ますます強烈『法華経』2
「法華経」の続きです。
読んではじめてわかりましたが、情景描写がデコラティブで、
比喩的な説話が多く、文学としてかなり面白かったです。
大乗仏教は「仏教を大衆の手に!」という運動なのだから、
大衆にウケるお経のエンタテイメント性は大切ですよね。
法華経の意義はいろいろ研究されていますが、
もっともよく指摘されるのは「一仏乗」です。
専門家の解説がたくさんあるので、私が書くまでもないのですが・・・
法華経成立時に、すでに大乗運動もある程度進展していて、
「大乗仏教の立場からは、原始経典を護持する教団は、
自分たちの利益しか考えない利己的な声聞(仏弟子)や
縁覚(独りで悟ったもの)の小乗仏教だとして、厳しく批判されていた。
こうして本来ひとつであるはずの仏教が2つに分かれていた。
それに対して、大乗仏教の立場に立ちつつ、しかも仏教の統一性・
全体性をふたたび回復しようというのが、
『法華経』を創作し、護持したグループの狙いであった」
(『日本仏教史』・末木文美士著)
大乗の菩薩乗も、”小乗”の声聞・縁覚乗も、方便で分けただけで、
実は一つの乗り物=一乗である、仏の教えは一つである、
と高らかに宣言したわけです。
そう思うと、オープニング(序品)で、
億千万の神々・弟子たちが集まってファンファーレを鳴らすのも、
「♪We are the World、We are the(Buddha's) Children~」
の大合唱にふさわしく思えます。
しかも『法華経』は、インド人・騎馬民族のクシャン人・ペルシャ人・
ギリシャ人までいた北西部(ガンダーラ界隈)で編纂されたと見られて
いますから、まさに「We are the World」です。
原始仏典には少ない、光り物の(金・銀・瑪瑙・真珠・珊瑚・瑠璃など)
が頻出し、貨幣経済が成熟した説話が出てくるのも、
交易が盛んな地域で編纂されたからでしょうか?
有名な説話(「三車火宅」や「長者窮子」など)も面白いのですが、
私がびっくりしたのは、「仏の教え、法華経を信じないと、
どんな目に遭うか」という表現のすさまじさです。
「譬喩品」より抜粋===================
余の在世中であれ、あるいは入滅した後であれ、
このような経典を捨て去って、あるいは僧たちに
苛酷な態度をした人々の受ける報いを汝は聞け。
愚かな輩は人間界で死んだのち堕ちて、
幾劫かを満了するあいだ、阿鼻地獄に住む者となり、
(中略)
余のさとりを嫌う輩は、そこで色が黒くなり、斑色となり、
皮膚に腫瘍が生じ、また疥癬となる。
(中略)
愚かな輩はさらに生まれ変わって、愚かでのろまな50ヨージャナの
長身の動物となろう。彼らは足がなくなって這いまわり、
幾千万の多数の生物に食われよう。
また、余のこの経典を信じない輩は、人間の姿を得たときも、
不具・廃疾となり、せむしで、片眼で、暗愚で、卑賎な者となろう。
仏のさとりを信じないものは、
口より悪臭を放って、この世の嫌われものとなり・・・貧乏となり・・
やせ衰えて・・・身体に幾千万億の傷が生じ・・・(以下続く)
岩波文庫『法華経』より(サンスクリット語の現代語訳、漢文対訳付き)
===============================
このような、放送禁止用語頻出の生々しい描写が5Pぐらい続くのです。で、
「この大乗の経典を信奉し、しかも他の経典を好むことなく、
他経から一頌さえも信奉しようとしない人に、汝はこの勝れた経典を説け」
と締めます。
なんという強烈さ!
