第三章 3
「何を急に言い出すと思ったら……。君はなんて事を言うんだ。ヒカルさんに謝って」
「謝る? 私が?」
「ああ。なんでそんな酷い事を言うの!」
今まで穏やかに会話をしていたカヲルと千秋だったが、急に激しい口調で言い合う事になったものだから、周りにいた子供達は驚いて二人に注目した。
子供達が自分たちに注目している気配を察したカヲルは、千秋に部屋を出て廊下で話そうと先導した。
「謝る必要なんてない……。カヲル、私は貴方を心配して言っているの。私、見たのよ」
「千秋、君は……」
カヲルは千秋のその一言で、ヒカルに何をしたのか素早く悟った。
「ヒカルには貴方そっくりな弟がいたんでしょ?きっとあの人は貴方を利用しているの。死んでしまった弟の役目を、貴方に押しつけているのよ」
本当は違う。ヒカルがカヲルに抱く思いはそれとは違っていたが、千秋にとって事実を言うのはなんだかしゃくな気がしてならなかった。
千秋にとって、カヲルは恋人ではないのは確かだけれど。一番に自分の事をわかってくれる唯一の友人なのに、それをヒカルに取られるようで、なんだか胸騒ぎがする。
「千秋、見たんだね。あれほどしちゃいけないと言ったのに……。勝手に人の過去や気持ちを探るのは、よくない事だよ」
「別に吹聴して回るわけじゃないわ。内緒にするし。私はただ貴方が心配なだけ。お願い、私の話を聞いて」
「……聞かないよ。僕も弟さんの事は知っている。ヒカルさんから直接聞いたから」
「知っていたの? なら、どうして貴方はあの人のいいなりなの?」
「いいなり? 僕は自分の意志で、ヒカルさんの側に居たいと思ったんだ。知っている? こんな僕でも、人の役に立つことができるんだよ。こんな嬉しい事はない。僕はいままで、自分の目が見えない事をいつも後悔していた。なんでこんな風に僕だけ生まれてきたのだろうって。生きていても意味がない。どうしたら早く死ぬ事ができるだろうと、そればかり考えていた。死ぬまで、誰かに面倒をみて貰わないと生きてゆけない事を恥ずかしいと思っていたんだ。
でもね、ずっと人に世話を掛けてもらってきた僕でも一つでも役にたつ事があれば、一人でも誰かに生きていて欲しいと思う人がいるならば、僕は幸せになれる。生きていたいと思ったんだ」
「……カヲル」
「でも……それだけじゃないのよ」
「え?」
「それだけじゃないでしょう?貴方も、ヒカルさんも」
「千秋?」
「私には隠しても無駄よ」
「千秋……僕の心を読んだんだね」
「……」
「千秋、もうそんな事をするのは辞めて」
千秋はカヲルから少し離れた。
「私と、ヒカルとどっちが大事?」
「どっちって……」
「ねえ、カヲルは私の事をどう思っているの?」
千秋はけして聞くまいと思っていた一言を口にした。
「……千秋」
「答えられないのね」
少し考えてから、カヲルがゆっくりと口を開いた。
「千秋の事は大事だよ。家族だと思っている」
「そう……。でも残念ね。いくら貴方がヒカルの事を思ってみても、彼は貴方を弟としか見ていないから」
「そんなの、わかってるよ!」
カヲルは大声で千秋の言葉を絶った。
そんなの言われなくたって、わかっている。
自分がどう思ってみても、ヒカルにとっては弟の代わりでしかない事など。
だからこそ苦しくて。
だからこそ愛おしい。
それでも一緒にいる事ができればいい。
僕はヒカルさんとずっといたい。
こんな自分でも、弟の身代わりでもなんでもヒカルさんの心の支えになるのなら、それだけでいいんだ。
to be continued……