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一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

第四章 1



台風が近づいていた。

時折、突風が吹くだけの風も、今は横殴りの酷い雨とともに、遠慮なしにバンバンと建物に打ち付けてくる。先に雨仕舞をしておいてよかった。

そろそろおやつの時間だからと、子供達は積み木遊びの手を止めて、おのおの食堂へと移動始めた。

一通り、遊び道具の片付けも終わると、ヒカルはいなくなったカヲルの事が気になりはじめた。先程、用があると言ったのは、どんな事なのだろう。部屋に行けば彼はいるだろうか。

ヒカルは気になってカヲルの自室へ行ってみたが、姿はなかった。

談話室だろうか? だが、談話室へも行ってみるものの、カヲルの姿は居ない。もしかしたらこの建物には居ないのかもしれない。

この寮は、玄関ホールに不在プレートなるものがある。入所者全員のネームの入った点字プレートがあり、裏と表が違う色でも区別されている。施設から外出する時には、不在点字のものにし、外出から戻ってきた時には在中の札にするのが、ルールであった。

ヒカルは不在プレートを見てみると、さすがに台風が近づいているのでほとんどの入所者の名前は在中になっていた。

しかし、二枚だけ不在のプレートが目にとまった。一枚はカヲル。もう一枚は千秋のネームプレートだ。

こんな台風の日に、二人は一体どこへ出かけてしまったのだろう。二人一緒だろうか。ヒカルは考えを巡らす。

先程、子供達が千秋とカヲルは喧嘩をしていたと教えてくれた。「千秋がどこかへ行ったんだよ」とも。

もしかして、カヲルの用があるからと言うのは、喧嘩して出て行った千秋を探しに出たのではないかと、ヒカルは思い当たった。

「雅美さん! ちょっと出てきます」

ヒカルは大急ぎで雅美に思いついた事を説明すると、自分と二人分の傘を手に持って施設を後にした。




to be  continued……


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ようやくサプリ最終巻まで読破しました。

*以下ネタばれ注意!



以前、同名タイトルでドラマもやっていたので、ご存じの方も多いはず。

ドラマ版は見ていなかったのですが、働く女子としては、ついつい興味を引かれます。


あらすじをさらりと紹介しますと、広告代理店に勤務する藤井ミナミは、仕事にも恋にも頑張る女子。

仕事を頑張るけれど、まだまだ世の中は男社会。

納得いかない仕事を引き受けてまとめなければならなかったり、上の都合で仕事をもっていかれたりする事も度々。

ミナミは本来の真っ直ぐな性格と、生真面目で優等生な対応で、仕事をなんとかこなしてゆきますが、恋愛には不器用らしく、激務が続く広告代理店の仕事と両立できるのか……?


働く女子ならば、絶対にぶつかる仕事をしながらの、恋愛、結婚、出産問題。

私も一通り経験してきた女子としては、ある! ある! と共感しながら読むことができました。

しかし、ミナミはいい子すぎる……!!

こんな子がいたら、サハラじゃなくても支えたくなっちゃうかもな。

ミナミの周りには、同じ悩みを持つ女子や先輩が出てきます。

これが一癖も二癖もあるような人達なんだけど、百戦錬磨、社会にも男にも戦っていくと、こうなるのかなーと考える半面、そういう女子のデリケートな心の揺れの部分が描かれていて、感慨深い。

まだまだ女子には優しくない社会だよな。と改めて思いました。

10巻でようやく、ミナミとサハラの恋愛に、一区切りつきます。

まさか、こんな結果になるとは。

私はてっきりイシダとミナミがくっつくと思ったんだけどなー。

ミナミらしい選択といえばそうなんだろうけど、実際、やるとなるともの凄く大変だったろうなと。


どうやら4/8にサプリのスピンオフ本が出るらしいですね。

わーい!

サプリExtra (Feelコミックス)/おかざき 真里
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ミナミがサハラを待っている2年間のエピソード集らしいですよ。

