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一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

第三章 


  6


 オスカーの火傷は、酷いものだった。
 着ていた洋服の一部が肌に焼き付き、一部ケロイド状にただれていた。
 腕と手の神経には影響はなさそうだったが、完治するのに約一ヶ月はかかると言われ、火傷の痕が残るだろうと言われた。怪我は火傷だけでなく、他にも背中や太股には打撲の跡があった。
 こちらは十日から二週間で治るだろうと言われたが、精神的ショックも大きく、しばらく入院生活が余儀なくされた。
オスカーは、必要以外、誰ともしゃべろうとはしなかった。
マーロウやルイズが面会に来ても、挨拶代わりに頭だけは下げたが、虚ろな目をして話を聞いているのかどうかもわからない状態だった。
 唯一、オスカーはアルフォンスとだけは会話をするというので、多少、ルイズとマーロウは胸をなで下ろしたけれど、ピアノのコンクール前の出来事というのが悩みの種だ。
「せっかく良い調子できていたのに。これで今回のコンクールに出場するのは難しいだろう」
 これはオスカーを教えるのに関わった指導者がみな口にした言葉だった。 だが、次に出てくるのは「彼はまだ若い。火傷が治ってからでもまだ先がある」そう解釈して楽観視するものも多く、なぜオスカーが火傷を負ったのか? と追求する者は思ったよりも少なかった。
 オスカーが理由を誰にもしゃべらなかったというのも大きいかもしれない。 あるいは、判っていても学園内で度を超したイジメがあるということが表面化すると、学園側でも都合が悪いという事もあるのかもしれない。
 世の中間違っている。なんとかならないものかと、アルフォンスはやきもきしていたが、ああいう事件は現行犯を捕まえない限りは、解決するのは難しいらしい。
 アルフォンスには、おそらくあの時の集団の誰かがやっただろうと予測はつくものの、遠目に後ろ姿しかみておらず、決定的な証拠でもない限り、ああいう輩はしっぽをつかませないだろう。
 もっと早く自分が気づいていれば。
 あの時、声をかけていれば。
 そんな後悔が胸一杯に広がって、オスカーを見舞いにくる度にやるせなくなる。
「ねえ、オスカー。ボクにだけでいいから、誰か教えてくれない?」
 何度となくオスカーに尋ねてみたが、オスカーは首を横に振るだけで、答えようとはしなかった。
 もしも名前を言ったら、アルフォンスが復讐するかもしれない。そう杞憂しているのだろう。だいたいオスカーよりも年下のアルフォンスが、一人で向かっていってやられる相手ではないのだ。
 もし、刃向かったとしても今回のような怪我だけでは済まないかもしれない。最悪、ピアニストとして大事な腕や指の腱や神経を痛めでもされたら、それこそ申し訳が立たない。
オスカーは誰にも犯人の名前を上げようとはしなかった。


to be  continued……


第三章



 そうだ。ここから覗けば見つかるだろうか。
屋上を探しに来た時だった。今いる建物は学園内では一番高い建物だ。学園内の全部が見えるわけではないけれど、多少見込みはあるかも。
アルフォンスは四方金網で囲まれた屋上から、目をこらして下を覗いてみたが、下を見下ろしてみてもあの怪しい集団は見あたらなかった。
段々と日も落ちてきた。早くしないともっと見付けづらくなる。
オスカーは一体、今、どこにいるのだろう。もし、自分が逆の立場だったら……考えろ。
アルフォンスはじっと双眸を閉じた。
かすかにきな臭い匂いがする。目をあけると、遠くに煙りが立っていた。
 あれは焼却炉か?こんな時間に掃除をするのも変な話だ。
 アルフォンスは急いで焼却炉の方へ向かった。
焼却炉の側までくると、誰かがその前でうずくまっていた。すでに薄暗くなっていて、誰だかよくわからない。
「あの、どうかしましたか?」
 少し遠くから声を掛けてみたが、腕が痛いのかうめき声だけしか戻って来ない。もう少し近づくと、うずくまっていたのはオスカーだった。
「オスカー!」
右腕が痛むのか、左手で押さえて地面に転げ回っていて、近くには楽譜がばらまいてあった。
「大丈夫? 何をされたの?」
 慌ててアルフォンスがオスカーに近づくと、焦げ臭い異臭が鼻をついた。 見ると押さえた右腕が赤黒くなっている。すぐに火傷だと気づいたアルフォンスは、火の始末に用意してあった水の入ったバケツを見付け運ぶと、寝ころんで痛がるオスカーの腕ごとバケツにつっこんだ。
「痛てぇ! 痛てぇ!」
 オスカーは、眉間に皺を寄せながら堪えていたが、アルフォンスにはこれ以上何もできない。
「ごめん。しばらく我慢して。すぐに人を呼んでくるから」
 アルフォンスは救急車を手配してもらうべく、事務室へ走った。




