石油会社「エクソン」がオペレーター(45%)を務めて石油開発を進めており、「シェブロン」への売却を進めている「ヘス」が30%と、米国勢が75%保有している(残りの25%は中国の「CNOOC」)こともあり、米国がガイアナの側に立つのは確実だ。
総合的に考えるとガイアナは、何とか「資源の呪い」を免れることが出来そうで、筆者は他人事ながら一安心している次第だ。
*1 Exxon clash with Chevron hinges on change of control of Hess' Guyana asset, sources say | Reuters
*2 Exxon clash with Chevron hinges on change of control of Hess' Guyana asset, sources say | Reuters