『生物と無生物のあいだ』

Marburg virus (via AJC1)
credit:AJC1

各所で面白い面白いと聞いてはいたけど、確かにこれは面白い。
細胞の研究の一線から送る科学本。

タイトルからだと科学的な話題だけの本に感じるけども
そうでもない。もちろん、「生物とは何か?」という大きなテーマに
挑んではいるものの、現場を経験した科学者ならではの
リアルな描写もまた面白い。

例えばプレドクは傭兵だ、とか。

特に面白いのはDNAが2重螺旋構造であることが発見
されるまでの過程のくだり。

まさに「正しいタイミングで正しいところにいること」の大切さ
が分かるさながらドラマのような事実。

若者2人がしたとされる発見。

でも、その影にはDNAこそ遺伝子あると突き止めながら同僚に
すら反対を受けたエイブリー、X線を駆使して虱潰しに帰納的に
検証をする研究者フランクリンの功績と、そのパトロンが採用した
「ピア・レビュー」という制度上の脆さがあった!

本当にいくつかの要素が絡まっていて、群像劇として普通に
楽しめる。発見の当事者が全員この件に関する本を出版
しているところにこの事実の複雑さが現れていると思う。

あともうひとつ。
ひざを打つように納得してしまい、かつ重要なシュレーディンガーの問い。

「原子は何故これほどまでに小さいのか?」
実は、「われわれの体は何故こんなにも大きいのか?」という問いが本質。

ざっくりいうと。

最小構成要素である原子は勝手に動く。
勝手に動く原子は結果として統計学に従う。
統計学上、全体数の平方根の数だけ例外的振る舞いをする原子が現れる。
100だと、√100=10=全体の10%が例外的に動く
でも1,000,000なら√1,000,000=1,000=全体の0.1%が例外的。

10%も例外的に動いたら致命的だけど、原子の数が増えれば増えるほど
安全性は増す。ゆえに僕らの体は大きい!

ちょっとぞくっときませんか?きませんか。

因みに、生物とは何か?
の問いの答えを作者は以下のように提案してます。

「生物とは動的平衡にある流れである」


さっぱり分かりません?
でも読めば分かります。

福岡 伸一
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)