to be  continued……


今日は、以前から楽しみにしていた鋼の錬金術師劇場版の舞台挨拶に行ってきました。

映画館についたらすでに長蛇の列。

すでに座席は決まっているので、とりあえず飲み物買って……と、売店に行ったら、カップも鋼。

こんなに量飲めなくても、ついつい欲しくなっちゃうよねー。(笑)


一期一会-20110703


もちろん、11.5巻も入手。


で、映画の感想ですが――

あんまりネタバレはしたくないので、詳しくは書きません。

が、脚本がホワイトアウトやアマルフィで有名な真保裕一さんだけあって、アクションシーンが凄かった……!

舞台が西のせいか、オリキャラ中心。

軍部もメインは大佐とホークアイぐらいしか出てこないし、ホムンクルス軍団やリンも出てきません。

まあ、設定上、しかたないんですがね。

でも、代わりに荒川先生の書き下ろし漫画11.5巻で多少はカバーできるかな。

11.5巻は必読です。


映画上映も終わり、いよいよ舞台挨拶。

2日目、最終回の舞台挨拶は、村田監督、朴さん、釘宮さんの3人の出演でした。

司会のお姉さんに紹介されて現れた朴さんは髪をボブにして、黒のワンピース姿。

釘宮さんは、白のワンピースで現れました。

朴さん、黙っていれば美人さんでキレーなのに、会場挨拶でテンション上げ上げの「おーっ!」と挨拶。

対して釘宮さんは、めっちゃ声がかわええーーーー!!

舞台挨拶の内容は、挨拶、司会者の質問をそれぞれ3人の立場で答えるというもの。

監督は真面目に質問に答えていましたが、朴さんの番になると、答える前に「質問思いついたのですが、いいですか?」と、逆に質問したり。

(*質問の内容については、ネタばれ含むので、書きませんが)

本日3回目の挨拶になるというお三方は、ずっと車で異動。

車中、寝てきたのでしきりに「噛んでですいません」と朴さんも釘宮さんも謝罪されていましたが、ファンとしては滞りなくおしゃべりされるより、むしろ親近感が。

ふふふ。釘宮さん、噛むとこれまた可愛いんだ。

本日おっかけで3回あった舞台挨拶全部ついて回っているファンもけっこういらして、びっくり。

筋金入りだね!

退場の際には、会場の通路を大回りして目の前を通っていかれました。

間近でみると、朴さんも釘宮さんも細い……!!

思わず「これからも頑張ってください!」と声をかけると、朴さんが笑顔で手を振ってくれました。

はぁ~。いいもん見せてもらった。


個人的には、今回の劇場版より、シャンバラの方が好きです。

なぜなら、腐女子目線でいう萌えポインツが多いから。(苦笑)