”小乗教団”からすれば、「創作とはいえ、お釈迦さまにこんな恐ろしい
言葉を発せさせるとは」と、ますます険悪になってたりして。
仏教学者の渡辺照宏氏によると、
法華経を編纂したグループは、非常に熱狂的で、
信仰を集めるために自分に油をそそいで火をつけるなどし、
弾圧されると「法難だ」「命もいらぬ、教えだけだ大切だ」と叫んで
ますます結束を強め、その情熱によって法華経を書き加えて、
勢力を拡大した―ーというのが、法華経自体から読み取れる成立史だ、
としています(『日本の仏教』渡辺照宏著)。
この信仰の熱さゆえに、法華経は多くの人に支持されたのでしょう。
後に日本で法華経を信仰した日蓮上人の強烈さも納得できますね。
そんなわけで、原始大乗仏典でも、般若経と法華経は大違い。
般若経を映画化するならヴィム・ヴェンダース、
法華経ならジェームス・キャメロンに3Dでお願いしたく思います。
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ポータルとして面白い『宗教と現代がわかる本』
年に1回、平凡社から出ている『宗教と現代がわかる本2010』が
今年も刊行されました。今回の特集は「宗教と映像メディア」。
責任編集は元『週刊SPA!』有名編集長の渡辺直樹氏。
東大宗教学科OBでもあり、今は大正大学の教授です。
『宗教と現代~』も雑誌的というか、
いろいろな筆者が6ページぐらいずつ、
いろいろなテーマで書いています。
たとえば、
・日本映画と地獄の表象 四方田犬彦
・アメリカにおけるテレビと宗教 藤原聖子
・イスラーム金融とは何か 櫻井秀子
・宗教とアニミズムを分けるものは何か<水木しげるルポ> 大泉光成
・勝間和代ブームに見る現代の自己啓発 小池靖
などなど。宗教関係以外の筆者も多いです。
枚数の制限もあって、それぞれは食い足りないですが、
ポータルとしては楽しいし役に立つ。
特に、2009年の(広い意味での)宗教ニュース集は
面白かったです。
・明治神宮1億円申告漏れ
・指定暴力団・山口組元幹部が出家
・少林寺、株式上場の可能性
・ダーウィンの映画、米で配給拒否
といったニュースがズラリ並んでます。
神や仏の話だからって、ありがたがって、
眉間にシワ寄せなくたって、いいじゃないですか。
という視線が良いですね、この本は。
とりあえず、この本で知った神代辰巳監督の映画『地獄』は、
まだ見てないので、見ようと思いました。
近親相姦の罪を犯した母娘(娘は原田美枝子)が、
地獄で責め苦に遭う姿を映像化したホラー映画。
おどろおどろしそうです!
あ、でもDVD化されてないや・・・。
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いきなり超豪華クライマックス『法華経』
原始大乗経典も読まねば始まらぬ計画の続きとして、
今度は『法華経』を手に取りました。
天台宗、日蓮宗、そして創価学会!などなど、
日本人が一番親しんでいるはずの法華経ですが、
私はいままで、ちゃんと読んでいなかったのです。
全3巻ある岩波新書の、1巻の冒頭「序品」を読んで、
もうね、腰が抜けましたよ。
映画の最初に、いきなりクライマックス、大団円が
やってきたような、このゴージャス感は何なんだ?
(以下、法華経「序品」より)
「あるとき、世尊(お釈迦さま)は王舎城の霊鷲山に滞在して、
1200人の僧と一緒にいた。」
(このあと、その場にいた神々の名が、延々と続く)
「また、神々の帝王シャクラ=帝釈も、従者の天子衆2万人と一緒にいた。」
「四天王も従者の天子衆3万人もその場にいた。」
と、どんどん聴衆が増えていき、
「また八大竜王も、幾千万億の従者の竜たちもいた」
「四キンナラ王も、幾千万億の従者キンナラたちもいた」と、
「その座にいた」ものが、途方もない数に増えていきます。
霊鷲山は、いったいどれだけ広いのだ?
千万億とは、何人のことなのだ?
その超超大観衆を前に、お釈迦さまは瞑想に入ります。
「世尊が瞑想に入るや否や、マーンダーラヴァ花、
マハーマーンダーラヴァ花、マンジューシャカ花、
マハーマンジューシャカ花など天上の花の大雨が降り注ぎ」ます。
と思ったら、今度はなんと大地震です!
「仏国土の全土は6種に地震を起こして、上下四方に動揺し、
激しく振動した」。
と思ったら、今度はレーザー光線です!
「そのとき、世尊は両眉の間にある百豪の間から、一条の光を放った。
その光は、東方に於いて、1万8千の仏国土に広がった」
「すべての国土は、一瞬の間に、金色に輝きわたった」
お布施もキンキンラキンで過剰です。
「ある者たちは、財貨・黄金・銀・金貨、さらには真珠と宝玉を贈り、
また、螺貝・水晶・珊瑚、また男女の奴隷、馬・羊を贈る」
「ある人々は、欄干があって花のどうばんで飾られた4頭立ての車を贈り、
(中略)ある人々は、自分の息子や娘たちを、愛する妻・自身の肉さえも贈る。
(中略)請われるままに、手と足さえも贈る。」
そこに、巨大な七宝づくりの仏塔が出現し、
飾られた幾千万の鈴が風に鳴り、花と香りと音楽のなかに、
無数億万の人間・神・菩薩らが集います。
以上のような描写が、『法華経』の冒頭で矢継ぎ早に出てくるのです。
最後の最後ならわかりますが、いきなりクライマックスです。
仏経とは、普通、ありがたくてしみじみするもの、
というイメージで読み始めますよね?
ところが、お寺を山門を入ると、いきなり中で
リオのカーニバルをやっていたような、このインパクト。
大乗仏典でも、「般若経」とは大違いです。
なぜいきなり大団円なのか? 続きは近いうちに。
日蓮宗霊場「能勢妙見山」(大阪)の礼拝堂。