どうやって周りの人がミナミを支えたのか。

ミナミがどんな想いでサハラを2年間待ったのか。

どうやら10巻のラストシーンの間をつなぐ1冊らしいです。

第三章 4




「カヲル……可愛そうな人。愛してくれるのなら、私にすればいいのに。私なら、あなたの苦しみをわかってあげられる。あなたの気持ちをわかってあげられるのに」

千秋はカヲルにそう言い残すと、踵を返し、廊下を駆け出した。廊下に響く足音と共に、カヲルの目の前から千秋の気配が消えた。

「千秋!」

カヲルの声も無視して、千秋はひたすら廊下を走った。

カヲルはすぐに追いかけようとしたが、談話室の扉が開き、中から心配そうな子供の声が聞こえた。

「カヲルにいちゃん、何かあったの?」

「ああ……心配かけてごめんね」

「ちあきおねえちゃんとけんかしたの?」

「けんかじゃないんだけど……」

「だったらつづきをやろう」

「わたしにもつみきをおしえて!」

子供達にせがまれると、カヲルそれを押して千秋を追いかける事は出来なかった。

「ただいま」

「ヒカルちゃんだ!」

「ねえ、あそんで、あそんで」

「ああ……わかった。わかった。続きをやる?」

「うん」

嬉しそうに答える子供を誘って、ヒカルが続きの積み木遊びをしようとあたりを見渡すと、部屋の隅に立ちすくんでいるカヲルの姿があった。

「カヲル。今もどったよ。子供達と一緒に続きをやらない?」

「……ああ、そうだね」

カヲルはどこかうつろな表情だ。

「何かあったの?そういえば千秋は?さっき私と入れ違いに、ここに入って来たでしょ?」

「カヲルおにいちゃんとね、千秋おねえちゃんはけんかしたみたいだよ」

事の経緯をなんとなく察知していた子供の一人が、ヒカルにそっと耳打ちした。

「けんか?カヲルが珍しいな」

「ちあきおねえちゃん、どこかへいっちゃったよ」

別の子供が教えてくれる。

「そうか。教えてくれてありがと」

ヒカルは膝を床につき、子供と同じ視線にすると、それとなく子供に礼をいった。目の見えない子供でも、ヒカルのそんな態度はわかるらしい。声の発する位置が上からでなく、自分と同じ身長ぐらいのところから聞こえてくるので、すぐにわかるのだろう。

もう一度、カヲルに一緒に遊ばないか?とヒカルは声をかけたかったが、そんな事情があるのならば、そっとしておいた方がいいかもしれない。

カヲルは、結局子供達の輪にはその後加わらず、用があるからと部屋を出て行った。


to be  continued……

第三章 3



「何を急に言い出すと思ったら……。君はなんて事を言うんだ。ヒカルさんに謝って」

「謝る? 私が?」

「ああ。なんでそんな酷い事を言うの!」

今まで穏やかに会話をしていたカヲルと千秋だったが、急に激しい口調で言い合う事になったものだから、周りにいた子供達は驚いて二人に注目した。

子供達が自分たちに注目している気配を察したカヲルは、千秋に部屋を出て廊下で話そうと先導した。

「謝る必要なんてない……。カヲル、私は貴方を心配して言っているの。私、見たのよ」

「千秋、君は……」

カヲルは千秋のその一言で、ヒカルに何をしたのか素早く悟った。

「ヒカルには貴方そっくりな弟がいたんでしょ?きっとあの人は貴方を利用しているの。死んでしまった弟の役目を、貴方に押しつけているのよ」

本当は違う。ヒカルがカヲルに抱く思いはそれとは違っていたが、千秋にとって事実を言うのはなんだかしゃくな気がしてならなかった。

千秋にとって、カヲルは恋人ではないのは確かだけれど。一番に自分の事をわかってくれる唯一の友人なのに、それをヒカルに取られるようで、なんだか胸騒ぎがする。

「千秋、見たんだね。あれほどしちゃいけないと言ったのに……。勝手に人の過去や気持ちを探るのは、よくない事だよ」

「別に吹聴して回るわけじゃないわ。内緒にするし。私はただ貴方が心配なだけ。お願い、私の話を聞いて」

「……聞かないよ。僕も弟さんの事は知っている。ヒカルさんから直接聞いたから」

「知っていたの? なら、どうして貴方はあの人のいいなりなの?」

「いいなり? 僕は自分の意志で、ヒカルさんの側に居たいと思ったんだ。知っている? こんな僕でも、人の役に立つことができるんだよ。こんな嬉しい事はない。僕はいままで、自分の目が見えない事をいつも後悔していた。なんでこんな風に僕だけ生まれてきたのだろうって。生きていても意味がない。どうしたら早く死ぬ事ができるだろうと、そればかり考えていた。死ぬまで、誰かに面倒をみて貰わないと生きてゆけない事を恥ずかしいと思っていたんだ。

でもね、ずっと人に世話を掛けてもらってきた僕でも一つでも役にたつ事があれば、一人でも誰かに生きていて欲しいと思う人がいるならば、僕は幸せになれる。生きていたいと思ったんだ」

