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一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

Chapter4:戦友 1


「馬鹿者!」

ミキが機を下りると、ミュンホ長官の罵声の第一声で、皆、びくりとした。

「無事だったからよかったものの、ミサイルも持たず、敵に向かって行くとは、どういうつもりだ? あれほど無茶はするなと言っただろう!」

「無茶じゃありません。オレはちゃんと出来るつもりでした」

「なんだと? 上官の私の言うことを無視するつもりか?」

「いえ……オレは無視はしてません。自分で無茶ではないと判断したからやったまでの事だ」

「私は深追いはするなと言っただろう? それが聞けないというのか?」

ミキと、ミュンホ長官の言い合いに、機を下りてきた他のパイロットとアドルフが駆けつけた。

「長官、自分はミキのおかげで助かりました」

先程、敵の襲撃を受けた熟練のパイロットが口をはさんだ。

「すいません、僕のせいでもあるんです。部品の発注をもっと早くしていれば、ミキさんの戦闘機にもミサイルが積めたはずなのです」

 パイロットに続いてアドルフも弁護する。二人にそう言われ、何か言葉を継ごうとしたミュンホも、黙って言葉を飲み込んだ。

「いいか? 以後、私の命令を無視するようなら、それなりの処分をするからな。解散!」

ミュンホ長官は激しい口調でそう言うと、スタスタと管制塔の建物の中へ入っていった。

無言で皆その後ろ姿を見送る。

ミュンホの姿が建物の中に消えると、ようやくアドルフがミキの側へ駆け寄り、声をかけた。

「ミキさん、無事でよかった……」

 あからさまに脱力しながら言われると、生きて帰るのも悪くないと思う。今までは、エールパイロットであるミキが死ねば、誰かが変わってエースパイロットになる。心からミキが戻ってくるのを望んでいる者が果たしていたのか疑問だ。

 アドルフのように、心から喜んでくれる者はいなかった。

「ああ。まあな」

 少し照れながらアドルフの言葉に曖昧に相槌を打つと、ミキは先程自分の代わりに敵にミサイルを打ち込んでくれた仲間のパイロットへ歩み寄った。

「さっきは助かった。礼を言っとく。ありがとう」

「……礼を言われる程の事はない。私も仲間の機をやられて、腹が立っていたしな。お互いさまだ」

相手のパイロットも礼を言いながら、静かにミキに右手を差し出す。ミキもおずおずと手を差し出し、黙ってお互い握手をした。

温かい手だった。パイロットの仲間同士で礼を言われても、握手まで求められることはそう多くない。ミキは照れくさいくて、一人スタスタと宿舎の方へ歩き出した。どんな顔をしてよいかわからなかったからだ。

その様子を見ていた他のパイロットが、ミキの後ろ姿に声をかけた。

「おい! お前のトルクロール、凄かったぞ!」

ミキは一瞬振り向くと、黙って軽く片手を上げてそれに応じた。嬉しいけれど、こんな時どんな対応をしてよいのかわからない。今まで自分を遠巻きに見ていたパイロットも、ようやく自分を認めてくれた気がして嬉しくて、口角だけを少し上げた。

「なんだ。笑うと美人じゃないか」

 リップサービスだとわかっていても、無言だったパイロット達と軽口をたたき合えるとは悪くない。ミキはそれをかみ締めながら、自室に戻った。

  

