長らくご無沙汰してしまった。
原因は分かっている。
「のびパパエネルギーチャンネル」という動画配信を始めたからだ。
世の中では、動画配信で広告収入を得る職業人のことをユーチューバーと呼んでいるようだ。
昨今、若い世代に人気のある職業といってもいいだろう。
たとえば日本FP協会が2023年に実施した第18回「小学生将来なりたい職業ランキング」(2024年4月25日発表、*1)によると、添付の票のように男子児童第5位にユーチューバーが入っている。
遡ると、2016年に14位に入り、翌2017年に6位とベストテン入りしている。爾来、2019年に11位となった他は毎年ベストテン入りしているとのことだ。
だが「のびパパエネルギーチャンネル」を身過ぎ世過ぎのために行うつもりはない。
本「エネブロ」同様、世の中の人々がエネルギーリテラシーを高める、そのお手伝いをするのが目的だ。だから広告収入を目指すつもりは毛頭ない。
その意味では、筆者はユーチューバーとは呼べないのかもしれない。
では、なぜ始めたのか。
若い友人たちから、今は動画の時代だ、岩瀬さん、ぜひエネルギーブログ動画版を作って配信してください、と勧められたのが始めることにした動機だ。
長いあいだ躊躇っていた理由については『のびパパ軽井沢日記(笹塚編)#127 デビューに失敗? ユーチューバーのびパパ』(2023年12月18日、*2)をお読みいただきたい。
前述「のびパパ軽井沢日記」で触れた東京大学先端研池内教授を巡る「騒動」はその後、異なる次元に展開し、訴訟手続きに入っているらしい。
一方、煽り立てていた某ユーチューバーはその後、某政党の支援を得て区長選に立候補、予想以上の得票を得たものの落選、するとその某政党幹部と対立し、今は彼らを非難するユーチューブを作成配信しているとのことだ。
閲覧数が増えて、広告収入が入ればテーマは何でもいい、ということなのだろうか。
ともあれ、ともかく始めてみようと8月末に「のびパパエネルギーチャンネル」を作成、第1回の配信を行い、これまで24本の動画を世に送り出した。だがチャンネル登録者数はいまだ117人に過ぎない。
世の中の、一人でも多くの人がエネルギーに関心を持ってくれるようになり、わが国のエネルギー政策如何にあるべきかを考えてくれれば本望なので、これはこれで良しとしよう。
とは言え「エネルギーブログ」を放置していいのだろうか。
との反省から本稿を書き出している。
「エネチャン#24」の資料を作成しているときに、あ、そうだ、これは皆さんにお伝えしなければ、と思ったテーマがある。「エネチャン#24」では、もっぱら米大手国際石油No.1の「エクソン」とNo.2「シェブロン」の2024年第3四半期の決算の差が生じた理由について分析、解説させて貰ったのだが、では欧州の大手国際石油の決算はどうなのか、というテーマだ。
(実はいま、致命的な誤りを発見した。エクソンの3Q24決算は前年同期比▲5%なのに「エネチャン#24」では「+25%」とお伝えてしてしまっていた。25%増えているのは生産量だった。次回、訂正してお詫びしよう)
大手国際石油はそれぞれどこに強みがあって、どのような決算結果となっているのだろうか?
