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翌朝、薫の様子が心配だった瑠実と芳美は、薫を病院へと連れて行った。
薫は日常生活に支障がないものの、最近、歩行が困難気味だったり、時々、物の名前を認知できない時があった。
それは高齢だから多少は仕方がないと、周りの者は思っていたが、それだけではないらしい。
「雲ん中、探せばいいとよ」
薫が何かに取り憑かれたように言うのを、誰も本気にはできない。
夕べの薫の主張した一件から、ようやく目を背けていた現実と付き合う状況になった、というのが本当のところだろう。
医者に今までの経過を説明し、検査が行われた。
脳波チェックにCTスキャン、レントゲン。面接試験も行われ、瑠実と芳美は、検査の間、心配で生きた心地がしなかった。
虎之助の急死、隆司の逮捕。それに加えて、薫の様子がおかしいとなると、どう対処すればいいのだろう。この先、芳美一人で対応するのは無理だろう。
ようやく検査が終わり、瑠実と芳美が呼び出された。
「先生、おばあちゃんは大丈夫なんでしょうか?」
瑠実は医者に問い掛けた。医者は渋い顔をしながらも、淡々と説明をしてくれた。
「残念ながら、薫さんは、認知症の疑いがあります。詳しい検査をしてみないとわかりませんが、アルツハイマー型認知症の場合、根本的治療法が見つかっていないので、今後、日常生活に支障を来してくるでしょう。今はまだ、第一段階のようなので、今すぐどうこう、というわけではありません。ですが、今は有効な薬も出ています。通院しながら、しばらく様子を見ますので、家族の皆さんは、できるだけ会話をして、本人に考えさせる機会を作ってあげてください」
ショックだった。
少なからず、人間は歳をとれば、身体も頭も老いてゆくものだろう。今までお茶の師匠をしていたせいか、同年代の人に比べて、薫は若く見えた。
「瑠実のおばあちゃんは、若いね」
「いつも姿勢がよくて、カッコイイね」
薫を見た瑠実の友人は、皆、自分の祖父母と比べるのか、口を揃えて褒めた。しかし、薫も七十歳だ。けして若くはない。世の中の基準では、しっかり高齢者にカウントされる年齢なのだ。
「瑠実、心配せんでいいよ。おばあちゃんが悪くなっても、お母さんが面倒を見るから」
思い詰めた顔をしていたのかもしれない。心配を掛けまいと、芳美が微笑んだが、頬が細かく震えていた。
「お母さん……」
(この人に、全部を背負わせるわけには、いかないだろうな)
漠然と思う。
芳美は無理して強がっているが、薫が認知症だとわかり、身の回りの世話はできたとしても、これからの生活は、どう遣り繰りしたらいいだろう?
隆司は逮捕され、いつ釈放されるのか皆目わからない。虎之助の会社は倒産寸前だし、救う手立てはお金だというけれど。瑠実は学生の身分で、家のために何もできないのがはがゆかった。
to be continued……