でも、充分ミロスも魅力的な作品でした。



第三章


  4


 数日後。

 アルフォンスがピアノ科の棟へ向かおうと、学園内の裏庭を通って行った時のことだった。
 学生数人が、なにかを囲むように歩いていた。
 なんだろう?
 おそらく取り囲んでいるのは上級生だ。何か中心に彼らの注意をひくものがあるのだろうが、あいにく体格のよい上級生の向こう側にあるものは、アルフォンスから確認できなかった。
 それでも中心にいるのは、モノでもなく人のようだ。上級生の足元を見ると、誰かの脚が確認できたけれど、それだけだ。
 アルフォンスは気にもとめずに、ルイズのピアノの補習を受けようと練習室に向かった。
練習室に入ると、すでにルイズはスタンバイ済みで、腕組みをして椅子に座っていた。
「遅れてすいません」
「まだ開始時刻前だから、かまわんぞ。オスカーはどうした? 一緒じゃなかったのか?」
「いいえ」
 練習室内にある壁時計を見ると、開始時刻よりまだ十五分ほど前だ。オスカーは予定時刻、ギリギリにくることも多いので、今ここにいないのはそう不思議でもない。
 アルフォンスはピアノの前に座ると、簡単に指のトレーニング用の曲を流して弾き始めた。
「そろそろ始めるか?」
 ルイズが言い出したのが、練習開始時刻を二、三分過ぎたところだった。
「オスカーは遅刻か?」
 ルイズに言われて、アルフォンスははたと気づいた。
 もしかして、先程学生が取り囲むように歩いていたのは――。
 嫌な予感がする。アルフォンスは突然「すいません。心当たりがあるのでちょっと失礼します」と立ち上がった。
「おい、心あたりとはなんだ?」
 ルイズに聞かれたが、事実を知らないので、返事のしようがない。それよりも、一刻も早く確かめなければ――。
 返事をしないまま、ルイズの声を背中に聞きながら、アルフォンスは練習室を飛び出すと、誰もいない廊下をひたすら走った。
 あの学生達は何かを取り囲むように歩いていた。
 その中心にいたのはもしかして、オスカーではないだろうか。
 もし、そうだったとしたら……?
 アルフォンスは心配だった。
 以前からオスカーがイジメにあっていたのは知っていたのに、なんであの時気づかなかったのだろう。
 裏庭についたアルフォンスは、急いであたりを見渡したが誰もいなかった。
 たぶん、誰かを虐めるとしたら死角になるような場所だろう。
 思いつく限り、アルフォンスは探し回った。講義室を順番にまわり、校舎の裏、開いている練習室、建物の屋上まで。けれどオスカーは屋上まで来ても、見あたらなかった。

to be  continued……

メールチェックしたら、東京創元社からでした。


え? もしかして吉報か?


わくわくしながら開いたら、「ミステリーズ! 新人賞」の二次落ちのお知らせでした。


あーあー。


密室の失せ物短編で、本格推理を意識した作品にしたつもりだったんだけど。


まあ、簡単には受からないよなぁ。残念!


しかし、落ちてもちゃんと連絡頂けるなんて、丁寧な出版社だなぁ。


普通は連絡くれるとこなんてないのに。


次回も頑張ります!


第三章


 3


「そろそろ決まったか?」
 オスカーとアルフォンスは泊まりがけでコンクール用の曲を研究し、とりあえず曲を決めてきた。ルイズに曲名を聞かれた二人は、すでに楽譜も手配済みで、ルイズに選んだ楽譜を手渡した。
「オスカーがラフマニノフのピアノ協奏曲二番ハ短調で、アルフォンスがショパンの幻想即興曲か。二人とも難易度が高いのを選んできたな」
うむ。と唸りながらルイズは答えた。
「楽譜も用意してあるようだから、とりあえずは弾けるんだろう?」
ルイズが言うと、黙ってオスカーがピアノの席に着いた。譜面立てに楽譜を置くわけでもなく両手を鍵盤の前に構える。一呼吸すると、バーンと高らかな音をたててピアノを弾き始めた。
ゆっくりとした動きからやがて細かい十六分音符のアダージュ。まだ完全に仕上がっていないだろうが、それでも聴く者を十二分に曲に引き込ませてゆく。全部演奏すると八分もかかる長い曲だというのに、時間を感じさせない。すでに暗譜済みらしく、余裕さえ感じられた。
全部弾き終わると、側で聞いていたアルフォンスは思わずほぅ。とため息をついた。
「まだ曲が決まったばかりなのに、よく弾きこんでいるな」
 さすがのルイズも意見せずに素直に褒めた。
 アルフォンスもここまでオスカーが弾けると思っていなかった。選曲し、楽譜を手に入れた時間は、わずかだ。この時ばかりは、オスカーの才能に嫉妬するどころか、憧れの眼差しで見つめ、思わず拍手をしていた。
「凄いよ! 凄い」
 その時だった。練習室のドアをノックする音が小さく聞こえた。防音室になっている練習室は、他のドアとくらべると、ノックしても音が小さく聞こえる。
「誰だ? 入れ」
 ルイズが返事をすると同時に、ドアの入り口にいたアルフォンスがドアを開けた。
「失礼します。ルイズ先生、電話が入っているそうです」
 先輩らしい学生が一人、練習室に入ってくるなり用件を述べた。
「ああ。知らせてくれてありがとう。手間をかけたな」
ルイズは連絡してくれた学生に礼を言うと、オスカーとアルフォンスに向かって「たぶん旦那からだと思う。練習中は携帯の電源は切ってあるしな。ちょっと自主練しておいてくれ」と言い残し、練習室を去って行った。
「今のは誰が弾いていたんだ?」
 イズミに用件を言いに来た学生は、アルフォンスに向かって尋ねた。「今のはオスカーさんです。凄いですよね」
 まだ興奮が冷めやらない調子でアルフォンスが答えると、学生は日和った表情をした。
「オスカーって、あのオスカーなのか?」
 良くも悪くもオスカーは有名らしい。オスカーの方は先輩知らない様子だが、先輩はそうではないようだ。
 おそらくルイズを呼びに来て、オスカーの演奏を聴いたのだろう。演奏しているのはルイズと思っていたに違いない。
「オレに何か用ですか?」
 椅子から立ち上がり、オスカーが入り口に近づくと、「いや別に用は……」とその場にいるのがいたたまれないのか、足場やにその場を去っていった。
「さて、お前の番だ。聴かせろよ」
 アルフォンスも負けてはいられないとピアノの前に座ると、弾き始めた。