to be  continued……

Chapter3:襲撃 4



「何をする気だ?」

ミュンホがミキの行動を察して釘を刺す。アドルフもまた、ミキがただならぬ行動をやるのでは?と止めに入った。

「どうか、無茶はやめて下さい」

ミキは低空飛行していた体勢から、急激に高度を上げ、敵の機体の真上を飛ぶ。敵はすぐに狙いをミキの戦闘機に定めてミサイルを発射してきた。

「危ない!」

誰もが息を飲んだ。

エンジンカット。

機体がほぼ地上と垂直になるくらい、首尾を真上に向け、ミキの機はそのまま一旦停止の姿勢になる。見事なトルクロールだった。

敵の機はエドワードの動きについてゆけず、大きく宙を旋回し、その無駄な動きをしている間に、ミキの仲間の機がミサイルを発射した。

「当たった!」

無線で喜ぶ仲間の声。

盛大な火花と煙と共に、ミサイルは敵の尾翼にあたって旋回しながら雲の下へと墜ちてゆく。

やがて姿は見えなくなり、レーダー上の点も無くなっていた。

 ……終わった。

ミキはようやく胸をなでおろした。冷や汗が額を流れ落ちる。どうにか戦闘は終わったようだ。

結局、ミキの機が敵のおとりになり、それに惑わされている隙に、仲間の機が攻撃して戦いはひとまず終始なった。

 誰も死ななくてよかった。

 そう思うと同時に、ミホは心の片隅でまた死ねなかったのだと思った。

 ……すまない。

 生きていることを安堵する自分と、すまなく思う自分が同居する。生きていることが苦しいくせに、自分では死ぬ勇気もない。

 スーツの下の汗が、ぐっしょりと濡れているのがわかるがどうでもよかった。

「全機に告ぐ。一旦、基地に戻れ」

 ミュンホの声が響くと、反射的に答える。

「ラジャー」

 ミキと仲間の機は、基地へと戻った。


to be  continued……



 Chapter3:襲撃 3



  3

ミキが士官学校を飛び級で卒業して間もない頃の話だ。幼なじみのモルダーと、恋人同士の関係にようやく慣れてきたある日、以前からモルダーが「一度ミキの操縦する飛行機に乗ってみたい」と言っていたのを思い出した。当時モルダーは、航空研究者をめざし、工学部の学生だった。

 もうじき正式に軍に入軍する。入軍すれば、会える日も少なくなる。軍に入る最後の休日に約束を果たそうと、士官学校のセスナ機をチャーターした。

「凄い! ミキ! 凄いよ!」

モルダーはとても喜んでいた。快晴で風向きも悪くない。十分に大空を満喫し、このまま着陸態勢に入ろうとしていた時だった。

 突然、がくんとセスナに衝動があった。

 機械の不備か?

 知らない間に、ミキとモルダーが乗ったセスナ機上空で戦闘が始まっていて、運悪く、敵の討った流れ弾がセスナ機の下腹部と翼の一部に当たったようだ。慌てて戦闘機から離れようとしたミキだったが、上手く舵がとれない。下腹部にあったせいで、座席のすぐ下のタイヤが無くなり、着陸するには胴体着陸しか方法はなかった。

決死の覚悟でミキは胴体着陸を成功させ、どうにか士官学校の滑走路まで戻ったが、着陸させる際、運悪く滑走路とセスナ機の胴体の摩擦熱でこぼれたガソリンに火がつき、モルダーの座席の真後ろから火花が立った。

ミキは急いで弟を助けようとしたが、セスナ機全体が爆発し、ミキ自身も、外の滑走路へ投げ出されて気を失った。ミキはどうにか一命を取り留めたものの、モルダーはそのまま帰らぬ人となってしまった。

大切な……恋人だったのに。

後悔と無念さで、ミキの胸はいっぱいになった。周りの人間は事故だからと慰めてくれたが、ミキは自分がモルダーを殺したとしか思えなかった。一時は飛行機に乗る事も辛くて辞めてしまい、期待されていた空軍のパイロトとしての未来も、大きく出遅れた。

いくら不慮の事故だとはいえ、何もしないまま誰かを死なせるのはもうごめんだ。

誰かを死なせるぐらいなら、自分が死んだほうがいい。

 ミキは悲しい思い出を振り切るように、スロットを思い切り絞り込むと、首尾を上げて加速した。



to be  continued……

Chapter3:襲撃 2



その時だった。レーダーに未確認飛行物体のランプが点滅した。

 なんだ? これは?