「……カヲル」

「でも……それだけじゃないのよ」

「え?」

「それだけじゃないでしょう?貴方も、ヒカルさんも」

「千秋?」

「私には隠しても無駄よ」

「千秋……僕の心を読んだんだね」

「……」

「千秋、もうそんな事をするのは辞めて」

千秋はカヲルから少し離れた。

「私と、ヒカルとどっちが大事?」

「どっちって……」

「ねえ、カヲルは私の事をどう思っているの?」

千秋はけして聞くまいと思っていた一言を口にした。

「……千秋」

「答えられないのね」

少し考えてから、カヲルがゆっくりと口を開いた。

「千秋の事は大事だよ。家族だと思っている」

「そう……。でも残念ね。いくら貴方がヒカルの事を思ってみても、彼は貴方を弟としか見ていないから」

「そんなの、わかってるよ!」

カヲルは大声で千秋の言葉を絶った。

そんなの言われなくたって、わかっている。

自分がどう思ってみても、ヒカルにとっては弟の代わりでしかない事など。

だからこそ苦しくて。

だからこそ愛おしい。

それでも一緒にいる事ができればいい。

僕はヒカルさんとずっといたい。

こんな自分でも、弟の身代わりでもなんでもヒカルさんの心の支えになるのなら、それだけでいいんだ。



to be  continued……





第三章 2


今日は朝から雨が降っていた。

台風が近づいているのか、時折突風の混じる横殴りの雨が窓ガラスを叩いて、嫌な音をたてた。

もうすぐ夏休みも終わる。

夏休みが終われば、八月末の誕生日のカヲルは、もう一つ歳をとる。普通の子供なら、自分の誕生日は嬉しがるものだが、大人になりたくないと思っているカヲルはそうでなかった。いつも決まってこの時期は暗い顔をしていたカヲルだが、今年は違っていた。

