新書大賞2010・仏教部門は「無常の見方」か
職場に『新書大賞2010』(中央公論新社)というムックが
ころがっていたので、パラパラ見ていました。
今年で3年目、有識者や書店員さんの投票で、
すぐれた新書を選んでいるようです。
- 新書大賞〈2010〉/著者不明
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「2010」は、2009年に出た新書が対象なのですが、
1位はなんだと思いますか?
答えは、内田樹氏の『日本辺境論』(新潮新書)。
ベスト20の中に仏教関連は入っていませんでしたが、
巻末の「主な出版社別・2009年新書一覧」を見ると、
仏教がらみの新書がけっこう出てますね~。
全部は挙げるのはめんどくさいですが、ざっと書くと
岩波 「寺よ、変われ」
「鑑真」
「法隆寺を歩く」
中公 「戦国仏教」
「日本の仏像」
講談社現代 「マンダラの謎を解く」
ちくま 「日々是修行」
文春 「愚の力」
「阿修羅像の真実」
光文社 「大人のための仏教童話」
などなど。
一番売れたのは、真宗大谷派の大谷光真師が書いた
「愚の力」ではないでしょうか。
ですが、『新書大賞2010』の対談で、
新書マニアで仏教本マニアの宮崎哲哉氏が
あらゆる新書中のベスト5に挙げているのは、
A.スマナサーラ長老の『無常の見方』(サンガ新書)。
「この本は、全仏教の基礎である”無常”を徹底的に
解き明かした名著です。徹底的というのは、
アイデンティティも、諸概念も、人生の意味も、
世界の永遠も虚構にすぎないと断定してしまうという点
において、です。(中略)今、新書の仏教入門を1冊
挙げよと問われれば、何の躊躇もなく本書を挙げます」(宮崎氏)。
ミヤテツ絶賛であります。
私は買ったまま未読ですが(読みます!)、
スマナサーラ長老が無常を語るとなれば、
正しく有難く面白いのは太鼓判。
というわけで、2010新書大賞・仏教部門は
『無常の見方』で決まりですかね。
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『日本仏教史』その1 なぜ原始仏教とこんなに違うの?
『日本仏教史~思想史としてのアプローチ~』(末木文美士著、新潮文庫)
を読みました。噂どおりの名著でした。
原始仏典を読んだことがある人なら、
「(良い悪いは別として)なんで日本の仏教は、
こんなにインドの仏教と違うのか?」と疑問を抱くはずです。
インド仏教の研究者からは、「日本仏教なんて仏教じゃない」などと軽んじられて、
あまり相手にされなかった分野だそうですが、末木先生はその第一人者。
現に日本人が長く信仰してきた日本仏教を放っておいて、
インドの文献研究に引きこもっていていいのか?という熱い思いが
末木先生にはあったようです。
この『日本仏教史』の中から、
私も疑問であった「なんで日本仏教はこんなに違うのか」に
関連するところを、忘れないうちにメモしておこうと思います。
◆その1 最初に伝来して広まったたお経が特殊? ◆
百済から日本に仏教が伝わったのは、538年または552年とされています。
仏像・仏具・経典が伝わったらしいのですが、この受容の仕方が、
「日本仏教全体の問題として後まで尾を引くことになる」と末木先生は言います。
その”日本らしさ”とは、すなわち、
・法や僧よりも、仏の崇拝が中心であること
・難しい理論ではなく、現世利益が重んじられること
・古来の神の崇拝と一体化すること など
外来思想の仏教を猛烈に後押ししたのは、聖徳太子です。
太子が書いたとされる”日本最古の仏教大著”が『三経義疏』。
3つのお経の注釈書ですが、その3つが何かというと、
法華経・勝鬘経・維摩経なんですよね!
