『日本仏教史』その1 なぜ原始仏教とこんなに違うの? | 釈迦牟尼スーパースター ~仏教のつれづれ~

『日本仏教史』その1 なぜ原始仏教とこんなに違うの?


『日本仏教史~思想史としてのアプローチ~』(末木文美士著、新潮文庫)
を読みました。噂どおりの名著でした。


原始仏典を読んだことがある人なら、
「(良い悪いは別として)なんで日本の仏教は、
こんなにインドの仏教と違うのか
?」と疑問を抱くはずです。

インド仏教の研究者からは、「日本仏教なんて仏教じゃない」などと軽んじられて、
あまり相手にされなかった分野だそうですが、末木先生はその第一人者。

現に日本人が長く信仰してきた日本仏教を放っておいて、
インドの文献研究に引きこもっていていいのか?という熱い思いが
末木先生にはあったようです。


釈迦むに・スーパースター ~仏教のつれづれ~  末木先生。文章がすごくシャープ。なぜ後ろにキティ?


この『日本仏教史』の中から、
私も疑問であった「なんで日本仏教はこんなに違うのか」に
関連するところを、忘れないうちにメモしておこうと思います。



◆その1 最初に伝来して広まったたお経が特殊?  ◆



百済から日本に仏教が伝わったのは、538年または552年とされています。
仏像・仏具・経典が伝わったらしいのですが、この受容の仕方が、
「日本仏教全体の問題として後まで尾を引くことになる」と末木先生は言います。
その”日本らしさ”とは、すなわち、
・法や僧よりも、仏の崇拝が中心であること
・難しい理論ではなく、現世利益が重んじられること
・古来の神の崇拝と一体化すること
  など


外来思想の仏教を猛烈に後押ししたのは、聖徳太子です。
太子が書いたとされる”日本最古の仏教大著”が『三経義疏』。
3つのお経の注釈書ですが、その3つが何かというと、
法華経・勝鬘経・維摩経なんですよね!


仏典の歴史を知っている人なら、
「そう来たか!?」というようなラインナップです。
どれも有名な大乗仏典ですが、原始仏典とはかなり違う、
むしろアンチ上座仏教の主張が明確な仏典ですよね。
(このことは、末木先生の同書では触れていませんが

釈徹宗さんが書いてました)


<法華経>
素朴な原始仏典と違い、エキセントリックなスペクタクル巨編。
人間・お釈迦さまは仮の姿で、その正体は永遠不滅の仏だとする。
紀元1世紀頃に、在家を含むインドの熱狂集団が作ったと思われ、
法華経を信じないと来世で酷い目に遭うと説く。


<勝鬘経>
在家の女性信者である勝鬘夫人が説いたことに、釈迦が承認を与えた
という筋立て。すべての衆生の中に如来が眠っている、というような、
「如来蔵」を説いた代表的なお経。


<維摩経>
在家信者・維摩居士が主人公。
維摩は大金持ちで、世俗生活をエンジョイしているが、
釈迦の弟子から弥勒菩薩までを相手に、次々と論破してしまう。
戯曲として面白いそうです(未読)


釈迦むに・スーパースター ~仏教のつれづれ~
維摩経のDVDかなんか。

歴史的に見れば、お釈迦さま入滅→部派仏教に分裂
→上座仏教の出家者たちが富裕層スポンサーのもとで
難しい仏典解釈(アビダルマとか)に明け暮れる
→それに対するアンチテーゼとして在家信者を含む人たちが
「本当の仏は、象牙の塔より世俗にいるぜ」と大乗運動を起こす。

上の3経は、「大乗運動」時代の仏典です。


在家の維摩、ましてや女性の勝鬘夫人を主人公にするなど、
かなり意識的に、従来の出家者へのアンチが感じられる
大乗運動のお経が最初に日本で広まったわけですよね。

そうすると、お釈迦さまの説いた「世俗を捨てる」とは、
ほとんど逆の地点から日本仏教はスタート
したわけですよね。

もし、最初に初期仏典「阿含経」一式が広まっていれば、
日本仏教も違う発展をしたのかもしれませんが、
ボタンの一つ目から掛け違っているというか・・・。



釈迦むに・スーパースター ~仏教のつれづれ~  大阪・四天王寺「勝鬘院愛染堂」の愛染祭り。

                         浪速娘がカラオケやチアダンスを披露して、「ミス愛染娘」

                         を選ぶとか。これぞ世俗精神なり。




ちなみに、『三経義疏』は聖徳太子の自著とされてきましたが、
そのうちの『勝鬘義疏』の種本らしきものが
20世紀になって中国・敦煌で発見され、業界に衝撃が走ったそうです。
もし『三経義疏』が大陸からもたらされたものだったら、
これを出発点とする日本仏教史を書き換えなければならない、と。


そもそも、聖徳太子については、
ほとんどの史料に疑問が呈されているそうです。
太子、お札にまでなったのにね。


(以下、後日につづく)




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