


1944年、オットー・プレミンジャー監督。原題は、”Laura"。
本作は、モンローの『帰らざる河』ですでに紹介したオットー・プレミンジャーが、ハリウッドで初めて監督した作品である。本作は、もともとは、ルーベン・マムーリアンが監督していたが、オットー・プレミンジャーは、彼を引き継いで、ほとんど一から監督したものである。オーストリア・ハンガリー帝国のヴィシュニッツに生まれ、彼もまた17歳でマックス・ラインハルト劇団に参加している。最初は俳優志望であったというが、後に舞台監督を務めるようになる。ウィリアム・ディターレとも一緒に舞台の仕事をしたことがある。また、ビリー・ワイルダーも同じ、オーストリア・ハンガリー帝国出身であり同郷ということになる。プレミンジャーはデビューするまで、ブーロドウェイなどで働いていた。
出演者としては、ジーン・ティアニー、ダナ・アンドリュース、クリフトン・ウェッブ、そして、前の記事で紹介したヴィンセント・プライス、ジュディス・アンダーソンである。ヴィンセント・プライスがホラー映画で主役を張るようになるのは、まだ先の話でこのころはまだ脇役である。ジュディス・アンダーソンはヒッチコックの『レベッカ』でのダンヴァース夫人の役が有名であろう。クリフトン・ウェッブは、ブロードウェイでは名優として知られていたが、本格的に映画に出演したのは、この作品が初めてである。彼はこのとき、もう55歳であった。ダナ・アンドリュースは、説明の必要がないだろうが、ウィリアム・ウェルマンの『牛泥棒』、ジョン・フォードの『タバコ・ロード』、ウィリアム・ワイラーの『我らの生涯の最良の年』、ジャン・ルノワールの『スワンプ・ウォーター』、ハワード・ホークスの『教授と美女』などで、おなじみの役者である。そして、ジーン・ティアニー!この当時、もっとも美しいといわれていた女優である。翌年のエルンスト・ルビッチのカラー映画『天国は待ってくれる』の彼女の美しさは忘れがたい。彼女のデビュー作は以前紹介した『地獄への道』の続編でフリッツ・ラングが監督した『地獄への逆襲』である。
この映画の映画音楽は非常に有名であり、いまやスタンダード・ナンバーとなっているので、聞いたことがある人も多いだろう。もう一つ、映画に出てくるローラの肖像画も有名だが、これは絵ではなく、実際にジーン・ティアニーを白黒写真で撮影して、それを引き伸ばし、その写真を着色して仕上げたものである。室内のセット撮影が多くを占める作品で、ディテールの雰囲気がよく出ている。陰影のある撮影もすばらしく、ノワールの雰囲気もまたよくでている。謎解きを主体とするミステリー映画に傑作は少ないが、この映画はそのジャンルの数少ない傑作だと思う。
David Raskin による Laura のテーマ音楽 (YouTube)