 ミキはすぐ、別の機のパイロットに無線で確認をした。

「二時の方向に未確認飛行物体を確認。そちらでも確認できるか?」

「まあな」

 必要だと思われる質問をしても、仲間のパイロットは、曖昧な答えしか返さなかった。

やはり、自分はこのチームのパイロットには認めて貰えてないのだと確信すると、なんだか悔しい。軽くみなされるのは慣れているが、今はそんなことを言っている場合ではない。プライドがあるのはわかるが、対処が遅ければそこに待つものは『死』なのだ。

 ミキは再度忠告しようとすると、横割りの無線が入った。

「ああ。私も確認した」

 どうやらミキの無線を聞いていたらしい。管制塔のミュンホだった。

「こちら司令室からだ。非常事態発生。未確認飛行物体だ。しばらく様子を見ろ!」

 ミュンホからの厳しい口調で通信が全機に入った。他のメンバーも、いくらミキが気に入らないからといって無視はできない。長官から直々の命令なので、即刻返答をするしかなかった。

「ラジャー!」

 一斉に声をあげて、戦闘態勢に入った。

 現在、エドワードの仲間は九機いた。けして少ない数ではない。相手がどんなヤツから知らないが、こちらのレーダーに感知されていると言うことは、相手側にもミキを含む仲間の機が九個のランプとなって相手にも認識されているはずだ。

 もし、この相手が敵だとしても、レーダーに映っている数は一つ。

 九対一では、よほどの秘策がない限り、攻撃は仕掛けてこないだろう。場合にもよるが、この分だと、ミキの軍に分が多い事は明白だった。こういった場合、相手が攻撃をしかけてこない限り、偵察だけでどこかへ姿を消すまで未確認飛行物体を観察するのが、セオリーである。

 ミキは、未確認飛行物体と、ある程度距離をおきながら様子を見ようと低空飛行へと移ろうとした。スロットルを倒して、首尾を下げる。高度計を見ると、少しずつ高度は下がり、他の機もまたミキに習い、低空飛行する機と上空飛行する機にわかれて、要観察体勢に入ろうとしていた。

 ズドン!

 それは突然だった。

 すざましい爆撃音と共に、煙が立ちこめる。煙と雲で前方が見えない。ミキはすぐにレーダーを確認し、後尾モニターのスイッチを入れると、仲間の機が一機、煙をあげながら高度を下げていく風景が目に入った。