手元のノートから、各社決算の要点を次のようにご報告しておこう。
3Q24純益 1~9月24純益(単位:百万ドル、カッコ内は前年同期比、%)
エクソン 8,610 (▲5) 26,070 (▲8) (*3)
シェブロン 4,487(▲31)14,222(▲26) (*4)
シェル 6,028 (▲3) 20,055 (▲2) (*5)
BP 2,267 (▲31) 7,746(▲29) (*6)
トタル 4,074 (▲27)13,858(▲23) (*7)
総じて言えることは、油価の下落により精製販売マージンが低下し、純利が減少したということだ。
その中でエクソンが前年同期比▲5%で収まっているのは、今世紀最大の発見と言われるガイアナ沖での原油生産が好調なことと、昨年10月に600億ドルの買収に合意し、今年5月にFTC(連邦取引委員会)の承認をえて完了した「パイオニア・ナチュラル・リソーシーズ」(PNR)のパーミアンにおけるシェールオイル生産が貢献しているからだ。油価減少によるマージン減をガイアナ及びパーミアンの生産増でオフセットした格好になっているのである(*8)。
ガイアナ生産量推移+予想
一方、「エクソン」「PNR」買収合意から約2週間後、530億ドルで「ヘス」を買収することに合意した「シェブロン」は、株主承認もFTC許可も取得したのだが「ヘス」資産の7割程度を占めるガイアナ権益を巡る先買権をパートナーである「エクソン」および「CNOOC」に主張され、JOA(共同操業協定)に基づき仲裁手続きに入っており、買収が未完了である。「エクソン」のようにガイアナ増産の恩恵を得られていないのだ。
「先買権」を巡る仲裁の裁定が出るのは来年夏ごろになると報じられている。
もし「エクソン」(45%)および「CNOOC」(25%)の先買権が認められると、「シェブロン」はガイアナ30%権益を持つ「ヘス」の買収そのものを断念することになるだろう。
かくて「シェブロン」は「エクソン」に大きく差をつけられることになる。
はてさて、どうなるであろうか?
先買権を巡る筆者の判断については「エネブロ944」(*9)または「エネチャン#24」(*10)をぜひ参照されたい。
一方、「シェル」が好調だったのは、利益率の高いアジア向けLNG販売が好調だったからだと報じられている(*11)。
同記事によると、2024年第3四半期のLNG販売量は「トタル」が前年同期比▲9.5%だったのに対し「シェル」は+6.4%だったとのことだ。
「シェル」の決算発表によると、ガス部門の収益は全車の7.6%を占めており、前年同期比も+13.4%だった。LNG生産も750万トンと前年同期比+9,6%、販売量も+6.4%の1,704万トンを記録した。
LNG分野ではライバルである「トタル」がLNG生産量380万トン(前年同期比+2.7%)、販売量950万トン(同、▲9.5%)だったことと比べると、アジア重視の販売戦略の勝利と言っていいだろう。
ちなみに各社の3Q24の部門別純利益を一覧してご参考に供しよう。なお、部門の区切り方が会社によって異なっていることに留意願いたい。
「エクソン」純利益 86.1憶ドル
上流 62億ドル 生産量460万boed(石油換算バレル/日)
販売 13.09億ドル
化学品 8.93億ドル
特殊製品 7.94億ドル
「シェブロン」純利益 44.87億ドル
上流 45.89億ドル 生産量336万boed
下流 5.95億ドル
その他 ▲6.97億ドル
「シェル」純利益 60.28億ドル
ガス 28.71億ドル
上流 24.43億ドル
販売 11.82億ドル
化学品 4.63億ドル
再エネ ▲1.62億ドル
「BP」純利益 22.67億ドル
ガス 17.56億ドル
石油 27.94億ドル
販売 3.81億ドル
「トタル」純利益 40.74億ドル
石油 24.82億ドル
ガス 10.63億ドル
電力 4.85億ドル
販売 3.64億ドル
生産量 241万boed
さて、と。
まだ自らに課した宿題で未着手のものがあったなぁ。
おいおいご報告させていただくので、乞うご容赦。
*2 のびパパ軽井沢日記(笹塚編)#127 デビューに失敗? ユーチューバーのびパパ | のびパパ軽井沢日記
*3 ExxonMobil announces third-quarter 2024 results | ExxonMobil
*4 3Q24-earnings-press-release.pdf
*5 Quarterly Results | Shell Global
*7 TotalEnergies 3Q24 - Results
*8 Oil glut renders industry’s appeal purely relative | Reuters
*9 岩瀬昇のエネルギーブログ #944 ガイアナを巡るエクソンとシェブロンの戦いは | 岩瀬昇のエネルギーブログ
*11 Higher Asian LNG prices boost Shell Q3 sales vs TotalEnergies | Reuters