第三章
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オスカーの火傷は、酷いものだった。
着ていた洋服の一部が肌に焼き付き、一部ケロイド状にただれていた。
腕と手の神経には影響はなさそうだったが、完治するのに約一ヶ月はかかると言われ、火傷の痕が残るだろうと言われた。怪我は火傷だけでなく、他にも背中や太股には打撲の跡があった。
こちらは十日から二週間で治るだろうと言われたが、精神的ショックも大きく、しばらく入院生活が余儀なくされた。
オスカーは、必要以外、誰ともしゃべろうとはしなかった。
マーロウやルイズが面会に来ても、挨拶代わりに頭だけは下げたが、虚ろな目をして話を聞いているのかどうかもわからない状態だった。
唯一、オスカーはアルフォンスとだけは会話をするというので、多少、ルイズとマーロウは胸をなで下ろしたけれど、ピアノのコンクール前の出来事というのが悩みの種だ。
「せっかく良い調子できていたのに。これで今回のコンクールに出場するのは難しいだろう」
これはオスカーを教えるのに関わった指導者がみな口にした言葉だった。 だが、次に出てくるのは「彼はまだ若い。火傷が治ってからでもまだ先がある」そう解釈して楽観視するものも多く、なぜオスカーが火傷を負ったのか? と追求する者は思ったよりも少なかった。
オスカーが理由を誰にもしゃべらなかったというのも大きいかもしれない。 あるいは、判っていても学園内で度を超したイジメがあるということが表面化すると、学園側でも都合が悪いという事もあるのかもしれない。
世の中間違っている。なんとかならないものかと、アルフォンスはやきもきしていたが、ああいう事件は現行犯を捕まえない限りは、解決するのは難しいらしい。
アルフォンスには、おそらくあの時の集団の誰かがやっただろうと予測はつくものの、遠目に後ろ姿しかみておらず、決定的な証拠でもない限り、ああいう輩はしっぽをつかませないだろう。
もっと早く自分が気づいていれば。
あの時、声をかけていれば。
そんな後悔が胸一杯に広がって、オスカーを見舞いにくる度にやるせなくなる。
「ねえ、オスカー。ボクにだけでいいから、誰か教えてくれない?」
何度となくオスカーに尋ねてみたが、オスカーは首を横に振るだけで、答えようとはしなかった。
もしも名前を言ったら、アルフォンスが復讐するかもしれない。そう杞憂しているのだろう。だいたいオスカーよりも年下のアルフォンスが、一人で向かっていってやられる相手ではないのだ。
もし、刃向かったとしても今回のような怪我だけでは済まないかもしれない。最悪、ピアニストとして大事な腕や指の腱や神経を痛めでもされたら、それこそ申し訳が立たない。
オスカーは誰にも犯人の名前を上げようとはしなかった。
to be continued……