仏典の歴史を知っている人なら、
「そう来たか!?」というようなラインナップです。
どれも有名な大乗仏典ですが、原始仏典とはかなり違う、
むしろアンチ上座仏教の主張が明確な仏典ですよね。
(このことは、末木先生の同書では触れていませんが
釈徹宗さんが書いてました)
<法華経>
素朴な原始仏典と違い、エキセントリックなスペクタクル巨編。
人間・お釈迦さまは仮の姿で、その正体は永遠不滅の仏だとする。
紀元1世紀頃に、在家を含むインドの熱狂集団が作ったと思われ、
法華経を信じないと来世で酷い目に遭うと説く。
<勝鬘経>
在家の女性信者である勝鬘夫人が説いたことに、釈迦が承認を与えた
という筋立て。すべての衆生の中に如来が眠っている、というような、
「如来蔵」を説いた代表的なお経。
<維摩経>
在家信者・維摩居士が主人公。
維摩は大金持ちで、世俗生活をエンジョイしているが、
釈迦の弟子から弥勒菩薩までを相手に、次々と論破してしまう。
戯曲として面白いそうです(未読)
歴史的に見れば、お釈迦さま入滅→部派仏教に分裂
→上座仏教の出家者たちが富裕層スポンサーのもとで
難しい仏典解釈(アビダルマとか)に明け暮れる
→それに対するアンチテーゼとして在家信者を含む人たちが
「本当の仏は、象牙の塔より世俗にいるぜ」と大乗運動を起こす。
上の3経は、「大乗運動」時代の仏典です。
在家の維摩、ましてや女性の勝鬘夫人を主人公にするなど、
かなり意識的に、従来の出家者へのアンチが感じられる
大乗運動のお経が最初に日本で広まったわけですよね。
そうすると、お釈迦さまの説いた「世俗を捨てる」とは、
ほとんど逆の地点から日本仏教はスタートしたわけですよね。
もし、最初に初期仏典「阿含経」一式が広まっていれば、
日本仏教も違う発展をしたのかもしれませんが、
ボタンの一つ目から掛け違っているというか・・・。
浪速娘がカラオケやチアダンスを披露して、「ミス愛染娘」
を選ぶとか。これぞ世俗精神なり。
ちなみに、『三経義疏』は聖徳太子の自著とされてきましたが、
そのうちの『勝鬘義疏』の種本らしきものが
20世紀になって中国・敦煌で発見され、業界に衝撃が走ったそうです。
もし『三経義疏』が大陸からもたらされたものだったら、
これを出発点とする日本仏教史を書き換えなければならない、と。
そもそも、聖徳太子については、
ほとんどの史料に疑問が呈されているそうです。
太子、お札にまでなったのにね。
(以下、後日につづく)
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『大法輪』の「間違えない仏教書」特集
いま出ている仏教雑誌『大法輪』4月号が、
「間違えない仏教書選び」という特集をしていたので買ってみました。
仏教全般から、仏教美術、お経、各宗派の推薦本まで
たくさんあって、参考になりました。
というか、気が遠くなりました。
(だいたい仏教は、大乗も入れるとお経の種類が膨大すぎる!)
こうして仏教書を概観すると、
中村元先生、生まれてくれてありがとう!と叫びたくなります。
なんという意義ある仕事をなさったことでしょう。
今後のウィッシュリストとして、以下、とりあえず基本的なものを・・
(解説は「大法輪」より)。
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- 「ルンビニーからクシナガラまで、仏陀の歩いた道の鮮明な写真と簡単な解説」 「巻末保存版にインド仏教聖地辞典があり、仏跡の歴史と現状が写真入りで」
- 仏教誕生 (ちくま新書)/宮元 啓一
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- 「インド思想史の中に位置づけて、釈尊の生涯と思想が語られている」
- ゴータマ・ブッダ I 原始仏教 I 決定版 中村元選集 第11巻/中村 元
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- 中村元選集1、12巻。「中村元博士の生涯をかけた仏教研究の成果であり、 現在までの内外にわたる仏伝研究の最高水準を示すもの」
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「仏画全般についての一般向けの本として、ほぼ唯一の良書」
図版も多く、 「きわめて丁寧で意を尽くしている」
ほか、各宗派の本も膨大にあり・・・本当に余命が足りませんわ。
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