 襲撃だ。

 敵の機は、こちらの戦闘機の数をものともせずに先攻を仕掛けてくるのだから、相当攻撃力に自身があるのか、何か秘策があるのかもしれない。

「ブーメラン、大丈夫か?」

 管制塔からの無線で、緊迫したミュンホの声が響いた。

 ブーメランとは、追撃された仲間のコードネームだ。戦闘中は名前で呼んだりはしない。敵にパイロットの名前を知られない為だ。

「つ、翼を一部やられました。大丈夫です」

「なら自力でもどれ!他の機はブーメランを援護しろ」

「長官、こちらから攻撃はしないのか?」

 ミキは早口で問いかけた。

「攻撃できるものならやってみろ。但し、お前の機体には、まだミサイルを積んでいないんだからな」

「ミサイルを搭載してないって? でもちゃんと翼の下に積んでるじゃないか!」

 ミキの問いに答えるように、アドルフから通信が入る。

「すいません。言い忘れていたのですが、そこにあるのはミサイルのバルカン砲のカバーだけで、中身は空なんです。実はまだうちの基地に部品が届いていなくて……」

「なんだって?」

「悪いな。まさか訓練中に戦闘態勢に入るとは、私も予測をしていなかったからな。とにかくそうゆうわけだ。今日のところは、深追いはやめておけ」

 ミュンホ長官が命じている最中にも、敵の機体からミサイルが連射される。

「長官、オレの機にミサイルがなくても、他の機からは攻撃できるだろ?」

 言っている側から、敵は攻撃を仕掛けてくる。幸いにも味方の狙われた機は上手くかわし、ミサイルは当たらなかった。

「このまま基地に帰ってか?やられっぱなしじゃ、舐められるだけだろ!」

 仲間の機はやられたのに、一方的な敵の攻撃に何もやり返せないとはあまりに悔しい。

ミキの脳裏には、あの時の悪夢が蘇っていた。

to be  continued……

Chapter3:襲撃 1


訓練三日目。

ミキが整備を手伝った甲斐もあり、ようやく基地に来て初めて自分に当てられた専用戦闘機を飛ばすことができた。

今日の訓練は、基地にある四本ある滑走路をすべて使い、速攻離陸の訓練を中心に行う。

ミキはあれからぐっすり眠ったおかげで、調子はよかった。アドルフに起こされて、いったん自室にもどってシャワーを浴びると、専用のパイロットスーツに身を包む。前身頃のジッパーを上げると、身が引き締まる思いがした。

さっそく格納庫にもどり、ヘルメットを装着して操縦席に乗り込む。エンジンにスイッチを入れ、ゆっくりとレバーを倒して前進させる。滑走路までゆっくりとした動きで操縦すると、緊張してグローブにぐっしょりと汗をかいた。

エンジン全開。

ゴゥと戦闘機のジェット音が、心地よい振動と共に操縦席まで鳴り響く。あとはもう身体が勝手に動いていて、気がついた時は、ミキはすでに上空一千メートル彼方の雲の上だった。

無線でアドルフが呼びかける。

「調子はどうです?」

ミキは油圧計、高度計を瞬時にチェックし、明るい声で返答した。

「ああ。初めて飛ばした割りには調子がいい。今日は晴れて環境もいいしな。今度は天候が悪い時に飛ばしてみたいけど」

「そうですか。よかった。でもまだ第一回目のフライトなので、あまり無茶はしないでくださいよ」

「ああ……わかってる。適当にとばして、宙返りと低空飛行を試してみるよ」

「そうですね。後でどんな調子だったか教えてください。エンジンの微調整は、実際に飛ばしてみないとわからないものだから。パイロットのクセや好みもありますしね」

へぇ。コイツよくわかっているじゃないか。

ミュンホ長官が言っていた事はまんざら嘘でもないらしい。まだアドルフと組んで間もないが、押しつけがましいところは全くなかった。むしろ自分好みに合わせようとしてくれる気持が嬉しい。腕の立つ整備士の中には、熟練の自分の腕を過信するあまり、パイロットの好みや飛び方をまったく聞き入れてくれない輩もいる。

ミキ自身も、何度かそんな整備士と組まされ、自分の思い通りの飛行ができなくて、イライラした事も一度や二度ではない。確かに整備をするという観点では間違っていないのだろうが、戦闘機はもっとデリケートなものなのだ。

マッハ単位のスピードの中では、〇・一秒の操作が命取りになる。もちろんパイロットの腕にもよるだろうが、そのパイロットの腕を十分出せる整備をする者こそ、整備士の資格を名乗るべきだというミキなりの持論があった。そうゆう観点からすると、アドルフの整備に対する姿勢は及第点と言ったところだろうか。いいや、及第点どころか、初めて会った整備士に、ここまで好みの調整をしてもらえたことに、喜びを隠しきれない。思わず口笛を吹きたくなる気分だ。ミキは思っていたより、アドルフと相性が合いそうなのかもしれないと、心の中でほくそ笑んだ。


to be  continued……


Chapter2:戦闘訓練 6



アドルフが操縦席の内側の壁に貼られたメモを一つ一つ確認しながら見ていると、その中に、一枚だけ写真が貼られているのに気づいた。

パイロットにとって、操縦席は自分の城だ。自分担当の機に、パイトッロが操縦席の内壁に写真や落書きをするのは、昔から暗黙の了解で許されているところがある。

アドルフの職業のように、同じ軍属で同じ基地に勤めていても、パイロットの方が、地上勤務に比べて何十倍も危険度は高い。

もちろん、賃金の中には危険手当なるものが軍からは支給されてはいるが、いくらお金を貰ってみても、一旦戦闘が始まり、いざ実戦になるとそんなものは皆無に等しい。戦闘機のパイロットにとって、一旦戦闘が始まると、命を張って国を守る指名があるからだ。