to be  continued……


第三章




「気持ちいいくらいの食欲だね」
「美味かったぞ。お前、料理が得意なんだな」
 オスカーは、心底感心したようだった。苦学生だし、、自炊は基本だと、必要に迫られてやっているようなものなのだ。アルフォンスは改めて言われると、恥ずかしいけれど嬉しかった。
「そんなに得意というわけじゃないんだけど、自炊しないとお金かかちゃうし、苦学生としては必然かな。シチューはたまたま母直伝で習ったしね」
「へぇ。お前の母さんてどんな人?」
「自慢の母さんだよ」
 アルフォンスは席を立つと、棚の上にあった母親の写真を自慢げにオスカーに見せた。
「アルは母さん似なんだな」
「……そうかもしれない。小さい頃から目元が似てるとは言われたけど」
 大好きな母に似ていると言われて、悪い気はしなかったが、少し照れくささい。アルフォンスは、照れながらも、母の話をした。
「うちは母子家庭だから、生活は慎ましくて食事も豪華なものは食卓には並ばなかったけれど、シユーだけは特別。母も思い入れがあるみたいでね。よく作ってくれたから」
 アルフォンスは、母親が亡くなったもう一人の息子の事をシチューを作る度に「シチューはお兄ちゃんが大好きだったのよね」と言うのを思い出していた。
「いいな。母親だけでも家族がいるなら」
 ぽつりと言ったオスカーの表情は、どこか寂しげだった。
 そう言えばオスカーは、マーロウ教授の家に下宿していると言っていた。家族の話は聞いた事がなかったが、今の話しぶりだと、オスカーには家族が誰もいない事になる。尋ねてよいものかアルフォンスが考えあぐねていると、オスカーが先に口を開いた。
「オレ、孤児なんだ。小さい時に大きな事故に巻き込まれて両親は亡くなったらしい。物心ついた時には施設で生活していたから、家族の記憶ってモンがないんだよな……」
「そうなんだ」
 今までお互い家族の事は口にした事はなかった。
 一見、オスカーは勉強もピアノも優秀で、羨ましいとまで思っていたのに。彼は彼なりの悩みと事情があるのだ。
 それを考えると、自分には母親がいる。多少、経済的には苦しく、父親の記憶はほとんどないけれど、片親だけの記憶があるのはまだ幸せな事なのかもしれない。
 アルフォンスは、急にオスカーの事が心配になった。
 彼は生まれてからのほとんどを、一人で生きてきたのだ。確かに施設やマーロウ教授のように彼の面倒を見てくれる人はいたとしても、精神的な部分では、幼い頃から自立しなければならないところが多かっただろう。少なからず一人暮らしをしているアルフォンスには察しがつく。
 寂しかっただろうな。と考えると、少しでもいいから彼が幸せになれる手伝いをしたいと思った。年下の自分が言い出す事でもないけれど、精神的な部分でも支えになれればいい。そう思ったら、つい口に出ていた。
「家族が欲しい?」
「え?」
「オスカーには家族がいないんでしょ。ボクでよかったら家族になるよ」
「お前が……家族?」
「うん」
 アルフォンスの言葉を聞いたオスカーは、嬉しそうに微笑んだ。
「サンキュ」
 結局、その日は夜遅くまで、ピアノや音楽について語り合い、オスカーはアルフォンスの部屋に泊まって行った。

to be  continued……


第三章



「アル、こっちの楽譜の解釈の方がよくないか?」
「本当? なるほど。そうかも。ここはやっぱりオクターブ下のほうが、ボクも好きだな」
「だろ?」
 オスカーとアルフィンスは顔を見合わせると、どちらともなく嬉しそうに微笑み合った。
 あれ以来、コンクールの教官が同じ担当者という偶然から、二人は急速に親しくなっていた。
 あいかわらずイズミのレッスンは厳しいものだったが、二人は上手くなりたい。認められたい。と言う気持はお互い同じだったし、同じ編入生同士だという境遇が違和感なく二人を親しくさせた。