最近はヒカルが中心になり、カヲルと一緒に子供達と屋内でも屋外でも一緒に遊ぶ事が日課になっていた。


「ヒカル、ちょっと手伝ってくれ」

今日は雨が降っている為、外での遊びもままならない。

ヒカルが談話室で子供達と積み木遊びをしていると、山本がヒカルを呼びつけた。呼ばれたヒカルは、カヲルにすぐに戻るからと席をたつ。

台風が近づいているらしいので、施設内の建物のシャッターを締めるのを手伝ってくれと山本がヒカルに説明している声が、カヲルの耳に聞こえてきた。

どうやら雨仕舞いの支度をヒカルに手伝って欲しいらしい。山本とヒカルと一緒に、部屋を出て行く気配がした。

それと入れ違いに誰かが部屋に入ってくる足音がする。

この足音は……。

「どうしたの? 千秋」

カヲルが、千秋の気配を感じて声をかけた。

「……カヲル」

千秋は黙ってカヲルに近づくと、そっと彼の手をとり、自分の手を重ねた。

最近、千秋がこうやってカヲルの手を取ることは珍しい。以前は当たり前と思われた二人一緒にすごす時間が、めっきり減ってしまったからかもしれない。

どうしたのだろう。部屋に入ってくるなり、千秋がカヲルの手を取るような行動は、いままでしたことがない。

カヲルは手を離す事も忘れて、千秋の奇行が気になった。何か千秋を心配させるような出来事でもあったのだろうか。

「ヒカルはいつも貴方と一緒なのね」

「一緒? 言われてみればそうだね。彼女は僕の担当だから」

カヲルは何があったのか聞くべきか考えるが、千秋が次々に他の質問をするので、ままならない。

「でも、山本さんの時は違ったわ。いままで通り、窓辺の席で、点字の本を読んでいるのが常だったのに」

「そう? そうかもね」

「ヒカルと一緒にいると楽しい?」

「え? いや…考えてみた事はなかったけど、楽しいよ。子供達と一緒に遊ぶ事も楽しいし」

「今までそんなことはしなかったわよね」

「そうだね。僕も少し驚いているよ。子供達と一緒に遊んで、一緒に学ぶ事がこんなに楽しいなんて。新しい発見かもしれないね」

そう穏やかに話すカヲルは、声さえも張りがある。明らかに今まで自分が知っているカヲルと違うのを、千秋は少し寂しくなった。

悪いことではないけれど。ヒカルのせいだ。カヲルはあきらかにヒカルの影響を受けている。今までカヲルが、本以外モノや誰かから影響をうけるような事はなかった。

影響をうける事はさして問題ではない。問題があるのは、影響を及ぼす人物がヒカルと言うのが、なんだか許せないのだ。

じっと会話をしながらカヲルの手を握っていた千秋は、急にはっとと手を離した。

「千秋……?」

「そう……そうだったの」

「何かわかったの? 少し変だよ」

「貴方は騙されているわ」

「騙される?」

「そう、あなたはヒカルに騙されているの」

「千秋!」

カヲルは千秋の手をふりほどいた。




to be  continued……


第三章 1


 最近、千秋はカヲルの動向が気になって仕方がない。これもヒカルがカヲルの担当になってからだ。

いままで千秋が知っているカヲルは、窓辺で点字の本を広げて、一人静かにしているような生活をしていたのに。

カヲルは以前に比べて、明るくなった。気がつくとヒカルと一緒に、談話室で小さな子供達と一緒に遊んでいる姿を多く見かけるようになった。

近頃では逆に千秋の方が、窓辺で子供達と遊ぶヒカルとカヲルをぼんやり見ている事の方が多くなってきている。こうしている今も、談話室のプレイスペースで、『かごめかごめ』をして子供達と遊ぶカヲルとヒカルを気にして、ここから離れられないでいる。

なんでこんなに気になるのかわからない。

ここで自分はカヲルとヒカルを見張っているのだろうか。そんなに自分は、カヲルの事が好きだったのだろうか。

よく……わからない。気になるのは確かだ。

今までカヲルの行動は自分が一番知っていたし、自分が一番近い所にいる人間だと、思いこんでいたのかもしれない。

「千秋、どうした。一緒に遊ばないのか?」

「雅美さん」

「カヲルがこんなに子供の相手が上手いとは知らなかったな」

「そうですね。私も知りませんでした」

「まあ、悪い事ではない。千秋も一緒に遊べばいいのに。それとも、カヲルをヒカルに取られた気がして、一緒に遊ぶのは気が引けるか?」

「そんな、雅美さん」

「なに、隠す事はない。私も女だからな。どうしても女と言う生き物は嫉妬深くていかん。みんな平等に仲良くできればいいんだが、そう簡単に割り切れるものでもないんだよな」

「……ええ。知っていたのですか?」

「何をだ?」

「……いえ。いいんです」

千秋は自分のカヲルに対する気持ちが、雅美にはわかっているのではないかと、確かめてみたかったのだが、その続きを尋ねる事はできなかった。

おそらくわかっているからこそ、自分に声を掛けてくれたのだろう。尋ねてみたところで、雅美が自分とカヲルの仲を取り持ってくれるような事はしないだろうし、自分もそんな事を望んではいない。

嫉妬と言われて、ああそうかとも思うが、嫉妬と言うほど、カヲルに恋愛感情を持っているのかと言われると、自分でも曖昧でよくわからない。

幼いころから、似たような環境で育ってきたからかもしれない。恋愛感情というより、同士と言った方が適切かもしれない。

ただ……自分は女で、カヲルは男である。

いつ、同士から恋愛感情へと発展してもおかしくはないギリギリのところに、自分達はいると言うのが、今の正直な気持ちかもしれない。

カヲルは自分の事をどう思っているのかわからないが……。

「良くも悪くも、いろんな人間と関わりを持つ事はよいことだ。特にここは特別な場所だからな。心配ごとがあったらいつでも来なさい。私でよければ相談にのるから」

雅美はそう言うと、千秋の側から離れて、子供達の輪に入った。

「私も一緒に入れてくれ」

「まさみせんせいも、いっしょにあそうぼう」

子供達は大はしゃぎで、雅美を迎え入れた。

残された千秋は、黙って子供達と遊ぶカヲルの気配を感じ取っていた。誰かが近づいてくる気配がする。一瞬カヲルかと思ったが、それは違っていた。

「千秋も一緒にどう?」

窓辺に一人残り、じっとこちらを見ている千秋を、ヒカルは気に止めて、声をかけた。

まさかヒカルが自分を誘ってくれるとは思わなかった。

「千秋、遠慮せんでいいぞ」

先に子供達に混じった雅美からもそう言われると、断る理由もない。千秋は重い腰を上げて子供達の方へ体を向けると、ヒカルが千秋に近づいて手を繋いで、子供達の輪に先導した。「千秋おねえちゃんもいっしょ。みんないっしょだね」

子供達は嬉しいのか、みんなにこにこしている。

嬉しそうな気配と、子供の歓声に包まれて、千秋も少しだけ嬉しくなった。

「ホラ、見てるだけじゃつまんないでしょ?一緒に体を使って、一緒に同じ事を体験するのは、純粋に楽しいもんだよね」

ヒカルは千秋の手をひいたまま、かごめかごめの輪にはいる。

ぎゅっと握りしめてくれるヒカルの暖かい手。それは初めて彼女がこの施設に来てから少しも変わらないが、少しだけ以前と違う印象をうける。

千秋は子供達と一緒に遊びながらも、ヒカルと握った自分の手に神経を集中した。

これはなに?