もしも戦闘に敗れて、最悪な事になったとしても、地上一千メートル以上の高度で何かあったら、助かる見込みはかなり低い。せめて最後に目にするものは、愛する恋人や家族の写真をと、いつの間にかコックピットの中はそんなルールが出来上がっていた。

ミキぐらいの歳だと、よく恋人の写真を貼る者は多いのだが、貼られた写真はあきらかに恋人ではないようだ。遠目でよくわからないけれど、かなり古いものらしく、写真の端はすり切れている。

(……大事なものなのかな)

アドルフがもっと詳しく見ようと操縦席に上半身を乗り出した。写真を見ると、まだ幼い子供のようだった。

一人はミキで、もう一人は……。 アドルフは内壁に貼られた写真を見て驚いた。

一瞬、自分かと思った。

だが、自分はミキと会ったのは、たった三日前が初対面だ。もしかして子供の頃にどこかで会った事があったのだろうか?

アドルフはしばらく考えたが、自分にはまったく、心当たりはなかった。眠たい目をこすり、もう一度よく確認する。よく見ると自分ではない。

写真の中の子供は、自分の幼い頃によく似てはいるが、二人とも、瞳の色がミキと同じ金色だったからだ。

 もしかして……兄弟?

アドルフは思いをめぐらす。

ミキの家族構成や育った環境は聞いたことがなかった。まだ基地にきて日が浅いせいもあったし、プライベートな事を元々人に話さない質なのかもしれない。もっとも、自分の事もミキに話した事はないので、それはお互いなのだが。

おそらく、写真の子供は、ミキの兄弟だろう。背は同じくらいだから、年の差はあまりなさそうだ。もし、彼の兄弟だったら少し羨ましい気がする。



「……ごめん……オレのせいだ」

ミキの寝言が聞こえる。

「ミキさん……?」

じっとみていると、ミキの頬を涙が一筋こぼれ落ちた。悲しい夢でもみているのだろうか?どこか寂しげで、切ない口調で謝られると、アドルフは起こしてあげたほうがいいのか悩む。

腕時計を確認すると、夜明け前三十分ほどだった。起こそうかとも思うが、ミキが寝付いてからまだそう時間は経っていない。

彼女はどんな夢をみているのだろう。切なげに謝り、涙まで流すミキが、とても気になる。少し可哀想にも思うが、アドルフはこのままミキを寝かしておく事にした。



「ミキさん……」



なぜ泣いているんだろう。アドルフは心配げにミキの顔を覗き込み、頬を流れる涙を、そっと手の甲でぬぐう。もっとミキの事を知りたくて、仕方がなかった。


to be  continued……







Chapter2:戦闘訓練




 辺りは静かになった。

……はぁ。

思わずため息をつきたくなるが、別の見方をすれば、信頼されているということか。

夜明け間まであと三時間。やることは、まだまだたくさんある。

アドルフは気を引き締め直し、作業にとりかかった。一人黙々と作業する。広い格納庫では、自分以外の気配がないと、こんなにも寂しいものだったろうか。今までそんな風に考えた事はなかった。・

これまでも夜中に一人で格納庫で作業する事は何度もあったが、今夜のように誰かと一緒に作業する事はほとんどなかった。

今夜は楽しくて仕方がなかった。やっている事はいつもと同じ事なのに、誰かと一つの作業をするのが、こんなに楽しいものだなんて思いもしなかった。

単に一緒に作業する相手がいたからか、手伝ってくれた相手がミキだからそう思えたのかは、まだアドルフはわからなかったけれど。

 アドルフは、最後のボルトを締め終わり、作業が終わった事をミキに知らせようかと、キャノピーの開閉ボタンを押した。

強化ガラス製のキャノピーが開くと、ミキは操縦席を平らにしたまま、無防備な顔をして熟睡していた。作業が終わったら教えてくれと言われていたが、こんな寝顔を見ると、それも躊躇われる。

