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芳美と瑠実は、待合室で看護師と待っている薫の側へ戻った。
「瑠実ちゃん、どんげやった?」
にこにこしながら、検査結果を尋ねる薫は、まるで少女のようだった。
邪険のない瞳で、瑠実の顔を窺っている。どう返事してよいものか、考えあぐねていると、脇にいた芳美が、椅子に座っている薫の隣に腰を下ろした。
「おばあちゃん、心配せんでいいっちゃからね。私がついちょるから、大丈夫よ」
まるで幼い子供に言い聞かせるように芳美が諭すと、薫は何かを感じ取ったのか、その先の言葉を求めた。
「私は、何の病気ね?」
薫にしてみれば、不安なのだろう。いきなり病院に連れて来られ、いろんな検査を受けさせられたのだから。
瑠実と芳美には「虎之助の通夜で大変だったから、病院に行ってみよう」と言われただけなのに、思ったより大がかりな検査ばかりで、何か病気を患っていると感じたらしい。
ON/OFFのスイッチがあるとすると、今の薫の状態は、ONの状態なのだろう。今なら比較的スムーズに会話が成立すると思った瑠実は、薫の目の前に腰を下ろした。
「おばあちゃん、落ち着いて聞いてね。おばあちゃんは、自分じゃわからないじゃろうけど、病気になっているんだって」
「だから、何の病気やと?」
瑠実は少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「……脳の病気だって」
「脳? もしかして、私がボケたとでも言うとね? 惚けちょる暇はないとよ。そんげな時間があったら、早く宝探しをせんと! 雲ん中は探したとね?」
瑠実は静かに顔を横に振った。
薫は瑠実の様子を見たとたん、穏やかだった様子から一転、その場で立ち上がり、出口を目指して、よろけながら歩き出した。
「おばあちゃん!」
薫は瑠実が呼び止めるのも聞かず、病院のエントランス・ホールを、よろよろと歩いている。
「どこに行くとね。おばあちゃん」
芳美と側についていた看護師も薫を追いかけたが、薫は聞かなかった。瑠実が慌てて進行方向の前に立ち塞がった。
「どこって、宝探しをしに行くとよ。はよ見つけんと、いかんが!」
薫は必死な様子で出口を目指した。
両手を左右に一生懸命に振るが、脚はそれほど動かない。前方の瑠実が邪魔だからか、横から抜けようと必死だ。
「おばあちゃん、待ってん!」
芳美も追いかけ、後ろから羽交い締めにしたが、老婆ながら抵抗した。人間、必死になると、馬鹿力を発揮するものだ。
「待って、おばあちゃん。宝探しなら、私がするが!」
勢いで瑠実が叫ぶと、ようやく薫は立ち止まった。
「ホントね?」
振り向きざまに見せた薫の顔は、まるで少女のようだった。無垢な瞳で薫に見つめられると、逃げられなくなる。瑠実は思わず返事をした。
「うん」
「瑠実が探してくれると?」
再び薫は、瑠実に尋ねた。
改めて訊かれると、自信はない。けれど、瑠実が宝探しをすると言わなければ、薫はもっと悲しみ、ともすれば、今以上に認知症の症状が進むかもしれない。
今は嘘でもいいから、宝探しをすると言うべきだろう。
(私がやると言わないと、薫を救えないかもしれない)
瑠実は半分は自棄になりながら。半分は自分自身に言い聞かせながら、二度「うん、うん」と大きく返事をした。
瑠実の返事を聞いた薫は、ようやく納得したのか、その場に座り込んだ。
to be continued……