ヒカルの過去?

ヒカルの心情?

「……」

「千秋、どうしたの?」

「いいえ。大丈夫」

千秋はヒカルの問いに、平然として答えた。子供達の笑い声が遠くに聞こえる。

この人は、どうしてこんなに強いのだろう…。千秋はヒカルの手を通してあふれてくる記憶を、一心に感じる。

千秋は子供達との遊びも、どこかうつろな気持ち聞いていた。



to be  continued……




シマシマ(8) (モーニング KC)/山崎 紗也夏
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シマシマ最新の8巻です。

いままでのあらすじをちょろりと紹介しますと……

主人公のシオは、旦那と離婚した後、不眠症に悩んでいた。

たまたま尋ねてきた元旦那の弟、ガイに添い寝してもらった事から、女性専用のセックス抜きの【添い寝屋】ストライプ・シープの商売を思いつく。

ストライプ・シープとは、パジャマのイメージの他に「隣に寄り添いはするものの、決して交わらない並行の関係」という意味があり、女性に安眠を与えるのが目的で性的な行為は一切行わない意味があるらしい。

ガイ、リンダ、ラン、マシュのイケメン4人の年下男子に支えられ、商売は上手く行っていたものの、ガイ(元旦那の弟)とランが、シオに思いを寄せ、微妙な関係になっていく。



8巻はランちゃんの襲撃!

淡々とした人なんだけど、意外に行動力ある男だったのね。

「僕の恋人になってください」とアプローチしたと思ったら、シオに手を出すのも、早かった……!

まあ、ここらへんは22歳男子という事で。(笑)

毎日ソバばっかり食ってる22歳男子もそういないだろうけど。

ガイはガイで自分探しの旅なんかしちゃってるし、この先、どうなる事やら。

もっとガイがしっかりした男に成長すれば、シオとの関係も違ってくるんだろうけど、今の調子じゃ、ランちゃんの方が男だねぇ。

しかし、シオさん。

年下の男子にモテモテw

添い寝で安眠できたらから、ランちゃんを恋人に決めたらしいけど、ホントにそんな理由で決めちゃっていいのー?

寝れる相手なら、ガイくんでも安眠できるはずなのに。

そしてシープは1年で終らせる!と閉鎖宣言したシオさん。

先が気になります。


ピアノの森(17) (モーニングKC)/一色 まこと
¥560
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やっと17巻発売です。

待ってました!

にわかにクラッシックブームなんでしょうか。

先週、アニメのだめも最終回だし、4月上旬から後編版の映画も公開されるし。

ピアノの森で扱われる「ショパンコンクール」も、今年、ショパン生誕200周年で、クラッシック系のCSチャンネルでは、こぞって特集組まれているようだし。

5年に1回ですからね。私も楽しみw


さて、17巻は、いよいよショパンコンクールの二次審査開始ですよ。

*以下ネタばれ注意!


私はコミック派なのですが、17巻はもっとカイの出番があるものと信じて、楽しみにしておりました。

が、

あり?

ちょっと違った?

というか、まだまだ彼の出番は先なのね。(苦笑)

今回は、雨宮の苦悩と、パン・ウェイの出生の秘密のエピソードが中心。

トイレでアダムスキと雨宮が出会い、雨宮は彼だけには本音で苦悩をさらけ出します。

人の上にたって、コンクールで上を目指す者としては、努力は当たり前にしてきたのでしょうが、アダムスキがいうところの『努力』は、ものすごく深かった。

これ、ピアノで上を目指すものだけでなく、いろんな競技や職種、仕事でも、上を目指すものとしてが当てはまるよな。としみじみ読んじゃった。

このあたりが一色まことらしさかなぁ。

パン・ウェイの出生の秘密も、普通で考えたら、こんなのアリか? と思うけど、そこはスルーで。(笑)

しかし、カイくん。美形なのも困りものですね。

双子のアン兄弟は、カイを女性だと思っていたようで、ナンパしようとしてました。

あのショパンコンクールに出場しつつ、女の子をナンパって、どんだけ余裕あるんだよー。

そのうちアン兄弟のエピソードも出てくるのかな。

じわじわ物語は進んで行きます。

早く18巻が読みたいよー。


ピアノの森17巻と同時発売の「ガキの頃から」(一色まこと短編集)も読みました。


~ガキの頃から~ 一色まこと短編集 (モーニング KC)/一色 まこと
¥760
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web版で試し読みはしていたけれど、やっぱり面白いー。