 きっと疲れているんだろうな……。

ミキの顔をじっと眺めると、本当に気持ちよさそうによく寝ている。

こうしてみると、起きている時は気がつかなかったけれど、時折ゆれる金色の長い睫毛も、少し開けたピンク色の唇も、作業服の襟元から見える細い首筋も、透き通った白い肌も、とても美しかった。

先日、大浴場でミキを見かけた時も綺麗だと思ったが、それは、女性の特有のトレードマークの長い髪の毛を頭の上でまとめていたせいだからだと思っていた。だが、こうして見ると、その場の臨場感やゼスチャーではなく、細かい体や顔のパーツ、どれをとっても綺麗な人なのだと改めて思う。

「……うん……待って、待って……」

寝言だろうか。

ミキの顔から、操縦席の内側の壁に視線を移すと、すでにメモがあたり一面に貼られていた。きっと計器やレーダーの扱いについて、自分なりに研究した結果なのだろう。

『鋼の心をもつエースパイロット』の称号を、意のままにし、一見、何も努力などしていない風なのに、ミキは意外にも、ちゃんと勉強し、努力しているところはしているではないか。それなのに、当のミキは、他人にはそんなところは微塵も人にみせない。

アドルフは感心すると同時に、そんな恥ずかしがり屋なミキに好感を持った。


to be  continued……



Chapter2:戦闘訓練



アドルフが視線を感じて見やると、ミキが、かがんだ姿勢で機の腹にいる自分を見ていた。

「どうかしましたか?」

ミキはぼんやりしていた様子から一転、慌てて返事をした。

「いいや……なんでもない。他に何か手伝う事はないか?」

「そうですね……あとは僕一人の作業なので、格別は……。眠かったら宿舎に戻ってもらっても」

「いいや、毛布も持ってきたから、寝るのなら今夜はここで寝る」

 当たり前のような顔をして、ミキは格納庫の端に丸めておいた毛布を取りに行った。

 本当にここで寝るつもりだろうか? いくら軍人でどこでも寝られる訓練をしているといっても、今は訓練でもない。少しは女性だという自覚はないのか? 

「でも、いくら毛布があっても、ここはけっこう寒いですよ。それに……」

「それに?」

「つ、疲れも取れないし……」

 アドルフは取り繕ったように言葉を足した。

「大丈夫だ。自慢じゃないが、俺はどこでも寝れる。アドルフには迷惑をかけないようにするから、今夜はここに泊まらせてくれ。少しでも早く新しい戦闘機になじみたいんだ」

「……そうですか」

 アドルフはそれ以上なにも言えなかった。

 確かにアドルフは仕事中だとはいえ、夜中の格納庫にはミキと二人きりだ。アドルフは、今のところ、ミキには紳士な態度をとっているので、警戒されていないのはよくわかっている。だが、偶然だとはいえ、ミキの全裸を見ていたわけだし、アドルフだって若い男なのだ。疚しい心がまったくないとは言えない。

 逆に言えば、ミキにもアドルフの裸は見られているわけで、あんな後に夜中の格納庫に二人きりで寝るというのは、どう解釈していいのだろう。

(僕は男として見られていないのか? もしくはよほど信用されているのか?)