 ルイズの講義が始まって明日で一週間になる。そろそろ自由曲を決めねばならない時期になっていた。
 先程から思い当たる楽譜を並べ、作曲家順や、編曲者順にならべたりして二人はお互い意見を言い合う。こんな時間がとても楽しくて仕方がなかった。
気がつくとすでにかなりの時刻が過ぎており、当たりは真っ暗になっていた。
「なあ、腹が空かないか?」
 先に言い出したのはオスカーだったが、それに同意してどこかに食事に出る? と提案したのはアルフォンスだった。
 けれど、だが、提案したのはいいが、苦学生のアルフォンスは食事にあまりお金をかられない。ならばウチに来る? とアルフォンスが誘うと、オスカーは二つ返事で付いてきた。
オスカーがアルフォンスの部屋を尋ねるのはこれで二度目になる。だが、前回は怪我をしていたし、長居はしていなかたので、実質、部屋を尋ねるのは今日が初めてのようなものだった。
 アルフォンスは手短にあった材料でシチューとサラダを作って振る舞った。
 オスカーは目をまんまるくして言った。
「お前、どうしてオレの好物がわかたんだ?」
「好物なの? よかった。たくさん作ったから食べて」
 好き嫌いがあるかも尋ねなかったが、アルフォンスにとっては、シチューが一番得意な料理だった。
 材料を丁寧に切り、鶏肉と一緒にホワイトソースと一緒に煮込むだけ。
 アルフォンスも大好きだが、母の得意料理でもあった。いつも母が料理する横で、アルフォンスも見ていたので、手順はよくわかる。いつの間にか、母の得意料理が、アルフォンスの好物。しいては、得意料理になっていた。
 オスカーはアルフォンスが鍋一杯につくったシチューのほとんどを軽く平らげていた。


to be  continued……


第二章 



「お前もオレと同じか」

 疑うような眼だった。鋭い眼光を向けられ、アルフォンスは一瞬、たじろいだが、落ち着いて答えた。

「ええまあ。編入組という点では」

「じゃあ、ひとつ教えておいてやる。ここのやつらは最低だ。あまりかかわらない方がいいぞ」

 オスカーは苦汁に満ちた顔で言うと、楽譜を握りしめて練習室を出て行こうとした。

「あの……オスカーさん」

アルフォンスが声をかけると、オスカーは睨みながら振り向いて返事をした。

「オレの事は呼び捨てでいい。何か用か?」

 睨みながら言う割には、砕けたことを言う。名前を呼び捨てでいいなんて、解釈のしようによっては、もっと親しくなってくれ。と、言わんばかりだ。

 きっといくらオスカーに酷いことを言われても、こんな態度を取られると、アルフォンスは、芯からオスカーを嫌いになれないと思う。

 どこか寂しくて、でも、素直になれない――。

 アルフォンスには、オスカーの態度が、いじらしくさえ思えた。

「今度また家に帰りたくない事があったら、ボクの部屋にきてください」

「お前の部屋に?」

「ええ。狭くてベッドは一つしかないけれど、お店で寝るよりはいいかなと」

 もしかして自分は余計な事を言っているのだろうか。

 次第に心配になってく。段々とアルフォンスの声が小さくなった。

 マーロウからオスカーの相談に乗ってくれとは言われたが、具体的にどうすればよいのかわからなかった。

 オスカーと同じ編入組で、二十歳前後の他の学生からみれば十四歳のアルフォンスは体だって小さいし、さぞ子供に見えるだろう。それはオスカーも同じだ。たとえ二人がかりで反抗しても、勝てるかどうかわからない。

けれど、本当にイジメの対称になっているというのなら、少しでもオスカーの役には立ちたいと思うし、どうにかしてあげたいと思う。今はまだ具体的な方法も思いつかないし、勇気もないけれど。