ガキの頃からの駒子編は特に、読んでほっとしました。

短編でまとめるって、きっと漫画も難しいんだろうなぁ。

小説も書いてみると、中編とか、短編って、どのくらいのスピードで、誰を中心に、どこに焦点を合わせて書くのか悩む。

こちらは全13作品、どーんと348Pとぶ厚く、読み応えあります。

どれも良作でした。


第二章 8


「私には……弟がいたんだ。歳は私より三つ下。名前をカヲルと言うの」

「それって、僕と同じ……」

「そう、同じ名前だったの。それだけじゃないんだ。顔も弟のカヲルとそっくりだった。ただ違うのは瞳の色だけ。カヲルは黒い瞳だけけれど、弟のカヲルは私と同じ蒼い瞳をしていた。私の父はイギリス人なの」

「そんなに……似ているのですか?」

「うん。最初、カヲル見たとき、弟が生き返ったのかと思った」

「生き返った?」

「そう」

「と言うことは……弟さんは……」

「死んだの」

カヲルはそれを聞いて何も答えられなかった。

「事故だった。私達には両親がいないの。父親は、私達、姉弟がまだ小さい時に交通事故で亡くなり、母親もその後、病気で亡くなって。私達は、施設に預けられてそこで生活をしていたの。寒い夜だった。古くなった施設のガスボイラーが、老朽化で爆発したの。施設の子供達は慌てて飛び起きて外に逃げた。もちろん、私と弟も慌てて逃げた。一旦、外に出て二人とも助かったと思った。だけど、慌てて外に飛び出たものだから、大事にしていた母さんの写真を持って出るのを忘れたんだ。弟はそれに気づいて、私や職員が止めるのも聞かないで、爆発して半分壊れて燃えている建物に戻っていったの。母さんの形見の写真は、絶対に無くしたくないって。私も弟の後に続いて建物に入ろうとしたけれど、消防士に気づかれて止められた。それから間もなく爆発が続いて、建物は崩壊した。私は、涙ながらに周りにいた大人に、自分も弟の側に行かせてくれと泣き叫んで頼んだ。それが出来ないのなら、弟を助けてくれと。だけど……弟は助からなかった。消火活動が終わって、建物の焼け跡から、弟の小さな亡骸が見つかった。体をまるめて、端が焦げた母さんの写真を大事そうに胸に抱いて。

わずか十歳だったんだよ? まだこれからたくさん勉強して、恋いをして、家庭をつくって、長生きするはずだったのに。アイツ……最後まで手をぎゅっと握りしめて、死んでも母さんの写真を離さなかった。今でも写真を見ると、この手に……弟の手のぬくもりを感じるような気がするんだ」

ヒカルはそう言うと自分の手をじっと見つめる。

「……ヒカルさん」

「一時は私も自暴自棄になった時があったの。たった一人の家族。たった一人の弟。あんなに仲がよかったのに。両親がいない寂しさも、私は弟と一緒だから寂しくなかったし、周りからどんな事をいわれようとも耐えられた。だけど、弟が亡くなって私一人になった時、もう生きている理由がなくなったと思った。何度も自殺を考えたし、実行に移した事も何度もあった。けれどそんな時、必ず夢の中に弟が現れて私に言うの。『姉さん、僕の分までちゃんと生きて!』って」

ヒカルは自分シャツの裾で、目尻に溜まった涙をぬぐう。

カヲルは自分のポケットからハンカチを取り出し、ヒカルの首を片手で軽く持ち上げ、手探りで目のあたりを黙って拭いた。

「カ、カヲル?」

カヲルの手際のよさに、まるで本当に目が見えているようだ。ヒカルはなぜだか動揺を覚えた。

弟のカヲルが実際に目の前にいて、そうしてくれているように思える。

しかし……違う。

弟ではない。

実際今、目の前にいるのは別人のカヲルなのだ。

よく似ているけれど。

瞳の色も違う。

声も違う。

ほんのり香る、臭いも違う。

けれど……どれも心地よい。

どきどきするけれど、もっと彼に触れられたいと思う。

ヒカルはこんな時に、こんな事を感じる自分をどうかしていると思うが、行き場のない悲しみを思い出すのと、初めて感じる思いを、どう解消すればよいのかわからない。

私……変だ。

変だと思うが、不思議にそれが嫌だとは思わない。嫌だと思わない自分が、死んだ弟に対して罪悪を感じてしまう。

「カヲル……」

「ヒカルさん…?」

「カヲルは、余りにも私の弟に似すぎているんだよ。なのに、簡単に死にたいとかいわないで! もっと命を大事にして。もっとアイツは生きるハズだったんだ。目がみえなくても命がある限り、ちゃんと生きて!」