 アドルフは思考を巡らせながら、毛布を抱えてコクピットの階段に手を掛ける神酒の姿を見ていた。

 アドルフは腕時計を確認すると、すでに夜中はとっくにすぎている事に気づいた。

ミキの気持は嬉しいけれど、彼女は大事なエースパイロットだ。自分の煩悩な考えで、明日の訓練に差し障りがあってはならない。

「じゃあ、今のうちにコクピットの中で仮眠しておいて下さい。あと三時間もすれば、夜は明けます。」

「いいのか?」

「ええ、もちろん。あとはそんなに作業はないですし。寝不足でミキさんがちゃんと飛べない事の方が、心配ですから」

「そうか?悪いな。最後まで手伝えなくて」

「とんでもない。とても助かりましたよ。ミキさんが起きるまでに、終わらせておきますから」

「終わったら、教えろよな。じゃあ……お休み」

「お休みなさい」

ミキはアドルフに薦められるまま、ミキはコックピットに上がり、キャノピーを押し上げる。しばらく、がさごそと身動きする音が聞こえたが、やがてしなくなった。



to be  continued……


Chapter2:戦闘訓練



夜中の格納庫は寒い。

本格的な冬はまだ先だが、朝夕ともなるとしんと冷え込む。じっとしていると寒さで手がかじかむ気がしてミキは積極的にアドルフの手伝いをしようと申し出た。

「他にやる事あるか?」

「すいません。じゃあ、そこの工具箱からスパナとレンチを取ってください」

「これか?」

「レンチは一番小さいやつ」

「わかった」

勝別、言葉を交わすわけではないけれど、なんとなく二人で一つの作業をしているのかと思うと単調な作業でも楽しく思えてくるから不思議だ。

ミキは出来る範囲で手伝いをしようと、アドルフに言われるまま、工具を手渡したり、手伝いの合間に、計器やレーダーの見方や使い方を取扱説明書を広げては、一つ一つ確認していく。

あっと言う間に時間は過ぎていった。

「ミキさん、コックピットに戻ってちょっとスロットルーレバーを引いてもらえますか?」

「わかった」

ミキは補助ハシゴを登り、キャノピーを開けて操縦席につくと、レバーをひく。

「こうか?」

「ええ、しばらくそのままでお願いします」

ミキはレバーを固定すると、他にアドルフの手伝いができないものかと、操縦席から外に出た。

アドルフはエンジンのカウリングを外し、冷たい床の上に薄いマットを引いた上に仰向けにねそべり、スロットバルブの調整をしている。

力を込めてスロットバルブを締める度、アドルフが時々唇をかみ締める仕草を見ると、ミキの脳裏には恋人の姿が蘇った。

恋人のモルダーもよくそんな仕草をしていたものだ。

一つ年下の幼なじみで育ち、小さい頃はミキの方が体も大きく何でもできたが、負けん気だけは強かった。

めったに我が儘は言わないヤツだったが、言い出した事はガンとして譲らない。自分が出来ると思っていてもできない事があると、唇が白くなるまでかみ締めて、ぐっと泣きそう顔を我慢する。泣き虫なクセに、理不尽なことがあると絶対揺るがない自分を持っていた。いつもミキが守ってやるのが常だったのに。

いつの間にか、背を追い越され、気がつくと好きだと告白されていた。最初は弟としか見れないから無理だ。と断ったのに、モルダーは、なかなかミキを諦めなかった。いつの間にか、情にほだされ、ミキもモルダーを男として意識してからは、ミキもすっかり頼れる男になっていた。

オイルとガソリンの油汚れにまみれながら、スパナを握りしめ、一人奮闘するアドルフの姿は、なぜだかそんな恋人の顔を思い出させた。




to be  continued……


とうとう終わってしまいました。

本誌は読破済みだったので、納得しながら見たという感じでしたが、ラスト1話は、けっこうひっぱりましたね。

言い方をかえれば、丁寧に作ったという感じ。

牛さん、スタッフさん、お疲れ様でした!


ラストで写真で未来予想? するようなシーンがありましたが、スカーとマイルズが一緒に写っているのを見て個人的に萌えてしまいました。(理由はちょっと伏せてみる)




例えばマイルズ→スカーなんだけど、スカーは亡くなった兄が忘れられず僧なので最初は拒否。(スカー兄弟も仲がいいからね!是非とも兄想いな線で;笑)でも、一途なマイルズな想いに次第にほだされて……なんてネタを瞬時に思いついた。マッチョで赤い瞳の2人のからみってどうよ?




貴腐人の妄想力はすごいぜ……!(苦笑)

この話はまあいいとして。


それよりびっくりしました。

鋼劇場版やるんですね。

わーいい……!!!

キャストはアニメ2期と同じメンバーなんでしょうか?

出来れば音楽は大島さんでお願いしたいところ。(ブラーチヤが忘れられない)

鋼の連載終わって、ガンガン買うのを止めようかとおもってましたが、これじゃ止められないよ。(苦笑)

劇場版、期待大!です。