第四章 1
台風が近づいていた。
時折、突風が吹くだけの風も、今は横殴りの酷い雨とともに、遠慮なしにバンバンと建物に打ち付けてくる。先に雨仕舞をしておいてよかった。
そろそろおやつの時間だからと、子供達は積み木遊びの手を止めて、おのおの食堂へと移動始めた。
一通り、遊び道具の片付けも終わると、ヒカルはいなくなったカヲルの事が気になりはじめた。先程、用があると言ったのは、どんな事なのだろう。部屋に行けば彼はいるだろうか。
ヒカルは気になってカヲルの自室へ行ってみたが、姿はなかった。
談話室だろうか? だが、談話室へも行ってみるものの、カヲルの姿は居ない。もしかしたらこの建物には居ないのかもしれない。
この寮は、玄関ホールに不在プレートなるものがある。入所者全員のネームの入った点字プレートがあり、裏と表が違う色でも区別されている。施設から外出する時には、不在点字のものにし、外出から戻ってきた時には在中の札にするのが、ルールであった。
ヒカルは不在プレートを見てみると、さすがに台風が近づいているのでほとんどの入所者の名前は在中になっていた。
しかし、二枚だけ不在のプレートが目にとまった。一枚はカヲル。もう一枚は千秋のネームプレートだ。
こんな台風の日に、二人は一体どこへ出かけてしまったのだろう。二人一緒だろうか。ヒカルは考えを巡らす。
先程、子供達が千秋とカヲルは喧嘩をしていたと教えてくれた。「千秋がどこかへ行ったんだよ」とも。
もしかして、カヲルの用があるからと言うのは、喧嘩して出て行った千秋を探しに出たのではないかと、ヒカルは思い当たった。
「雅美さん! ちょっと出てきます」
ヒカルは大急ぎで雅美に思いついた事を説明すると、自分と二人分の傘を手に持って施設を後にした。
to be continued……