ヒカルは戸惑う気持ちを自覚しつつ、それに素直になる事もできなくて、吐き捨てるようにカヲル言い放った。

本当はこんな態度をとりたくはないのに。

弟とそっくりな、けれど違うカヲルを意識してしまう自分を、ヒカルはなんとなく許せなかった。弟にこんな感情を持つのはおかしいだろう。 

それでも、そっくりな人に、「死にたい」と言われるのは、許せない。

「……ごめんなさい」

「迷惑かけたっていいじゃない。それでもカヲルが気にするようなら、カヲル面倒ぐらい私が見てやるから!」

ヒカルはそう言うと、じっと歯を食いしばって涙をこぼすまいと空を仰ぎ見た。


カヲルは黙ってヒカルの話を聞いていた。だから自分の名前を呼ぶときに、時々せつない声で呼ぶのかと、やっと納得がいった。

自分の名前を呼ぶ声?いいや。違う。カヲルは自分ではなく、弟のカヲルの名前を呼んでいるのだ。

この人が必要としているのは、自分ではない。弟なのだ。

そう思うと、ヒカルの事を考えると暖かくなっている心の片隅が、急に冷たくなるのを感じた。

なぜだろう。もしかして僕はカヲルさんの事を。

そう考えると、胸がどきどきしてくるのと同時に、きゅんと痛い。

カヲルはその先を考えようとして、頭を振った。僕は何を彼女に期待しているのだろう。そんな事、思ってみても報われるはずはないのに。

自分が単にヒカルさんの大事な弟に似ているから、余計に目に掛けてくれるだけだ。勘違いをしてはいけない。こんな障害を持つ自分を、好きになってくれるはずなどないではないか。

けれど、自分を呼ぶ優しい声。暖かい手。介護福祉士なら当たり前にする事を、どうしても意識してしまう自分はおかしいのだろうか。それとも、自分は単に弟さんに嫉妬しているのだろうか。

嫉妬などしてどうする?亡くなってしまった人がライバルなのならば、勝てるはずもない。

初めて気づく、自分の気持ちがよくわからないけれど。とにかくヒカルとずっと一緒にいたい。

自分が介助されるだけでなく、自分もこの人を支えてあげたい。

 

カヲルはヒカルの肩を抱いたまま、初めていだく恋心が、すでに悲恋だと気づいて、胸の奥が痛むのをこらえるしかなかった。


to be  continued……




第二章 7




「ヒカルさん、もう少しゆっくり歩いてください」

「ああ、悪い」

「ほら、真央ちゃん、そんなに一人急いだら危ないでしょ。ちゃんと縄を握って!」

ヒカルとカヲルは、散歩用の縄をつかって子供達と敷地内の広場へ遊びに出かけた。

散歩用の縄と言うのは一本の長い縄に丸い吊り輪が何カ所かに付いていて、子供達はその縄についた吊り輪に握って目的地まで先導される。

縄の列の最前列にはヒカルが、最後尾にはカヲルがついて、施設から広場まで先導してゆく。

「なんか幼稚園の先生みたいですね」

「ホントだね」

「ヒカルちゃん、ボク、ここからは一人で行けるから先に行っても大丈夫?」

「私も先に行きたい!」

「ダメ。ダメ。お前達は勝手な事をしないの。団体行動の時は秩序が大事なんだからね」

「くくっ……」

ヒカルの先生ぶったセリフを聞いて、カヲルは肩を振るわせ笑いをかみ締めた。

「おい!カヲル、笑わないでよ」

「だって……ヒカルさんの性格で秩序とか言われても説得力ないし……」

「ちつじょ?」

「ちつじょってなに?」

聞き慣れない難しい単語だったのか、連れていた子供の一人が質問した。

「ああ……難しい言葉を使ってごめんね。ヒカル先生はね、みんなで行動する時は、勝手に行動しちゃ危ないよと言いたかったんだよ」

「どうしてあぶないの?」

「目が見える子供でも、急に飛び出したり、一人だけ違うところへ行ったら迷子になったり、みんなと離ればなれになっちゃうでしょ。まして僕達は目が不自由だ。ここはまだ施設の敷地の中だから迷子になってもまだ探せるけれど、街でそんな事になったら後で辛い思いをするのは君たちだからね。ヒカルさんは、君達を心配してくれているんだよ。こういう事は普段からちゃんとしておかないとね」

