終焉のたわごとであるが、終焉(後)の実際についても触れておく必要がある。ただし、これはたわごとではない。

 昨年の8月に病気療養中だった妻を亡くした。葬儀はたしかに簡単になった。この那須の地方では別荘族が多く、近所付き合いあまりなく、近くの親戚や友人が少なかったので、家族だけの見送りを決めた。簡素な葬儀を望めば、葬儀社はいくつかのセットを価格とともに示してくれる。花とか供えの備品を足すことで価格が上昇していくだけである。もっともシンプルな家族葬を選んだ場合でも火葬までの手続きは手配してくれる。

 簡素な見送りでもっともよかったと思ったのは、火葬までの遺体を安置してその室を24時間使えるように部屋の鍵を貸してくれることであった。3日間ばかりの安置であったが、幸い車で数分の距離であるから、妻の好きだった庭花を大量に持ち込んで最後の別れを心行くまで過ごすことができた。子供たちもそれぞれ自由に別れの対面をすることができた。

 問題はその後である。葬儀が済めば相続関係の整理をしなくてはならない。もともと普通のサリーマンの妻であったので、のちのことを考えて土地、家屋などを共有にしているほかは、老後のための少しの預貯金を残しているだけである。

 ただ、その預貯金をいくつかの金融機関に分散していたためそのすべてを解約して残高を調べる必要があった。その手続きがきわめて煩わしい。亡くなった本人の出生から死亡したという証明書を解約手続きのために提出する必要がある。また、当然誰が遺産を継承するのかという遺産分割協議書の提出も必要である。

 幸い子供が二人の家庭であったので遺産分割について揉めることもなく作成できたが、死亡者の出生からの死亡までのすべての証明書、すなわち除籍戸籍謄本はもちろんのこと出生までということになると改製原戸籍といわれる祖父や曽曽祖父までの戸籍謄本が必要になる。これを準備して法務局に相続人関係の照明書を発行してもらうとこの証明書ですべての金融機関については一通で終わるようになるという便利な制度もあるが、私のように、戸籍の現住所主義をとっていると現住所に変わる前のすべての戸籍謄本が必要になる。今年の四月からは本人であれば現住所の窓口ですべて集めるこができるようになるが、そのとき、年金生活者で無職であっても個人ではため息をつかざるを得ない大変な作業である。

 よくしたもので、葬儀会社はアフターケアということで相続の相談にのりますと最後に言ってくれる。しかし、これはあくまでも葬儀社自体が行っているのではなくその葬儀社に売り込んだ行政法人が相談にのるということであることを後で知った。行政法人による家系調査、税理士による届け書類の作成、司法書士による土地、家屋の名義変更など代理をしてくれる。結局、高額な依頼費用がかかる。しかし、遺族は自分でできなければそこに頼むしか方法がない。

 先日の予算委員会だと思うが、立憲民主党の山井議員だと思うが、わが国では年寄が多額の金融資産などを持っている。これが相続のときには単に子供や孫に受け渡されるのではなく広く社会に行きわたらせるようにしたいと質問をしていた。このためには遺産の寄付行為を簡単にするということもあるが、相続税を上げる方法が一番効果がある。

 しかし、私はこの質問者は相続の現状を理解していないと思う。現在の相続税は改正され結構高い。東京でやっとローン払い終わって土地と家屋を自分のものになったと思っていたときに不幸があったとする。相続人は妻と子供ふたりを仮定したときに、3000万円の基礎控除と相続人一人当たり600万円の控除があるから、合計で4千800万円までは相続税は発生しない。しかし、ここで考えなければならないのは、土地と家の評価額である。家は築年数によって評価額は低減していくのであまり気にしなくてもいいが、土地価格は固定資産税の評価額を適用するとしても、坪100万円程度で50坪を所有しているとすればすでにこれだけで控除額を超えてしまう。超えた額が1000万円までは10%、3000万円までは15%、5000万円までは20%、1億円までは30%という税率で徴収される。だから、預貯金があるといっても家屋や土地を手放さないでいるためにはその預貯金を取り崩して税金をはらわなければならなくなる。

 老後のための預貯金を準備するといっても、同じ家に住み続けて何とか生活をしていくことはそんなに簡単ではないのである。死者は文句をいわないから相続税をあげてもいいのだといいはなった政治家もいるが庶民にとって問題はそう簡単ではない。