 オスカーは少し驚いた顔をしていたが、振りかえるとアルフォンスに抱きつくと軽くハグをした。

「……ありがとな」

 彼は礼をいいながら、アルフォンスの背中をぽんぽんと軽く叩く。一瞬、オスカードの絹糸のような栗毛が、アルフォンスの頬をくすぐった。

「じゃあ」

オスカーはそのまま練習室を後にした。

 一人になったアルフォンスは、呆然と立ちつくしていた。

びっくりした。

 何だ? 今のは。

 びっくりしたのはオスカーの態度ではない。アルフォンスは自分の態度、気持に驚いていた。

 軽くハグされただけなのに、なんでこんなに心臓がドキドキしているのだろう。

 落ち着け。相手は自分と同じ少年じゃないか。

アルフォンスは顔を真っ赤にさせながら、心を落ち着かせようと深呼吸した。深呼吸しながら、もう一度、先程の出来事を頭の中でトレースする。

『ありがとな』

 耳元でオスカーに言われたたった一言が、ずっと頭の中でぐるぐるとリフレインしていた。

 お礼を言われるのがこんなに嬉しいなんて。彼の役に立ちたい。彼の為に何かしたい。他人に対して、こんな気持ちになったのは初めてだ。

「オスカー――」

 アルフォンスは心の中でオスカーの名前を繰り返していた。



to be  continued……


第二章 



残された二人は、しばらく黙っていた。

 アルフォンスはオスカーに声を掛けたいと思ったが、何から話せばよいか戸惑っていた。傷の容態はどうなのだとか、イジメの件はどうなのだとか。

 気にはなるけれど、きっかけがつかめない。

一方、オスカーの方も何か言おうとして口を開こうとしたが、声を出さなかった。朝、黙って居なくなった事をどう説明したらいいのか考えていたのかもしれない。

「あの……いいですか?」

 恐る恐るアルフォンスが口を開いた。

「ここの学生だったんですね」

 ぽつりと言うと、どうやらオスカーもきっかけを探してたらしい。ほっとした顔で「ああ。世話になったな」と言いい、少し照れ臭そうだ。

「覚えていたんですか? 心配したんですよ。朝起きたらいないし。怪我は大丈夫だったんですか?」

「見たのか?」

「あ、ごめん。寝ているのに悪いと思ったけど、痛そうだったから手当をしようと思って――」

 アルフォンスは言葉濁した。跡があるのは、何か訳があるに違いないと思うけれど、殆ど初対面の相手に、どこまで踏み言って尋ねてよいのかわからなかった。

 あの傷跡は、上半身裸にしないと見えないものだ。勝手に裸にしたのと、見てはならない秘密を、無理矢理覗いてしまったことをずっと悩んでいた。

「怪我は大丈夫だ。そのうち消えて無くなる。いつもの事だからな」

 オスカーは、なんでもないというような言い方をしていたが、アルフォンスから見れば、アルフォンスに気を遣って無理に言ったとしか思えなかった。

 一瞬、マーロウの言葉が、アルフォンスの頭をよぎった。

 もし、マーロウの推測が本当ならば、少しでも力になってあげたい。アルフォンスは、自然に言葉か付いて出た。

「イジメられてるの?」

 それまで穏やかだったオスカーの顔が、一瞬にして曇った。

「イジメ? 誰に聞いた?」

 素早い反応に、やはりあの傷跡は、アルフォンスはイジメが原因だと確信したが、どう返事をしてよいものかわからなかった。

 そうだった。

 この件は教えてくれたマーロウから、本人が言うまで口止めされていたのだとアルフォンスは思いだしたが、言った言葉は取り戻せない。

「もしかしてマーロウと知り合いなのか?」

 オスカーは、眉間に皺をよせ、アルフォンスを怪訝そうに見つめた。

 ここまで言われては、隠すのも変だろう。何しろ、アルフォンスはここの学生なのだし、マーロウだってここの教授なのだ。接点がないわけがない。

 アルフォンスは腹を決めた。

「すいません。自己紹介がまだでしたね。ボクはアルフォンス・シュバッツ。十四歳。一ヶ月ほど前に編入してきました。マーロウさんには編入試験の時にお世話になって以来、時々、学内で会うと話をするものだから――」

 アルフォンスがすまなそうに謝ると、怒る気がうせたのか、オスカーは急に穏やかになった。


to be  continued……