カヲルは子供達に優しくそう言い聞かせると、子供達も黙って聞いている。

「うん、わかった。ボクみんなといっしょに広場までいくよ」

「そうだね。話を聞いてくれて僕も嬉しいよ」

子供達はそれを聞くと、再び吊り輪を握りしめた。






ようやく広場につくと、子供達は思い思いの遊び場へと散ってゆく。広場といっても敷地の中の一部の施設なので、危険なところはない。広場は完全にバイアフリー状態で、段差は全てスロープがついており、要所には点字付きの手摺りもついていて、広場面積のほとんどが芝生になっていた。

子供達は、ただ何もない場所で芝生の上で転げ回って楽しんでいる。

ヒカルとカヲルは、広場の入り口のベンチに腰をおろして、子供達を見守っていた。

「カヲル、ありがと。さっきは助かったよ。本当に先生みたいだったよ」

「そうですか?こんな僕でも少しは役にたったのかな」

カヲルは少し謙遜して苦笑いをした。

「子供と遊ぶのは好きなの?」

「ええ。僕もまだ子供ですし」

「それはイヤミ? 私よりデカイ図体しちゃって」

ヒカルは少しふざけて、カヲルの脇腹にパンチをする。

あいたた……。

カヲルも笑いながら、大げさなアクションした。知らない人がみたら、二人のやりとりはとても盲人には見えないだろう。

カヲルは大げさに「痛い!」といいながら、ベンチに横になった。

ベンチに横になって天をあおぐと、お日様が真上にあった。日差しはまだ暑いが、風はなんとなく秋を感じる。

ゆっくりと時間が過ぎるのを、こうやって二人で共有できる。カヲルは幸せだなと思う。幸せなのはよいけれど、これに慣れるとヤバイなと思う。いままで生きてきた人生の中で、こんなに穏やかな気持ちでいる事ができるのは、初めてかもしれない。

幸せな時間を過ごしてそれが普通になると、此所を出たとき辛くなる。寂しさを余計に感じてしまう。こんな風に先を考えすぎる性格が、ときどき嫌になる。



「そう言えば、ここの施設、二十歳までなんだってね。カヲルは将来なんになりたいの?案外、先生も合ってるかもしれないよ。私に指文字を教えるのも上手いし」

「……」

カヲルは返事をしなかった。

ヒカルは世間話の一環として、話をしたつもりだったのに、何か気に障る事でも言ったのかと心配になり、カヲルの顔を見た。

カヲルはベンチから起きあがり、顔をまっすぐにのばして目は開いているのに、どこか遠い眼差しをしている。

「僕に将来なんてあるんでしょうか」

「……カヲル?」

「僕は今までいつも誰かに世話をしてもらって生きてきました。この通り目が見えないのだから仕方がないのだけど。子供のうちはいいんです。誰かに助けられても、誰かに世話してもらっても、自分も周りの人もまだ小さいからという目で見てもらえる。でも僕は段々大人になってゆく。体だって大きくなるのに、未だ僕は誰かの手助けがないと、生活もできない。僕の将来はないのです。誰かの役に立つことなど、考えられない。この先、僕は死ぬまで、きっと誰かの介助がないと生活も出来ないでしょう。ずっとこのまま誰かに迷惑を掛けながらでないと生きてゆけない。ここだってあと一年したら出て行かなくちゃ行けないけれど、行く当てもないし、かといって生活できるだけの仕事が出来るわけでもない。最近、生きていても意味がないんじゃないかなとさえ考える事もあるんです。死んだ方がいいのかなって」

その時だった。

「馬鹿!」

カヲルの頬にパシリという音が響き、鈍い痛みを感じた。

「痛い!」

「痛いか?」

「急になにするんですか!」

「生きているからだ」

「え?」

「痛いと感じる事が出来るのは、生きているからだと言ってるんだよっ!」

「ヒカルさん……?」

心なしか、ヒカルの声が震えている。泣いているのだろうか。

「どうか……簡単に死ぬなんて考えないで。目が見えない不自由はあっても、カヲルは生きている。生きていれさえすればきっといつか良いことだってある。お願いだから、カヲルだけは生きて……」

「カヲルだけ…?」

「……」

ヒカルは返事をしなかった。泣いているのを我慢しているのか、嗚咽が聞こえる。あの時と同じだ。初めてヒカルが自室に来て、自分にすがって泣いた時だ。

カヲルはそっとヒカルのいる辺りに手を伸ばした。指先が少しだけヒカルの髪の毛に触ると、手探りでカヲルに近づき抱き寄せた。

「何があったんです? よかったら話してください」

ヒカルはしばらく声を押し殺して泣いていたが、カヲルの言葉を聞いてぽつり、ぽつりと話始めた。




to be  continued……