もうずいぶん前のことですが、

古墳時代に生きた一人の女性について小説を書いているとお伝えしました。

単行本にするには短編すぎたこともあり、どうするか迷っていましたが、

このブログにアップさせて頂くこととしました。

時代は5世紀、まだ大和朝廷の力が盤石でなかった頃のお話です。

主人公、飯豊青郎女(いいとよあおのいらつめ)とは

市辺押磐王の御子で履中天皇の孫にあたります。

日本書記には一時期、政務をとったと記されているものの、

なぜか歴代には数えられていません。

しかし、宮内庁は飯豊天皇として陵墓を取り扱っています。

 この不思議なひめみこの物語、是非お楽しみください。

毎回少しずつアップしていきますので、読みやすいと思います(汗)

それではどうぞ!!

 

 シロフクロウの女帝  飯豊青郎女の生涯

 

            序(0-1)

 

 馬の背に揺られながら祖父、蟻(あり)とともに領内を巡る時の楽しさといったらない。

忍海(おしみ)のいつもと変わらぬ穏やかな光景は言うまでもなく、

少しばかり高台に登れば、大和の渺茫たる平野が一望できる。

とりわけ畝傍の山、そしてそのはるか先にみえる耳成山の神々しい姿は、

飯豊青郎女(いいとよあおのいらつめ)の心をつかんで離すことはなかった。

 すでに稲刈りも終わり、田を焼く紫色の煙があちこちから立ち上り、

それが幾重もの層をなしてたなびく光景は、まさに絵に描いたような美しさだ。

「蟻様、ひめみこさま!」

二人が行く先々で、忍海の民が親しみを込めて声をかけてくる。

「ひめみこさまにはまた一段と美しくなられたような」

「蟻様、今年も間もなく忍海の固い土にも負けない鎌や鍬をお納め致します!」

ここで暮らす民の多くは、渡来人やその子孫であったのだが、

蟻の手厚い庇護のもとで彼らは様々な鉄製品を生産し、葛城の一族の繁栄を支えている。

 

 

飯豊天皇 埴口丘陵